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【第32回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」
飛行機雲に誘われて……その32
バガンは細長く東西に延びたミャンマーのほぼ中央にある。およそ千年ぐらい前にビルマ族が打ち立てた統一王朝の都があったところだ。かつて都だった面影は驚くほどないが、この国の文化や精神のあり様はここバガンの平原に点在と言おうか密集と言おうか…点在と密集はずいぶん違う言葉のようなのだが、でもまさにそれは点在し密集しているのだ。見てほしい、こんな仏塔が大小合わせて3700も40キロ平方メートルの平原に存在しているのだ。
バガンをグルリ見渡すとこんな感じ、樹木より高いものは仏塔ばかりだ。小さいものも大きなものもさまざまである。実は色も金色あり白色あり茶褐色ありでさまざまである。保存状態も全くバラバラ、すでに朽ちて3700の数の中に入らぬものも多数あると聞く。
バガンはパッとみ仏塔しかない。本当は民家も市場も観光客用のホテルもあるのだが、目につくものと言えばやっぱり大も中も小も含め仏塔だけなのだ。
仏塔の中にはブッダがいる。これだけ数があるとブッダもそれぞれだ。それぞれのお顔を仰ぎ見ながら不遜ながらブッダの心をおもんぱかった。むろん無学なあたしらはブッダの到達した悟りなどは知ることはないが、しかしきっととてつもなく人間臭い人だったのではないかなと思える。あたしらだって考える。人間が他の生物と一番違うところは他者に対する"想像力"を持つということではないかな、と思う。あたしらだって他者に対する想像力を持つ、でもその範囲は狭い、せいぜいが親、兄弟、配偶者、子供、友人、知人……それだっていつものことじゃない、その時々だ。ブッダの想像力はきっととてつもなく大きく広く深いんだと思う。他者に対する想像力を持つことが人間の条件だとするなら、仏陀のそれはきっと桁外れだったんだろう、その思いは全人類、生きとし生けるもの全てに及んでいたんだと思う。
不勉強なあたしらはブッダの教えを何一つ理解しえないが、それでもあたしらはブッダによって救われます。それは何か? ブッダですら入滅したという事実にである。ブッダがブッダへの道を歩み始めたのは『生老病死』への恐れからと言われている。ブッダは80歳を超えて涅槃へ入ったと聞くが、当時の80才は長寿でしょう。一説には死因は食中毒とも言われています。なんかメチャメチャ人間臭くないですか、
『この世は苦だ!』
と喝破した人が、それ故に人間は必ず"死ねる"みんな"死ねる"と、ブッダの涅槃像はそう教えてくれているようにあたしらには見えるのです。