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2018.02.07

【第05回】運び屋椿

Episode1 (05)

「え? これは、なに? どこなの?」

 ボクはあちこちに目を這わせる。
 ――トランダ宙域国境ステーション。
 知ってる!
 ボク、ここ知ってる!
 昨日、話したばっかのやつじゃん!
 ステーションと言っても、ここは広いターミナルがあるだけ。
 そこにはゲートがあり、その周辺には武器を持った兵士たち。
 さらには、地空両用戦車やらなにやらで、とにかく物騒極まりないものばかり。
 確かここの宙域にある小惑星から採掘される鉱物の利権問題で、国内がもめてるのだ。

「ねえ、ツバキ」
「なに?」
「これ、ホントに通れるの?」
「でも、ここを通るしかないでしょ」
「いや、まあ、そうなんですけど!」
「だって、フロギ星までの最短ルートって、ここを突っ切ってくのが一番でしょ?」
「おっしゃるとおりなんですけど!」
「じゃなに?」
「無理じゃない!? これ?」

 誰がどう見ても、簡単に通してくれるようには見えないのだ。
 やっぱり迂回路行った方がいいって!
 みんな紛争宙域迂回してんだから。
 納得だよ。
 この武装集団目の前にして入って行こうなんて思えないもん。

「しかもボクたちビザないし」
「まあ、期間的にやっぱ一晩じゃ無理だったしね」
「どうすんの?」
「まあ、見ててごらんよ」

 彼女は不敵に笑うと、アクセルとブレーキを同時に踏み込む。

「そりゃ!」

 さらにハンドルを思いっきり右へ切る。
 大輪丸はドリフト。
 目の前の停止命令を無視して、ラインマーカーから宇宙空間へ飛び出してしまう。

「うわぁぁぁ! ツバキ! 何考えてんの!」

 いきなり無重力状態!
 さらに無音!
 わわわ……ツバキの飲み終わった缶がしっちゃかめっちゃかに飛んでる。
 こういう状態になってやっとラインマーカーのありがたさを知る気分だよ。
 重力場固定装置、大気循環系機関、隔絶場収音出力デバイス。
 その他もろもろの安全装置から外されたとたんに、このザマ!
 この事態は、もはや緊急事態と言っていい。

 ラインマーカー上なら、広大な宇宙空間で迷う事も危険もない。
 でもここを飛び越えてしまったらアウト。
 本道を見失えば延々と何もない所をさまようことになる。
 つまり、ラインマーカーから飛び出すってのは自殺行為なのだ。
 でもツバキと来たら……。

「大丈夫、大丈夫、ラインマーカーが見える範囲から遠くへは行かないよ」

 たしかにそう言った通り、ツバキはそこより遠くには行かず、ドリフトしながら、方向転換。
 目の前にトランダ国境警備隊が迫る。

「見てな」

 ツバキがそう言った次の瞬間。

「うっそ……」

 後を追って来たパトカーとタクシー、そして白バイが、次々と国境地帯に突っ込んで行く。
 国境警備隊は当然、大混乱。
 宇宙全域に対し権限を持つ宙域警察機構Cosmic Police Organization(CPO)に、さしもの国境警備隊も手出しをするのには躊躇がある。
 まあ、相手は管轄区外の太陽系交通課なんだけど……。
 あちらとしては、どこのCPOかもわからないから、ヘタに攻撃はできない。
 さらに、いきり立ったタクシーまで突入。
 もうしっちゃかめっちゃか!
 と、そんな光景を確認したツバキが、

「んじゃ、行こうか」

 と笑みを浮かべてウィンク。

「噴進式に換装!」

 トラック後部に突き出たエキゾーストマフラーが、エンジン動力部に直結される。

「行っくよー!」

 同時に爆音を立てて、エキゾーストマフラーが火を噴いた。
 ツバキが思い切りアクセルを踏み込む。
 更なる爆発的火力。
 国境地帯の大混乱を横目に、ツバキのトラックが宇宙空間を進む。
 当然ながら追って来る者はいなかった。
 あの場に突っ込んで来たCPOの車両とタクシーをどうにかするので手一杯なのだ。
 国境地帯が見えなくなったところで、ツバキは再びラインマーカーの上に戻ると、噴進航行から、タイヤへとギアをチェンジ。
 ふぅ、溜息をついて満面の笑み。

「ねえツバキ……もしかしてこれを狙ってたの?」
「もちろん」

 はぁ……。
 この人……マジでなに考えてんの?

※※※※

 さてさて、そんなこんなでトランダ宙域の内側に入ったわけなんだけど……。

「ねぇ……もしかしてなんだけどさ」
「うん? どうしたの?」
「ナビ、ちょっとおかしくない?」
「あー、やっぱ」

 ツバキさん、やっぱってどういうこと?

「ほら、ここ紛争地帯だから」
「えっと……もしかしてナビの更新がされてない的な?」
「そんなとこだと思うよ」
「…………マジで?」
「まあ、そこに表示されている道はあるんだろうけど、それ以外に道が増えたってだけでしょ」
「そりゃまあ、そうだろうけどさ」
「あんまり小道に入る予定はないから問題ないよ」
「いやいや、だって、このまま行ったらさ、トランダ第四管区の方だよ」
「ああ、ものすごい宝石出るとこでしょ。知ってるよ」
「知ってるの!? 知ってんだったらわかるでしょ?」
「なにが?」
「なにがじゃなくてさ、ものすごい宝石が出る所ってことは、ものすごい戦ってるとこでしょ!?」
「まあ、そうだね」
「別の道行こうよ、ね!」
「なんで?」
「なんでじゃなくて、戦闘に巻き込まれるからでしょ」
「ああ」
「ああって!? ヤバいって!」
「ヤバい方がいいっしょ」
「……よくないよ」

 なに?
 ツバキってドMなのかしらん?

「まあまあ、無事抜けられるよ」
「なにを根拠に??」
「そのためにあんたを雇ったんだからさ、カエデ」

 そう言って、彼女はにっこり笑った。
 ボクはわけがわからず、困惑するしか出来ないのだ。

※※※※

 トランダ第四管区は巨大な小惑星群が密集した場所。
 ラインマーカーがその密集された小惑星群のすき間を縫って置いてある。
 まるで地上の峠道を行くような感じ。
 右へ左への蛇行運転だ。

「ねぇねぇ、ツバキ」

 ツバキは冷蔵庫から缶コーヒーを出しながら、ハンドルを握る。
 そのあいだも目は前方に注意を向けていた。

「なんか、紛争地帯の割には、なにもないね」
「なにもって?」
「いやさ、てっきり戦車とか戦闘機がウロウロしてんだとばかり思ってたから」
「ああ、それは逆だね」
「逆?」
「紛争の一番激しいとこでノコノコ公道に姿現したらどうなるのよ」
「ああ、狙い撃ちされるね」
「みんなしっかり隠れてんの」

 ああ、なるほど。
 言われてみれば納得だ。

「って、ちょっと待って!?」
「なに?」
「それってボクたち、狙い撃ちってことじゃない?」
「するどい!」
「するどいじゃないからっ!」

(つづく)

著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭

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