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2022.08.01

【第18回】リバイバル連載:サンライズ創業30周年企画「アトムの遺伝子 ガンダムの夢」

その18「気分は今も放浪者。」
ゲストは石川光久さん

最近‥という感覚がもう年寄りの証拠で、時間感覚が緩んでしまっている。最近ではなくもうずいぶん前から[プロダクション I.G]の評判は聞いているし、その素晴らしい成果も実際目にしているのだが、残念ながら今日まで近しくは知る機会をもてないでいた。このサイトも終盤に差し掛かり、サンライズの関係者でなく、虫プロ所縁の人でもない、それも勢いのあるバリバリのアニメ製作者の方に、外から見たサンライズのお話を聞きたいと思いスタッフに相談したところ、[石川光久]さんが一番と言うことで、私も大いに賛成で、ずうずうしくも勝手なお願いを聞いていただいた。ということで暮れに入ったばかりのある夕方国分寺にある[I.G]のスタジオにわくわくと胸を躍らせてお邪魔しました。

みんなにプライド持ってもらうのが一番大事
相手にプライド持たせるのが醍醐味じゃないかな

高橋「石川さんのこの業界への入り方を知りたいんですけど、学校からすぐアニメーションの業界なんですか?」
石川「学生時代に[アルバイトニュース]見て、アルバイトの延長で[タツノコプロ]に入ってしまったんですけど、タツノコがアニメーションの会社って知らずに受けて全然知らないでこの世界に入ってしまって‥。迷い込んだというのが本当のところですね」
高橋「ということは、学生時代にはそんなにアニメーションに興味があった方ではないと‥」
石川「そうですね。見てないほうですね」
高橋「見てればわかりますよね」
石川「[ガッチャマン]が実写だと思ってたぐらいの人間なんで、20歳過ぎてからアニメを見るとは夢にも思ってなかったんだけど‥。文楽とかお人形とかそういうのはすごい好きでそういう面では八王子に[八王子車人形]という都指定の無形文化財の田舎芝居があって学生やりながらそこへ通ったりしてました。海外にあっちこっちと長期間公演があったんで、その間だけでもとバイトで入ったのがタツノコだったんだけど、それが制作進行って仕事だったんで1ヶ月の内に何日も家に帰れないぐらい凄くて、それが続いていたら(学校はあまり行かなかったんですけど)、やっぱ芝居をクビになって‥(笑)。それで1年間ぐらいのつもりでタツノコにお世話になったっていうのが流れでして‥」
高橋「[あにまる屋]の初代社長の真田芳房(故人)さんがやっぱり人形が好きで年に1度必ず阿波まで行って文楽見るっていうのが唯一の楽しみって聞いたことがあります。じゃあ石川さんはアニメがやりたくてということでなく入り口は違う‥」
石川「違いましたね。学生時代は放浪癖があったんで海外行ったり放浪したり、どっちかというと一般の会社員になってタイムカードというか普通の会社員になれるタイプではなかったと思いますね。実際アニメーションの制作進行の仕事はきつかったけど楽しかったなあというイメージがあるんですよね。やっぱそれは楽しくて、今社長とか代表とかやってますけど、今でも心の中では制作進行してるつもりで人に接してますので、それがあるうちはこの仕事やっていこうかなあって思ってますけど」
高橋「僕も1年間だけ制作進行やったんですけど、僕の場合は制作の醍醐味っていうか、面白さが分かるところまでいかないうちに演出の方にいってしまって、演出と制作の対比もできないうちになんとなく自信失って一旦離れまして‥‥。実際はアニメーションが楽しかった時期ってずっと後なんですよね。それこそ40歳近くなってからですね」
石川「そうですか‥。良輔さんなんかずっと自分の世界で生きてきた方のような‥」

高橋「世界というのは(笑)作品じゃなくて日常の自分のリズムといいますかね(笑)。まあ無理しませんでしたからね。ずっと居心地の良い場所を探していまして」
石川「若さっていうか、その時代時代の自分の立つ位置ってすごく大事だなあって思ってたんで、今制作進行として新人の人間と一緒に仕事できるかっていったら体力とか考えるとちょっと勝てないなって思っているんですけど。制作進行でこの世界に入ってからの3ヶ月ってホントに生きててキツイなあって思ったですね。凄いお金を、何千万円って1週間で1千万円って預かってやるんだっていう気が凄くあったんで、これ落としたら自分が借金抱えなきゃいけないみたいな‥。今考えると凄くウブだったっていうか真剣だったんですけど。でも、そういう分からない時代にやっていたことは、新人であろうと気持ちは自分が瞬間をコントロールしてるんだっていう、これちょっと失礼なんですけど、それがすごく今の基礎になったし一番の醍醐味は、1年たってまた1年ぐらい放浪しちゃたりして、すぐまたこの業界から足洗おうと思ってもう1回1年たって戻って来て。でも、よく考えるとそこからデスクとか人を使うような仕事になっちゃたので、その辺では制作進行的な、実際にカット触れたとか原画見れたとかそれが凄く自分にとって今思うと楽しかったなと。逆に僕が思ったのはアニメーターさんもそうだけどみんなにプライド持ってもらうのが一番大事だなあと思ったんですね。自分は人形劇でも黒子やってたんで黒子の気持ちっていうのは結構、いかに人形を生きたものにするかって生かせるかっていうのがあるんでそういう面では制作っていう黒子的なところで相手にプライド持たせるのが制作にとって醍醐味じゃないかなと僕は思ったんです。そう思うと力のある人とやると自分の置かれている立場で、じゃあ監督は何を望んでいるんだとか、何を制作として望んでいるのかって、こう出来れば同じテーブルで仕事をしたいと思ったんで‥付き合う人が付き合うだけ高い人だと自分もこう今のアニメ界じゃなくて自分に足りないものを、好きとか嫌いとか関係なくて、スケジュールを管理するとか、嫌いであれば自分はそういうとこに立てばいいんだから。たまたまこう人が集まって纏めて社長とかいうのは世間で言っても自分でもなかなか経営的にとても儲かる仕事じゃないっていった時に、でも自分がそういうところが人手が足りないというところであればそこでやるそういう監督なりと一緒のテーブルで話せるんだろうなっていう‥。相手のレベルにどうしたら近づくかなと思って。どうやっても自分の不器用さとかいろんな入り方も含めて相手に対してプライドを持ってもらって自分がそれに近づくのは、制作という仕事は自分にすごくあってるんじゃないかなと‥」

小さな会社の下請けをしたほうが良いと思ったんです。

高橋「生活をするということに重きを置いた仕事の確保とかそういうことはあんまり‥」
石川「それはなかったですね。月5万円ぐらいくれればいいなとか、食えればいいなとか、給料いくらとかあんまりなかったですね」
高橋「生活の為に仕事をとってこなくちゃいけないとかはあんまり考えない?」
石川「あんまり考えたことないですね。今もないかもしれない。意外に“作品ありき”で考えますね。商業アニメーションだと自分は思ってるんで、その辺は与えられた状況とか与えられたお金っていう中で目一杯、最大効率っていうかそういう形で時間もお金も使えればいいって常に思っているんですよね」

高橋「虫プロの末期に会社が幾つかに分かれていって‥‥。新しく会社が創られたんですけど、[サンライズ]と[グループ・タック]と[マッドハウス]という、それぞれ色合いが違うんですよね。僕が一番濃く付き合ったのはサンライズなんですけど、サンライズは作品ありきではないんですよ。まず、生活を確保するところから出発しているんですよね。石川さんの出発点と多少異なるのかなあと。ガンダムであれだけ当たると金銭的には落ちついちゃうもんですから、目的のほとんどはそこで達成しちゃって次の目標っていうのが創業者には多少みえなかったのかなと‥。だから次の世代に委ねちゃったと。石川さんの外から見るサンライズってどういう印象ですか?」
石川「正直言ってですね、独立した時にサンライズさんの仕事は受けたくなかったなって‥。それは2つあって“お金が安い”のと、そういう意味で言ってることが矛盾しちゃってるんですけど、あとは“作品の作る傾向が違うなあ”っていうことですね。タツノコ系が入っているせいかもしれないんですけど、演出的なところがそのラインがちょっと違うかなっていうのと、小さな会社の下請けをした方が良いと思ったんです。[東京ムービー]さんとか[東映]さんとか[サンライズ]さんとか大きいところに入っちゃうとそこが逆に気持ち良かったり‥、大手の仕事は受けようと思わなかった。サンライズさんはうちが15年前独立した時はもう大きいというかすごい勢いがある会社だったんで、そこと自分はライバルだって思ってたんですよ。凄い競争意識というか僕の中にあって、その中ではメカ物っていうのはオリジナルっていうのとメカが凄く強いなあっていうのと、1話はなにせ凄いのを作ってる会社だなあっていうイメージだったですね。タツノコの場合は2話、3話、4話っていうアベレージを必ずある程度一定にしてつくっちゃおうと。1話よりも2話、3話。あと凸凹なくしてリテークなんかでも細かく直して品質管理みたいなのをもの凄く大事にして作っちゃおうみたいな風潮を感じたんです。こんなに人を拘束してリテークに対するお金と時間と内容がそんなのでいいのかなあって思って‥。片やサンライズさんのは結構リテークはあった気がして。ただ[ボトムズ]の1話見ると凄いなあと。なにせ1話は凄いって。ちょっと僕もうろ覚えなんですが、そういうインパクトを最初の1話・2話とかでね、頭で“ドクッ”っといって、後はイメージですよ。こう流すというか、そこから次の作品にまで企画動いたら次にまた戦力をそっちに入れてるっていうような感じがサンライズさんにはありましたね。タツノコさんの場合はその辺は1話・2話どっちかっていったらドーッと行かないで結構その前の作品の最終回に向けて監督がドワーッと結構“力”入れて、次のオーバーラップの作品にはスタッフが薄くなってるとかね。それはタツノコさんの“甘え”だと思うしサンライズさんのそこは“ハングリーさ”かなって見てたんですよね」
高橋「僕が手がけたものでは1話に特別力を入れたってことないんですよね。その印象薄かったんですけども、きっと外から見るとそうでもないということもあるんでしょうね」
石川「インパクトのある作品が出てきたっていうとこかなあ、何か出る度に驚いていたっていう気がするので‥」
高橋「山浦さん。創業者のうちの一人で企画担当‥というよりサンライズの作品の中身はこの人がリードしていたのですが‥‥。その人の1話の作り方というのは、端的に言うと3話ぐらい先の話を、つまり1、2話分すっとばして3話を頭に持ってくると。1話でその世界を説明するということではなく、まずアクションから入って視聴者をそれで引きつけておいて、説明は次でもいいというようなことを、演出論ではなくテレビシリーズを引っ張っていく上での経営者の立場から言ってましたね。そういう影響は受けてるかもしれませんね」

脚本をジャッジできるプロデューサーに出てきて欲しい

石川「外から見るとサンライズさんはプロデューサーシステムが結構きちっとしてて、プロデューサーの作品に対する任せ方っていうのは、結構プロデューサーに任せているんじゃないかなあという印象なんですけど、実際はどうなんですか?」
高橋「実際は“どこまでをプロデューサーって云うか”っていうところがあるんですよね。企画は済んでる、営業は済んでる、“さあモノを作らなきゃいけない、転がさなきゃいけない”っていう中でのプロデューサーはかなり任されてるって感じはします。これからの問題というのは“プロデューサーをどう考えるか?” まあプロデューサーの守備範囲ですよね。“掛けるべきエネルギーの中心はどこか”っていう」
石川「うちなんかそうなんですけどプロデューサーって2つに分かれてますね。スケジュールコントロール、これはガチッとした人間がやらないと‥。これは経験も必要だしプレッシャーのかけ方も必要だしね。後僕が思っているのは、テレビシリーズは監督だけの力でクオリティを維持できない時代になってきたと思ってて、そうなるとプロデューサーが実際には脚本も書けたり読めたりして、それは局のプロデューサーだけでなく現場のプロデューサーが企画も書けて脚本も書けるぐらいのレベルで監督以上に脚本に関する決定権があるようなプロデューサーが出てくるのが僕はいいんじゃないかと思う。監督はもっと全体の作品のこととかそういうことに集中できるよにして、監督だけはある程度スケジュールを管理してとかね。全部を、脚本もコンテもアフレコもダビングも1人だと、ディレクターシステムだと監督がそこまで作品のコントロールするのもなかなか難しい気がして。その辺りが、脚本をきちんとジャッジできるプロデューサーが僕は出てきて欲しいと思うし、そういうと嫌がる監督さんもいっぱい居ると思いますけど、それは局とか代理店さんのプロデューサーがいろいろ言ってそこで壁を作るよりも現場からちょっとうるさいかも知れないけど、そういうプロデューサーが脚本のことをきちっとリードしてくれるような、そうじゃないと作品を管理したりそれだけのリスク背負ってるプロデューサーであればそれは逆に2人、プロデューサーとラインプロデューサーっていうのを僕は用意するべきだと思うし、あと営業は僕は基本的にこういう作る集団にとってはいらないんじゃないかと。逆に作ったものが全て営業だってことは脚本読めるプロデューサーが居れば直接ダイレクトに企画を持っていけばいいだろうし、もし営業という形であれば広報という形で自分たちのデータ管理とか作品の資料とかを広報のセクションでやっていくアニメ会社があれば、僕は営業よりも広報が大事だし、そういう面ではプロデューサーという面ではラインプロデューサーとプロデューサーっていう2本体制、そういうことに向いてる人間と向いていない人間がいるので、それを2つ教育してつくるようなアニメ会社にしたなあと思うし」
高橋「そのお話よく分かると同時に賛成なんですよ。サンライズでいいますと最初からあまりにも住み分けがはっきりし過ぎていたんです。サンライズではラインプロデューサーは育ったんですけど石川さんがおっしゃるようなもう一つのプロデューサーは育たなかった。そのもう一つのプロデューサーをもっているのが東映じゃないでしょうか。東映はシナリオをちゃんと見るラインプロデューサーじゃないプロデューサーがいますよね。きっと実写からの東映という伝統と言うか会社のカラーがそうさせているんだと思います。今サンライズで急務なのはやはり“プロデューサーの養成”だと思いますね。これはサンライズだけじゃないと思う。究極的には才能だし資質だから育つか育たないかというのは問題があるとおもうんですけど、僕はある程度プロデューサーは養成できると思っているんです。今僕の周辺で一番足りないのはプロデューサーとシナリオライターですね。ライターは間口が広すぎて雑多な人が入ってきちゃってホントにいいライターはアニメのシナリオに飽きたらなくなってどっかに行っちゃうんですよ。だから、語弊を覚悟で言えば残ったのは網の目にどういう訳か引っかかった人しか残っていない。まあ、勿論個人差がありますから“冗談じゃない”って人もいると思うんですけど。もう一つ、現場の演出(各話演出)も訓練で育つと思っているんです。記録にも記憶にも残るものを作る人はやっぱ湧いてくるものであって養成はできないでしょう。‥‥なんでプロデューサーが養成できると思っているかと言うと、テレビシリーズのプロデューサーが読むべきシナリオっていうのはもの凄くスタンダードなことでいいと思っているんですよ。この部分とこの部分をチェックすればいいとかいうのは教育できると思っているんです。ところがサンライズでは今までシナリオの読み方って教えていない。で、全部自己流。と言う前に自己流の前に監督に負けてしまって読まなくなっちゃうんですね。表面上は読んでいますよ、でも作品を左右するような深いところで読んでいない。設定のミスを指摘するようなレベルと言うか‥‥後は、大本のところは、監督に任せちゃうわけです。で、守備範囲が偏ってしまって。今はある意味で作品創りでもってサンライズは“営業”していませんから、あらゆる意味において過去の資産に頼っている。プロデューサーは育てられるし育てるべきだとおもうのですが‥‥プロデューサーに関しては湧いてくるのを待ってはいられないと思うのですが」
石川「おっしゃる通りだと思いますね。“湧く”って言ってるし才能って言えるけどそういう人は自由だから、そういう人を会社に留めておこうと思うと必ず反発があるし、そういう人は作品単位で動くっていうのが基本だと思うんですね。でも会社の財産ってプロデューサーの質に今後凄く‥ここがたぶん資産っていったらいかにいいプロデューサーがいるかっていうことで、監督とかスタッフも魅力的な作品もってくるとか、やっぱやりやすさっていうか、それがすごくそういう人間に引っ張られて作品が出て来るんじゃないかなあってはすごく思うんですけどね」

何か作ろうってときにスタッフが押し上げてくれる
お仕上げてくれてるって感じるから交渉のときに
相手に対しても力が強いほど“きちっ”と言える

高橋「アニメをやってる中で“ハングリー”っていうような気持ちになったことあります? 何かが満たされていないからそれがエネルギーになってっていう」
石川「モチベーションとしてはそれは大きいと思いますね。それは言葉にするんじゃなくて心の中で熱くなってくることなんで、モチベーションは逆境っていうかハングリー精神は持ってると自分では思ってます。それはただ単にお金がないとかじゃない気がするんですね。何かいろんな不満とか、ただ不満を言うのは誰でも出来ることなんで不満を言ってたらせっかくのチャンスっていうか面白さもなくなっちゃうんで‥。必ずどこに進んでいくのかっていうのは自分の中でみえたところで、そこを目指していこうと思っているんですよね。山みたいなもんで、ちょっと登っていくと見えないものが見えてくるんですね。そうすると世の中のことがちょっと分かったりしてね。前は純粋だったのが、ちょっと違った角度から見たり。そうすると違う目指すところが見えてきたり‥。ただ作品をどうしたらアプローチしたら出来るのかなっていうことがだんだんまた‥。それが見えないものとか幻想とか夢みたいなものをあんまり多く持たないっていうのが自分にとってはすごく大事だなあと。もうひとつは、代理店は代理店で付き合っていくといろんなものが見てくるし、局は局で外から見てるのと実際付き合うとちょっと違うなあと。海外に関してもグローバル化で海外とやる時もそうなんですけど、日本人だけじゃなくいろんな人とそこの本当にやってる人とできるだけ会うようにしていくと、また見えないものが見えてくるし、そうすると次に考えることって違う発想があるし、そこからまたモノを作ろうって。こういうアプローチで作りたいって出てくるんで、今の状況にどんどん満足できなくなってるっていうのがあって、逆に海外と付き合うと日本のクライアントがよく見えたりするんですよね。いやあ意外にそんなもんなんだなあって思って。いろんな状況を見てて。今後うちの会社が進もうというのはあれですけど、メジャーとか名前のあるところと付き合えたからソコと付き合うんだっていうのは止めた方がいいなって思うんですよ。やっぱ、“この作品を作りたい”とか、“この作品だったら人が育つだろう”とか、“自分もこれだったら喜ぶだろうな”ってのと。僕はプロデューサーは育ってきてると思うんですよね。育ってきてるなあってすごく思うんです」
高橋「それはI.Gの中で?」
石川「育ってますね。それは後押しがあって支えられて次に自分を‥。必ず誰かが押し上げてくれるって思っているんで‥。それは、何か作ろうって時にスタッフが押し上げてくれて、その時に交渉の時にどれだけ押し上げてくれてるかって感じるから相手に対しても押し上げる力が強いほどきちっといえるんで自分が引っ張ってるって感じなんですね。自分をみんなが押し上げてくれてるなっていうのがI.Gじゃないかと思う。それだけある面こじんまりとしてますけどね。この会社でコントロールできるということですから」

ものを作る人間ってどっかで大雑把でなければいめなかったり
金勘定下手だったりしてもちゃんと落としどころ知ってたり
そういうのが作品を大事にするみたいなのを教わった気がする

廣瀬「タツノコプロ入社はタツノコ研究所からですか?」
石川「[ゴールドライタン]っていう作品だったんで。タツノコの制作に入って監督は真下(耕一)さんだったんですね。思ってたのは、あの時の作監の[なかむらたかし]さんが“強烈だ”と。たかしさんに“アニメーションがどういうものなのか”教わった気がするんですね。夜中の2時3時にいろんなの見せてくれてそれで動きとかいろいろ教わって、それをいい動画さんに持っていって喜んで貰って‥。思ったのはタツノコ研究所の財産は腕のいい原画さんとか、絵を見せてそういうところを実際動かしてもらったり、そういう人間は原画としてみるわけじゃない。それがすごい財産じゃないかと。思ったのはね、研究所と繋いで本当に喜んでもらえる動画さんとか、それは個人であろうと誰であろうと、カットによって動画さん選んでお願いしたとかね、まあそういう。あとは研究所という中にも志とは違う人がいっぱいいるなあと。そこでハングリーな人、動画さんでも今も付き合っているし、その辺が研究所という会社がね、会社というか組織があったことはタツノコの凄い財産だと思っているんでよね。あれが無くなったことが、タツノコの作る姿勢とかがどんどん失われてきたと。あともう1つはタツノコで育ったっていうのはすごく今の自分には生かされているなあと思ってますね」

高橋「タツノコは最初のアルバイトは何年ぐらいですか?」
石川「22年前ですね。21の時なんで。体力には自信あったんですけど、精神的には最初の1~3ヶ月はきつかった。人と付き合うというのが嫌じゃないなあって。今でもそうですね。この仕事って人と付き合うのを面倒がったらもう本当に引くだけですよ。後は、時間は待たされないっていうか、“言われたら今だ”と。電話したら“今から30分後に行く”とかね。そういう気持ちでないと現場っていうのは、“1週間後の何時に会おう”って言ってその時間に何か入ってずらしたってことになるともっと離れていっちゃうから許されない」
高橋「ま、作画の打ち合わせをしているとして・・“面白い。これいいね!”ってコンテめくりながら打ち合わせ終わって家に帰ってきて動画机のフードの中で、気持ちが持続するのは2・3日で、1週間ぐらい経つと早く終わらないかなあ(笑)ってね。どこでもって熱い血を繋げていくかってことが大事ですよね」
石川「そうですよね。それと同じ事を富岡(秀行・サンライズ)が言ってましたね。3日続くんだけどねって(笑)。僕思うんだけど、モチベーションもそうですけど、勉強は学生時代より年取った方がどんどん楽しくなりますよね」
高橋「勉強する意義がはっきり見えますからね」
石川「そうなんですよね。それは不思議なものですよね。そこは楽しいですね。今までしてなかったツケなんですけど、今本当に今までの40年間、ここ何年かね、一面、どんどん勉強してる時間は有意義かなと」
高橋「アニメーションっていろんなことが大事だけど、何かこう時代の流れが変わるような作品っていうのは必ず技術的なものも“ガッ”と上がってますよね。こう“クッ”と上がってしばらくそのままいって、ただひたすらみんながそのレベルに合わせようと思って手間暇だけが大変みたいな時代が続いて‥‥すると又“クッ”上がるものが出る」
石川「不思議ですよね」
高橋「その時にヒット作が出てますよね。サンライズは当初絵描きに力を、というかカロリーを掛けない会社だったんですが、ガンダムの時だけはサンライズの中でアニメの質が変わったっていう風にショック受けましたね。それは安彦さんなんですね。それは安彦さんの個人の資質や努力であってサンライズが力瘤入れたわけじゃなかったですね。絵描きとライター、もしくは原作者とか演出はスタジオ経営の中には一切置かないという伝統がありましたからね。それは虫プロの遺伝子っていうことでいうと、虫プロにはあったんですけど、サンライズはそれを反面教師にしたんですよね。でもタツノコはそうじゃなかったでしょう? きっと」

石川「(故人・吉田)竜夫さんの功績ってキャラクターデザイン室を作ったとか、独立したキャラクターだけは企画の段階でいれてるみたいなとこは功績であって。あとはやっぱり演出ルームっていうか演出を結構中心にしてものを動かすようなシステムを作ってきたっていうことですね。意外にタツノコで働いて居るときは良いところよりも悪いところが目に付くっていうか独立した時に役に立ったっていうか‥。悪いところっていうのは変えた方がいいとか、こうした方がいいっていうのを含めて自分で軌道修正したり、そういう意味で反面教師的なところでは独立してから役にたった。“タツノコってなんていい加減な会社だ”と思ったけど、自分もいい加減だけど、世間の仕事やったらそんなに自分の思ってるようなきちっとした会社はないなっていう(笑)。いい意味でもこの世界って作画でもそうだけどトップにある意味ではいい加減な人間がいるからこそ育ってきたり、味があったりするんで、あんまりこう気難しく考えたらなかなかものって作れない気がしてるんですよね。遺伝子って言っていいかどうか分からないけど、モノを作る人間ってどっかで大雑把でなければいけなかったり、金勘定下手だったりしてもちゃんと落としどころ知ってたり、そういうのがモノを作るっていう、作品を大事にするみたいなのを教わった気がするんですよね。誰に教わったかっていうと、仕事をしている動画さんなら動画さんとか、仕上げさんとか、怒鳴られて教わってきたので。スタッフに遺伝子があったり‥。子供向けというより子供が背伸びしたような作品を見せるのがタツノコの作品かなあっていうイメージが自分でもあったんで、それがこうきてね、付き合ってる作品もだんだん子供だけのアニメというのをちょっとこうなってるというのが傾向にあるかも知れないですね。そんなとこで‥遺伝子といわれるには恥ずかしい限りなんですけど(笑)」

 勢いがあるというか、旬というか。まさに“生きてます”という感じでありました。ええ、もちろん石川さんの印象であります。ここに収録された以上に石川さんからは「放浪」と言う言葉が発せられました。短い、それも1回のインタビューでその人を理解するなどとてもできることではありませんし、例えそれがもっと長く数回に渡ろうがそれは同じで、分かったなどと思うことはおこがましいのでありますが、それでもなお石川さんと「放浪」という言葉の関係性を言わないではおれません。石川さんを読み解くには「放浪」と言う言葉がキーワードになると直感しました。放浪と言う言葉からイメージされることは人によって違うでありましょうが、私が持つイメージは何かに対する“あこがれ”であり“渇え”であり“ロマン”であり“さすらい”であり“青春”であり“冒険”であります。これらは万人が甘美のうちに夢想するところでありますが、行動し実行するかとなると話は別であります。放浪はけっこう面倒で手間の掛かるものであるかもしれません。またやってみれば案外気楽なものかもしれません。ま、何事もやってみなければわかりません。問題は身体が動くかどうかです。石川さんはこうも言っておりました。『会うとなれば、30分で飛んでいく』と、つまり石川さんは行動の人であり実行の人なのであります。石川さんにとってアニメのお仕事は今もなお“放浪”をしているということなのかもしれません。次週は‥

 

【予告】

次回は、[ウルフズ レイン]を制作中の[BONES(ボンズ)]の南雅彦さんの登場。[エスカフローネ][カウボーイビバップ]等の話題作のプロデュースを経てサンライズから独立した俊英プロデューサーの登場です。乞うご期待!

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