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2018.01.17

【第02回】運び屋椿

Episode1 みどりしずく(02)

 フロギ星といえば、太陽系を抜けて転送輪ワープリングでオリオン腕のはしっこまで飛んで、それから銀河主要道の安全ルートを飛ばしていけば二週間って距離かな。
 ちゃんと勉強してるよ。
 助手ですから!
 さてさてツバキの方はしっかりこの話を怪しんでいる様子。

「運ぶモノってのは? デカいの?」
「ぜんぜん! むしろ軽くて小さい!」
「もったいつけずに言いなよ」
「なぁに、ウェディングドレスさ」
「ウェディングドレス?」

 バローニが差し出した写真にはキレイなウェディングドレスが写っていた。
 刺繍は職人の手でひと縫いひと縫い丁寧に加工されている。
 やわらかな光沢の絹素材で、着心地もよさそう。
 なにより目を引いたのは、いくつもちりばめられた装飾の宝石だ。
 うすいグリーンに光る宝石がキラキラとドレスを一層あでやかに彩る。
 それを見て、すかさずツバキが言った。

「ねぇ、この宝石ってさ……」
「お! さすがに目の付け所がいいな。こいつは『みどりしずく』って言ってな」
「『碧の雫』って、そりゃまた豪勢な……」
「そうそう。なにしろ第一王子様の結婚相手にってんだから、まあ、あり得る話だろ?」
「まぁね」
「そんなわけだから、こんだけの額は出せちゃうんだぜ」

 そう言ってバローニさんは腰にひっかけたソロバンを机に置く。
 そこで玉をパチパチっとはじいて報酬額を示した。

「「えっ!?」」

 ボクもツバキも、そこに示された額に目を剥いてしまった。
 だってさ……ケタがひとつ多いんだもの!

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃ………うっそ! ちょっとツバキ、これすごい額じゃない!!」

 思わずせっついちゃったよ。
 隣でツバキも、じゅるり、と音をさせて口をぬぐう。
 そんなツバキをしり目に、バローニの方は契約書と朱肉を差し出して急き立てる。

「ほらほら、サインしちまいなって」
「……う~ん」
「俺はよぉ、おまえを信頼してるから頼むんだぞ」

 勢い、ツバキはすぐさまサインをして契約完了――かと思った。
 だってすごくおいしい話であることには間違いないのだから。
 彼女が飛びつかないわけがない。
 でもツバキは慎重だった。

「おっちゃん、話しがうますぎないかい?」
「おい……やだってのか? もしそういうことなら、別にいいんだぜ、ツバキじゃなくっても。他にだってやりたいやつはいくらでもいるんだ。こんなおいしい仕事、ここにたむろしている奴はみんな、ノドから手が出るくらい欲しがってんだ。あ~あ、他に持ってこうかなぁ、どうしようかなぁ」

 さっさと決めろ、とでもいう態度。
 たしかに、ボクが関わった二件の仕事とくらべても破格。
 おいしい仕事であることにはかわりない。
 だって、ウェディングドレス運ぶだけでしょ?
 それでこんな金額貰えるならね……。

「ねえ、ツバキ。やろうよ! いいじゃん、ねっ!」
「う~ん……」
「なにが嫌なの? なんか変なとこある?」
「いやだって……話がうますぎんでしょ……よりにもよってバローニのオッサンが持ってくる話だよ」
「うっ!」

 途端にバローニがピクッと反応して視線を逸らす。
 しかもこれ見よがしにへたくそな口笛。
 ちょっとちょっと……なに? 
 ツバキの言った通りって事なの?
 そんなバローニさんの反応に、ツバキの方は直感めいたものでもあったのか、ニヤリと笑う。

「……ねえ、あたしが出来ないって言ったら、どう?」

 とたんにバローニさんはあせったように机に手を突く。

「なに? できねえのか?」

 おやおや?
 なんか状況が変わりだしましたよ。
 どうやらツバキはバローニさんが何かを隠していると踏んだらしい。

「いいんだよ。他にもやりたいやつがいるんなら、そいつんとこ持ってけば」
「いや、他のやつでもやれるよ。やれるけど、おまえと俺の仲だから、おいしい話を紹介してやろうってだけで……」
「あっそう。他にできるやつがいるんなら、そいつに頼みなよ」
「え!? ちょっと待て」

 冷や汗ダラダラのバローニさん。
 余裕シャクシャクのツバキ。
 ああ、こりゃ完全に立場逆転だね。
 ツバキはバローニさんの肩を抱きながら、悪い笑顔でささやく。

「ほらおっちゃん。まだあたしに言ってないことあるんでしょ」
「それは……」
「全部話とこうよ。お互いのためにさ」
「お、俺は当然、全部……」
「話してない事もあるんでしょ?」
「それは……」
「もう、言い逃れしても仕方ないじゃんか、なあバローニのおっちゃん」
「……でも、これ聞いたら」
「あたしは断らないよ。ただ……」

 ツバキの満面の笑みが炸裂。

「値段をちょっとね!」

 営業スマイルにとびっきりのウィンク。
 バローニさんはお手上げとばかりに深い溜息を吐いた。
 ツバキに弱みを握られて平気な顔してる人間ってのはそうはいない。
 この古狸なオヤジですら例外じゃないってこと。

「この守銭奴が……」
「どっちが?? ん? 言ってごらんよ?」
「わーった! 話す! 話すから襟をネジリあげんのはやめてくれ」
「さっさとそうやって素直になりゃいいのに」
「素直になったら、おまえに尻の毛までむしり取られるわい」
「オッサンの尻毛になんて興味ないんですけど」
「うるせえ……ったく」
「んで? いったい何を隠してんのさ?」
「そりゃ、だからよ。つまり――」

 ツバキの勢いに押され、さしものバローニさんも観念したのか、

「こいつを………五日で運んでほしいんだ」

 と白状した。
 ツバキは一瞬、息を呑んでから瞬きをする。

「なんだって?」
「いや、だから、こいつを五日で……」
「おっちゃん、何言ってんの? ばかじゃないの? はぁ? 五日?」
「こっちは本気だ」
「本気なら悪質すぎて、詐欺で告発してやるわ。あんたわかってんの? フロギ星までは最短で二週間なの! それを五日?」
「だ、だからおまえに頼んでんじゃねぇか」
「そういうことだったらさ……これくらいはもらわないと」

 パチパチッとツバキはソロバンの玉を弾く。

「おい、そ、そんなに持ってかれたらこっちは……」
「普通は無理だもんねえ、普通は!」
「うっ!」
「このスケジュールでこの距離、運送なんて」
「そ、それはそうなんだが……」
「どこに頼んでも、ゼッタイ受けてくんないよねぇ」
「ま、まあ、おっしゃる通りなんだけど……」
「いやぁバローニのおっちゃんも大変だねぇ。これ、ポシャッたりしたら、一気に信用ガタ落ちだもんねえ」
「そ、それは……」
「でも! あたしなら運べるよ! 当然、五日以内に!」
「……ああ」

著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭

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