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【第14回】サン娘 ~Girl's Battle Bootlog セカンドシーズン
三章②
「あちしを誘ってんの? ……いいよ、乗ってあげる♪」
一二三はまあちへと一歩踏み出し――たと思いきや、体を反転させ、
「なんてウソだよー!」
静流に向かって突進していった。
が、その行動も想定の内だった。
静流が素早く足元のローラーダッシュを起動させ、後退する。同時に栞とまあちが、一二三の背中に向けてライフルの引鉄を引く。
飛来する二つの光弾。
それを一二三は背を向けたまま避けた。まるで背中に目がついているかのように。
「甘い甘い! そう何度も食らわないってば!」
だが、攻撃を回避したことにより、静流との距離は遠ざかる。
安全圏まで下がると、再び静流は武器を構え、一二三と対峙した。
一二三を中心に絶えず三方から取り囲む。
「うーん。なるほどー、そういう作戦で来たかぁ」
これこそまあちたちが昨晩、栞の家で立てた作戦だった。
まあちたちのDアームは一二三のDアームと比べてパワーと攻撃力が遙かに劣っている。だが、唯一勝っている点があるとすれば、あちらは一人で、こちらは三人ということだ。一人が狙われれば、即座に他の二人が攻撃とサポートに回る。正面から戦えば即座に負けてしまうかもしれないが、数の有利を頼りに三人で上手く立ち回れば勝機も見出せる。
もちろん、すぐにこんな連携が取れたわけじゃない。
だけど、幸いなことにnフィールド内は時間がほぼ停止している。だから、練習時間には事欠かない。
昨晩、栞の家でイヤという程nフィールドに潜り、練習したのだ。
その結果が、今の戦いだ。
「意外と堅実な作戦立てるねぇ。確かに一対三の状況は上手く使うべきだと思うよ? ……でもさぁ、分かってるぅ? 見事なチームワークだけど、それってかなり大変だよねぇ。あちしの動きだけじゃなく、他の二人の動きも常に追ってないといけないんだからさぁ。神経使いっぱなしじゃない?」
それは……その通りだった。決して楽なことじゃない。自分が動きながら、絶えず全員の行動を把握しなければならないのだ。少しでも連携が崩れば、即座に一二三のパワーの餌食となる。
綱渡りのような攻防。精神的・肉体的な疲労の蓄積 はいつものバトルとは比べ物にならない。
それに、自分が失敗したら仲間の誰かが犠牲になる。そういったプレッシャーも重くのしかかてっくる。
「いいよ。そっちに付き合ってあげる。要は我慢比べだね。あちしが根を上げるのが早いか、キミたちの足並みが乱れるのが先か」
戦意に口元 をニヤリと上げ、
「ただ気を付けてね……あちしの体力、ほぼ無限だからっ!」
「!」
そうして、終わりの見えない戦いが始まった。
一二三は一度も足を止めなかった。絶えずまあちたちに攻撃を仕掛け続ける。それも愚直に攻めるだけじゃない。まあちを狙うかと思えば栞を、そう思えば今度は静流へと迫るなど、巧みに標的を変えながら、まあちたちをかき乱していった。
まあちは、とにかく必死だった。迫り来る一二三から全力で距離を取ったかと思えば、一転して栞へと矛先を変えた一二三に、援護のカーフ・ミサイルを放つ。
飛び交うのは自分の攻撃だけじゃない。
栞のケルベロスが地面を薙ぎ、静流のアームパンチが突き出される。
まさに怒涛とも言えるほどの猛攻。実際に攻撃の半分以上は一二三に直撃している。
だが、一二三は笑ってた。どこまでも楽しそうに。
まあちたちの攻撃を全てエネルギーシールドが防いでいるのだ。どれほど攻撃を当てれば、シールドを削り切れるのか。あとどれだけの時間、この綱渡りのような攻防を続ければいけないのか。こんなことを考えている間にも秒単位で精神がすり減っていく。自分も、栞ちゃんも、しずちゃんも。
そしてついに、ギリギリの均衡が崩れる時が訪れた。
「っ! まあちさんっ……!」
栞の切迫した声。
それもそのはず。
一二三が、まあちのすぐ眼前まで迫ってきていた。手を伸ばせば届きそうなほどの至近距離。
「油断したね、七星ちん! 炎・龍・けぇぇーーんっ!」
一二三のDアームの手の平に巨大な火球が生じる。
だが、まあちは焦らなかった。レイズナーの拳に電撃を迸らせ、
「ナックルショットッ!」
「そんなの無駄無駄ァ……!」
一二三がまあちの反撃を笑い飛ばすが、まあちは構わず拳を繰り出す。
眼前の一二三ではなく、足元の地面に向けて。
「っ!?」
拳を地面に叩きつけた反動で、まあちの体が上空に飛び上がった。
一二三の間合いから離脱すると共に、次の攻撃へと繋げる行動だった。
先程までまあちがいた場所の背後――そこには静流がいた。
ちょうど一二三の正面。Dアームの双椀に武器を構え、
「落ちなさい……!」
肩のショルダーミサイルガンポッドから九発のミサイルを一斉に発射。
さらにヘビィマシンガン改をフルオートで放ちながら、もう片方の手に持ったソリッドシューターからリニア式の砲弾を撃ち込む。
幾千という弾丸の雨と砲弾が一二三に降り注ぎ、飛来したミサイル群が巨大な爆発を起こす。
それでも手を休めず、持てる最大火力を叩き込み続ける静流。
「はあああああああッ……!」
だが。
「……その攻撃は読んでたよ!」
「っ!」
爆発の黒煙から飛び出してきた一二三、その手には未だ炎龍拳の火球が存在していた。
Dアームを振るい、手にした火球を静流に――ではなく、栞に投げつけた。
周囲を覆う煙によって視界が効かず、結果、栞の行動は遅れた。火球を避けようとするが間に合わず、その体に直撃。
「きゃああっ!」
「栞ちゃん……!」
吹き飛び、地面に激しく体を打ちつける栞。
ここまでで初めての被弾だった。動きを止めたその隙を逃がさず、一二三が栞の上に乗りかかる。
「つっかまえた♪」
「っ!」
「追いかけっこは楽しかったけど、もうお終い。これ以上逃げられないように……その脚、もらうよ」
一二三のDアームの上腕部を覆う三本の爪――龍爪 。
その鋭い切っ先を、栞の脚に向かって振り下ろす。龍爪はエネルギーシールドを一撃で貫通し、その片方の脚を深々と貫いた。
「っっっ……!」
栞が声にならない声を上げる。
「まだだよ。まだ、もう片方残ってる……!」
残った栞の片足に、再び龍爪を突き立てる。先ほどと同じく、鋭利な切っ先が栞の脚に突き刺さった。
ゆっくりと龍爪を引き抜く。血はついていなかった。
栞は声をあげなかった。いや、あげることさえできなかった。
痛みとショックが限界点を超え、栞は気を失っていた。気絶していてもなお苦痛に歪むその顔と、脚に穿たれた生々しい三つの穴――傷跡。
「……これで分かったでしょ。あちしがどんな奴か」
気絶した栞の前に立った一二三が、まあちを見た。
まあちは呆然と立ち尽くしていた。
一二三がここまでやることは分かっていた。だが、分かっていながらも、実際にその光景を目にし、圧倒されてしまった。
「…………」
「イイ目だよ、七星ちん。……それじゃあ、とっておきを見せてあげるよ!」
一二三の口から奇怪な電子音が放たれた。
その体から爆発的な光が起こり、周囲を白く染める。
やがて光が収まった時、一二三の姿が変貌していた。
「!」
一二三の額につけられた、黄金のサークレット。三本の勇壮な角が伸び、中央の前部分を赤いバイザーが、後ろ部分を青いバイザーが覆っている。
首には六つの赤い勾玉の首飾りが付けられ、腰元には黄金のバックル。
脚部と足元には追加の装甲が施され、背中には登龍剣が背負われていた。
静流がその姿に、
「あの姿は間違いないわ……マキシマムモードね」
マキシマムモード。SUN-DRIVEの性能を最大限まで引き出す、第三のモード。
ただでさえ桁違いのパワーを誇る一二三が、その全能力を解放したのだ。
「楽にしてあげるよ、七星ちん」
一二三がまあちへと歩み寄っていく。
「逃げて! まあちゃん!」
静流がローラーダッシュを最大稼働させ、猛スピードで一二三に向かっていく。
アームパンチを放つが、
「邪魔だよ」
龍神丸のDアームがいとも容易くその拳を掴む。
静流は拳を掴まれながらも、上腕部内の炸薬を連続で点火させ、何度も拳から衝撃を叩き込んだ。アームパンチの連続稼働 。
だが一二三が力を込めると、静流のDアームがあっけなく握り潰された。
片腕を握り潰されながらも静流はもう片方のDアームでアームパンチを放とうとしたが、その前に一二三のDアームによって殴り飛ばされた。
静流が大きく吹き飛び、岩山に激突する。
「しずちゃん……!」
「人の心配をしてる場合じゃないって」
一二三の前にまあちが立つ。
その威圧感にビクリとまあちの体が震える。
「怯える必要ないって。倒すっていっても痛みは一瞬だしね。SUN-DRIVEが消えても、その後に待ってるのは、これまでと同じ日常。失うものなんて何もないんだよ」
一二三が優しく微笑む。先輩が後輩の不安を取り除くように。
まあちは恐怖に体を竦ませながらも、
「そんなこと……本気で言ってるんですか?」
「え?」
「渡良瀬先輩、言ってました。SUN-DRIVEを失うと、ここでの出来事は全て夢みたいになるって」
「うん。そうだよ。別に記憶そのものが消えるわけじゃない」
「たとえ記憶があっても、自分がその経験を『本物』と思えなくなったら、それは失ったのと変わらないです。……私は失くしたくない。ここであった事を。戦うことは好きじゃなかったけど……それでもSUN-DRIVEがあったからこそ、私は大切な人に想いを伝えられたし、途切れた絆を結び直すことができた」
これまでnフィールドの中で起こった出来事を振り返る。
それは単なる記憶ではなく、確かな『思い出』として自分の中に根付いていた。
哀しかったことも、嬉しかったことも、その全てが。
「私にとってnフィールドであったことは、大切な『私』の一部です。だから、失くしたくありません」
自分の想いをまっすぐに伝える。
一二三は、向けられたまあちの瞳から僅かに目を逸らし、
「私の一部……か。こんな場所に価値を見出すなんてね。さすが『楽援部』なんて部活を作るだけのことはあるよ」
「知ってたんですか?」
「あちしは生徒会長だよ? 生徒たちのことで知らないことなんてないさ。今まで倒したみんなのことだって、ちゃんと知ってる。そう……知ってたんだよ、あちしは」
そこで、一二三の瞳が大きく揺らいだ。
何かを思い出すように空中を見つめ、
「そうだよ……知ってたんだ。知ってたからこそ……こういうのはダメだって思ったんだ。みんなが戦い合うなんていけないことだって……」
虚空に視線を漂わせたまま、唇をブツブツと揺らす 。
明らかに様子がおかしかった。
「渡良瀬、先輩……?」
「初めは……あちしも戦いを止めようとしたんだ……。でも、どうやったらいいか方法が分からなくて……それで……それで……」
額に手を当て、過去を思い出す。
「あの子に会ったんだ。あの黒髪の女の子に教えてもらったんだよ。『あちしが全員を倒せば、誰も戦い合わなくて済む』って。……だから、一人ずつ倒していって……」
なおも独り言をつぶやきながら、視線を宙に彷徨わせ続ける。
明らかに正常な状態ではなかった。
もしかして……渡良瀬先輩も……。
「やっぱり倒すしかないんだ……。戦いを終わらせるためには……」
一二三のDアームが背中の登龍剣に手をかける。
「だから……大人しくあちしに倒されてよ! 七星ちんっ!」
登龍剣を振り上げようとした瞬間――
横から飛来した巨大なビームが一二三に直撃した。膨大な熱量と圧力が襲い掛かり、一二三の体を弾き飛ばす。
「……やっぱり貴方もフラクチャーに憑りつかれていたのね」
まあちはビームの飛来した方向を見た。
そこに巨大な大砲――対宇宙艦用の高出力エネルギー砲・ロッグガンを構えた静流がいた。
その姿が先ほどまでと異なっていた。
アンダースーツの腰回りと足元には追加の装甲。額のゴーグルもサイズが一回り大きくなり、大小三つのレンズ――ターレットスコープが取り付けられている。
あの装甲は間違いない。かつて戦ったこともあるアレは――
「しずちゃん、その姿……」
(つづく)
著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥
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