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- インタビュー
サンライズワールド クリエイターインタビュー
第17回 『カウボーイビバップ』メカニカルデザイン 山根公利〈後編〉
サンライズの作品のキーパーソンとなったスタッフに自身が関わった作品の思い出を伺うクリエイターインタビュー。第17回のゲストは今年で放送25周年を迎える『カウボーイビバップ』でメカニカルデザインを担当された山根公利さん。後編では、『カウボーイビバップ』のメカデザイン作業を通して描いた世界感、ソードフィッシュⅡやビバップ号のデザインの意図、作品への思いなどを語ってもらった。
――主人公のスパイクの愛機になる、主人公メカのソードフィッシュⅡのデザインは、ずっと何かの形で出したいと温めていたものなのでしょうか?
山根 大戦機をモチーフにしたような宇宙船というコンセプトは、アートミックにいる頃から考えたり、描いたりしていたんです。だから、荒牧さんがソードフィッシュⅡのデザインを見た時に「山根君はこういうのを前から考えていたよね」というようなことを言われたこともあります。
――初期のラフ画の段階からかなりイメージが固まっているように見えたんですが、やはりそうした経緯があったんですね。
山根 自分がやりたかったことが、企画の内容に嵌まったというのも大きいかなと思いますね。「スペースジャズ」という新ジャンルを渡辺監督が作るということで書かれた企画書には、その段階で川元さんのキャラクターのラフもすでに上がっていたんです。宇宙でこのキャラクターが活躍する時に、わざわざ宇宙服を着せてお芝居させるのは面白くないんじゃないかという気がしたんですよ。スタイリッシュじゃない。
――キャラクターたちが、そのまま私服で使えるような雰囲気がいいだろうという
山根 そうそう。宇宙服に着替えて宇宙船に乗るのは段取りも増えるし、野暮ったい。じゃあ、どうしたらいいんだろうと考えた時に、「モノポッド」を思い付いたんです。要は、モノポッドは宇宙服の代わりで、その中に普段着の主人公たちが乗っていて、その姿は外からも見えやすくて、キャラクターのイメージも崩さないようにできる。さらに、モノポッドを宇宙船のコックピットとして共通化したら機体も増やしやすい。そうしたシステムを描いたりと、自分の好きなものをどんどん加えていったのが『カウボーイビバップ』のメカデザインですね。
――まさに自家用宇宙船の世界ですよね。自家用車的に宇宙船を使っている世界だったら、ああいう統一規格があることの方が自然なように思います。
山根 そうなんですよ。だから、モノポッドを使う「モノシステム」はこちらで名前を考えて提案しました。本当に誰でも自動車のように乗って宇宙を移動できる、手軽な乗物としてデザインしたいという思いがあったので、それはうまくいきましたね。発想として自動車そのものを宇宙に飛ばすというのもあるかもしれませんが、宇宙を車で移動するのはさすがにファンタジー過ぎるし、漫画っぽい。だったら、まだ飛行機の形をしている方がなんとなくSF的な感じがあるかなということで、古い飛行機の形に落とし込んでいるんです。
――『カウボーイビバップ』は、個人でも宇宙船をメンテナンスできるような手触り感みたいなものがある世界観ですよね。
山根 使い込まれた感じですよね。そういう雰囲気はうまく出せたなと思いますね。ロボットものだと、最新型の兵器としてロールアウト仕立てのピカピカの状態で出てくるのが当たり前ですが、『カウボーイビバップ』は、中古自動車の世界だろうという感じで考えていたんです。それこそ、昔のハリウッド映画の刑事ものとか賞金稼ぎものなんかで、主人公がクラシックなスポーツカーに乗っていることって多いじゃないですか。イメージとして、そういう古い車に乗っているようなオンボロな感じを『カウボーイビバップ』のメカデザインでは取り入れたかったというのがありますね。それこそ、ソードフィッシュⅡの丸いライトなんかは、クラシックカーのイメージで、そういう感覚は渡辺監督とのイメージも合致していたんでしょうね。
――実際のフィルムでも、機体の中古感というか使い古された感じは出ていましたね。
山根 作画さんがハッチやボディの傷なんかを頑張って入れてくれたので、こちらが考えていたものが上手く映像でも伝わったように思います。実際に作画監督さんからは「こうい傷をつけていくといいんじゃないか」という提案を頂きました。あとは総作画監督の川元(利浩)さんからは「もうちょとディテールや線を減らして欲しい」という指示がありしましたね。こちらから「ここは姿勢制御するためのスラスターの穴を開けたい」と描いたりすると、川元さんからは「これは描きにくいから取って」とか。もともとも、自分の描くデザインはあまり描きやすい形をしていないんですよ。いわゆる四角くて形がわかりやすいものというわけでもないので。だから、何となく作画さんには苦労をかけたというか。本当に当時の第2スタジオは作画力が高かったので、だからこそあれだけのことができたんじゃないかと思いますね。
――ビバップ号も「オンボロ漁船」を使い続けているイメージですね。
山根 彼らが宇宙を移動する時に、「ビバップ号」というものがあることは、企画書には書かれていたんです。それをどういう船にするかとなると、やっぱり豪華なクルーザーじゃないよねと。賞金稼ぎでお金持ちだったらすごく豪華なクルーザーかもしれないけど、多分彼らにはそんなにお金は無くて、貧乏だから豪華な船は買えない。だったら、漁船みたいな生活感溢れる、魚が捕れないと食えないぞというくらいの危機感を感じられる船がいいんじゃないかというのがあって。宇宙漁船というのは、あまり過去のアニメにもなかったので、じゃあ今回はそれでいこうと。漁船をモチーフにして、家的な船にして。だから武装はまったく付けていないんです。ガンダムだったら砲塔をつけようとかになる。でも、全くそれをやらないところで他の作品と差別化しようという目論みがあったんです。兵器ものではなく、普通の賞金稼ぎたちのお話だよと。
――作業としては、どのような部分が楽しかったですか?
山根 生活感を出すのがすごく楽しかったですね。『エイリアン』に登場するノストロモ号の船内とかに、生活感を感じるシーンがあって。寝る場所があり、船底にいくとすごく汚かったり。ああいう感じですよね。だから、船内も全部デザインできたというのもあって、仕事としてはとても満足度が高かったです。各惑星の街並なんかは美術班にお任せして、自分はメカ関係の外観と内部を担当すると分担を決めてやれたので、メカとしてのトータルとして世界観を作れたのが『カウボーイビバップ』の仕事では大きかったですね。そこが楽しかったし、やれて良かったです。
――現在のアニメ業界だとそういった部分も分業が進んでしまっていますからね。
山根 そうなんですよ。物量のせいで分業にしなければならないので、そこがちょっと悲しいですね。メカデザイナー個人ごとの個性を出しづらい時代になっているのは間違いないですね。それがこれから出てくる若い人には辛いところかもしれないです。やっぱり「この仕事を自分でやりました」という一枚看板を持つとその後の仕事がしやすくなるんですよね。だから、自分はタイミング的にラッキーだった。やっぱり、メカデザイナーは世界観を考えてキャラクターを作っていかないと一人前に見て貰えないので。そういう意味ではいい企画に巡り会えたと思っています。
――山根さんは戦争映画やSF映画などからいろんなモチーフ的なものを取り入れてデザインをされていますが、そういう意味では『カウボーイビバップ』は、ご自身の個性を出し易い作品でしたか?
山根 最初の段階から洋画の雰囲気を持っていた企画でしたからね。ちょうどそういう自分たちが好きなものがうまくまとめられたかなと。『カウボーイビバップ』では特にSF映画の中から、自分たちがそれまでにたくさん吸収して育ってきたものをうまく作品世界の中に込められたなというのが大きいですよね。もちろん、『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』から得た考え方や『エスカフローネ』で河森さんから学んだことなんかも含めて、それまでの経験を踏まえることでうまくまとまった感じはあります。
――『カウボーイビバップ』は25周年を迎えたわけですが、海外のコンベンションなどにも行かれている山根さんから見て、ファンの反応などにはどんな感想を持たれていますか?
山根 僕らが作品を作っている頃は、当然ながら海外のことなんかまったく意識していなかったんですよね。だから、フランスのジャパンエキスポやアメリカのコミコンなどの海外でのコンベンションに連れていってもらって、そこで初めて海外での人気の高さを実感したという感じですね。海外でこんなに人気があるということは、日本にはまったく入ってきてなくて、誰も教えてくれなかったので。『カウボーイビバップ』は、国内でも映像ソフトやプラモデルもある程度売れているけど、もの凄くヒットしている実感というのはなくて。それこそ、『新世紀エヴァンゲリオン』とかガンダムシリーズのような表面的な動きがまったくない。でも、数字は出ているということで、不思議な感じの作品だったんですよね。僕自身、『カウボーイビバップ』のイベントは呼ばれたことが無くて、2018年に初めて海外でのイベントでのステージに立ちました。
――海外のファンの反応はいかがでしたか?
山根 海外は熱いですよね。『カウボーイビバップ』に限らず、向こうのファンの方はノリがいいので、どの作品でも盛り上がっている感じはありますが、それでも反応が見られる事はものすごく嬉しいですよね。これも運が良かったということなんだけど、『カウボーイビバップ』は、海外で放送されていた時間帯も良くて、何回も再放送されたことで徐々に浸透していった感じがあって、すごくラッキーだったんじゃないかなと。
――山根さんは、『カウボーイビバップ』が長く愛される作品になった理由をどう分析されますか?
山根 1話完結の判り易い物語や作画の美しさが理由になるかもしれないですが、やっぱり音楽的な魅力が強いのかなと思います。アニメにジャズを組み合わせるといえば『ルパン三世』がやっていましたが、『カウボーイビバップ』も音楽的な力によって世界観が広がって、これまで見たことないような作品になったんだろうと思います。音楽の付け方のセンスが抜群だった。渡辺監督が「自分の作りたいものを作った」ところが、やっぱりこの作品の成功の本当の理由じゃないかなと。こうしたテイストが受けたんだから、関連する作品をもうちょっと作っても良かったんじゃないかと思っているんですよね。テレビシリーズの他には劇場版1本しかつくられなかったのはちょっと残念ですよね。僕はある程度手応えがあったので、このメカのラインでもっとバリエーション作ったり、描いたりしてみたいという気持ちがあったんだけど、OVA等で番外編を作るような話がまったく無かった。そこだけはちょっと心残りがあります。
――確かに、まだこの作品の世界観を使ってやれることはありそうですよね。
山根 そうなんですよね。世界観がしっかりしているので、いろいろと別の話もできると思うんですよ。それこそ、漁船の話とか。デザイナーとしては、まだまだやれることはありそうなので、機会があるならやってみたいですね。
――現在、新たに画集を制作中とのことですが、どんな内容になりそうですか?
山根 まだきちんとした内容をお伝えできる段階まで来てないんですが、2冊目の画集の作業を進めています。前に出した『山根公利メカ図鑑』と一部内容が重なりますが、最近作を含めたサンライズ作品のみを扱った本になります内容になっています。サンライズ関係の方にもいろいろ協力いただいて、読み物も結構面白いものになっていると思いますので、ぜひ発売を待っていただければと。
――それでは最後に、アニメーションの仕事を目指している方にメッセージをお願いします。
山根 デザイナーの形は今はいろいろとあるので、「ガンダムを描きたい」という理由でもいいし、映画やアニメの物語を作るためのデザインをしたいという気持ちでもいいんですが、とにかくそれを長く続けられるような心持ちでいて欲しいですね。長く続けられることもその人の才能だと思うので。僕なんかも「メカばかり描いていて飽きないんですか?」と言われたりもしますが、飽きないことも才能だなと思っていて。自分の本当に好きなことだったら、いつまでも飽きずに続けられると思うんです。本当に自分の好きなものに自信があるのであれば、ぜひこの仕事に挑戦して欲しいですね。もちろん、絵だけじゃなくても、いろんな形でのアニメの仕事への関わり方があります。アニメーションは共同製作なので、コミュニケーションを取りながら、みんなで何かを仕上げるというところでの考え方や能力を求められる部分はあるので、そういうところも考えて入ってこられるといいのかなと思います。いきなりひとりでできるわけじゃなくて、本当にみんなの力を借りて作品を作るという気持ちで頑張ってみて欲しいですね。
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山根公利(山根公利)
1966年生まれ。島根県川本町出身。メカニックデザイナー。
東京の専門学校を卒業後アニメーション企画制作会社、アートミックに作品を持ち込み、メカニックデザイナーとしてデビュー。『機動武闘伝Gガンダム』でサンライズ作品に参加。その後『天空のエスカフローネ』、『カウボーイビバップ』、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』、『無限のリヴァイアス』、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』、『Gのレコンギスタ』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』など多数の作品でメカニックデザインを担当。
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