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2023.01.01

【第23回(最終回)】リバイバル連載:サンライズ創業30周年企画「アトムの遺伝子 ガンダムの夢」

最終回「矢立肇は永遠だ~!」

早いもので、昨年の秋10月17日に始まったこのサイトも年が改まり桜の季節を迎えて今回が最終回であります。そもそもが、ドッグ帰りの私がレントゲンのためのバリュウムを流すのに矢立肇を呼び出してビールを飲みだしての与太話が始まりでした。その矢立肇でありますが、実は少々体調を崩し去年の暮からつい先ごろまで入退院を繰り返していたのです。ま、そのほとんどが検査のためのものであり結果的にはたいしたことではなかったのでありますが、要は長年の無理が出た、言うなればガタであります。それでも医者からはここ半年の飲酒を禁じられ本人はけっこうしゅんとしておりました。きっかけの1人でもありますので呼び出して総括の片棒を担がせようとしたのでありますが、そんなわけで私としたことがお酒にあらず“お茶け”での甚だ勢いのつかない総括とはなりました。

パイオニアの遺伝子

矢立「まあ‥‥あんなもんかな」
高橋「あんなもん、とは言ってくれるじゃないか」
矢立「まあまあ、よくやったよ」
高橋「ふん、あれで毎週ってのはけっこう大変なんだぞ。なあ(スタッフを見る)」
廣瀬「ええ、良輔さんの原稿がいつもギリギリなんで」
浅井「本当に。綱渡りなんです。毎週・・。で、そうなると廣瀬さんが機嫌悪いんですよー」
廣瀬「サーカスに行けるね(笑)綱渡り‥」
高橋「まあまあまあ‥‥あれっ今日、樋上さんは‥?」
浅井「なんか押井さんの新しい仕事が入ったとか‥」
高橋「まっ、僕や矢立の写真撮ってもしかたがないから、今日はまあ‥‥それじゃ樋上さんは打ち上げで。で、どうだった見ててくれたんだろう(再び矢立肇に)」
矢立「うん、遺伝子がどのように伝わったかと言うのは俺的には分かったつもりだ。まあ遺伝子と言う奴は表の伝わり方も裏の伝わり方もあるってことだよな。そう言う意味ではマッドハウスの丸山氏の回なんて面白く見れたよ」
浅井「さすが矢立さん・・」
高橋「このサイトでは取り上げなかったし、時間的にも間に合わないんだけど、今度の日曜(4月6日)には新作の[鉄腕アトム]の放映が始まる。部分的には例の“虫プロ大同窓会”で見たんだけど、通してのエピソードは見てないので放映が楽しみなんだ」
矢立「虫プロ育ちでない人が監督なんだろう。遺伝子がどんな形で伝わっているか興味が湧くよな」
高橋「なんか海外育ちの‥‥帰国子女がわけあって老舗の跡継ぎ、みたいな、なんかそんな感じがして、ちょっと楽しみだな」
矢立「それよりか、お前も何か手塚作品にかんでるとか言うのを聞いたけど、それは何なんだ?」
高橋「うーんまだはっきり決まってないんで言えないんだ。わるい。ごめん。でもそう言う話はある」

矢立「ふーん、まあいいやこれ以上は聞くまい。でな‥‥アトムの遺伝子の一つの特徴を“パイオニア”という色合いで捉えると。サンライズがテレビオリジナルと言う道を切り開いた‥‥まったく最初と言うんではないけど、まとにかくそれを最大の強みとしてやってきた。ガンダムと言う大ヒットもものにした。テレビオリジナルの分野ではパイオニアといえる。パイオニアと言う遺伝子は確かに受け継いでいるんだよな。でだ、今のサンライズな。このパイオニアと言う遺伝子はちゃんと受け継がれているのかね」
高橋「問題はそれだな」
矢立「タイトルにかこつけて言うんじゃないけど、“アトムの遺伝子”は受け継いだ、それで“ガンダムと言う夢”も見れた、だが夢の続きを見すぎていて未だに眠っているんじゃねえかと、俺は心配になるんだよ」
高橋「それが、お前さんが最初に言った“今のサンライズは夢が眠ってる”ってことか」
矢立「まあな。パイオニアが成功してコンサバして老舗になるってのも俺はありだと思うんだが、サンライズ作品てのは老舗って言うものじゃないような気がするんだよ。ま、吉井社長の“宿命”って言葉を借りりゃあサンライズは永遠のパイオニアってのが“宿命”じゃねえのかな、と」
高橋「それはちょっと言葉遊びと言うか、強引に過ぎない?」
矢立「いやいやいや、そうじゃねって。あのなこの連載の中で再三検証されているようにサンライズはクリエイターを取り込まないのが社是なんだ。それこそが反面教師としての虫プロの遺伝子だろうが」
高橋「‥‥」
浅井「サンライズって、演出さんたちと密接したプロダクションに見られてますよね」
高橋「そうかな、僕は実感としてないけど。でもサンライズで育った演出はサンライズ育ちを意識はしているね」
浅井「私はアトムの遺伝子には、“制作の遺伝子”と、“演出の遺伝子”があるんじゃないかと思うんですよ。座談会でも感じたんですけど、みなさんは“良輔さんの班は”“富野さんのスタジオは”って‥それって、監督から遺伝子を受け継いでるんじゃないかと思うんですよね。DNAがあると思うんですよ。それに、どうもその遺伝子は空気感染(笑)してんの‥。サンライズ出身の演出さんはみーんな歴代の監督のどなたかに似た行動とるんですもん・・良輔さんにこの連載お願いしていろいろ打合せとかやって、“あ、この人が犯人か”と確信を持ちました!」
高橋「それってろくな事じゃないね(笑)うーん、もしそう言うものがあるとしたら、それはサンライズ発生の遺伝子じゃないかな。アトムから引きずってる感じはないけどなあ」
廣瀬「じゃあ富野二世もいるんだ‥」
矢立「こいつ(良輔)の二世はあまり見ない。いるとするとそれはかなりいい加減な奴だ。富野二世は確かに多いかな」
廣瀬「遺伝子じゃないんじゃないのそれは‥」
高橋「富さんの何かは、アトムの遺伝子と言うより突然変異っぽい(笑)虫プロ時代から極めて異質だった。浅井さん流の物言いにすれば空気感染と言うより接触感染する。触れた人は絶対感染するけど。でも流れとなるには強力すぎる。あの強力さを維持するのはかなり困難だよ」
廣瀬「よく言うと個性‥(笑)」
矢立「どう言っても個性だよ」

プロデューサーとクリエイターが
火花を散らすか血を流し合わねえといけねんだ

矢立「クリエイターが居続けないってことは技術的な伝承が薄くなるんだ。少なくとも同じ技術や表現に磨きは掛かりにくい。つまりはクリエイターが代わるたびに積んでは崩しってことになる。反面新しいことにはチャレンジし易い。じゃねえか」
高橋「うーん」
矢立「チャレンジし易いって言うより、しなきゃしょうがねえんだ。サンライズはプロダクション経営としては制作主導だけれど、東映とは根本的に違う。それはクリエイターの位置づけの違いなんだ」
高橋「どういう違いがある」
矢立「まあ東映のことはさておきだ。サンライズは作品を作る上でクリエイターへの依存度が他のプロダクションにくらべ桁違いに大きかった。ま、少なくとも昔はな‥‥実はここが一番問題なんだ、ここが!」
高橋「続けて」
矢立「今でも作品作りではクリエイターへの依存度は大きい、これは変わらねえんだけど、プロデューサーの干渉度が薄くなっている。つまり野放しってこと。これはどこかの回で出ていたけど[山浦]さんなんかのポイントでの念の押し方ってしつこかったじゃねえか。特に“ここがこの作品の背骨”ってところでなんか」
高橋「商品についてなんかは特に」
矢立「サンライズの生命線だからな、必死なんだ。山浦さんと言う人はホントの意味で“作家”というものを尊敬している。だからサンライズの歴代の誰も作家としては認めていなかった」
高橋「だね」

矢立「サンライズの作品もお腹の底では“作品”としては認めていなかった。作品と言うより“商品”。だから逆にいい演出はいい演出としてちゃんと認めていた。だから演出家富野は徹底的に認めていた」
高橋「同じ意味で漫画家安彦でなくアニメーター安彦を徹底的に認めていたね」
矢立「漫画家安彦の代わりはいるかも知れねえが、アニメーター安彦の代わりはちょっといねえぜ、てな」
高橋「サンライズの恩人とも言っていたね。つまりはガンダムのヒットにおけるアニメーターの価値を知りぬいていたということになるかな」
矢立「今のサンライズはプロデューサーのかなりのところをシステムが代行しちゃってる。中堅監督連中も言っていたじゃねえか。ま、手取り足取りだ。でも、システムだから本筋の判断てものが省略されちまってる。つまりは慣れだ。プロデューサーが考えなくっても日常作業のたいがいのところはシステムがこなしちゃてるんだ。人が作っていると言うよりプロダクションのシステムが作っちゃてるんだ」
高橋「それは‥‥」
矢立「プロデューサーってのはサンライズではプロダクションそのものだったんだ。だからフリーのクリエイターと渡り合える。プロデューサーが完成しちゃってるシステムに頼っちゃって組織の一部になっちまったらクリエイターとは対等に渡り合えないって。火花がちらねえよそんな関係。火花が散るようなことじゃねえと血の通った作品はできねえって。もう一つ言えば原作付きの作品はアニメーションになる前にどっかですでに誰かと誰かが、例えば編集者と作家が火花を散らすか血を流してきてるんだ。結果としてそれが見えている。それをアニメーションにする。だけどオリジナルはアニメーションにする段階でプロデューサーとクリエイターが火花を散らすか血を流し合わねえといけねんだ」
高橋「火花はともかく、血を流しあうのはこわいなあ」

病み上がりとは思えぬ矢立のテンションである。何か配合された薬のせいかと訝りながら話題を“遺伝子”から“夢”へと転換させた

もう一発大ヒットを出したい

高橋「吉井社長の話でも虫プロの遺伝子は受け継がれているみたいだけれど、夢はどうかね? お前さんは眠っているというけれど」
矢立「夢ねえ‥‥あんた達どうなの夢ある?(廣瀬、浅井に問いかける)」
浅井「廣瀬さんは映画製作ですか‥?」
廣瀬「最近は週末だけやってる映画館の館主ってのもいいかなって(笑)」
高橋「そう言うお前さんは?」
矢立「俺はもう一発大ヒットを出したい」
高橋「おおっ! そうはっきり言うか! どんなもので?」
矢立「いや、それは何でもいいんだ。とにかくもう一発出したい」
高橋「ふんふん」
矢立「お前は?」
高橋「あるよ。小さいけど。けっこう地道に、まあ気長に努力と言うか心がけてる。何だかというのは恥ずかしいから言わないけど。まあ大したことじゃあない。それにそれはあんまりみんなには関係ない自分だけのものだ。自分たちのことはともかく問題はサンライズだ」
矢立「監督連中の回の1回目かな、お前が書いていたけどサンライズは30年の積み重ねがあるんだけれど、創業からおよそ5年でガンダムを生み出し、それから既に25年経っているんだ。25年だよ」
高橋「25年何にもしなかったわけじゃないぜ」
矢立「あたりまえだ。俺だって結構がんばった。でもここん所ちょっと安定し過ぎてやしねえか」
高橋「安定はそんなに悪いことじゃないと思うけど‥‥うーん」
矢立「この間中京競馬場で高松宮杯が行われた。G1レースだ」
高橋「アンカツが勝ったな」
廣瀬「お、久しぶりの競馬ネタですね」
矢立「うるさいなあ~」
高橋「いいからいいから。僕取ったよあれ」
矢立「取ったのかよあれ!? くそっ。ま、いいやアンカツが勝ったんだから」
高橋「すっごいよなあ。感動もんだよな」
矢立「なっ!」
浅井「何が感動ものなんですか?」
矢立「アンカツってね安藤勝巳っていうんだけど、地方競馬の大スターだったんだ。それがこの3月から中央競馬に転籍したんだ。中央競馬のG1レースを勝ちたいって言ってな」
高橋「ちゃんと試験を受けてだよ。42歳というと騎手と言うのは結構激しい仕事だから、歳って言うほどではないけれど、まあ地方競馬では大スターだからね。安定を求めても不思議じゃないんだけど、まあ夢を追って中央競馬を目指したと。もちろん中央で成功すれば得るものは桁違いに大きいんだが、リスクもある。ある意味では地方を捨てていくんだから。成功しなかったら叩かれるだろうね」

矢立「そのアンカツが転籍1ヶ月でG1を勝っちまった。一生G1なんかに縁のない騎手だっているんだ。それを1ヶ月足らずでさ、さっと勝っちまった」
高橋「競馬って奴は比喩の宝庫でさ。こじつければ色々な見方が出来る。結構面白いんだよ」
廣瀬「知ってますよ前の連載の[青春残照編]で競馬のところが妙に弾んでましたもの」
浅井「でも大体負けてるんでしょう。お二人とも」
矢立・高橋「ロマンだからいいの!」
浅井「はいはいはい」
矢立「競馬の話から何を言いたいかって言うとお‥‥」
廣瀬「分かりやすいですよね。要するに“冒険をしろ!”と」
矢立「それもあるけど、目標を明確に持てってことかな。つまりアンカツはG1レースを勝つために行動した。分かりやすい目標を設定するって大事だぜ。創業者のモチベーションだっててんでわっかり易かったじゃねえか。食うためだって」
高橋「それでシコシコやっていたら瓢箪から駒が出た」
矢立「なるべく具体的なことがいいよな。ま、これだけ会社が大きくなると会社の望むところと個人の目標とに違いが出来てもしょうがねえけど。でも統一目標みたいなことがあって、それが分かり易くって、夢のあるものなら結構馬力出るんじゃねえの」
浅井「吉井社長からよく言われます。“会社は『入れ物』なんだ、スタッフが会社なんだ”って」

“あの時代のようにはプロダクションって言うのは成り立たない”

矢立「ところで最初の頃の話ではさ、創業者の伊藤、山浦、岩崎のお三方から始めようっていってたよな。山浦さんと岩崎さんの回は見たけど伊藤さんがなかったけどどうしたんだ?」
浅井「5階(本社事務)を通して頼んでみたんですけど、断られちゃったんです」
矢立「またあ、あの人らしい勿体付けかあ」
高橋「いや、それがねそうでもないんだ。伊藤さんがサンライズで負っていた部分と言うのはまあ企業で言うところの最高機密で、つまりは結構生臭いことなんだ。これはこれで面白いとは思うんだけど今回の連載の趣旨とはあまり関係がないので遠慮してくれたらしい」
矢立「ふーん」
高橋「それに全然拒否ってことでなく、僕だけはインタビューと言うことではなくお会いして色々話を聞いては来たんだ。結構面白い話も聞かせてもらったから、何かの機会には書かせてもらおうと思っている」
矢立「ま、それはそう言うことなら‥‥。ところでお前はこの連載を何でやる気になったんだっけ。ただ30周年記念てことじゃなかったよな」
高橋「それはね、はっきりいうと山浦さんの一言なんだ。山浦さんが引退する前後に「今の若い人は可哀想だ。俺達はやろうとすればこんなこと(サンライズ創業と経営)も出来たんだけど今じゃ無理だろう。今は夢がもてないよな」って言ったんだ。ま、山浦さんは僕が本当に尊敬もしているし、恩人だとも思っているんだけど、この一言は間違っていると思ったんだ。僕はいつの時代だってやりたいことがあって、やる気があって、実行すれば可能性はあると思っているんだ。それは成功するとは限らないし、手ひどい傷を負うかもしれないけれど、夢がもてないなんてことはないと思う」
矢立「山浦さんが言ったのは、“あの時代のようにはプロダクションって言うのは成り立たないよ”って言うことだろう。成立要因が厳しくなっているのは事実だぜ」
高橋「分かっているつもりさ。でもまったく同じことをやる必要なんてどこにもないんだから、今は今のやり方と成立要因があると思う。要はやるかやらないかだと思うんだ。逆説的だと思うんだけど、サンライズの創業者がやってきたことを洗いなおすことでそれが見えてくると思ったんだ」
矢立「だけど山浦さんはそう言う時代は終わったといってるんだろう」
高橋「うーん、ちょっと誤解を受けるかもしれないんだけど、インタビューの中で創業者の人たちは度々こういってるんだ。『志なんか無かった。ただ食うために必死だった』と‥‥これを逆手に取るわけではないんだけど、そんな程度のモチベーションでもこれだけの成功を得ることが出来た。だからやってみることだと思うんだよね、いつの時代でも可能性はあるってことを、まあ言ってみたかったんだよね」
矢立「ま、そういうことか。‥‥それで連載が終わるにあたって、それは言えたのかな、どうなのかな?」
高橋「言えたと思う。‥‥ね(と廣瀬、浅井を振り返る)」
廣瀬「じゃないですか」
浅井「必死だった、っていうことは、はっきりと言えてると思います。IGの石川さんやボンズの南さんにもそれを感じます」
矢立「んーん。じゃあよかったね」
廣瀬「“お茶け”だけだとあれですね‥みんな真面目に語っちゃいますね」
一同「(笑)」

というわけでお茶だけの総括は終わった。帰っていく矢立肇の背中を見送ってから、僕らは急遽西荻窪へ移動した。もちろん開放感とお酒を楽しむためである。廣瀬君の行きつけの[S寿司]。ここがまた安くて上手く、ヘヘヘ、矢立肇よ許せ、体調が戻ったら真っ先に君を招待するから。

半年の間のご愛顧を感謝いたします。[アトムの遺伝子ガンダムの夢]は今回で一旦終了いたしますが、またお会いできる日を目指して新たなる試みを模索中でありますので、その折にはまたよろしくご贔屓をお願いいたします。本当にありがとうございました。

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※サンライズの創業30周年企画として2002年に連載された『アトムの遺伝子 ガンダムの夢』をリバイバル掲載いたしました。

    

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