サンライズワールド

特集

SPECIAL

  • 小説
  • サン娘
  • サン娘2nd
2018.07.10

【第05回】サン娘 ~Girl's Battle Bootlog セカンドシーズン

一章⑤

「な、なに……これ……」

 まあちは、眼前の光景に愕然と呟いた。
 そこには、惨状が広がっていた。
 大きく崩壊した校舎棟。瓦礫に覆われた通り。あちこちで炎が燃え盛っており、惨劇の舞台を赤々と照らしていた。

「誰が……こんなことを……」

 栞の言葉に、楓がとある一点を指さした。

「あそこ見て!」

 三階建ての校舎棟の一つ。その屋上に、二人の少女が立っていた。小柄な少女と、身長の高い少女。小柄な少女は巫女服に似た格好をしており、高身長の少女は弓道部の道着のような服を纏っていた。そして両者ともに、肩の上に二つのエッグが浮かせている。
 静流が二人の少女を見て、

「間違いないわ……。私たちと同じSUN―DRIVERね」

 静流以降、新しく出会うサン娘。それも二人も一緒に。
 でも、それ以前に……。

「何やってるの!? ダメだよ、そんなことしちゃ!」

 必死な形相で、まあちは叫んた。
 互いに向き合った二人の少女。その片方の手が、もう片方の首を掴んでいた。いや、締め上げていた。ギチギチと。両手ではなく片手のみで。
 首を絞められた少女が苦しげな声をあげる。

「ぐっ……うっ、うっ……」

 手を伸ばし、すぐ目の前の小柄な巫女少女に助けを求める。
 だが、助けを求められた少女は手を放すどころか、より強く首を絞め上げた。

「がぁ……!」
「あー、イー声♪ ふふふ♪」

 巫女服姿の少女が楽しげに笑う。苦悶の表情で呻く相手を見ながらも、その笑顔はどこまでも無邪気で、屈託がなかった。

「もうやめて! その子、苦しんでるよっ!」

 たまらず、まあちは叫んだ。
 その声が届いたのか、巫女服の少女がまあちたちを向いた。

「あっれー? いつの間にかお客さんがこーんなにたくさん。やだなーもー。見物しに来たんなら言ってよー。そしたらもっと……」

 ニコっと笑って、

「ハデに殺してみせたのに」

 首を絞める手に一層の力を込めた。

「あぁっ……!」

 弓道着の少女の体がビクビクと震える。
 ただ締め上げて、気を失わせるだけではない。言葉通り、その首の骨を折って、命を奪わんとする力の入れ方だった。

「やめ――」

 まあちが駆け出そうとした瞬間。

「さぁ! そろそろフィニッシュタイムだよ! 観客のみんなが盛り上がるように、ズバッと決めてみようかぁぁあああ!」

 高らかに声をあげながら、巫女服の少女が相手の体を無造作に真上に放り投げた。宙へと舞う弓道着姿の少女。その姿を追うように巫女服の少女もまた飛び上がる。

「!」

 巫女服の少女の脇に浮いたエッグから、二本のDアームが伸びる。もはや意識もなく、ただ上昇するだけの相手に向かい、

「バイバーイ♪」

 一瞬のためらいもなく、鋼鉄の巨椀を繰り出した。拳を手刀の形に変え、その華奢な十代の少女の体を無慈悲に貫く。鉄の指が道着ごと体を貫通し、背中から指先が覗いた。
 貫かれた少女の体が一度大きく震え、やがて力が抜けたように手足を静かに垂らした。その目は光を失い、ゆっくりと閉じられていく。再びその目が開かれることはないだろうことは、誰の目にも明らかだった。

「あー……。楽しかったー。うん。キミ、なかなか強かったよ♪」

 地面に着地した巫女服の少女が、満足げな笑みを浮かべながらフーと額の汗を腕でぬぐうような仕草をした。だが、実際には汗一つかいていない。あくまでフリだった。

「…………」

 まあちも、栞も、静流も、楓さえも、誰もが声を失った。
 それも仕方ないことだった。目の前で同世代の子が人を手にかける。そんなショッキングな光景を見せられたのだから。
 だが、驚きはそれだけではなかった。

「っ!」

 巫女少女のDアームの指先。そこに、奇怪なオブジェの如く突き刺さっていた弓道着の少女の体が突然、光の粒子に変わり始めた。少女の手が、足が、その体の全てが光へと変換されていく。放散された光の粒子は、目の前の巫女服の少女に吸い込まれていった。まるでその生命エネルギーを吸収するように。

「ウー! キタキター! 何回味わってもこの感覚はたまんなーい! ヒャッホーーーっ!」

 両手で体を抱きしめ、弾んだ声をあげながらピョンピョンとその場を跳び回る。
 真っ赤な炎に包まれた学園の敷地。半壊した校舎。その中で、どこまでも天真爛漫に喜ぶ少女の姿は異様なまでに不気味さを感じさせた。

「いま……体が、光に……」
「あ、相手に吸収されたようにも見えましたが……」

 まあちと同じく、栞も動揺を隠せないようだった。
 だが、楓と静流は違った。たった今起きた不可思議な現象に対する疑問よりも、目の前の脅威に対する危機意識の方が優先された。
 二人は巫女少女に向かって身構えると、

「ここから離れるわよ!」
「まあちゃん、逃げて!」

 両者同時にDアームを展開。楓が手裏剣型の爆弾であるサンボット・バスターを投擲し、静流がヘビィマシンガン改を放つ。
 爆弾と弾丸が、校舎棟の屋上を一斉に襲った。
 弾着し、起きる大爆発。
 だが、なおも楓たちは攻撃の手を休めない。相手の一切の反撃を封じるよう、各々の武器を叩き込み続けた。

「楓ちゃん、しずちゃん! 二人ともやりすぎじゃ……!」

 思わず止めに入ろうとしたまあちを、楓が一喝した。

「バカ! 早く逃げなさいってば! アイツはヤバいのよ! あんな躊躇なく人を手にかけられるような奴よ!? あたしたちとはくぐってきた修羅場が違うわ! 正面からやりあったら、四人がかりでも危ないってーの!」
「まあちゃん。あんな風に笑いながら人を傷つけられる人間は、まともじゃないわ。誰もがまあちゃんの思うようなイイ人たちばかりじゃないの。あれは、ここで確実に無力化しておかないと!」

 話しながらも砲火は止まらない。
 だが、その激しい銃撃音に混じって、ひときわ明るい声が響いてきた。

「……いやーー! その容赦のなさっぷり! あちしは好きだなー! やるなら有無を言わさず、徹底的に。うんうん。ちょっとばかし遊び心に欠けるけど、真剣さがあって良し!」
「!?」

 どこまでも楽しげな声が聞こえてくる。
 声は前方からではなく、まあちたちの足元から響いてきた。
 ドガン、という衝撃と共に路面のアスファルトが割れ、その下から人影が飛び出してきた。

「モグラさん参上ーーっ!」

 ニヒヒと笑いながら、左右のDアームをあぎとのように上下させる。まるで、すべてが遊びであるかのように振る舞う巫女服姿の少女。

「くっ……!」
「あーあー。眉間に皺寄せちゃってー。美人さんが台無しだよー? とりあえずニコっと笑ってみよーか!」

 二本の指先で口元を持ち上げてニコリと微笑むが、楓は険しい眼差しで、

「あんた……何者よ」
「この格好、見て分からないかなー? 通りすがりの巫女さんに決まってるじゃないかー。よちしくね!」

 袴の裾を両手で持ち上げ、礼儀正しく頭を下げる。だが、その袴の裾の長さは一般の巫女服よりもはるかに短く、太ももの上までしか無かった。もはや袴というより、袴を模したミニスカートである。腕には見慣れた白のロンググローブを着け、脚には白のロングブーツを付けている。そして、胸には赤い勾玉が付いた首飾り。

「笑えない冗談ね」

 静流が冷ややかに言う。

「厳しいなー。でも、あちしはくじけない! 道は後ろではなく、前にできるものだから! 人生これ前進あるのみ! わはははは!」

 巫女少女が笑い声をあげる。異常ともいえる明るさだった。まるで何かの薬物でも服用したかのような異常なテンションだった。
 そこで、栞が何かに気付いたように、

「もしかして……この方もフラクチャーに憑りかれたのではありませんか? だとすれば、自分の意思であんなことをしたわけでは……」
「あっ。そうか。……でも、ちょっと待って。栞ちゃんの時も、しずちゃんの時も、フラクチャーと合体した時は、ヘンな黒いゴーグルを顔につけてたけど……」

 巫女少女を見てみる。黒いゴーグルはつけておらず、顔はむきだしのままだった。だが、その異常な光景にまあちは驚きの声をあげた。

「え? どういう……こと?」

 確かに巫女少女の顔はゴーグルなどで隠されてはいない。だが、どれだけじっくり見つめても、まあちには少女がどんな顔をしているのか判別できなかった。目が大きいのか小さいのか、鼻が高いのか小さいのか。そういった顔の特徴が何一つ認識できないのだ。しっかりと見えているはずなのに。その証拠に『笑っている』という表情などはわかる。なのに、顔そのものは認識できない。何とも気持ちの悪い状態だった。

「あのゴーグル? あははっ。あんなの無くったって、個人情報にプロテクトはかけられるって。もしかしてやり方知らないの? うっわー……そっかそっかー……そのレベルかー。ビギナーすぎてなんかテンション下がってきちゃったなー……なんて、ウソだけどね!」

 ニヒヒと笑う巫女少女に向かって、楓が訊ねる。

「あんた……このSUN―DRIVEについて色々と知ってるみたいね」
「キミたちよりはね」
「じゃあ、このSUN―DRIVEがなんなのか、なんの目的のためにあるのかもトーゼン知ってるわけよね?」
「挑発してあちしから聞き出そうとしてる? ……まっ。いいでしょー。その魂胆に真正面から乗ってあげる! でも長々と説明するのはメンドイからひと言でいっちゃうね」

 少女はニヤリと笑って、

「SUN―DRIVEは、SUNーDRIVER同士が戦い合うためのツールだよ。自分以外の全てのSUN―DRIVERを倒して、一人になるまで勝ち抜く。それが、あちしたちの目的であり、SUN―DRIVEの存在する意味だよ」

 そうハッキリと口にした。
 SUN―DRIVEはサン娘同士が戦い合うためのものであり、その目的は最後の一人となること。
 それはつまり――他のサン娘全てを倒せ・・・・・・・・・・、ということだ。
 まあちは今までSUN―DRIVEはフラクチャーを倒すためのものだと思っていた。人々に害を及ぼすフラクチャーを排除し、学園を危険から守るためのものだと。
 でも、それは違うと目の前の少女は言う。
 静流が、まあちの疑問を代弁するように、

「フラクチャーとSUN―DRIVEの関係は? あれを駆除するためのソフトではなかったの?」
「フラクチャーは、お菓子みたいなものだよ。取り込めば力が出るエネルギーの塊。まっ、甘くも美味しくもないけどねー。それに、お菓子だけあって、主食と比べると得られるエネルギーの量もしょぼいけどねー」

 そう言って、巫女少女がまあちたちを見た。今しがた口にした『主食』を眺めるように。

「さあ。名残惜しいけどお喋りタイムは終了だよ。やるべきことは分かったでしょ? じゃあそろそろ始めるとしようか。楽しいゲームを……ん?」

 そこまで口にしたところで、少女が何かに気付いたように言葉を止めた。楓の顔をじろじろと眺めると、

「……やっぱりそうだ。そのツインテールに、タカみたいな目つき……うん。間違いない。楓ちんじゃん。久しぶり過ぎて、すぐには気づかなかったよー。ヤッホー、元気してた?」

 楓に向かって手を振る。

「楓ちゃん……あの人、知ってるの……?」
「…………」

 楓もまた困惑した顔をしていた。だが、すぐに表情を引き締めると、

「……あんた、もしかして、『チビみ』?」
「そう! 覚えててくれた!? いやー感激だなー」
「そう……そうなのね……。やっぱりあたしの考えてた通りだったのね……」

 暗い表情で呟く。それは目の前の少女の正体に気付いた以上の何かを含んだような口調だった。

「嬉しいなー。楓ちんと再会できて―。でも同じぐらい悲しいなー。だって、もうお別れしなきゃいけないんだから。でも、昔のよしみで――」

 巫女少女の体が、突然消失した。
 いや。消えたのではない、真上に跳んだのだ。

「一撃で終わらせてあげるぅ♪」
「!」

 巫女少女のエッグから伸びるDアーム。出現した鋼鉄の拳を、少女が楓めがけて思い切り叩きつけた。
 だが、拳が到達する前に、横から飛び出してきた人影が、巫女少女を止めるように抱きついた。少女のDアームの軌道が逸れ、楓のすぐそばの地面を叩く。アスファルトが豪快に砕け、地肌が露出した。
 謎の人影に抱きつかれたまま巫女少女が着地する。不満げに口を尖らせながら、

「ちょっとぉー。邪魔しないでよぉー」
「ダメだよ! みんなで戦い合うなんて!」

(つづく)

著者:金田一秋良

イラスト:射尾卓弥

©サンライズ

©創通・サンライズ

  • Facebookでシェアする
  • Xでシェアする
  • Lineでシェアする