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- コラム
【第33回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」
飛行機雲に誘われて……その33
今回は、仕事での北京です。
あたしらには珍しい未就学児童から小学生低学年向けのアニメ作品の注文である。
「えーっ、そんなの出来るかな!?」
と、最初はビビったのだが、クライアントに会ったら、その志の"純"なところに惹かれてしまった。あたしら今まで、
『むせる』の『暗いの』『重い』の『飽きた』だの、ヒネた作品しか作ってこなかったが、やっぱりアニメ作品はこっちが本道だろうという気はいつもしていた。クライアントの、
「無理なくそっと他者に寄り添える、でも目一杯元気なキャラクターを活躍させたいんです!」
の言葉にガラにもなくホロっと来てしまって、ま、そんなこんなでお手伝いすることに……。
現段階はパイロットフィルムの製作なので詳しいことは書けないのだが、アフレコは北京で行った。中国作品なので登場人物は中国語をしゃべる。いやあ、当然ながら外国との仕事は意思の疎通が難しい、言葉が違うのだから当然チンのアルゼンチンなのだが、隔靴掻痒もどかしいとはこの事かと。キャスティングのためのテープが送られてくるのだが、まあ判断が難しい。解ったような顔でデモテープを聞いて、質問やら注文を付けるのだが、それ自体が正確に先方に伝わっているかどうかが疑わしい。でまたその意見に反応して新たなテープが送られてくる。また分かったような顔でテープを聞き意見を言う。まあこの確信を持てないやり取りの末に、どうやら決まったキャスティング、
「ええーい! まだパイロットだ。どうとでもなれ」
と北京に向かって、アフレコ当日、あれま!?
「合ってる合ってる、ピッタシじゃん!」
ま、案ずるより産むがやすしと昔から言うけれどこんなことを言うのかな――いやいやいやそうじゃない、ここのスタッフの能力が高いんだ、と気づかされました。それが証拠に仕事が丁寧!
仕事が丁寧と言ったが、驚いたのがアフレコの進め方。全編こっち(日本)で言うオンリー録り、絡みのシーンでも他の役者とは絡ませず別々に一人一人録る。だから時間がまあ掛かる掛かる。絵がほぼ色付きだから口合わせはフィルムを見ながらでいいのだが、芝居の感じというか絡みの感じがそれで分かるのかという意見があるかと思うが、ここが仕事の丁寧なところで、事前にリードを作っているのだ。誰が声を入れているのか聞き洩らしたが、演技指導の様子からたぶん音響監督自らが声を入れているのだと推察できる。ことほど左様に結構面倒なことを一つ一つやってくれているのだ。また自分の仕事に自信を持っているのがスタジオでの立ち居振る舞いに充分見て取れる。今回は中国の仕事はアフレコだけだったが、もし本番が始まればダビングも中国でということも考えられる。それはそれで新たな経験ができると、ひそかなな楽しみが増えた気がしているのだが