サンライズワールド

特集

SPECIAL

  • 小説
  • はるかの星
2016.12.27

はるかの星【第14回】

「いいじゃないはるか、似合ってるよ! いいなぁ♪」

 大宮駅前は、今日が夏休みという点を差し引いたとしても、かなり賑やかな喧騒で包まれている。
 それに今日は日曜日。待ち合わせスポットの定番、“柿の木”周辺では、待ち合わせの人々でごった返している。そんな中、大声で私に呼びかけてきたその娘は、人目も憚らず私を褒めちぎった。なんでアイはそんなにテンションが高いのか? 今にも食いついてきそうな勢いで飛び掛ってくる……すいません、もう飛びつかれてました。

「服、買ってもらったんだって? ちょーかわいいじゃん。さっすが美奈子さん、センスいいわ」
「え、これは、わたし……」

 あ、そうだ、買ってもらった…って、書いたんだっけ。

「え? なに?」
「……で、でしょ。お母さん、いいセンスしてるんだぁ」

 なんか話しづらいなぁ。
 今日は珍しく、里佳子ちゃんを我がホームタウン『大宮』にご案内しての散歩の日。散歩とはいっても、ただぶらぶらと日光を浴びながら歩くというわけではない。ちゃんとした明確な目的がある。
 それは、三ツ橋総合公園にやってくる、『ジャム=ルフィン』のクレープを食べに行くこと。プールにテニスコート、アスレチックフィールドに釣堀ありで日曜日はいつも家族連れでにぎわう三ツ橋総合公園も、今日は別の賑わいを見せていることでしょう。目的というなら、ソコに行ってクレープを食べるだけだったんだけど、そのプランニングを里佳子ちゃんに進言したところ、

「大宮の街を回ってみたいわ」

 との要望が出たので、なんらためらうことなく、私たちは今日のお出かけプランに大宮の街遊覧の旅を加えることにした。別にたいしたことじゃあない。見るべきポイントなんてものは、片手で数えられるくらいしかないもの。ぐるっと回ったとしても、2時間もかからないだろう。
 あぁでもない、こうでもないとクレープの中身についてアイと熱い議論を交わしていると、里佳子ちゃんが珍しくパンツルックで現れた。何を着ても絵になること。周りを行きかう人々の視線を一身に集めて離さない。そんな彼女と、私たちはお友達なのだ。

「おはよ!」
「おはよう」

 コレで全員そろった。待ち合わせ時間ギリギリになって里佳子ちゃんが登場したのは、まぁ、普段行きなれていない街への乗り換えに手間取ったんだろう。私の中では珍しいことだ。いつもなら10分前に到着していて、逆に私たちを待っていることの方が多いのに。

「おはよう……あら?」

 日傘を閉じて私たちの眼前に姿を現したりかこちゃんもまた、私の姿を初めてマジマジと見たわけで。この子も期待通りの反応をしてくれた。

「はるかちゃんの洋服、カワイイ♪」

 もとがカワイイ子にかわいいってほめられると、なんか照れるね。

「へへ、ありがと♪」
「さぁて、みんなそろったことだし、早速向かうとしますか」

 大宮の駅前の大きなロータリー、そのど真ん中にあるモニュメント『柿ノ木』を中心に、ぐるっと周囲を一周するようにしてバスとタクシーのプールがある。大きなロータリーのど真ん中が待ち合わせのスポットとなっているのが、大宮西口駅前。
 おのおの、待ち合わせ相手と落ち合ったら、向かうべき場所へと運んでくれるバスの乗り場か、タクシーを捕まえるのが見慣れた光景なのだが、私たちの足は、そのどちらへも向けられることはない。里佳子ちゃんも異変には気づいたようで、

「あれ? バスの乗り場、こっちじゃないの?」

 と、一人慌てふためきながら私たちのあとに追いすがってくる。ここから三ツ橋総合公園を目指すなら、まぁ、普通はバスに乗るわな。よく下調べして来ているのだろう。しかぁし、いろいろ見てまわるという付帯条件がつくのであれば話は別だ。隣で腕を組み、私に任せておけば万事問題ないといった具合で、アイがお嬢様をエスコートし始める。

「バスのほうが確かに楽チンだけどな。バスに乗ってるだけじゃつまらないじゃない? いろいろ見て回るんだったら、コレだよ、コレ♪」

 たどり着いた先は自転車置き場。ワタルにムリ言って借りてきた3段変速自転車に私の愛用ママチャリ、アイのアルミフレームの軽量自転車が居並び、私たちを出迎える。キラリ輝くフレームが語りかける。
「私たちにお任せを」ってね。

「自転車で行くんだ?」
「あぁ。バスのルートを行くのと、裏道を自転車で行くのはあんまり変わらないからな」
「でね、その裏道の途中ちょっとはずれたところに、昔よくアイと遊んでたとこがあるんだよ。駄菓子屋さんとかあるんだ」
「……駄菓子屋さん?」

 このご時勢、駄菓子屋さんが何たるかをしらない女の子がいるとは。

「駄菓子屋ってのはなぁ、小学生や中学生の数少ない社交場なんだよ」
「社交場……なの?」
「あぁ。数少ないお小遣いを握り締めて、うまくやりくりしながら放課後を楽しむんだ。通ってる学校とか、年齢も関係なく、ね」

 アイが駐輪場につながれていた自転車を取り出そうと、ロックしていた鍵を外す。自転車を取り出すときに勢いがつきすぎてしまったせいで、尻餅を危うくつきそうになるが、ギリギリで堪えてバランスをとった。お見事♪

「ソコでなにをするの?」

 里佳子ちゃんが、なにか珍しいものを見るときは、決まってこういう目をする。この場合、尻餅つきそうなのを、絶妙なバランス感覚で回避したアイを珍しがっているのではなく、その時初めて聞いたであろうお店の名前のほうだ。
 好奇心という熱視線を放ち続けるぱっと見開かれた眼に捉えられたら、視線を外すのは大変だ。彼女の欲求を満たすまでは、ずっとコレが続く。たまらない人には、たまらないんだろう。間違いなく、アイもそのうちの一人だ。

「お菓子買ったり、ゲームしたり、かな。きな粉モチとか、パチパチキャンデーとか」
「あと、ヨーグルにポン菓子もあったな♪」
「あぁ、あったあった♪」

 私が自転車をロックから引き抜くまでの間、懐かしい駄菓子の言いあいっこは続いた。昔の思い出とはいえ、私が小学校六年生の頃まではよく通っていたんだ。たった5年前の思い出さえ、私たちには遠い過去の記憶に思える。ここ最近ぜんぜん行ってないからなぁ。
 ゲストそっちのけで昔話に花を咲かせていたせいだ、焼け付くような視線を背中に感じる。恨めしそうな目線を投げかけて、お嬢様がこちらをご覧になっていた。

「ちょっと寄ってみるか?」
「え?」

 どの道、三ツ橋総合公園へと向かう裏道の途中にあるんだ。少し遠回りをしなければならないが、バスに乗っているときには味わえないものが体験できるのなら、やはり自転車も捨てたモンじゃない。みるみる里佳子ちゃんの笑顔も回復していくし。

「うん、行く! 行きたい♪」
「じゃあ、決まりだ! はるか、行くぜぇ~」

 三ツ橋公園まではだいぶ距離がある。駅から区画整理された住宅街の一番端に作られた総合公園の立地条件は、必ずしも良いとは言い切れない。自転車でも大宮駅からだいたい30分くらいか。バスでも同じ時間がかかるのだが、あっちは人通りの多い住宅街を中心に回り、最終終着駅で三ツ橋総合公園に着くので、実質的な走行距離で言うなら文句なしにバスのほうが長い。
 しかし、裏道を通らなければ見られない、情緒溢れる町並みもまた魅力的だ。河を渡り、森を抜けて、神社のある雑木林の裏通りを自転車で駆け抜ける。夏の日差しこぼれる並木道は、いつぞや私たちが汗水流しながら踏破したジャングルのような蒸し暑さは微塵も感じられず、緑の匂いがする風と共に駆け抜ける爽快感は、この場所ならではのものだと確信している。新緑の葉の匂い、カブトムシの這い出してきた土の匂い、井戸から湧き上がる井戸水の匂い。こんなの、都会にいたんじゃ絶対味わえないはずだからね。
 鯉の泳いでいる堀を越え、大きな畑道に出れば、そこは勝手知ったる私たちの遊び場だ。そここそが、先日鉄道が通るとの発表があった、三橋用水路だ。

「ここがアイちゃんとはるかちゃんの町なのね……なんていうか……本当になにもないのね」

 苦笑しながら里佳子ちゃんが言う。そよ風に帽子を奪われまいと、右手で必至に押さえている絵はなんと微笑ましいことか。
 里佳子ちゃんが言うように、確かに、ここら辺一帯は私たちが物心ついたころから、なんにも増えていない。しかし、いつまでも同じままでいてくれている街の風景は、なんというか、安心感を与えてくれる。良い意味で“なにも変わっていない”場所だ。

「夏になると大きな花火大会があるんだ。それは三橋の大きな畑地帯でやるから見晴らしがいいんだよ。ちょうどここら辺だね。それに、めったに車もとおらないから、のどかでいいし」

 自転車を漕いでいるアイが、立ち漕ぎでスピードを上げる。遮蔽物がないこの道を、一気に走り抜けるの、アイ好きだったもんな。残された二人のスピードを気にするそぶりもなく、風に乗って飛んでいくように畑道を駆け抜けている。

「おい、アイ、そこまで田舎じゃないぞ」
「はは、ゴメンゴメン。でもさ、昔と変わらない風景って、なんか親しみがもてるんだよね。いつまでも、変わらないでいてくれると、嬉しいもんじゃない」

 それは私も激しく同意。道中、私たち二人の思い出話の数々を、里佳子ちゃんはそれは丁寧に相槌を打って聞いてくれていた。
 三橋用水路を突き当たり、ちょうど三橋公園までの道のりの中間地点。ココを左に折れると、私たちの目的地まであと少しのところなのだが、先頭をきって走るアイの自転車は、当初の目的どおり右へと進路をとった。
 この先に、弟ワタルの通う二葉明星高校があり、その道すがらに先日通った寂れた……もとい、人通りの少ないアーケード「木漏れ日通り」のちせ婆ちゃんの駄菓子屋さんがあるんだ。里佳子ちゃんのリクエストを忠実に実行するべく、私たちは公園にたどり着く前にアーケードへと進路をとった。
 公園に行くならあのT字路を左に、二葉明星へと向かうのであれば右に。木漏れ日通りは右に折れ曲がってすぐのところにある、集合中宅地のど真ん中の通りの名称。今日は日曜日だし、先日の雨の中通った時の印象とはまるで違う一面を覗かせている。電気屋さんのテレビに映るアニメを食い入るように見ている小学生。パン屋さんから立ち込める香ばしい良い匂い。クリーニング屋さんには両手に抱えきれないほどの洗濯物を抱えているおばさん。そして、車どおりのない道のど真ん中を颯爽と飛ばして行き着いた一番奥のお店……あれ?

「閉まってる」
「あらら、本当だね」

 最後の最後に『木漏れ日通り』を締めくくっているそのお店のたたずまいは、活気を増しているものではなく、数日前と変わらない薄暗いままだった。ここだけ、なんか暗い。シャッターが完全に下ろされていて、そこに子供がいたずら描きした怪獣の絵が、ところ狭しと並んでいる。

「駄菓子屋さんも、夏休みかしら?」

 私がいつも使っているママチャリから降りて、もの珍しそうな視線を向けている里佳子ちゃんが、シャッターの方へと近寄っていく。

「そうかもね?」

 笑い飛ばす、アイ。自転車を道端に止め、里佳子ちゃんのあとを追うようにアイもお店に近寄っていった。私も後を追う。
 こうしてみると、アイのやつ、あんまり背伸びてないな。店の入り口を照らす電灯がくくりつけられている電柱に、クレヨンかチョークで、緑色の太い線が書き込まれているのはアイの仕業だ。昔、私と遊びに来たとき、背比べごっこをしたときの名残。何年前かは忘れちゃったけど、そこから10cmも伸びていない。そのころは同じくらいの背丈だったのに、今は私の方が身長が高い。いまだに私たちの遊びの残ったこの場所は、シャッターが閉められていたとしても、当時と変わらず残っている。昔と変わらない、親しみの持てる風景の一つだ。

「アイ~、里佳子ちゃん~」

 突然呼びかけられて、示し合わせたように振り返った瞬間にシャッターを切る。

「なんだよ、急に撮るなよな~」
「記念だよ、記念」
「しかたない。また今度来ような」

 一向に開く気配のない店のシャッターに痺れを切らしたアイが、ガードレールからはじけとび、駄菓子屋を背に通路に躍り出た。

「そうね、是非♪」

 里佳子ちゃん、ちょっと残念そう。

「はるか、行くぞ」
「うん、待って」

 私たちの目的地はここではない。もう少し行ったところにある三ツ橋総合公園こそが到達地点だ。もうちょっとで着くのだから、営業していない駄菓子屋さんは早々にあきらめて、この地を去ろう。踵を返し、路肩に止めてある自転車へまたがるアイ。私も、と思ってアーケード傘下から車道へと足を出した瞬間、今まで私たちの頭上で弱い光を放っていた電球が、パチッと音を立てて切れた。

 限定の商品でなくても、『ジャム=ルフィン』のクレープの具材はどれを取ったって一級品だ。とは、懇切丁寧に下調べをおこなってきたアイの情報。
 やはり私のにらんだとおり、公園の広場に付けられているトラック型特設店舗の周りには長い列が形成されており、ソレは絶えることなく続いている。しかもこの晴天の下、日陰のない公園での列待ちは女性の肌にとっては拷問に近いだろう。というか、夏の外出時は常に紫外線と戦わねばならないか。

 30分にも及ぶ紫外線との死闘を終え、木陰のベンチに陣取り、子供たちがあくせく遊びまわっている絵を見ながらスイカクレープを食べていると、思い出したかのように里佳子ちゃんが切り出してきた。

「そういえば、ココへ来る途中に大きな畑地帯があったけど、花火大会ってソコでやるの?」

 指に付いたクリームをペロッと拾い上げ、アイが受け応える。

「あぁ、そういえばまだ言ってなかったね。3年に一度、大宮で大きな花火大会があるんだ。近隣の都市合同で開催するから、スゲー数の花火が上がるんだぜ♪」
「3年に一回だけなの?」
「うん。毎年やっていると予算がどうのこうの、って話を聞いたことがあるんだけど、実際はどうなんだろうね? どうせなら、毎年見たいよね」
「まぁ、規模の大きな花火大会見たいんだったら、東京まで出ればいろいろ見れるだろ? 大宮のはひと味もふた味も違うんだぜ! それにあの大きな畑地帯でやるんだ。普段は人っ子一人見かけないようなだだっ広いとこで打ち上げられる大パノラマの花火の数々。コレを見ずして、私の3年は越せないんだ」

 力が右手に篭る。あぁ、なんか出てるぞ、アイ。力強く握りすぎだ。すかさずティッシュを差し出す里佳子ちゃんのレスポンスもたいしたものだ。

「へぇ、羨ましいわ。私も見てみたい」

 そう、目の前のお嬢様は肝心な情報を聞き出せていない。その3年目が、いつなのかということ。どうして私たちが、とりわけこの常にはしゃいでいないと気がすまないアイが里佳子ちゃんの別荘で花火をしなかったのか。待ってましたと言わんばかりにアイの顔がほころぶ。

「リカッチ運がイイ♪ 今年がその年なのだよ!」

 ぽんと肩を叩く。別にアイの力でそうなったわけではないのだが、特別に私が手配しましたみたいな顔をするのはいかがなものかと思いますが、アイサン。

「本当!? やった♪ ラッキーだね」

 花火の開催タイミングは一定の周期でやってくるが、たしかに運がいいのかもしれない。あと1年たってしまえば、私たちは大学生になってしまう。一緒にこの一大花火イベントを見に行ける保障はない。もしかしたら、みんなバラバラになってしまうかもしれないしね。仲良くなれたこのタイミング、来年の受験勉強を目前に実に恵まれた機会ではないか。
 この夏休み、最後の日曜日の予定は花火大会に難なく決まり、私たちは残り少ない夏休みの過ごしかたを木々で覆われたベンチの上で語り合った。

 限定クレープでお腹を膨らませた私たちは、その余剰カロリーを市内観光で消費することにした。とはいえ、里佳子ちゃんがなにに反応するかもわからない。樹齢何百年という大木のある、歴史ある神社、巨大なおせんべい工場、おおよそ私たちが暇つぶしに使うスポットを自転車で駆け回り、夕方になる頃には私のお腹の虫は鈴虫よりうるさい音を立てていた。

「今日は楽しかったわ、ありがとう」

 里佳子ちゃんに満足していただければなによりです。“なにもない”と口では言うものの、いざ回ってみると、観光スポットというほどではないにしろ、いろいろ見て回ることができたなぁ。地元民の私たちも流石に疲れる行程だったし。結構いい写真もいろいろ撮れたし、私も満足です。
 駅へと向かう一本道。水が一面敷き詰められた田んぼに蛙の合唱が心地よく響き渡る。自転車を押して歩いているのは、少しおしゃべりでもしながら帰ろうという流れになったからであって、決して、あ、そろそろ太ももつりそうだなぁ、なんて運度不足を危惧しての対処ではありません。こういう語らいの時間が友情を育んでくれるのですよ。

「じゃあ、次はリカッチの地元を紹介してくれ♪」

 これまた唐突に、なにを言うんだこの子は。私はずけずけあつかましいアイの突然の提案に、ほんのちょっと閉口してしまったが、気づいたときには自分の唇が勝手に動き、

「あ、いいねそれ!」

 思考時間わずか0.5秒で同意してしまっていた。突然のプランニングに動揺するでもなく、夏風に吹かれ帽子を飛ばされないように必至に抵抗している里佳子ちゃんも、アイに負けないくらいの笑顔で応えてくれた。

「ふふ、そうね。じゃあ、次は私の街を案内しましょ」
「やったぁ♪」
「里佳子ちゃんの家に行くの初めてだしね。楽しみ♪」
「そうと決まれば即実行、今週の水曜日は?」
「水曜日ね……えぇ、大丈夫よ♪ ちょっと遠いけど、いいかしら?」

 里佳子ちゃんの家は、私たちの大宮とは真逆の位置にある『三和』という街だ。大宮とは位置関係だけでなく、発展度合いからしてみても真逆に位置する高級住宅街。そんなところに足を踏み入れる機会なんて今後一切ないものだとばかり思っていたのだが、越境のチャンスは存外すぐにやってきてしまった。断る理由が一体全体どこにあるというのかしら。

「だいじょうぶい♪」
「うん、大丈夫」

 私たちの次の予定は里佳子ちゃんの街探訪に難なく決まった。そして、当然のごとく決まったことがもう一つ。

「花火大会は、夏休み最後の日曜日だよ。みんな、忘れないようにメモしておくこと」

 アイ、私にまで言うとは、浮かれすぎではありませんか? 私だって、今年の花火大会がいつやるかくらい知っているし。楽しみにしているのは、君だけじゃないんだよ。

「もうすぐじゃない? わぁ、楽しみだわ♪」

 次の月曜日は、もう既に二学期の始業式。こうやって先を見ていると、夏休みがいかに短いか実感させられるな。休みのない社会人は気の毒に。

「じゃあ、またね。花火も楽しみにしてるわ」
「気をつけてね」
「バイバイ!」

著者:クゲアキラ

イラスト:奥野裕輔

  • Facebookでシェアする
  • Xでシェアする
  • Lineでシェアする