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クリエイターインタビュー 第2回 谷口悟朗 <後編>
サンライズワールドのクリエイターインタビューの第2回は、今年で放送20周年を迎え、現在も多くのファンから支持されるバトルアニメ『スクライド』の監督を務めた谷口悟朗さんが登場。インタビュー後編では、『スクライド』という作品に込めた思い、そして20周年を迎えた感慨などを語ってもらった。
――放送当時は、美少女もののアニメがヒットする中で、熱いバトルものの作品が受け入られたわけですが、その理由はどこにあったと思われますか?
谷口 今の時代でも、女の子がいっぱい出てくる作品が好きな人もいるだろうけど、みんながそういうわけじゃない。それと同じだと思うんですよ。当時、日本の伝統芸能に存在するのは「侘び・寂び・萌え・燃え」だと私は言っていて。それは、『源氏物語』や『古今和歌集』『往生要集』『落窪物語』の頃から変わっていないから、多分日本人の根っこにその要素を好む素養みたいなものがあるんでしょうね。そういう意味で、「燃える」ものをやろうと思ったわけではないんですが、結果的には「燃え」の要素が強い作品になったということですね。ただね、そんなことは後付でどうだっていいんですよ。
私はただ単に、殴り合いがやりたかったということであって、当然殴るとしたら何らかの覚悟とか信念がないことには殴れない。償いだってあります。そこだけを考えていったという感じですね。
――そこで、「アルター」という特殊能力と融合させることで、どう殴り合いを成立させるかを詰めていったということですね。
谷口 そうです。アルター能力に関しても、進めて行く中でロボを出すか出さないかという話があったわけですよ。ビジネス的に。でも、当時の私はロボを出すと絶対に整備チームやパーツ交換が必要になって、結局は集団の話になってしまうという恐れがありました。個人の中で全部済んでしまう話にしないと、「個」の話にならないということで変えたというのがあります。
――それが、「アルター」が特殊能力的な表現になった理由なんですね。
谷口 最初、普通の街中で能力もない形で黒田さんに出だしを考えてもらったら、主人公がすぐ逮捕されちゃって、これはイカンと「アルター」とか「連(むらじ)経済特区」とかの設定を作ったというのが大きいですかね。まぁ、そっちの設定にしても主人公はすぐ逮捕されちゃうんですが。
――『スクライド』を制作するにあたって印象深いことはありますか?
谷口 やはり、平井久司さんがキャラクターオーディションをくぐり抜けてきたのは凄いと思いましたね。キャラクターデザインに関しては、当初は平井さんは候補に入っていなくて、普通にキャラクターオーディションに参加して描いてくれたんです。多分、事情を知らない人からすれば『無限のリヴァイアス』の座組みをそのまま持って来たと思われるかもしれないですが、実はそうではないんですよね。
――主人公に関しては、カズマと劉鳳というふたりが並び立つスタイルになったのでしょうか?
谷口 そこに関しては、脚本を担当した黒田洋介さんとの話の流れで決めていきましたね。やはり、主人公が野に生まれた無頼みたいな奴というところで、そいつだけを推して話を作っていった場合、付いてこれる人とついてこれない人が出てくるだろうなと。ある意味野蛮な主人公に憧れを抱ける人と抱けない人にはものすごく差があるので。
そこで、片方が個人として動いているなら、片方は組織の中にいて、組織の中の個としてやっているようにしようと。だから、主題歌も1番、2番、3番の構成にして、1番はカズマのことを、2番は劉鳳のことを、そして3番は両者についての内容で作詞してもらって、どちらかがメインの時はそれぞれの詩の方をかけるという形にしています。許可してくれた音楽プロデューサーの石川吉元さんと作詞の酒井ミキオさんには感謝しています。
――そのふたりのぶつかり合いでは、どのようなことを描こうとされたのですか?
谷口 私は「人はわかり合えない」と思っているんです。あるレベルを超えてまでわかり合おうとするとおかしくなる。でも、人はわかりたくなってしまうんですよ、面倒なことに。会話、ロジック、共通の感情、それらが成立するには何らかの倫理観や宗教観が必要になります。しかし、そんな頭のいいこと持ち出さなくたって、人には本能がある。本能万歳。『スクライド』もそういう考えで作ったはずです。共通の敵を倒すために一緒に戦ったカズマと劉鳳が、最後に殴り合いを続けるのは、お互いにどちらが強いか決めたいという思いがあるから。本当にただそれだけで。仲良しだろうと親友だろうと別問題。どちらが強いのか決めたいから、一度仲良しになっておかないといけないんですよ。ほとんどの人は「ふたりが仲良しで終わっているんだから、それでいいじゃん」と思っているでしょうし、「最後の殴り合いという余計な1話をくっつけやがって、谷口のアホが」と思ってもらってもいい。ただ、私がやりたかったのは、どっちが強いか比べられる関係性を描きたかったんです。で、どっちが勝つのかはどうでもいい。
――『スクライド』は20年が経過しても根強いファンがいる作品ですが、長く愛されている理由について、どのように考えられていますか?
谷口 まぁ、あえて考えるならシンプルだからじゃないでしょうか。主人公の行動原理や動きはわかりやすいですからね。あとは主人公がすごくワガママなんですよね。今、同じような感じの主人公でやって欲しいと言われても、こういう描き方にはならないと思います。さすがにここまでワガママだと伝わらない可能性が高いですからね。
――下手をすると自分勝手なキャラクターにしか見えなくなる可能性もありますね。
谷口 そうですね。時代性もありますし。当時ですら、役者に「ケンカをしたことがありますか?」という話をしたくらいですから。今の時代にいたら、もっとそこに気を使ってあげないと、作品内で言っていることが伝わらない。
収録にあたっても、役者の方には「殴る前には息を吸って」と言ったんです。息を吐いてから殴るやつなんてどこにもいないでしょうって。「ワァーッ!」と言いながら敵に突っ込むと、それで力を使っちゃっているじゃないですか。それで、敵も「うぉおおお!」みたいなことを言うから気合い合戦になっちゃう。それは嫌だったんです。そうした表現はアニメーションだからと捉えたくもないんですよね。私の場合は、小説や実写のドラマ、場合によってはニュースやスポーツ、ゲームがあった上でのアニメーションだと捉えているんです。そうした流れから見ると、当時、単なる気合い合戦を中心としたアクションは、相当古いタイプの表現にしか見えなかった。ゲームなどではそうした表現は乗り越えてしまっているし、そうしたことを考えるとアニメーションの方もいい加減変わらないといけないんじゃないかと思ったというのはありますね。今はまた別の考えもありますが。
――『スクライド』も20周年になるわけですが、どのような感想を持たれていますか?
谷口 20年後なんて、自分はアニメ業界に居ないんじゃないかと思っていました。職替えしている人も結構いますから。関わった方では、亡くなられた方や辞めてしまわれた方もいますが、メインの方々はまだこんなに残っていてくれる。それが一番良かったですね。
――20周年にあたってエピソードの人気投票も行われて、「リバコメ!!」(リバイバル生コメンタリー)での上映も決まりました。ランキングの結果についてはどのように感じられましたか?
谷口 いやぁ、みんなキャラクターが死ぬエピソードが好きだなと(笑)。まあ、キャラクターが死ぬというのはひとつ盛り上げやすい要素だから。やっぱりそれが好きなんだなと思いますね。
――やはり、主人公のカズマの相棒である君島が死亡するエピソードは、お話の流れを変えたという部分も含めて、ファンの印象に残っているようですね。
谷口 君島はここで死なないで生き残ってしまうと、ずっとカズマに文句を言うだけになってしまう。だから、君島というキャラを守るために死んでもらうしかないと思っていました。よく脚本の打ち合わせで「君島は『あしたのジョー』のマンモス西だよね」という話をしていたんです。同じような感じの競技を同じタイミングで始めるけど、向こうは才能も努力もあって伸びているのに、片方はあるレベル以上行かなくなる。それは現実だから、やっぱりついていけないヤツというのは必要だし、そのままダラダラと出てキャラが嫌われても可哀想だなと。それならば、主人公の成長に活かせた方がいいわけで。でも、私的には、『ビッグ・マグナム』とか『最悪の脚本』が入ってくるかと思ったんですが、高木渉さんや堀内賢雄さんが頑張ってくれたんですけどね。ダメなのかな?(笑)。
――それでは、20周年のイベントに向けたメッセージをお願いします。
谷口 今回は配信もあるということなので、トーク内容はいろいろと考えておきます。優等生的に。
20年が経過して改めて思うのは、この作品を初めて見る人はどう感じるのかなということですね。私なんかは、学生時代からある種人間の本能や暴力をベースにしてきた小説や映画、舞台などを観てきた世代ですが、今はそこが規制されるような部分があるわけですから、若い人たちはこの作品で描かれるそうした部分をどう捉えるのかが気になります。そこには文化的なズレもあるわけですからね。そして、やはり今のこういうご時世ですから、対策をしっかりとした安心、安全なイベントにしたいと思っております。会場に来られる方も、気を付けていらして欲しいです。
谷口悟朗(たにぐち・ごろう)
1966年10月18日生まれ、愛知県出身。アニメーション監督、演出家。プロデューサー。
1991年放送の『絶対無敵ライジンオー』に設定制作として参加。
1999年に放送された『無限のリヴァイアス』でテレビシリーズ監督デビュー。以降、『スクライド』『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』など、数々のヒット作を手がける。
最新作は『スケートリーディング☆スターズ』や『バック・アロウ』
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