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2018.09.04

【第13回】サン娘 ~Girl's Battle Bootlog セカンドシーズン

三章①

「やっほーい。何日ぶりかなぁ。会いたくて仕方なかったゾ☆ このこのぉ☆」

 渡良瀬一二三は親しげに笑いながら、肘で小突く真似をした。
 フレンドリーな仕草だが、まあちたちの表情は固く強張こわばるばかりだった。
 もし、眼前の少女がサン娘ではなく、ただの生徒会長だったら。
 もし、ここがnフィールドではなく、現実の世界だったら。
 冗談の一つでも返せたかもしれない。
 だが、そうじゃない。目の前に立つのは、紛れもなく最強の力を持ったサン娘なのだ。
 まあちは恐る恐る、

「本当に生徒会長の渡良瀬先輩なんですか……?」
「そうだよー。あちしが聖陽学園の頼れる生徒会長こと渡良瀬一二三。この顔、一度ぐらい見たことあるでしょ?」

 自分の顔を指すが、その顔立ちは判然としない。
 以前会った時と同じく、表情は伝わっても、人相自体は上手く認識できないのだ。

「あっ。ごめんごめん。『認証ガード』かけたままだったね」

 パチンと指を鳴らす。
 途端に、モザイクが外れるようにその顔が鮮明になった。
 一二三の顔は、予想外に幼かった。
 肩の上で切り揃えられた黒髪に、活発そうな大きな瞳。
 高校生というより中学生……下手をすれば小学生と間違えられてもおかしくない顔立ちをしている。
 だが、見た目こそ幼いものの、その立ち姿には妙な貫禄があった。
 堂々とした佇まいに、重みを感じさせる所作。下手な教師よりもよほど頼りがいがありそうで、確かに生徒会長に相応しいだけの風格があった。
 少女の無邪気さと大人の貫禄、矛盾する二つの要素を持った少女が言った。

「顔見せも済んだことだし……そろそろメインイベントを始めよっか♪」

 一二三の言葉に静流が眉根を顰め、

「メインイベント……?」

 一二三がパチンと指を鳴らすと、上空に奇妙な物体が出現した。
 人間大の長方形の物体が一つ、また一つと現れ、気づけば数十個の物体が空を埋め尽くす。

「これは……」
「っ! まあちさん、あの中をよく見てください!」

 長方形の物体は半透明をしており、中に何かが収まっていた。
 それは、腕だった。
 人のものではない、鋼鉄の機械の腕。
 まあちたちが嫌という程、見てきたもの。アレは――

「Dアーム!?」
「もしかしてここにあるのは全部……」
「その通りだよーん。これまで戦い、負けちゃった人たちのDアームだよ」
「!?」
「ちなみに、撃墜数はあちしが文句なしのトップ! すごいっしょ!」

 ムフンと鼻を鳴らし 、小さな胸を自慢げに張る。
 静流が頭上のDアーム群を見上げながら、

「このDアームの所有者たちは、どうなったの?」
「もちろん現実の世界に帰ったさ。体にだって何の異常もないよ? それに記憶だって消えてるわけじゃない。自分がSUN-DRIVERだったことだってハッキリ覚えてる。……でも、決してそのことを人に話そうとは思わないんだなー」
「話そうとしない? 何故?」
「みんな、これが『現実に起きたこと』って思ってないからさ。あちしも話してみて驚いたけど、SUN-DRIVEのこともnフィールドのことも全部『夢』だと思ってるんだよねー。荒唐無稽で、子供っぽい夢。だから、人に話そうと思わない。恥ずかしいからね。一人も例外はないんだなー」

 夢と思う……?
 記憶はあるのに、その体験が実際にあった事として感じられないということだろうか。
 しかも、全員がそうなるなんて……。
 だが、SUN―DRIVEが人の精神に影響を与えることは、まあちも知っている。

「でも……少なくとも、みんな無事ってことだよね。良かった……」

 命の危険はないことを知り、まあちはほっと胸を撫で下ろした。

「えへへ♪ 良かったね♪ これで七星ちんたちもさー……心置きなく負けることができるね!」
「!?」
「残りのSUN-DRIVERは、ここにいる五人だけ。他のメンツは全員脱落済み。つまり、キミたちを倒せばこの長かった戦いも終わるんだ。ほら、キミたち専用のベッドだって用意してるよ?」

 一二三が空中のDアーム群を指さす。その中に四つだけ、Dアームが収まっていない『空』のものがあった。

「ちゃーんとキミたちの数に合わせて四つ……ん、あれ?」

 一二三が疑問顔を浮かべながら、まあちたちを見回す。

「あ! 楓ちんがいない!? えっ。どこ行ったの!?」
「楓さんなら初めからおりませんわ」
「ホントに!? もー楓ちーん。頼むよー。これじゃここで全員倒して、あちしの優勝ー! ってできないじゃーん!」

 頭を抱え、その場を転がり始める。ぐるぐると。まるで幼稚園児が駄々をこねるように。
 ひとしきり転げ回ると、ピタリと止まって、起き上がり、

「……まっ。いっか。楓ちんとのバトルは優勝決定戦後のタイトルマッチってことで」

 あっさりと気持ちを切り替えて、まあちたちを見やる。
 その目は戦意にギラギラと輝いていた。

「お喋りは終わり。さあ始めよっか。SUN―DRIVEの戦いを締めくくる、最後のバトルをッ……!」

 一二三が勢いよく片手を上げると、一二三のエッグから鉄の双椀――龍神丸のDアームが出現した。
 龍神丸のDアームが、拳を思い切り地面に叩きつける。
 衝撃が地面を揺らすと同時に、Dアームが殴った地点を起点にして、周囲の空間が一斉に作り変えられていく。
 大地は殺風景な岩の荒野へと変わり、青空は黒雲によって覆われる。
 昼でも夜のように暗く、生命の気配の一切が消失したその荒れ果てた場所は、まさに『死の大地』という呼ぶに相応しかった 。

「nフィールドを変換したのね」
「っ! しずちゃん、あれ見て!」

 ERINUSSの塔が存在していた場所に、まったく別のモノが出現していた。
 それは、大きな山だった。
 ビル五階分ほどの高さの山が、いくつもの断層に分かれ、それらが積み重なるようにして聳え立っている。
 断層の数は、見たところ七つ。

「あの七つに分かれた山は……間違いありません! あれは『魔神英雄伝ワタル』の舞台となる『創界山』ですわ! まさか実物をこの目で拝めようとは!」

 栞が驚愕と感動が合わさった声を上げ、山を――創界山を見やる。

「……でも、変ですわ。本当であれば創界山は、私たちが立っている大地そのもの。荒れた景観を見るに、ここは創界山の第七階層――ドアクダーの魔神殿付近に間違いないはずですが……はっ! まさかいつかの静流さんの時と同じく、フィールドに手を入れ、魔神殿を創界山のオブジェへと変えたということではないでしょうか! 創界山にいながらにして創界山を目にすることができるとは……なんともサービスが行き届いておりますわ! ブラボーですわ!」

 一人で延々と喋ったと思えば、キャッキャッとはしゃぐ栞。
 静流がまたもや気の毒そうな目で、

「貴方って……本当にアレね」
「出ましたわ! また指示代名詞で、私を翻弄して! 直接仰ってください!」
「……たぶん『痛い子』って言いたいんじゃない?」

 声は頭上から降ってきた。
 見上げると、創界山の天辺に一二三が立っていた。

「あちしとしては、そこまで喜んでもらえると嬉しいけどね。頑張って作った甲斐があるってもんだよ。なんたって決勝戦の舞台だしね、それなりに雰囲気のある場所は用意しないと失礼じゃん」

 一二三が天辺から飛び上り、まあちたちの前に着地する。

「今回は前回と違って、途中退場はなしだよ。最後の一人になるまで、存分にやり合おうか……!」

 顔は相変わらずニコニコとしていたが、目だけは笑っていなかった。
 放たれる強烈なプレッシャー。小柄な一二三の体が、一瞬で二倍も三倍も大きくなったように見える。
 一二三は本気だった。
 それでも、まあちは言わざるを得なかった。

「本当に……戦わないとダメなんですか?」

 まあちの言葉に一二三が眉をひそめる。

「まだそんなこと言ってんの、七星ちん? 見せたでしょ、あちしの戦果を。あちしは勝つためにみんなを倒してきたんだ、この手でね」
「でも……渡良瀬先輩は生徒会長じゃないですか」
「はぁ? 関係ある、それ?」
「ありますよ! 私、この学校に来て初めて『部長』になったんです。部長っていっても、小さな愛好会ですけど……。それでもすっごく大変でした。私でさえこんなんだから、生徒会長なんて比べ物にならないと思うんです。そんな大変な役職に就くぐらい……渡良瀬先輩だって、学校のみんなのことが好きだったんじゃないんですか?」
「…………」
「本当は渡良瀬先輩だって、みんなと戦いたくないんじゃ――」
「うるさいよ」

 いつの間にか一二三の顔から笑顔が消えていた。

「あちしはSUN-DRIVER。戦うことが存在意義。ただ目の前の相手を屠り、退け、たった一人になるまで戦い抜くんだよ」
「渡良瀬先輩……」
「それに七星ちんにだってさ、戦う理由があるはずだよ? あちしを倒さないと大事なお友達が目を覚まさないんでしょ?」
「っ!」

 黒レイの手によって眠らされたレイ。
 目覚めさせるためには『全てのSUN-DRIVERに勝つこと』。それが条件だった。
 一二三は再びニヤリと笑み、

「ねっ。あちしたちは戦うしかないんだよ。そうするしかないのなら……とことん楽しむしかないじゃんか!」

 一二三が地を蹴り、まあちたちに向かってくる。

「……っ」

 自分にだって本当は分かっている。戦いが避けられないことぐらい。
 それでも聞かざるを得なかったのだ。
 不敵な笑みを浮かべ、迫ってくる一二三。
 その姿に以前の手痛い記憶が蘇る。反撃一つできず完敗した苦い思い出。
 まあちはひるみそうになる自分の心を懸命に叱咤した。
 気持ちで負けちゃダメだ。
 確かに前回は何もできずに完敗した。
 でも――
 私たちだって何も用意せずに来たわけじゃない!
 まあちは覚悟を決めると、栞と静流に呼びかけた。

「栞ちゃん、静ちゃん……!」
「ええ!」
「分かっておりますわ!」

 二人は返事をすると共に、左右に散開した。

「およ……?」

 標的が三方に分かれたことで、一二三がどれを狙うか一瞬迷う。その隙を利用して、まあちは即座に攻撃……ではなく反転し、自分も一目散に逃げ出した。

「え? あっ、ちょっと!」

 一二三が反射的にまあちを追いかけてくる。
 その無防備な背中に、銃弾とエネルギー弾が同時に突き刺さった。

「おわっ!」

 散開し、一二三の斜め後方に回った栞と静流が同時に銃撃を放ったのだ。
 栞のインパルスガンダムのDアームが高エネルギー・ビーム・ライフルを、静流のスコープドッグのDアームがヘビィマシンガン改を、次々と一二三に浴びせていく。
 さらに、まあちは足を止め、レーザード・ライフルの引鉄を引いた。
 三方から襲い掛かる火勢。
 だが。

「……いやー。やってくれたねー」

 一二三が感心した声をあげた。
 今も攻撃は続いている。三人の銃火を受けながら、一二三は平然と言った。そんなもの痛くも痒くもないというように。
 ダメージをまるで受けていなかった。
 nフィールドではエネルギーシールドによって体は保護されている。だが、衝撃まで完全に防げるわけじゃない。攻撃を食らえば息が詰まるし、痛みに体が硬直することだってある。
 しかし、一二三にそうした様子は見えない。全くダメージが無いかのように振る舞っていた。
 一二三のSUN-DRIVEのエネルギーシールドが、それだけ堅いのか。
 あるいは、痛みがあっても意に介さないのか。
 だけど――初めからこれで致命傷が与えられるとは思っていない。
 だから足を止めることなく、次の行動へとまあちたちは移った。
 まあちが再び一二三へと近づく。

(つづく)

著者:金田一秋良

イラスト:射尾卓弥

©サンライズ

©創通・サンライズ

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