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2020.04.10

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

「ぼく、戦部ワタル、小学四年生。自分で言うのもなんだけど、実はちょっと前まで創界山っていう、こことは別の世界を悪いヤツらから救った『救世主』だったんだ! だけど元の生活に戻ってからは、いたってフツーの子供として毎日暮らしてる。それがまぁ、別につまらないってわけじゃないんだけど……ハッキシ言って、あの冒険の日々がめちゃくちゃ懐かしいぜ!」

第1話「またまた、帰ってきた救世主!」Aパート

 学校の放課後、ぼくはいつものように家の靴箱から大好きなローラーブレードを引っ張り出した。
 こいつを履くと、『龍神丸』と出会った時のことを思い出すんだ。
 たしかあの時は、学校の授業でぼくが作った粘土のロボットを持って近くにある龍神池まで行ったんだよな。
 そしたら創界山にいた『龍神丸』が、大きな龍の姿でぼくを迎えに来たんだ。
 今思い出してみても、やっぱりぼくはホントにとんでもない経験をしたと思う。

「よーし、今日は久しぶりに龍神池まで行ってみるか!」
 
 ぼくはそう思い立って、勢いよく玄関の扉を開けた。

「いってきま~すっ!」
 
 やっぱり、ローラーブレードで滑るのは気持ちがいいぜ!

「よ~し、フルスピードだ!」

 そんな風に調子に乗ってたら、あっという間に龍神池に着いちゃった。
 あれ……? ちょうど、空に大きな七色の虹がかかってる!
 そういえば創界山にも、こんな風にキレイな虹が架かっていた。

「……創界山のみんな、元気にしてるかなぁ?」

 思わずぼくの口からそんな言葉が出たその時、龍神池の静かな水面が急に渦を巻いて、カッと猛烈に光り始めた! そして、どこからともなく……

「ワタルよ……」
「あれ? もしかして、この声は……!?」

 次の瞬間、龍神池から光り輝く大きな龍がゆっくりと浮かび上がってきた。
 この龍こそ、ぼくと一緒に戦った『龍神丸』だ!

「久しぶりだな……ワタル!」
「龍神丸っ! ぼくに会いに来てくれたの!?」

 すると、龍神丸は真剣な表情でぼくを見つめてきた。

「すまないがもう一度、私と一緒に創界山まで来てほしい」
「え? もしかして、何か悪いことでも起きたの?」
「ああ、また創界山に危機が迫っている……ワタルの力が必要なのだ」

 龍神丸からこんな風に言われたら、ぼくの答えは決まってるさ!

「うん。行こう、龍神丸!」

 こうしてぼくは龍神丸に乗って、再び創界山へと向かった。

EXマン,魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸


「みなさん、お久しぶりです! 毎度おなじみ、EXマンです。今回も物語の進行をサポートさせて頂きますので、よろしくお願いいたします。それではモンジャ村まで~、レッツらゴー! はぁ~、また忙しくなりますねぇ~!」

EXマン,魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸


 龍神丸に連れられて、ぼくは創界山の麓にあるモンジャ村に到着した。

「みなの者、ワタルが帰ってきたぞぉ~!!!!!」

 オババのとびきり大きな声が、モンジャ村に響き渡る。
 小さい体にいつものしわくちゃな笑顔。元気そうでよかった。

「うおおおおおおおおおーーーーっ!!!!!」

 声の方を見ると、猛烈な勢いでオジジがこちらへと向かってきた!
 いつもの穏やかな雰囲気とは違って、明らかに様子が変だ。

「うわぁ! オジジ、どうしちゃったの!?」
「うるさああああああーい!!!」

 声をかけたぼくの方は見向きもせず、大根畑のほうへ走り去っていった。

「オババ、いったい何が起きてるの?」
「ワタルよ、創界山の様子を見ておくれ」

 そう言って、オババがしわくちゃな指の先を創界山へ向けた。
 ぼくは視線を向けて驚いた。創界山の周りに黒い霧のようなものが立ち込めているじゃないか!
 その異様な光景は、ぼくでもハッキリと危険な『なにか』を感じとったくらいだ。

「あの黒い霧が現れてから、人々の心が激しく揺らいでおるのじゃ。ある者は暴れまわり、ある者は嘆き悲しみ、ある者はやる気をすべて奪われてしまった……」
「どうしてそんなことが……?」
「それがまったくもって原因がわからず、困っておったんじゃ。そこでじゃ、ワタル。お前の力であの黒い霧の正体を調べてもらえんかのう?」

 オババはとても不安そうな眼差しをこちらへ向けてきた。
 なんだかわからないけど、困っているみんなを放っておくわけにはいかない。

「わかったよ、ぼくに任せて!」
「感謝するぞ、ワタル。お前の仲間たちもみな、この時を待っておったんじゃ」
「仲間?」

 オババがクシャっと嬉しそうに微笑んだ。

「ワタルーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 あれ? 空の上から元気な声が…………んがっ!

「キャハハハハ! つかまえたのだっ!」

 いきなりぼくの顔面に張りついたちびっ子を無理やりはがしてみると、満面の笑みを浮かべるヒミコだった。

「ヒミコ! 元気そうだな!」
「きゅーきゅーしゃ、ワタルが帰って来たのだー!」
「それを言うなら、救世主だろっ!?」
「キャハハハハ! ピーポーピーポー!!!」

 まったく……相変わらず、めちゃくちゃなヤツなんだから。
 こんなんでも、ヒミコは泣く子も黙る「忍部一族」の十三代目頭領だっていうんだからホント信じられないぜ。

「ヒミコ、シバラク先生も元気にしてる?」
「おっさんなら、さっき見たよ!」

 その時、いつものバカでっかい声が聞こえてきた。

「あいやしばらく!!!」
「あれ、この声は……」

 赤い着物を着たカバ……じゃなくて、シバラク先生!
 ぼくが尊敬する立派な剣豪なんだ。

「ワタルよ、どうやらおぬしも達者にしておったようだな。また会えてうれしいぞ!」
「ぼくもです! もしかして、先生も一緒に来てくれるの?」
「あたり前じゃ! 拙者がカワイイ弟子をひとりで行かせると思っておったのか!?」
「あちしも行く行くーっ!」
「先生、ヒミコ、ありがとう!」

 シバラク先生やヒミコと一緒なら、どんな危険な冒険だってへっちゃらだ。

「ワタルよ、さっそく着替えるといい」
「よーしみんな、ちょっと待ってて!」

EXマン,魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸


 さっそく、『救世主』の格好に着替えてみた。
 赤と青の鎧に龍の冠。背中には勇者の剣……やっぱり、この格好になるとワクワクしちゃうぜ!

「よいか、ワタル……」

 オババが真剣な表情でぼくに近づいてきた。

「改めて言うが、今回の黒い霧は謎だらけじゃ。かなり危険な冒険になることは間違いないぞ?」
「大丈夫だよ、オババ。ぼくには龍神丸がついてるんだ、誰が相手だって怖くなんかないよ!」
「そうか……やはり、ワタルは頼もしい『救世主』じゃな」
「へへっ、久しぶりに他人ひとに言われるとなんか照れるねっ」

 その時、ドスーン……という不気味な地響きが辺りを包み込んだ。

「ん? 誰か来る!」
「ぶはははは! 凄いヤツがやって来た!!!」

 外に聞こえる荒々しくて野太い声、それにあの頭に大きなピストルを付けた迫力満点の魔神は……!

「誰だっけ???」

 やってきた魔神が『どてーーーんっ!』と盛大にズッコケた。

「俺様は泣く子も黙る大悪党、シュワルビネガー様だっ! このバトルゴリラ100ワンハンドレッドで、お前たちをぶっ潰してやるぜっ!」
「ワタルよ! あとは頼んだぞ~っ!」

 オババたちは驚くほどのスピードで岩陰に隠れてしまった。

 その時、バトルゴリラの頭についた大きなピストルから巨大なミサイルが飛んできた!
 それが『ドガーーーーーーン!!!』とぼくたちの近くで大爆発!

「キャハハハハ! たーまやーーーーーーっ!」
「おいヒミコ、なにのんきなこと言ってんだよ!」
「ぶはははは! これがバトルゴリラ100ワンハンドレッドのスペシャルマグナムだぁ!」

 よし、こっちも龍神丸を呼んでやる!
 ぼくは勢いよく背中に背負った勇者の剣を引き抜いた。

「待て、ワタル。ここは拙者と戦神丸におまかせあれ!」
「先生! でも……この辺に電話はないし、どうするの?」
「フッ……おぬし、いつまでもそんな古いものが必要だと思っておったのか? も~、時代遅れなんだからぁ~。わしにはこのガラケーが……」
「さっすが先生!」

 と、ここまではシバラク先生もかっこよかったんだけど、なにやら必死にポケットをあさり始めた。

「ねぇ先生、どうかしたの?」
「いや、え~っと……あのぉ……」

 先生ったら、まるで水浴びをしたカバみたいに汗だくになってるぞ?

「すまない、ワタル……拙者、今日はミヤモト村のケータイ屋さんにガラケーを預けてしまっておったのだ!」
「え? なにそれ!?」
「だってぇ~、念願だったスマホデビューに向けて、機種変しちゃったんだも~ん」

 ダメだ、今日はシバラク先生と戦神丸はあてにできそうにない……

「うおおおおい! このシュワルビネガー様を無視して、好き勝手な会話するんじゃないぞーっ!」
「あ、ごめんごめん。ぼくと龍神丸が相手になるから許してよ」
「え? そうなの? じゃあ、しょうがないか……早くしろーい!」

 よし! それじゃあ、勇者の剣を構えて……

「龍神丸―――――――――っ!!!!」
 
 ぼくは勢いよく勇者の剣を空へと突き上げた。
 すると空がにわかに掻き曇り、辺りに激しい雷鳴が轟き渡る。
 さらに勇者の剣から空へと強烈な雷が昇って行き、遂に魔神・龍神丸がその姿を現した!

「おおおおおーーーーーーっ!!!」

 力強く構えた龍神丸の雄叫びが、天を駆け巡る。
 それからぼくが両手を広げると、龍神丸の額が輝いて中に乗せてくれるんだ!
 龍神丸の体の中には、黄金に輝く龍が浮かんでいる。
 ぼくは龍神丸に乗って、いつものように龍の角をしっかりと握りしめた。

「ワタル……再び共に戦う時がきたな」

 龍神丸の声を聞くと、ドンドン勇気が湧いてくる……!

「龍神丸、準備はオーケーだよ!」
「いこう、ワタル!」

(つづく)

著者:小山眞

©サンライズ・R

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