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  • 矢立文庫
2021.02.24

【第1回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

黒い影

「飛鳥くん、なにぼんやりしてんのよ?」
「え……!?」
「さっきからわたしの話、ぜんぜん聞いてないでしょ」
「そんなことないよ」
「じゃあ、いまわたしが言ってた質問に、ちゃんとこたえて。月城飛鳥くん!」

 マリアはちょっと頬をふくらませて顔を近づけてくる。
 白い肌がほんのりピンク色がかっている。
 僕は思わずマリアの顔に見とれてしまう。
 なんて可愛いんだ……!

 白鳥マリアは、僕と同じ陽昇学園高等部に通う一年生。
 クラスも同じ、一年B組だ。
 彼女とは小学五年生の時に同じクラスになってからの友だちだ。
 中学高校と同じところに進んだのもあり、いつも近くにいるのがふつうだった。
 ずっと空気みたいな存在だった気がする。
 今は恋人未満、友人以上って感じだ。
 もちろん僕がそう思っているだけなんだけど。
 マリアがどう思っているかは、僕はまだ知らない。

「こたえなさいよォ」

 と、マリアは口をすぼめて唇をつきだした。
 その唇も、また可愛い。

「なにジロジロ見てんのよォ! 飛鳥ったらァ」

 僕の視線に気づいたみたいだ。
 やばっ!

「見てないし……」
「いま、わたしの胸見てたでしょ。もう、やらしいんだからァ」
「そんなもん見るかよ。だいいち、わざわざ見るほどのもんじゃないだろ。たいしてないくせに」
「なんですって」

 とたんにマリアの目つきが鋭くなった。

 やばっ、やばっ、やばっ!
 あー、最悪だぁ。
 サイアクッ!
 ついつい口がすべっちゃうのは、どうしてなんだろう!
 思っているのと、まったくちがうことを、この口は言ってしまう。
 あー、この口に、超苦い青汁のませて、ゲーッとさせてやりたい。
 って、あとの祭りだぁッ!
 たいしてないどころか、実はマリアの胸は、けっこう大きい。(はず)
 このところ特に成長いちじるしいっていうか、女らしくなってきてるっていうか……
 自分では気にして隠しているふしがあるけど。
 あー、またなんてことを、僕は考えてるんだァ!
 そんなことを、僕は0.01秒の間に考えて、チョー焦りながらも、懸命に平静をよそおっていた。
 しかしその間に、マリアの顔は、みるみる赤くなってきている。
 完全に怒らせちゃったよォォーーーッ!
 ノォォォォォォーーーー!

「飛鳥くん、だいたいあたしが何を聞いてるのかわかってないでしょ。正直にこたえなさい」

 マリアは、僕の顔に人指し指をつきつけてくる。
 こうなったらもう逆らうのは不可能だ。
 本当のことを言うしかない。
 僕は自分の動揺をマリアにさとられないように、咳払いをして彼女から距離を取った。
 ゆっくりと振り返ると、屋上の柵によりかかっているマリアの全身が見える。
 スタイルも抜群にいい。小学生のときは、あまり意識したことはなかったが、中学に入る直前くらいから身長も伸びて女子のなかでは高い方にはいっている。
 手足が長くて、すらりとしているんで、よけいに身長が高く見えるんだ。
 ちょっと茶色がかった髪を後ろでたばねてポニーテイルにしている。
 マリアは、そのポニーテイルに手を伸ばして、髪を止めていた輪ゴムを外すと、バッと首をふった。
 これはマリアが怒っている自分の感情を抑えようとするときの仕種だ。

「最近さ、なんか変なものが見えたりするんだよね……」
「なに、変なもの!? まさか、おばけとか、そういう話? やだよあたし、そういうのは」
「おばけとは、ちがうと思うけど、なんか影っていうか、もやもやっとしたのが見えちゃったりすることがあるんだ」
「はぁ、わけわかんない。いったいどういうことなの!?」

 マリアは、小さく首をかしげる。
 マリアの髪の毛を四月の風が、ふわっとかきあげながら通りすぎていく。
 風に桜の花びらがまじって飛んできていた。それはまるで白い花びらの妖精が、マリアの髪にいたずらをしているかのように見えた。
 三階建ての校舎の屋上にいるのは、僕とマリアだけだ。
 どこかで誰かが僕たち二人を見たら、まるで恋人たちがいちゃついているように見えるかもしれない。
 僕は、そう見えても、ちっともかまわないんだけど。
 僕は心のなかで、にやけてしまっていた。

 おーっと!
 そんなことより今の問題は、最近の僕に見えるようになった謎の影のことだ。
 マリアには影という言い方をしたけど、実際に見えている(見えている気がしている)のはもっと具体的な形をしている。
 ケモノというか、怪物というか、モンスターというか、そのときで形は変化しているのだが、なんだか意志をもった邪悪なものを、僕の目は見つけてしまうのだ。
 幽霊とは違う。それはまちがいなく生きている気配をもっている。
 それは街を歩いていてふと角をまがったときとか、こうして屋上でなにげなく空をみあげたときとかに、現実の背景にだぶって、ふいに現れるのだ。
 最初は目の錯覚だと思った。
 まばたきをしたり、目をこすると、その謎の影はすぐに消えてしまったからだ。
 しかしその現象は、おさまるどころか、だんだん頻繁におきるようになってきていた。
 最近では一日に何回も見るようになっている。
 人に話しても、きっと病院に行けと言われるだけなので、このことはずっと黙っていた。教えたのは白鳥マリアと、星山吼児の二人だけだ。

 星山吼児も、小学校の時からの友だちだ。
 マリアと同じで、五年生の時に同じクラスになっていらい、なんとなく友だちになって、そのままここまで一緒の学校に通っている。
 吼児は、どちらかというと大人しい性格。SF小説とアニメと特撮が大好きで、みんなには典型的なオタクだと思われている。
 でも興味のあることに関しては、やたらと詳しい。
 吼児なら、わかってくれると思ったのだ。
 予想通り吼児はいきなり前のめり気味で食いついてきたのだった。

「おもしろいね、それ、飛鳥くん。チョー、興味深いよ、それって」

 と、身をのりだしてくる。
 吼児に言わせると、僕は何かにとりつかれているのかもしれないということだった。
 でも気にしていると、相手はもっと調子にのって僕にかかわってこようとするから、できるだけ無視したほうがいいというのが、吼児から僕へのアドバイスだった。
 かってなこと言いやがって……
 気にするなって言われても、できるわけないじゃないか!
 吼児にうちあけたのは、ほんの二日前のことだった。

「またまた自分の世界に行っちゃってるでしょ、飛鳥くん!」

 マリアの声が僕を現実に引き戻した。
 吼児にいろいろ聞かされた時のことを思い出して、一瞬僕の意識は過去に戻っていた。

「あ、ごめん……」
「まったくもう、相手してらんないわ。せっかくあたしが心配してあげてるっていうのにさ」

 と、またマリアがむくれて言う。

「まずは眼科に行くべきね。目がおかしくなってるのかもしれないもん」
「いや、そういうのとは違うと思うし」
「ふつうに元気な人には、見えないの。そんな影とか。ほら、あたしの目にはぼんやりした飛鳥くんしか見えてないもん」

 と、マリアは僕の目の前に顔を近づけてくる。

「ちゃんと眼科に行って診てもらったほうがいいよ。絶対」

 マリアと僕の間に、あっというまに距離がなくなった。
 僕が半歩前にでるだけで、マリアにキスをすることができる。

 おー!
 そんなことを思っただけで、僕の顔がカッと赤くなっていく。
 胸もドキドキしはじめてる。
 もう、男を挑発するなよッ!
 そっちにその気がなくても、僕には充分あるんだからな!
 もうおれは小学生じゃないんだ! 高校生だぞ! 男の子だぞッ!
 キスしちゃうからなぁ!
 僕は必死に口をつぐんだ。そうしないと本音があふれだしそうだったから。

「あーーっ!」

 マリアの背後、5メートルほどのところに、そいつは現れていた。
 黒い小さな影のようなものが、うねうねと息づくように揺れている。
 そしてそれはしだいに大きくなっていく。
 それが影ではないということは明らかだ。影は物体が光を受けることで、その背後にできるものだ。
 そいつと太陽の間には、なにも物体はない。
 ただ空中にぽっかりと黒いものが浮かび、それはしだいに大きくなっていっている。
 うねうねと動きながら、ゆっくりと僕たちの方に近づいてきていた。

 僕が叫び声をあげたので、マリアは自分の背後に僕が何かを見ているということに気づいたようだ。

「えっ、まさか、あたしの後ろになにかがいるとか言うつもり。言うつもりでしょ、飛鳥くん」
「うん……いま、そう言おうとしてたとこ」
「やだよ、そういう冗談は……あたし、ドッキリとか嫌いなんだから。嘘でしょ、嘘なんでしょ」

 あきらかにマリアの顔がひきつっている。
 嘘だと言いたかったが、見えてるものはしょうがない。
 僕は正直に言った。

「嘘じゃない……いま、そこになにかいるんだ……」

続きは矢立文庫で!

著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)

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