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2021.10.20

クリエイターインタビュー 第5回 谷田部勝義 <後編>

「勇者シリーズ」のインタビュー企画の第1弾。記念すべき勇者シリーズ第1作目となる『勇者エクスカイザー(以下、エクスカイザー)』から、『太陽の勇者ファイバード(以下、ファイバード)』、『伝説の勇者ダ・ガーン(以下、ダ・ガーン)』までの監督を務めた、谷田部勝義さんのインタビューの後編。『エクスカイザー』、『ファイバード』、『ダ・ガーン』の3作を手掛ける中で試みたヒーローロボットの在り方、そして低年齢層向けアニメへの思いなどを語ってもらった。

 

――結果的に「勇者シリーズ」は、8年にも及ぶ長いシリーズものになりましたが、当時はどの程度まで続くと想定していたのでしょうか?
 

谷田部 最初は1本のみでしたね。吉井さんはやっているうちに「これは行けるな」思ったらしく、『エクスカイザー』の企画初期の段階で、「10年やる」と言い出しましたね。きっとプロデューサーとして大きな手応えがあったんだと思います。僕の方では、作品的には、『エクスカイザー』のみのつもりで始めていたので、「子供の喜ぶことをやろう」といろいろと盛り込みました。脚本のメインライターとして参加していただいた平野靖士さんは、『ウルトラマン80』などの実写特撮ものをやられていた方で、始める際にはいいアドバイスを受けました。「テレビシリーズをやるなら、出し惜しみせず、初期からケチらずにやる。第2話が最終回のつもりで書け」と言われたんです。その後、どうするのかと言えば、「書き上げればまた出てくるから大丈夫だ」と。話を聞きながら、「大して才能のない人間が、小出しにしたってつまらなくなるだけだ」と言われたような気がしまして。だから、全力でやるだけやろうと思いましたね。
 

――それはすごく刺激になる言葉ですね。

谷田部 僕はもともと実写をやろうとしていたので、それまでアニメはまともに観てこなかったですし、その後、出崎統さんや高畑勲さんなどの、いろんなアニメ監督の作品に触れる中で、「この感性には勝てっこない」と思っていたんです。その中には、真下さんの作られた劇場版『ダーティペア』もあって。その素晴らしい感性には勝てっこないと。だったら、どうするかと言えば、職人に徹するしかないと思って。そういう考えに至ったのが、アニメの演出の本格的なスタートという感じですね。そうした思いを持った中で、『エクスカイザー』を立ち上げる際には、「小さい子供たちがどうしたら喜ぶか」を徹底して考えました。まず、幼稚園児くらいはチャンネル権は親が持っているので、下品なことやエッチな描写を入れずにお母さんに嫌われないような作品にしようと心がけました。それから、『エクスカイザー』の頃はうちの子供がまだ小さかったので、OAの時には一緒に観ていて、その後もどうやって改善していくか努力しまして。放送を見ている子供がどこで飽きてしまって目を外すのか、逆にどんなシーンで気が引かれるのかをよく観察しましたね。下品なことなどをやらせずに、どうやって見飽きさせないようにするかは、毎回の課題でした。タカラさんからは、「ロボットが画面に登場したら、その下に名前を書いてほしい」と言われたんですが、小さい子はカタカナが読めないので、ロボットが自分の名前を自分で言うようにしましょうよと提案をしたり。玩具メーカーも映像を作る側の一緒のチームだからと、そちらの意見もどんどん取り入れてやっていった感じですね。
 

――第2作目となる『ファイバード』では、『エクスカイザー』とはちょっとスタンスが変わってきますね。


谷田部 「勇者シリーズ」として始める時に、吉井さんから「3年な」と言われたんです。吉井さんは、自分がプロデュースする作品は、3年をひと区切りに考えていたみたいで、マンネリ化させるよりは、3年で監督を切り替えるということでした。だから、3年をひと区切りで考える必要があって。でも、『ファイバード』は、『エクスカイザー』に「‘(ダッシュ)」を付けた程度で、作劇的にはそんなに大きく変えていないんです。主人公の男の子の脇にヒロインを置いたり、昔のロボットものみたいにロボットを開発している博士がでたり、敵も宇宙人ではなく博士にするとか、そういうマイナーチェンジをした感じですね。『エクスカイザー』が好きな高松君にはすごく嫌われましたが。でも、玩具は大ヒットしたので商売的には大成功でした。


――『ファイバード』は、火鳥勇太郎というちょっと大人のキャラクターを出して、見せ方を変えた印象がありました。


谷田部 玩具的な要望として、ギミックとして人間型パイロット的なものを中に入れたいということで、ヒーロー的なキャラクター出すことになったんです。普通であれば、ロボットに乗り込むヒーローなので、格好いいという印象がありますが、僕らはあえて、火鳥君をまだ世の中のことを理解できていない、生まれたばかりのアンドロイドだと設定することで、マヌケなキャラクターにしたんです。例えば、蝶が舞う姿を見て「これは鳩ですか?」と聞いてしまう。そうすると小さい子が喜ぶんですよ。火鳥君は、自分が知っているようなことも知らないと。そんな、見た目は格好いいのに、マヌケな火鳥君を見て幼稚園児が笑ってくれればいいなと。そのキャスティングにはこだわりましたね。オーディションでは、最終的には松本保典さんと置鮎龍太郎さんが残って。どちらを選ぶかということになった時に、松本さんの方がマヌケなキャラクターの演技が良かった。置鮎さんは、格好いい伸びる声が出せる。その結果、最終的には松本さんを選ぶことになりましたね。


――そして、3年目の『ダ・ガーン』では、さらに年齢が上がるわけですね。


谷田部 さっきの3年の話では無いんですが、子供も3年くらいすると成長して、子供向けの番組から卒業していく。一方で、3年保たせるには、新しく見てくれる幼稚園児の好みを外さずに、どこまで年齢を上げて取り込むことができるかというのをやらなければならないと思ったんです。そこに取り組んだのが『ダ・ガーン』ですね。だから、『ダ・ガーン』では、主人公の年齢も『ファイバード』に比べてちょっと上がっているし、お話も少しだけ大人向けにしているし、アニメ雑誌に順次情報を出して、新たなファンに反応してもらえるように、途中で敵キャラのボスが入れ替わるような構成をしたりと、いろいろと少し上の年齢を取り込みつつ、楽しませる要素を模索していったという印象がありますね。


――3年かけながら、低年齢層もののアニメを作って、さまざまなノウハウを駆使したチャレンジをしていたわけですね。


谷田部 そもそも、作品を作るというのは、そういうことだと思うんですよ。クリエイティブの仕事に100点なんてあるわけがないですし、完全な正解があるわけがない。それよりも、存在しないものをどうイメージして、どう実現できるかが重要だと思っているんです。


――ずっと見続けてもらうのではなく、ある程度の年齢を過ぎたら卒業していくことを前提した「勇者シリーズ」ですが、今でも多くのファンが残りながら、30周年を迎えました。そうした状況に関してはどのような感慨をお持ちですか?


谷田部 作品には上下がないってことですよね。「子供はこの程度だろう」と思って作っている作品は、やはり面白くないですよね。逆に小さい子にとっては、すごく難しい言葉を喋りまくる作品は面白く感じてもらえない。その辺りを考えつつも、その一方で、子供向けの絵本で描かれていたことは、いいものであれば忘れられずにいつまでも心に残り続ける。つまり、いいものであれば大人にとっても、そこが原点になったりするわけです。だから、小さい子供向けの作品だからレベルが低いものを作っていいという認識は間違っていると思っているんです。ピカソが60歳を越えた時にようやく子供の絵に追いついたと言っていたんですが、それは、いろんなことを削りに削って、子供のように伸び伸びとした絵が描けるようになったということですよね。スティービー・ワンダーも音楽を作る時はたくさんの音の要素を入れて、最終的にリリースしていく際には相当削ってシンプルにしていく。シンプルさは、レベルの低い話ではなく、むしろ高度な話であって、そういう部分が心に残ってくれているのかなと思いますね。「勇者シリーズ」は、そうしたシンプルさにこだわった結果、ファンの方の心に残ってくれたんじゃないかと思っています。


――シリーズ30周年を記念した「超勇者展」にもたくさんのファンが来ていますが、谷田部さんご自身も会場に行かれたそうですね。


谷田部 東京も大阪も行きました。会場には、当時子供だった人たちが、40歳とかになって集まっていただけて、そういうのは嬉しいですよね。「みんなで一緒に飲むか」みたいな話も出ていたくらいです。会場に行ってみて改めて、みんなの心に残っているのが確認できたのは嬉しかったですね。やっぱり、ヒーローロボットの文化が1度無くなってしまい、それが再び現れた最初の作品が「勇者シリーズ」だったからこそ、再びの原点としてみなさんの印象に強く残れたのかもしれないと思っています。


――それでは最後に、ずっと好きでいてくれている勇者シリーズファンにメッセージをお願いします。


谷田部 未だに「勇者シリーズ」を応援していただき、そして楽しんでいただきありがとうございます。『エクスカイザー』の最初のコンセプトを作るにあたって、ロボットや非日常を描き、そこに冒険や夢を描くことを目的にしながらも、その根っこには「日常」というものがあることを意識していました。子ともだちが日々送っていく「日常」を大切にして、それを基本にロボットたちとの交流や活躍を描いていこうと。そして、そこから夢や冒険が始まっていくようにしようと。僕は、「日常」を大切にすることから様々なイメージが広がり、実際に何かをしようと動くこともできるんだろうなと思っています。今、世間的にはすごく大変な時期ですが、日々の「日常」を大切にして、皆さんにはコロナに負けずに頑張っていただければと思っております。


谷田部勝義(やたべかつよし)
1956年7月11日東京都出身。アニメーション監督、音響演出。
1979年に制作進行として入社。演出助手、演出を経て、1987年発売のOVAダーティペアで監督デビュー。
1990年に放送はスタートした『勇者シリーズ』の第1作の『勇者エクスカイザー』から、『太陽の勇者ファイバード』、『伝説の勇者ダ・ガーン』までを監督。
監督作品に『古代勇者 恐竜キングDキッズアドベンチャー』、『フラッパー』、『こんにちはアン』などがある。
大阪芸術大学 キャラクター造形学科 アニメーションコース
教授。



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