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2021.11.22

クリエイターインタビュー 第6回 高松信司 <後編>

「勇者シリーズ」のインタビュー企画第2弾は、『勇者特急マイトガイン』、『勇者警察ジェイデッカー』、『黄金勇者ゴルドラン』の監督を務めた高松信司さんが登場。後編では、自身が継承することになった勇者シリーズの企画構築の歩み、そして各作品に込めた思いや谷田部勝義監督とのアプローチの違いなどを語ってもらった。

 

――谷田部勝義さんと、勇者シリーズを通していろいろと一緒に仕事をするうちに、「こうすればいい」というのを学んだという感じですか?


高松 勇者シリーズに関してはそうですね。3年間でいろんなノウハウができていたので、わりとすんなり引き継げたという感じで。3年間の経験が無い状態で『勇者特急マイトガイン(以下、マイトガイン)』の企画が出て来たかと言われたら、出てなかったと思います。


――あまり悩まずに『マイトガイン』の企画が出せたという感じでしょうか?


高松 そこで『勇者エクスカイザー(以下、エクスカイザー)』大好き問題なんですが、『マイトガイン』は『エクスカイザー』とは真逆の作品なんです。作品自体が、その時にあったいろんなものへの反発心からできているものなので、私としては「こじらせ期」の作品ですね。『マイトガイン』の企画は、まず『バットマン』が念頭にありました。バットマンみたいな金持ちが私財でヒーローをやっている。ロボットをたくさん作って『サンダーバード』みたいな秘密基地に隠してある、という感じで。企画書を書いた段階では、スポンサーであるタカラさんが何をコンセプトにした玩具を出してくるか判らなかったので、どんなタイプでも対応できるようにしていたということですね。『エクスカイザー』のように、スーパーカーやジェット機などに変形するどんなロボットが出て来ても、金持ちだからそれを持っているから、という訳だったんです。でも蓋を開けてみたら、タカラさんから「今回は電車がテーマです」と言われて。電車だけ。それで今度は「鉄道王」という設定を考えました。主人公、旋風寺舞人が持つ旋風寺コンツェルンは、かつて、突然石油が枯渇した世界で、電気で走る電車を使って莫大な富を得た。しかし、両親が悪に殺されて、舞人は正義のためにその財産を使ってロボットを作り、正義の行動をしています、という設定に変えていったんです。結果的に、色々あって『マイトガイン』は『エクスカイザー』とは真逆の作品になっていきます。これに対しての思いはちょっと一言では言えないんですが。そもそも、『エクスカイザー』は、ロボットのエクスカイザーが主役なんです。でも『マイトガイン』は旋風寺舞人がヒーローであって、マイトガインは舞人が乗って、彼と一体になる。イメージとしては変身して巨大化して敵を倒すという。そういうところでも、『エクスカイザー』とは違う作品になっていったんだなと思います。


――続く『勇者警察ジェイデッカー(以下、ジェイデッカー)』では、ロボットが主人公として描かれていきますね。


高松 『マイトガイン』はもともと勇者シリーズじゃないつもりで企画書を書いたんですが、『ジェイデッカー』は、「じゃあ、今度は勇者シリーズをやろう」というところに立ち返って始めたんです。『マイトガイン』では、ロボットがみんな脇役になってしまったけど、『ジェイデッカー』では、出てくるロボットにキャラクター性があって、みんなが活躍する群像劇でやっていこうという話にしました。そんな時に、タカラさんの方から主役のロボットはパトカーだと言われたので、素直に「警察物」で、ロボットで『太陽にほえろ』をやろうということになりました。


――土地の名称などは『太陽にほえろ』から影響をうけていますね。


高松 七曲市とかそうですね。合体する前の小さいロボットたちを刑事に見立てて、ジーパン刑事とかマカロニ刑事みたいにあだ名を付ければ、キャラクターが立つんじゃないかと。ロボットを一人の人間として描いていくわけです。その舞台として、でっかい刑事部屋を作りました。基地じゃなくて刑事部屋。それをタカラさんが面白がってくれて、アタッシュケース型の紙でプレイセットみたいに遊べるものを作って視聴者プレゼントにしました。それが好評でアニメ発という形で商品にもなりました。ロボット一人一人のキャラが立った一方で、人間的に芝居させたいからと、アニメ設定では、手足についているタイヤとかマフラーをでは取ってしまって、プロポーションもだいぶスマートに変えてしまいました。そういう意味では、多分『ジェイデッカー』が玩具とアニメ設定が最も乖離していますね。


――そうしたアプローチに対して、ファンの反応はいかがでしたか?


高松 『マイトガイン』は男の子に届いた感じがしたんですが、『ジェイデッカー』は女の子のファンが増えた感じがします。キャラが可愛いからですかね?キャラクターデザインの石田敦子さんが『魔法騎士レイアース』と掛け持ちしている頃で、その影響もあったと思いますね。『レイアース』は、原作のCLAMPさんが「『マイトガイン』をやっている人にキャラクターデザインをやってほしい」とスカウトに来たらしいです。
 

――『マイトガイン』はキャラクターデザインも年齢層が高めのファンにも受けそうな感じでしたね。


高松 石田さんのキャラクターデザインが上がってきた時に、タカラさんには幼児向けには見えなかったみたいなんですよ。当初、『エクスカイザー』はプリスクールの子供に向けた作品で、幼年誌の表紙になってもアニメ誌には載らないアニメをつくるというスローガンで始まったのが、『ファイバード』、『ダ・ガーン』と、だんだん話も難しくなり、対象年齢も上がっていった感じで。タカラさんには、過去にサンライズで『鎧伝サムライトルーパー』という、アニメが成功して声優人気も含めたブームを起こしたのに、玩具が売れなったというトラウマがあったので、『マイトガイン』もそうする気なんんじゃないかと、かなり警戒されていましたね。その結果、舞人は、「不良みたいだ」と言われた髪を短くして、設定年齢も高校生だったを、中学生3年生に下げてと、いろいろやり取りをしました。


――一方、『ジェイデッカー』は対象年齢感もかなり意識された感じになっていますね。


高松 『ジェイデッカー』ではタカラさんを安心させたかったので、主人公は小学4年生という『エクスカイザー』や『ファイバード』くらいに戻す感じで、ロボットのキャラも立たせてみんな活躍するようにしましたね。キャラクターデザインも少女漫画チックではあるんですが、可愛い感じで、こちらも子供向けに揃えました。見た目は子供向けにした結果、それを隠れ蓑に、話はハードに振れるようになった感じはありますね。それから、『マイトガイン』の時に、ロボットを喋らせる必然のために「超AI」という設定を作ったんです。人工知能だけど感情もあるロボットだとするために。『ジェイデッカー』では、その設定をさらに深めて、そこに生まれる「心」とは何かをテーマにしました。


――『マイトガイン』の反動が『ジェイデッカー』に出ているという感じなんですね。
 

高松 そうですね。『マイトガイン』の時はケンカ腰で作っていたのが、そうじゃない、チームで作っていこうという感じで。監督としての意識も変わってきて、最初の頃は「俺が5人いて、ローテンションを組めば俺だけのアニメが作れるのに」と考えていたんですが、『ジェイデッカー』の頃には「谷田部さんの人に任せるスタイルは最高だな」と思っていて。人に任せて良いところを伸ばして、アイデアを聞いて取り入れる。やはり、TVアニメはそういうものだなって思いましたね。


――その後に『黄金勇者ゴルドラン(以下、ゴルドラン)』になるわけですね。


高松 でもそこはすんなりとは行かなかったんです。『ジェイデッカー』が2月にオンエアがスタートして、4月に突然、サンライズがバンダイの子会社になってしまうという事が起こりまして。第7スタジオはタカラさんがスポンサーの作品を作ってきたので、死活問題になりました。そこからタカラさんが距離を取られるようになりまして、それこそライバル会社の子会社ですからね。例年だと翌年の企画は、放送開始から、初動の商品の売り上げを見て、3ヶ月後くらいからスタートさせていたんですが、その結果、来年の企画が一度立ち消えになってしまったんです。だから、『ジェイデッカー』は、「これで勇者シリーズが終わるんだな」というつもりで作っていました。奇しくも勇者シリーズの原点に戻るような流れだったので、腹をくくった部分もあった感じですね。一方、タカラさんも次の玩具の企画を立てて、他の制作会社を探したんだと思いますが、最終的にサンライズを信用していただいて、『ジェイデッカー』も終盤に入った頃に「やはりサンライズさんにお願いします」と話を持ってきてくれました。とは言え、玩具の開発は終わっていたので、「今度の玩具はこれです」と。

――メカのデザインなどに関しては意見が出せなかったということですね。


高松 そうですね。時間も無かったので玩具ありきで企画書を書き、突貫工事でやった感じはあります。金色のクルマと金色の怪獣が合体して金色のロボットになる。モチーフに関しても「金・銀・鉄」と決まっていて。そこから、シリーズ構成の川崎ヒロユキさんと話をして、『ジェイデッカー』が心をテーマにした重い内容だったので、今度は気楽な冒険物をやろうということにしました。キャラクターデザインの高谷浩利さんがまるっこくデフォルメしたようなキャラクターを描いてくれたので、これで行こうということで。『ゴルドラン』は、「レジェンドラという黄金郷を目指して冒険する」ということで始まったわけですが、中盤からは「何でもあり」という展開になっていってしまって(笑)。前作終盤がハードだったので、軽いギャグタッチの作品を自由に作るというのは楽しかったですね。


――主人公であるカズキ、タクヤ、ダイの3人も小学生らしく、楽天的な感じはありましたね。


高松 ワルターというキャラクターが敵役で出て来て、子供たちとパワーストーンの争奪戦をするのが前半の展開ですが、その中で彼は自分を見つめ直して正義側になる。後半はワルターの弟のシリアスが敵として出てくるんですが、彼が心を閉ざした少年だったので、今度は主人公の3人が「友達になろうよ」と言って心を開く……というような、キャラクター的な重みや変化を敵役に振った感じもありますね。子供たちは、どこまでも子供で描こうと思っていました。


――『ゴルドラン』は児童文学的なノリもあって、低年齢の男子向けとしてはすごくバランスが良かったようにも感じます。


高松 『ゴルドラン』は、たぶん例年通り企画から始めていたら、もっと違う作品になっていたのかもしれないです。でも、『ゴルドラン』はすごく思い入れがあるんです。自分の素で作った作品でもありますし。それから、ロボットのアニメ設定のことを言うと、玩具との乖離がほとんど無いです。前作の反省もありますが、玩具の出来がすごく良くいという事もあります。商品も売れたからか、当初は「8人の勇者」ということでロボットは8体だったんですが、急に、もう1体、流用じゃ無く新規金型で出したいと話になって、慌てました。それで、それを味方になったワルターを乗せようという話になったんです。


――『エクスカイザー』から始まって勇者シリーズも6作が揃ったことで、バラエティに富んだラインナップになりましたね。


高松 『ゴルドラン』は、プリスクールの子供たちが見て面白い、単純に笑えて、格好いいいというのを目指したので、『エクスカイザー』とは全然違いますが、勇者シリーズ当初のコンセプトに近いのかなと思います。ただ、谷田部さんの勇者シリーズと私の勇者シリーズでは決定的に違うところがあるんです。谷田部さんの勇者シリーズは、親目線でロボットが保護者のような感じなんですよね。少年とロボット、そして少年には家族がいてドラマの中にもお父さんやお母さんも出てくる。私は子供目線というか、ほとんど親が出てこないんです。『マイトガイン』では両親が死んでいるし、『ジェイデッカー』では子供を置いて海外に行っている。『ゴルドラン』に至っては、親はいるけど画面には一切出てこない。多分、谷田部さんだったらこういう設定にはしないだろうなって思いますね。


――改めて、勇者シリーズを手掛けてみて、得られた部分というのはどのようなところでしょうか?


高松 それは全部ですね。初めて1年という長いシリーズの監督をやるということで、局や代理店、スポンサーとの付き合い方など全てが勉強でした。谷田部さんの時代も含めて、ここでやったことが全部自分の基礎になったというか、他のところでもいろいろできるようになったのは勇者シリーズに関わった6年間のおかげかなと思っています。特にタカラさんに関しては、毎週先方からサンライズに来てくださっていましたからね。こちらが出向くわけでもなく、代理店を挟むわけでもなく。普通だったらありえないですよね。直接メーカーの設計とかやっている人がスタジオにやって来て、アニメについて話をしているんですから。そいう環境は谷田部さんがずっと前の作品でネゴシエートしてくれたおかげなので。私はそこに入っていっただけだったりするので、ありがたいなと思いますし、本当に勉強させてもらった。失敗もしましたけど、楽しかった。ありがとうと言う感じですよね。そして、こんなに時間が経っても愛してくださっているファンがたくさんいらっしゃる。そこも嬉しいですし、ファンのみなさんにもありがとうと言いたいですね。


高松信司(たかまつしんじ)
1961年12月3日生まれ、栃木県出身。アニメーション監督、演出家、脚本家、音響監督。
1983年に制作進行としてサンライズに入社。設定制作、選出助手を経て『機動戦士Zガンダム』で演出デビュー。勇者シリーズには第1作目『勇者エクスカイザー』から参加し、第3作目『伝説の勇者ダ・ガーン』で演出チーフ。第4作目の『勇者特急マイトガイン』から、『勇者警察ジェイデッカー』、『黄金勇者ゴルドラン』までの監督を務める。『機動新世紀ガンダムX』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、『銀魂』などを監督。『銀魂』では音響監督、『男子高校生の日常』では監督、脚本、音響監督も務めている。

 

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