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2023.09.11

サンライズワールド クリエイターインタビュー第19回
『聖戦士ダンバイン』メカニックデザイナー 宮武一貴


サンライズの作品のキーパーソンとなったスタッフに自身が関わった作品の思い出を伺うクリエイターインタビュー第19回は前回に引き続き40周年を迎えた『聖戦士ダンバイン』のメインスタッフが登場。メカニカルデザインの宮武一貴さんにお話を伺った。


――今回は宮武さんと、日本サンライズの縁についていろいろうかがいたいのですが。

宮武 そうですか。そうしたら、僕のデザイナーとしての原点まで遡ってお話したほうがいいかもしれませんね。私が、この仕事を始めたのは『マジンガーZ』のエンディングのイラストからです。当時はまだ学生でしたね。

――『マジンガーZ』のエンディングで描かれた内部図解はとてもインパクトがありました。

宮武 永井豪さんからは「子供の目で見てもかっこいいものを頼む」と頼まれました。マジンガーZのデザインそのものは、豪ちゃんが作り上げたものがあります。だから僕はその中に、子供が本物と思えるようなメカを詰め込む事を考えました。それはつまり、子供にとってわかりやすいテクノロジーを、見える形で描くということです。

――「子供にわかる」ということが大事なポイントなわけですね。

宮武 マジンガーZですから、光子力エネルギーを使ったエンジンがあるのですが、そこは子供にとってはSFというよりも、むしろファンタジーに近い漠然とした“すごいもの”でしかないですよね。じゃあ、どういう部分だったら子供にもわかるか。足であれば、子供でも、人が歩く時につま先から足をおろして、衝撃を吸収している感覚がわかりますよね。つまりサスペンションが働く必要があるという知識はある。子供でもバイクなどのコイルスプリングを見たことはあるだろうし、足のところにリンクとコイルスプリングを描くのが一番正しいだろうと考えたんです。

――『マジンガーZ』放送開始は1972年末。同年にスタジオぬえの前身・クリスタルアートスタジオもスタートしています。

宮武 1972年にはサンライズの前身ともいえる創映社もスタートしています。そこに、ぬえの加藤直之のアートスクールの先輩がいて、デザイナーを求めているという話があり、僕はそこにデザインを200枚持って行くことになりました。そこにいたのが沼本清海さんでした。

――虫プロから独立して、創映社とサンライズスタジオを設立した7人のメンバーのうちのお一人ですよね。

宮武 沼本さんは、目がすごく鋭い方でした。持っていったデザインを1枚ごとに見ていくんですが、全体を見た後、絵のポイントに注目するので瞳が動くんです。それが鋭かった。そうして30分ほどで200枚を見終えてから、「主人公3人が乗る特徴的なメカがほしい。それをやってくれ」というオーダーがありました。それ以外の要求はなにもなかったです。それで帰ってデザインを仕上げました。

――オーダーはそれだけだったんですか。

宮武 それだけでした。なのでそこから3人が乗った航空機が合体して1機のメカになるという個性を持たせてデザインをしました。ただ航空機って主翼が広がっていて薄べったい形状をしているものなんですよ。それを玩具になった時に子供がほしくなりそうな、ボリューム感を持たせるところに落とし込むのに苦労しました。なにしろ生まれて初めてのプロデザインでしたし。

――それで提出したのが『ゼロテスター』のテスター1号機になるわけです。。

宮武 そうです、沼本さんも「これをもらおう」といってくれました。ただ沼本さんは続けて「これはもらうけれど、僕自身の手元に秘めておく」というんです。「他のスタッフに、こんな下手な絵を見せるわけにはいかない」と。

――それは厳しいですね。

宮武 「君は絵の描き方をまず知らない。絵の描き方から知らなくちゃ駄目だ。君は書道やってるよね」と沼本さんはいうんです。確かに、僕は書道5段でした。アニメーションの世界でデザイナーをやっていくには、書道の技術は邪魔になるから捨てなさい、と。

――どう邪魔になるのでしょうか。

宮武 例えばそこに置いてあるコップを見た時、あるいは表に止まっている自動車を見た時、その形のどこにブッツケがあり、ハネがあるのか、というお話でした。ブッツケやハネは、文字を書くためのテクニックであって、デザインをするための技術ではないと。自分としては習性になっていましたから、それは意識したことがなかったんです。

――そういうことだったんですね。

宮武 沼本さんは虫プロのアニメーター養成所の所長でもありましたから、ドンと鉛筆を置いてから、グッと引っ張ってハネる感じが、許せなかったんでしょうね。実物にはそんなものはないと。鉛筆の先がすっと紙の上に落ちて動いていき、またすっと空中に離れていく。それで完全な平行線が描けるようになれ、といわれました。人間の手は、手首の回転、肘の回転で動くようになっていて、大きく曲線を描くようになっている。そのストロークに従って描いているうちは、ダメだ。ちゃんと鉛筆を自分で意識的にコントロールするんだ、と。そういう沼本さんの言葉は、一言一句覚えていますね。

――それで練習を?

宮武 はい。わら半紙が真っ黒になるまで、平行線を引き、平行線を引く練習が進んだら、今度は放射状の線の練習です。まず外側から中心に向かって引き、次に中心から外に向かって引き。それを2週間ぐらい続けたところで「もういいだろう」といわれまして、最初のデザインをもう一度、描きなおしておいて、といわれたんです。

――それでようやくデザインが正式に採用というわけです。

宮武 それが、描きなおしたデザインを持っていったら沼本さんは、もう創映社にいなかったんです(笑)。タカラに入社したということで、そちらに訪ねていったら、今度はタカラの仕事も頼むといわれて。そこでミクロマンに携わることになりました。だから僕の中では、アニメ-ションのデザインと、トイのデザインが、半分ずつの比重になっているんです。アニメ用のデザインも、どうやったらちゃんと玩具になるかも考えながら描いていますね。

――創映社で仕事をしたことが『勇者ライディーン(以下、ライディーン)』の仕事につながったわけですね。

宮武 そうです。『ライディーン』の時は、前半の監督だったの富野(由悠季、当時は喜幸)さんと、スポンサーであるポピーの村上克司さん、それにキャラクターデザインの安彦良和さんがいました。ゼロからのスタートだったので、自分としては、安彦さんの脇で、ギミックだったり、アイデアをいっぱい出している感じでした。『ライディーン』は完全変形を目指していましたが、実際はそこまで合理的ではありませんでした。この時の経験が『超電磁ロボコン・バトラーV』、『超電磁マシーンボルテスV』に生きて、この過程でぐっと合体ギミックが合理的になっていきます。

――『ライディーン』以降で、本格的に富野監督と仕事をすることになったのが、放送40周年を迎えた『聖戦士ダンバイン(以下、ダンバイン)』です。

宮武 この40年は、あっという間でしたね。『ライディーン』の時に、いろいろアイデアを出したのが富野さん的にもおもしろかったから『ダンバイン』で声がかかったのではないかなと思います。あいつだったら、なにかヘンなものを思いつくんじゃないか、と。最初に、富野さんからいわれたのは「変形ロボットにしろ、合体ロボットにしろ、いじればいじるほど没個性になって存在感が薄くなるんだ」ということでした。今回は、変形合体なしで、明確な個性のあるもの、キャラクター性の一番強いものがほしいんだと。あとはサイズですね。玩具化した時に、パイロットのフィギュアと並んで置けるぐらいのサイズがいいといわれました。フィギュアが誰か判るディティールを彫れるという訳です。

――まったく新しいコンセプトのロボットがほしい、ということですね。

宮武 なので最初はあえて「違う」と否定されたくて、鎧を着た石造りの神像のようなラフを提出しました。そうしたらやはり「違う。この方向ではない」と。そこからいろんな絵を描いた中に、手綱をつけたセミの上に乗っている絵があり、これだ、ということになって、「昆虫モチーフのロボット」という方向が決まりました。デザインを始めた時はまだ舞台が「バイストン・ウェル」という名前になることも決まっていなかったと思います。

――そうしてオーラ-バトラーの基本が出来上がるわけですね。

宮武 最初にクロカナブンをベースにして一般兵士用のドラムロを設定し、その後に、主人公機としてカブトムシをベースにダンバインをデザインしました。ダーナオシーは恐ろしい顔にしようと、カミキリムシの顔とヤギの頭骨をモチーフにしました。このほかゼラーナとフォウをデザインしました。

――ダンバインは非常にユニークなキャラクター性をもったデザインですが、宮武さんが考える「メカにおけるキャラクター性」とはどういうものでしょうか。

宮武 キャラクター性というのは「作品世界を象徴するもの」ということだと思います。だからロボットに限らず、巨大宇宙戦艦も同じで、ヤマトもアルカディア号も、そこを意識してデザインしました。ライディーンにしても、海底ピラミッドから現れたりするところ込みで、あのキャラクターが成立しているというふうに考えていましたから。

――そんな巨大ロボットたちを扱う展覧会「日本の巨大ロボット群像 -巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-」が9月9日から、福岡市美術館ではじまります。そこでは宮武さんの仕事もフィーチャーされるだけでなく、宮武さんが展覧会のために描いた巨大絵画も展示されるそうですね。

宮武 はい。高さ2.59メートル、横幅5.82メートルという、これまで描いたことがないようなサイズの絵です。大きいので下描きを描くだけで、鉛筆がものすごい勢いで減っていきました(笑)。仕上げる時も、自分はイラストレーターじゃなくてデザイナーなんだから、一般的な常識からはずれたって構わないと開き直りまして、サインペンも使うし、修正液も使うし、いろんな画材でペイントしています。マジンガーZのロケットパンチの衝撃波と、ライディーンのバリアが干渉して発する光のところは、構造色で見る方向によって色が変わる特殊な模型用の塗料も使っています。今回は印刷物じゃなくて、実物を見てもらう絵だからいいだろうと。

――『日本の巨大ロボット群像』というテーマで展覧会が開かれることについてはいかがですか?

宮武 横浜に、実際に動く18mサイズのガンダムがありますよね。ああいうものを作ってしまうのが日本なんですよね。今回の展覧会も、そういう文化があるからこそのもの、その文化の本質を見て欲しい、ということだと思います。体力の限界まで使って描いた絵というのはなかなかないので、6体のロボットを描いた巨大絵画を含め、楽しんでいただけたらと思います。

(プロフィール)
みやたけ・かづたか/メカニックデザイナー、イラストレーター、コンセプトデザイナー。1949年生まれ。神奈川県横須賀市出身。スタジオぬえ所属。松崎健一、加藤直之、高千穂遥と共にスタジオぬえを創立したメンバーのひとり。日本におけるメカニックデザイナー職を確立した草分け的存在であり、透視図解分野の第一人者。主な参加作品に『交響詩篇エウレカセブン』(コンセプチュアルデザイン)、『マクロスF』(コンセプチュアルデザイン)などがある。


※「日本の巨大ロボット群像 -巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-」
特設サイト:https://artne.jp/giant_robots/


 

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聖戦士ダンバイン40周年特設サイト:https://sunrise-world.net/event/003.php

詳しくはプレゼントページをご確認ください。


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