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2021.08.20

クリエイターインタビュー 第3回 下田正美 <後編>

 

今回のクリエイターインタビューは、今年で放送15周年を迎えたSFロボットアクション『ゼーガペイン』の監督を務めた下田正美さんが登場。後編では、ロボットものとしてのこだわり、その後に制作された『ゼーガペインADP』やサンライズフェスティバルでも上映された総集編の誕生について語ってもらった。



――ロボットものという部分はどのように加わったのでしょうか?

下田 やはり、伊東の中で「サンライズといえばロボットものだろう」という考えがあったんだと思います。伊東自身も、これから何本企画を立てられるかわからないから、ここで総まとめとして「伊東岳彦のロボットものを1本作っておきたい」というのが最初にあったはずなので、そうした流れで「ロボットもの」はひとつの軸として最初からあったんだと思います。

――物語だけでなく、CGを使ったロボットの表現に関しても新たな試みをされていますね。

下田 ロボットだけCGで動かすというのは、当時は始まったばかりで。ゼーガペインというロボットは、デザイン自体がCGを使わないと表現できないんですが、なかなか思い通りにはいかなかったですね。当初は、半透明の装甲の中でメカがガチャガチャ動いて見えるようなものを想定していたんですが、あの頃の技術だと映像化されたものが限界で。CGのスタッフもいろいろ頑張ってくれ、格好良くみせようと工夫されているんですが思うようにはいかなかったです。今ならば、CGにアクションを付けるのが得意なCGアニメーターのような方がたくさんいらっしゃると思いますが、当時はそんな人はいませんでしたから。画期的で誰もやっていない事に先鞭をつけるという作品に挑戦して、みんなで勉強しながら、なんとかカッコ良く見せようと努力していました。

――ゼーガペインを初めとした戦闘シーンでの見せ方は、特技監督を担当されたわたなべじゅんいちさんの手腕も大きいと思います。残念ながら亡くなられてしまいましたが、わたなべさんとの思い出などをお聞かせいただけますか?

下田 なべさんも実は同級生なんです。伊東となべさんと僕と、その他に何人か同級生というか同世代の人間が関わって、「当時の雰囲気で作ろうぜ」というのが一貫したスタイルで。なべさんは、すでに3Dに詳しかったので、2Dと3Dを組み合わせて自然な画面を作ることを模索していたんです。だから、特技監督というのは2Dと3Dの調和を取る係ですかね。手描きの絵の横に3Dのロボットを置くとどうしても違和感がある。それを無くすために撮影技術やレイアウトの見せ方などにこだわってもらいました。脚本、絵コンテが終わったあとの演出打ち合わせで僕と演出さんとなべさんの3人で打ち合わせをしたら、その後の画作りをお任せするという感じでしたね。

――そういう意味で言えば、わたなべさんは演出側の意図をきちんと汲んでくれる方だったということですか?

下田 そうですね。元々僕らの世代では真っ先に監督になった人ですし、こちらの意図はしっかり捉えてくれて、話合えばしっかりと伝わる。なべさんも当時は自分で3Dのモーションはつけていましたし、「じゃあ、こういうアプローチをしてみたらどうだろう?」というアイデアを出してくれて、それをCGのスタッフに相談して形にするという。そういうやり取りをしていましたね。

――キャストに関しても、主人公のキョウ役の浅沼晋太郎さんやヒロインのリョーコ役の花澤香菜さんなど、今では人気声優となったお二人もほぼデビュー作でしたね。

下田 そうですね。浅沼さんに関しては、『ゼーガペイン』が初めてのアフレコでしたから。オーディションはずっと受けていたけど、なかなか受からなかったみたいで。でも、ある意味どこにも手垢がついていない、新鮮な感じがいいなと。『ゼーガペイン』はオリジナル作品なので、ぜひこの声で行きたいと思いましたね。浅沼さんは舞台をやられていて、発声というか芝居がすごく良かったんです。アニメ芝居じゃないところが新しくて。花澤さんは、彼女自身が当時のことを思い出すと、ただの女子高生だったと言いますね。将来の仕事としてというよりも、役者の延長として声の芝居を一生懸命やっていただいた感じです。当時は、アニメの発声の仕方などは訓練されていなかった筈ですが、逆にそれがナチュラルな感じでいいなと思いましたね。オーディションで決めたんですが、「リアル カミナギ・リョーコを見つけた」って思いましたからね。

――当時の作品に対するファンの反応はいかがでしたか?

下田 女性ファンが多かった記憶がありますね。僕は当時SNSなどはあまり触れていませんでしたが、それでもネットに繋いでいると『ゼーガペイン』という単語が目の片隅に入る。で、クリックすると感想をいっぱい書いていらっしゃるのが出てくるんですが、それを見ると女性が多い感じで。ファンの方にもお会いしたりしましたが、若い方たちがこのクソ小難しいお話の本質を捉えて作品を観ていてくれたことには感動しました。

――『ゼーガペイン』はサンライズフェスティバルで上映された複数の総集編が制作されているのも特徴ですね。

下田 総集編の企画の成り立ちとしては、遊戯機用の映像を作らせてもらって、その後原作紹介用のプロモーションビデオを制作したところ、関係者から総集編を作ることができないかと提案があり。前提としては「Blu-ray BOXを発売する際にいきなり26本観てくれ、と言うのはハードルが高いので先ずは総集編で作品に触れてもらおう」と言う事でした。普通に総集編を作るのは簡単だけど、そうではなくて、総集編のふりをした新作を作らせて欲しいとこちらから提案しました。それが後々の『ゼーガペインADP(以下、ADP)』のアイディアなんです。それから少しして、サンライズフェスティバルで上映する4話を選んで欲しいという話が出たので、それだったらクライマックスをまとめて1本にしたものを作らせてもらえないかとお願いしたんです。作品を当時のまま上映するというサンフェスの企画には反すると思いますが、どなたかが頑張ってくれて許可が下りたんです。そこで、旧作の絵を繋げて、それを加工したり遊戯機用の映像に差し替えるという実験をして完成したのが、物語の最終決戦をまとめた「PROJECT RESURRECTION」で。実際に編集してみるとスムーズに行けることが判ったので、『ADP』の企画が正式にスタートすることになりました。そして、プリクエルである『ADP』を作るなら、残りの部分もまとめようということで、「Memories in the shell」を作らせて貰いました。

――『ADP』も新作でありながら、ループものとしてテレビシリーズの素材を使って再編集された内容になっているわけですが、素材を活かしてつなぎ合わせることに対しては、どのような意識があるのでしょうか?


下田 「趣味:編集」と言っても過言ではないレベルで編集が大好きなんです。あと、飽きっぽいので、素材を提供することに関しても、一度やったことはもう一度同じことをやりたくないという思いがありまして。だから別のアプローチの仕方がないかと常々考えているんです。それが形にできたのが「PROJECT RESURRECTION」ですね。本当はもっと加工をしたかったんですが、無理を通してせっかく許可が出たので、怒られ無いようにギリギリで実験させもらったという感じです。でも、結果的には怒られなかったので、もっとやれば良かったなと、後から少し思いましたね。

――一度完成した映像を「こうやってまとめたら面白くなるかな?」といろいろ考えている感じでしょうか?

下田 この仕事に就く前の素人だった頃、例えば僕は『無敵鋼人ダイターン3(以下、ダイターン3)』という作品が大好きなんですが、それを趣味で『火星での回想スタートでオープニング、そして#1のエピソードに繋いで』みたいに貧乏が産んだ知恵というか、放送当時高価だったビデオテープに『ダイターン3』の全40話をどうにかして1本にまとめたいと言う欲求に抗えない、編集病?を発揮していました。エピソードの順番を変えたり音もいじっていたので、今となっては創り手に大変失礼な行為だと冷や汗ものです。現在はお仕事でお代をいただいて編集の仕事ができるのでプライベートではやっていませんが(笑)。『ADP』も「あの絵をここに持ってきてつなぎ合わせれば、ループものということを逆手に取って、前日譚として振り切った映画ができる」と思って編集しました。

――『ADP』の前日譚を描くというアイデアはずっと温めていたのでしょうか?

下田 元々は26話から50話の予定で企画を進めていたんですが、最終的には26話の構成にすることになり、膨らませた設定やアイディアが全部は入れ込めなかったんです。切り落としたネタは沢山あるので、それをいつか、日の目を見させたいと思っていました。ループものである『ゼーガペイン』ならネタのいくつか拾えるだろうとも思いましたし。

――ということは、まだやり残したことや、やってみたいと思っているアイデアがあるということですか?

下田 機会があればいくらでも創りたいですね。やり残しというよりは、触れていない部分がまだまだいっぱいあるので、勿体ないです。あの世界観でやれることもそうですし、キャラクターもたくさんいますからね。それぞれのキャラクターに焦点を当てたら、また別のお話もつくれると思います。サンフェスで『ADP』を上映した時に、ガルズオルム残存部隊の戦艦や、アルティールのキャノピーを透明にしたモデルも公開しているのでキョウやシズノの3Dモデルを用意すれば、新たに『ゼーガペインVer.2022.8.31』みたいな総集編を作れと言われたら、いますぐに取りかかれるくらいの気持ちもあります。が、編集が好きだといいつつも、オール新作でやれるなら是非ともやりたいですね。

――『ゼーガペイン』は今年で15周年を迎えたわけですが、現在も支持されていることに対しての感想をお聞かせください。

下田 本当に未だに『ゼーガペイン』のことを取り上げてくれる媒体があるのは、心よりありがたいとしか言いようがないですね。当時のスタッフのみんなで一生懸命、一丸となって作って良かったなという思いもありますし、15年という月日の中で残念ながら鬼籍に入られた方も何人かいらっしゃるので、そのスタッフの遺志を引き継ぎつつ、『ゼーガペイン』がさらなる飛躍ができると良いなと思います。できれば、20周年に向けて大きな花火を打ち上げたい気持ちです。

――では、最後にこのインタビューを読んだサンライズのファンに向けてメッセージをお願いします。

下田 15周年を迎えたとは言え、『ゼーガペイン』のを知らない方々もいると思います。ぜひテレビシリーズからでも劇場版の『ADP』からでもいいので、一度作品に触れていただいて、ハマっていただけると嬉しいです。どっちから見ても楽しめると思います。
そして大変苦難を強いられる厳しい状況が続いていると思いますが、これまで応援して下さったファンの方には、心から感謝しかありません。映像業界に関わる身としては出来る限り早く何らかの形でこの感謝の気持ちをお返ししたい いつの日か新たな『ゼーガペイン』で再会できる事を楽しみにしておりますので、今後ともよろしくお願い致します。


下田正美(しもだまさみ)
北海道出身。アニメーション演出家、監督、アニメーター。
『巨神ゴーグ』や『ダーティペア』など多くのサンライズ作品に作画として参加。
2006年に『ゼーガペイン』の監督を務める。
代表作に『セイバーマリオネット』シリーズや『藍より青し』シリーズなどがある。
「趣味:編集」を活かしたオープニングアニメーションの演出も多い。現在『SCARLET NEXUS』放送中


 

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