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クリエイターインタビュー 第4回 神志那弘志 <後編>
今回のクリエイターインタビューは、『魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸』の監督を務めた、スタジオ・ライブの神志那弘志さんが登場。
後編では、『七魂の龍神丸』の制作における、ストーリーやキャラクター表現のこだわり、そして新作パートを加えて制作される『魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸 ―再会―』について話を伺った。
――「7体の龍神丸」という企画に関しては、どのような感想を持たれましたか?
神志那 これに関しては、企画のスタート時に出されたテーマでもあるので、絶対に描かなければならないことだったので、これをどう活かすべきかというところに頭を使うだけでした。今回のお話もそこから考えだして、ワタルと龍神丸にフィーチャーした物語にしようと決めました。いろいろと企画を考える中で、ロボットものというのは、乗り込む人物が主人公になりますが、ロボットがあるからこそ主人公たりえる。それが、乗り込んで自分を強くしてくれる。ロボットがいなくなってただの少年になってしまった時、主人公はどうするんだろうというイメージが頭の片隅にあったんです。今回の企画をもらった時、ワタルは救世主だと言われているけど、龍神丸がいてこその救世主ですからね。その龍神丸がいなくなったらワタルはどうするのか? そこを重視する形で話作りを進めていきました。そして、龍神丸を7つに分けて、逆さ創界山というパラレルワールドで、ひとつの世界でひとつの欠片を手に入れる。そうすると、その世界にいる龍神丸に乗れるという風にしました。そうすれば、龍神丸がいなくても大丈夫だろうと。
――その設定に合わせて、ワタルがそれぞれの世界に行く度に衣装が変わりますが、そこは先ほど仰った「7人のワタル」の名残みたいな形で描かれていますね。
神志那 その要素は残しました。いろんな世界に行く度に、ワタルの衣装をそこに適した服装に変えてしまおうと。これは最後に出たアイデアですね。そこは、しっかりとした理屈は無くて「服が変われば面白いよね」という感じです。服が変わったのを見て、「次はどんな世界かな?」と想像してもらえるといいなと。
――ワタルと一緒に冒険してきたキャラクターをきちんと出すことも重要なポイントだったのでしょうか?
神志那 今回、ワタルは龍神丸がいないので、新たな世界に行っても最初は戦うことができない。そこで、誰をパーティーとして連れていくかというのがポイントになります。その後、意見を聞いて話を作り上げていく中で、「ヒミコは連れていこう」ということになりました。とは言え、ヒミコがまともに戦うことはまずないですから。そうなると、代わりにきちんと戦ってくれるキャラクターを加える必要が出てきて、虎王を連れていくことが決まりました。そこから、虎王をメインメンバーに据えたストーリー立てが必要になってきたという形ですね。
――虎王は、テレビシリーズでは後から仲間になったキャラクターですが、今回は最初からワタルの相棒として、すごく頼りになる存在として描かれていますね。
神志那 物語的には、『ワタル2』の後の話になるので、最初から虎王をパーティーに入れて話を進めると決めたわけですが、シナリオを作っていてある意味意外だったのが、虎王がわりとワタルの女房役としてハマり、パーティーを仕切っていく立場になっているんですよね。そこは、いつもの虎王とはちょっと違う感じというか。
――虎王と言えば、暴走しがちなキャラクターという印象がありますからね。
神志那 テレビシリーズの第1作目は特にそうでしたし、『ワタル2』では海火子に対抗するキャラクターでしたからね。そういう意味では、ちょっと変な感じにはなってきたんですが、僕の中では腑に落ちていて。虎王は、一方で翔龍子でもあるわけで、翔龍子の成長と共に別人格の虎王も成長しているだろうと思ったんです。だから虎王は、ワタルが苦しんでいる時や道に迷っている時は手を差し伸べるであろうキャラクターとして適役だったんです。だから、違和感もありつつ、成長した虎王だと思えば変ではない。物語の後半に描かれる「リューグーランド」のエピソードではそういう話の作り方をしています。常に虎王がワタルの隣にいるというところが、今までと違うところであり、ワタルにとっても安心感を与える存在になったような気がします。
――魔神たちの描写に関しても、手描きによるテレビシリーズを踏襲している形ですね。
神志那 あのタマゴ型の二頭身程度のメカデザインがいいんですよね。メカもキャラクターの一部として世界にちゃんと入っていて、心が通わない機械やロボットという形ではなくて。そのあたりが、登場人物たちとメカがミックスされて、作品がヒットすることになったんだと思います。女性ファンでも、キャラクターだけで無く魔神の方も大好きという方が多くいらっしゃるんです。魔神もメカではなく、ちゃんとキャラクターとして扱ってくれて。そういう不思議な魅力はちゃんとそのまま描きたかった部分ですね。ただ、魔神をきちんとアクションさせるように描けるスタッフを探すのが大変でした。そこで当時、『ワタル』に関わっていた重田智さんにメカの作画監督としてお願いしました。その結果、より格好良くなった魔神のバトルになったのではないかと思っています。
――現在も、フィギュアやプラモデルという形で、魔神の商品は発売され続けていて、まだまだ人気があることがわかります。
神志那 本当にそうですね。だから、改めて『七魂の龍神丸』をやれて良かったなと思っています。本当にファンの皆さんにはお待たせしましたという感じですね。
――制作作業に関しては、やはりいろいろ思い出しながらやっていったという感じがありますか?
神志那 改めてキャラクターデザインの設定集を紐解くと、芦田さんのキャラクターデザインが作品を重ねるたびに進化しているので、どのあたりのデザインで収めていくかという部分では悩みましたね。キャラクターデザインを担当した牧内ももこさんが、『ワタル』のファンだと公言していたので、お任せした部分はありますが、一応、『ワタル2』の後であるということで、劇中のキャラクターたちの衣装や雰囲気は1作目よりも『ワタル2』に寄せて、一部のキャラクターは芦田さんのデザインをそのまま使ったりもしています。
――演出に関してもアイキャッチのEXマンをそのまま使うのをはじめ、当時のライトな感じはそのままでした。演出の方向性も変えることはできたと思いますが、そこもファンに寄せた感じでしょうか?
神志那 やはり「ファンを裏切らないこと」が第一で、「これは『ワタル』じゃない」って言われるのが一番怖かったので、今っぽく変えることはしてはいけないなと思っていました。だから、演出面も当時の雰囲気そのままでやろうと。古いけど面白い、王道的な部分はあると思うので、そこは崩さず、いじらないようにしようと決めました。その結果、演出は苦労しませんでしたね。一方で、シナリオから絵コンテの段階で、結構変えている部分はあります。ライターさんには申し訳無いけど、絵コンテを描いていると勝手にキャラクターが動いてしまう部分があって、ヒミコのギャグも勝手に生まれたりするんです。その場で描きながらでてくるものが大事だと思ってやっていったという感じでしたね。
――今回は、キャスト陣も当時演じられた方が皆さん参加されていますね。
神志那 出演していただいたキャストの皆さんは、誰ひとり変わらない形で、さらに音響監督もそのまま。曲の付け方も含めて、音の方も当時のままの『ワタル』ワールドになっています。ただ、収録に関しては、やはりコロナ禍の影響は大きかったですね。第1話の収録の際に、懐かしい声優のみなさんが集まっていらっしゃるんですが、密を避けるために2人ずつしかブースに入れず、みなさんに時間をずらして来ていただくという形にするしかなく。それでなくてもお忙しいレジェンドクラスの方ばかりですからね。どうしても時間をずらした別録りになってしまい、皆さんが一堂に会してお喋りするような時間を作ることができなかったのが一番残念ですよね。それでも、メインの方は次の回の収録では重なるようなやり方をして、少しでも懐かしくお話していただくようにしました。特に田中真弓さんは、喜ばれていましたね。収録の後半には、「もう終わるの?」、「次はあるよね?」って仰っていて。今でこそ、他の代表作がありますが、それでも真弓さんの中では『ワタル』の存在は大きかったと思います。
――長く演じていたということもあって、思い入れも強いでしょうね。
神志那 真弓さんは、『ワタル』の新作がなくても、サンフェスやオールナイト上映などのイベントで、ファンの方が大勢集まってくださっているところで登壇して、その状況を目の当たりにしていますから。ファンの熱気を真弓さんも肌で感じていたからこそ、『ワタル』は続いてきたものだと思いますね。
――他のキャストの皆さんはいかがでしたか?
神志那 伊倉さんには久々にお会いしたんですが、虎王の声はまだやっていただけるのかと思っていたんです。でも、実際に聴いたら、虎王そのままの、変わらずな伊倉さんで、さすがだなと思いました。少年キャラクターの声を変わらずにできるというのはすばらしいですよね。それは林原めぐみさんも然りで、ヒミコみたいな役は他ではやることはないと思うんですが、久しぶりにやっても当時のままですからね。本当に驚きました。
――今回の『魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸 −再会−』は、配信された全9話のエピソードを1本にまとめる形になるのでしょうか?
神志那 9話を1本のお話にまとめつつ、足りない部分を足して劇場映画サイズの120分の中に収めていこうということですね。今回は、最初から小説やマンガとエピソードを分けて見せていくというやり方が決まっていたので、アニメだけを観た場合は、途中が飛んだ形になっている。だから、1本化するにあたって、アニメで描かれていなかった第3、第4の世界の2体の龍神丸の登場シーンを足しつつ、冒頭の龍神丸が闇に飲まれてしまうバトルの始まる前の状況などを足すことで、1本の作品として繋がって観ることができるようにしています。
――「再会」というサブタイトルも意味が深そうですね。
神志那 配信されたのが昨年ですし、終わったのか終わっていないのかモヤモヤしながら待たれていたファンもいると思いますので、そういう皆さんとの「再会」もあるし、配信は観ていなかったけど、何十年ぶりに『ワタル』を観る方にとっての「再会」でもありますね。そういう意味では、当時リアルタイムで『ワタル』を観ていた40代の方々が、「懐かしいね」と言って、子供の手を引いてサンフェスの劇場にこられることを願っているという意味もあります。
――では、最後に公開を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
神志那 Youtubeの配信版では、きちんと連続して観ることができず、不満足だったファンの方もいらっしゃると思います。連続で観ると。どうしても抜けた感じはしてしましたが、『再会』では、そのあたりを解消するのも含めて、1本できちんと楽しめる作品にしたいと思っています。楽しみに待っていてください。
神志那弘志(こうじなひろし)
1963年6月4日生まれ、熊本県出身。アニメーション監督、演出家、キャラクターデザイナー、作画監督。1982年にスタジオ・ライブに入社、現在は代表取締役社長を務めながら、アニメーションクリエイターとして活躍している。
自身が監督を務める特別編集版『魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸 -再会-』の作業中。
インタビュー掲載記念でサイン色紙をプレゼントいたします。
詳しくはプレゼントページでご確認ください。