特集
SPECIAL
- インタビュー
クリエイターインタビュー
第21回 アニメーション監督、演出家 片山一良<後編>
後編では、監督を務めたサンライズ作品『センチメンタルジャーニー』『THE ビッグオー』『アルジェントソーマ』について振り返ってもらった。
――サンライズでの初監督となる『センチメンタルジャーニー』ですが、どのような経緯で手掛けられることになったのですか。
片山 実は、その前にさとうけいいちくんから、今考えている企画があるから手伝ってくれないかと相談があって進めていた『THE ビッグオー』の企画が、一度ペンディングになってしまいました。サンライズを離れることになるのかなと思っていた時、さとうくんの推薦があったということでプロデューサーの赤崎義人さんから話をいただいたのが最初です。
――もともとゲームの企画でしたが、ゲーム会社からの要望などはありましたか。
片山 実はそのゲーム会社の社長が、マッドハウス時代に別の作品だけど一緒の部屋で仕事をしていたライターの方だったので、ツーカーで話ができたんです。12人の女の子たちがひとりの男の子と関わって…という設定だったのですが、「男の子は出さなくていい」、「女の子中心の話にしてくれ」という話でした。自分も男の子を出してしまうと生っぽくなってしまうので、向こうから言ってもらえたのは良かったです。後は、声優さんはゲームの声優さんをそのまま使うっていうことくらいですかね。
――12人のヒロインを、それぞれ1話ずつ主役にするという構成はどのようなところからでしょうか。
片山 この女の子たちは日本全国に散らばっているので、一緒に揃うというシチュエーションはありえないと思っていました。それに、ひとりひとりの女の子にスポットを当ててフィーチャーしてあげた方が、キャラクターも立つというのがありましたね。だから、運命の男の子に出会った、その後の彼女たちはどうしているのかなというのを描けばいいのかと思いました。ちょうど12人いて1クールなので、ひとり1話ずつ割り当てればピッタリだなと…。少女マンガ的な展開に引き寄せられれば、自分の得意分野だし。
――この頃から、深夜枠のアニメが出始めましたが、深夜枠ということは意識されたのですか。
片山 それは考えてないですね。どの年齢層が観るのかというターゲットは考えますが、時間帯は考えていないです。どの時間に観ても、普通に観られるものとして考えていました。仕事から疲れて帰ってきて、テレビを点けたらたらアニメがやっていて、なんか面白かったなと思ってもらえればいいかなと。「今日はこれがあるから、絶対に観なきゃ」という作品より、たまたま観たらいい気分になったというようなものを作ろうと思っていましたね。
――次の監督作が『THE ビッグオー』ですが、企画自体はこちらが先に動いていたんですね。
片山 そうです。さとうけいいちくんから、相談事として「企画をまとめたいから、協力してくれないか」、「決まったら監督もやってくれないか」というような流れだったと思います。さとうくんとは、OVAの『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日(以下、ジャイアントロボ)』の時に知り合って、僕がロボットアニメをやりたがっていることを知っていました。その頃のさとうくんは、まだ自分が演出としてやれるのか不安があって、僕に声をかけてくれたのだと思います。ちょうど『マジンガーZ』が新しい大人向けの超合金として復活するというタイミングで、なおかつ海外のアクションフィギュアも日本でブームになっている頃でしたので、最初から大人をターゲットにした玩具の企画をアニメの現場から考えて発信できないかということで始まった企画です。玩具になるロボットアニメの場合、多くの場合が玩具会社の方からロボットのデザインが出てきて、それが出てくるアニメを作るという流れでしたが、そういうものを見て育った僕らが、こういう玩具がほしいというプレゼンをして、そのロボットが出てくるアニメが作れないかという動機で始まった企画ですね。世界観とかストーリーの方は僕に任せていただいて、さとうくんはキャラクター作りの方に専念するという形で進めていきました。
――ロボットものをやりたいという思いが一番強かったのですか。
片山 僕とさとうくんの中では、『ジャイアントロボ』というロボットものはやりましたが、途中からロボットの活躍よりも、おじさんたちがいっぱいでてきて超能力合戦をやるという感じになってしまったので、僕も不完全燃焼でしたし、さとうくんも不完全燃焼だったと思います。僕らとしては、やはり大きなロボットが出てきて、敵のロボットとガチで戦うという話をやりたかったので、それをやるチャンスができるというところが一番でしたね。
――当初は玩具化を目指しての企画でしたが、最終的に映像優先の作品になったのはなぜですか?
片山 そうですね、玩具のハードルは思った以上に高かったですね。今はそんなことはないのかもしれませんが、当時は「なんでこんな形状なんですか、もっと四角くならないんですか」とか、「このデザインでは玩具にできません」とか、色々と言われました。当時の技術では難しいデザインだったんでしょうね。そこで、プロデューサーの指田英司さんが玩具優先から映像優先にシフトして、映像が当たったら玩具を作ってもらおうと舵を切って、バンダイビジュアルに持ち込んだら企画が決まりましたね。
――その後、超合金魂としてビッグオーが出ましたね。
片山 映像化が決まったことで、プラモデルは出ることになったのですが、当時はそれ1つだけでしたからね。超合金魂は細かなところまで再現されていて良かったですね。その後も、MODEROIDでプラモデル化していただき、これまた出来が良くうれしかったです。なにより、今でも商品を出してもらえているというのが一番うれしいですね。
――second seasonでは、ロボットのアクションからロジャーの内面描写に移っていきましたが…
片山 second seasonからはカートゥーンネットワークが製作に加わり、そこからのオーダーで、話をまとめてほしいということがありました。話をまとめるということは、話の方向性がほしいということなので、やっぱりロジャーの話になっていくしかないかなと。ロジャーの目を通して、この世界がどうなっているのかという話に収束していかざるを得ないかなというところで、ああいう構成になりましたね。僕としては、もうちょっと毎回バラエティに富んだことをやりたかったなとは思っていました。
ただ、ちょっと時間が空いたことで、first seasonの時にはできなかったディテールの表現ができるようにもなりました。時間を空けずに作っていたら、これは無理ですと言われていたようなこともできたので、表現としては僕の作りたかった(趣味に近い)ものになったと思います。当時の心情としては複雑でしたけど、
――次に『アルジェントソーマ』ですが、こちらでは原案も手掛けられていますね。
片山 まだ『THE ビッグオー』をやっている時だったと思いますが、別のスタジオのプロデューサーだった小林真一郎さんが、僕のところに来て「何か面白い企画ある? やりたいことがあったら出して」って直に言われました。オリジナルをやっていいんだと思って、その時にこれまで温めていた企画を2つ出しましたが、そのうちのひとつが『アルジェントソーマ』でした。『THE ビッグオー』もサンライズらしくないシルエットを追求した作品でしたが、今度はもっとサンライズらしくないシルエットの巨大なものを出したいと思って考えていた企画が頭の中で膨らんでいて、ちょうどその時に声をかけられました。そこでこの企画を提出したら、速攻で企画が決まってしまいました。
――今度は、そんなに早く企画が決まったのですね。
片山 信じられないかもしれませんが、「今日、企画を決めてくるから」と言って小林さんが出かけていって、帰ってきたら「決めてきたわ」と…そんな感じで企画が決まっちゃったんです。後々、小林さんに会った時には、「片山くん、あの時はやっぱりバブルだったんだよ」って言っていました。あの頃の映像会社は潤沢にお金も持っていて、いろんな作品を作って会社を回していました。だから、会社を回すためにも、色々な企画を欲しがっていたんですね。だから、ちゃんとした企画を映像会社に持っていけば、すぐにやりましょうとなった時代だったんです。
――『アルジェントソーマ』は、左右非対称なデザインがかなりインパクトありますよね。
片山 あれは特に意識していましたね。人間の心の中は左右非対称だよなと思っていて、それが作品のテーマでもありました。善もあれば悪もある、愛もあれば憎しみもあるといった感じで、まったく完璧な左右対称じゃないというのが人間だというところから始まっているので、それを象徴するようなデザインとして作りました。巨大なものもそうですし、主人公もそこから作っています。
――やはり、巨大なものへのあこがれは強いのですか?
片山 そうですね、僕はオールドタイマーで、『鉄人28号』や『マジンガーZ』の洗礼を受けて育ってきたので、無条件に巨大なロボットに対してのあこがれを持っています。やはり巨大ロボットには、「人間の能力を無限に拡大してくれるもの」としてあこがれがありますね。『アルジェントソーマ』は、宇宙から来たエイリアンのパーツをつなぎ合わせて作った人造物が、要はガラクタで作ったロボットが意思を持ってなぜか人間の味方をして「ウルトラマン」的ポジションで闘ってくれるというシチュエーションでやったら面白いんじゃないかなというところから始まり、実は地球に来たのには意味があったんだとわかる。そこから巨大、強大ゆえの壮大な悲劇的ストーリーが生まれるということがやりたかったんです。
――『アルジェントソーマ』は2クールでしたが、1クールものの作り方と違うことはありますか。
片山 1クールものは、スタッフがノってきたところで終わってしまうので、ちょっと寂しいところはありますが、基本的なところは変わらないですね。僕は、自分でオリジナルの企画を出す時、1話と最終回だけは決めてから出すんです。それさえ決まっていれば、3クールになろうが、4クールになろうが、話の筋は変わらない。その間をどんな話で埋めていくかということだけなので、最終回さえ決まっていれば、間の話は膨らませることも、縮めることもできるんです。『アルジェントソーマ』の企画書にも、1話と最終回のプロットは書いておきました。
――最後にこれからアニメ業界を目指す方にメッセージをお願いします。
片山 普段からいろんな本を読んだり、いろんな映画を観たりして、いかに想像を膨らませているかというのが大事だと思っています。実際に演出をする前に、どれだけ想像力を持っているかってことが非常に大切だと思います。自分の中にないものは出てきませんから。既存のアニメだけじゃなく、いろんな情報を常に仕入れる努力をしてほしいですね。昔に比べて制約も多く、自由に作品が作れなくなっているかもしれませんが、まず、自分の目標を作って、そのためには何をしなくてはいけないのかを考えながら、そのための技術を身に付ける努力をしてほしいです。うまくいかないこともあると思いますが、めげずにやり続けていれば報われると信じて。それと人間性。(自分にあるかどうかは不明ですが)
←<前編>
片山一良(かたやまかずよし)
1959年8月28日生まれ、京都府出身。アニメーション監督、演出家。1979年、テレコム・アニメーションに入社。アニメーターを経て、1984年に「魔法の妖精ペルシャ」にて演出デビュー。1988年OVA『アップルシード』で監督デビュー。サンライズ作品では、『センチメンタルジャーニー』『THE ビッグオー』『アルジェントソーマ』『いばらの王 -King of Thorn-』の監督を務めている。
インタビュー掲載記念でサイン色紙をプレゼントいたします。
詳しくはプレゼントページでご確認ください。
『THE ビッグオー』の放送25 周年を記念した公式設定資料集「THE BIG-O 25th Anniversary Negotiation Files」が登場!
詳細はこちらでご確認ください>>