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2024.11.11

クリエイターインタビュー 
第21回  アニメーション監督、演出家片山一良<前編>

テレビ放映から25周年を迎えた『THE ビッグオー』の監督を務めた片山一良さんにお話を伺った。前編では、アニメ業界を目指したきっかけから、どのようにキャリアアップをされたかをお聞きしました。
 

――まずは、アニメ業界に入られたきっかけは何でしょうか?


片山 子供の頃から絵を描くのが好きで、マンガ家を目指していました。当時は萩尾望都さんなど、少女マンガにSFやアクションなどを取り入れていて、とても突き抜けた表現をされていたので、少年マンガよりも少女マンガの方が表現の幅が広く、表現の場としてはやりがいがあると思って、少女マンガ誌に投稿をしていましたね。しかし、その一方で僕らの世代は第一次アニメブームでもあり、アニメも毎週欠かさず観ているような少年でした。ある時、『未来少年コナン』という宮崎駿さんの作品を観まして、こんなすごい表現ができるなら、マンガではなくても面白いことができると感じたのが、目標をアニメにシフトしたきっかけでしょうか。そして、どうせアニメをやるならば宮崎さんの下でやりたいと、宮崎さんの当時所属されていた日本アニメーションに連絡もしたのですが、募集はしていないと断られてしまいました。やはり、僕としては宮崎さんや大塚康生さんの薫陶を受けられないのであれば、この道に進む意味がないと思っていたので、本格的にマンガ家にならなければと、その後も投稿を続けていたのですが、ある時、宮崎さんがテレコム・アニメーションというところに移り、そこで「一から新人を取って養成し、自分のスタッフにする」という募集が始まったのを見つけたんです。元々マンガ家を目指していたこともあって、ストーリーテーリングや演出に興味があったのですが、当時はアニメーターの募集しかしていなかったので、これはチャンスだと思いました。そこそこ絵は描ける自信はあったから、とっかかりはなんとかアニメーターとして入り込んで、隙を見て演出になれないかなと思って試験を受けたら、運良くなんとか入社することができました。
 

――当初は動画など作画の仕事からだと思いますが、演出の勉強はどのようにされましたか?
 

片山 もちろん仕事としては作画をするのですが、絵コンテや演出に沿って作画をしていきます。ですから、作画をしていても、宮崎さんたちの絵コンテや演出のやり方にどうしても目が行ってしまいましたね。演出をする上で、動画のタイミングやレイアウトのとり方、演出の参考になるものは、作画以上に見て吸収しようとしていました。
 

――実際に演出してみて、いかがでしたか?


片山 『風の谷のナウシカ』で演出助手として参加させてもらいましたが、本格的な演出修行の後すぐにスタジオぴえろを紹介されて、そこの魔法少女シリーズの2作目『魔法の妖精ペルシャ』をやらせてもらうことになったので、それが演出としての最初の仕事ですね。当時のアニメ業界の作品の作り方は、かなりの部分を演出や作画の裁量に任せてもらえました。上の人は、作品を作る時に表現をガチガチに固めてはいるのですが、作品ごとに一定のルールや幅がありました。が、その幅の中であれば、どれだけ突き抜けたことをしてもOKというか、逆にそういう突き抜けたことをしないと周りに認めもらえない、上に行けないという空気でもありました。ですから、結構やりたいことはやれましたね。もちろん、カット割りやタイミングなど、こうしておけば良かったという反省もありました。
 

――少女ものからロボットものなど様々なジャンルの作品を手掛けられていますが、その幅の広さはどこから来ているのですか?


片山 そうですね、最初に演出した魔法少女ものは女の子の心情を描くものですが、投稿していたマンガでもそういうものを描いていました。その一方で、金田伊功さんなどが描くロボットアニメもこの業界に入る前から大好きでしたし、特撮作品も大好きでした。ですから、いろんなジャンルの作品に手を出すことにまったく抵抗はないですし、むしろ隙があれば、自分のやっている作品にそういう他ジャンルのテイストを入れていきたいと思っていました。
 

――そして、監督へとステップアップされますが、監督と演出では何か変わりましたか?
 

片山 初めての監督は、OVAの『アップルシード』ですね。初めてだったので、監督としてのプレッシャーが大きくて、あまり周りを冷静に見られなかった。そういう意味でも、精神的にしんどかったです。でも、そこで周りに表現の目的を理解してもらうためには、誰に何を頼めばいいかとか、どういう風に説明すればいいかなど、現場を動かす方法は学びました。
監督というのは表現者ではあるけれど、制作とは別の意味で現場のマネージャーなんだということを痛感しましたね。ですから、次からはもっと冷静に現場を見ないといけないなと思いました。

 

――実際に、冷静に現場を見られるようになったのは?
 

片山 初めてテレビシリーズの監督をやった『エルフを狩るモノたち』ですね。OVAは、一発勝負なところが大きく、どう勢いを作って一気に盛り上げるかという感じですが、テレビシリーズは、1クール13本の中にクオリティラインを保ちながらもバラエティ感を出していかなければならない。マネージメントをしていくっていうことを冷静戦略的に考えてやりましたし、それができたと思います。OVAの時は、シナリオがそれなりのレベルに到達していれば、自分の絵コンテや演出でなんとかできるという考えもあったのですが、テレビシリーズの場合は、すべて自分ではできません。色々な方に絵コンテや演出を任せなければならない。ですから、その前のシナリオ段階で、どれだけシナリオを固めなければならないか、その先のスタッフや外注さんへの発注も含めて、全部計算した上で分配采配していくということを最初から考えてやりました。それにはかなり苦心しましたね。
 

――アニメを作る上で様々なセクションがあり、どれも重要だとは思いますが、その中で特に重要だと思われるのは何でしょうか?
 

片山 難しいですが、やはりシナリオですかね。例えば、僕が忙しすぎて、絵コンテを全部チェックすることができなかったとしても、シナリオをきちんと決めて、最低限このとおりに絵コンテを描いてもらえれば、面白い話ができるところまで固めておけば、作品のクオリティを維持していける。テレビシリーズの監督をやるようになってからは、かなりシナリオを詰めてやることにしています。そう考えるようになりました。
 

――ご自身で一番向いていると思うセクションは何でしょうか?
 

片山 やっていて、一番楽しいのは、絵コンテを描いて、レイアウトを切っている時ですね。あと最近は、シナリオが面白いですね。もともとストーリーテーリングがしたかったというのもありますが、0から会話を作って、話を構築していくというのは、すごく楽しいですね。どんな作品でも、最初に話がありきですし、話が面白ければスタッフもノッてくれます。
 

――数多くの作品を手掛けられてきましたが、オリジナルものと原作もので意識される部分は違ったりしますか?
 

片山 原作ものをやる時は、自分がその作品の一番の理解者でなければいけないとは常に心がけています。その上で換骨奪胎していくということが一番大事なことだと考えています。オリジナルの場合は、常にこれは面白いのか、自分は面白いと思うけど、他の人は面白いのかと自問自答して、不安があったら、どうすればいいのかと考えながらやっています。原作ものはすでに評価のある作品をベースにつくりますが、オリジナルにはそうした評価がないですから…
 

――最初にサンライズ作品に関わった時の時の思い出をお聞かせいただけますか?

片山 最初は『ミスター味っ子(以下、味っ子)』の絵コンテですね。何か面白い仕事はないかと、ある人に相談した時に、「今、味っ子の絵コンテを探しているけど、やってみるか」と紹介してもらいました。今川泰宏さんという人が20代で監督をやっていて、すごいパワフルでした。サンライズのオリジナル作品をやっていたスタッフはほとんどいなく、いろんなところからいろんな経験を持った人たちが集まってきていて、水滸伝の梁山泊のようなところで、一日中ワイワイガヤガヤやっていました。僕はサンライズが初めてでしたし、今川という人間に興味があったので、外注の絵コンテマンながら、スタジオに席を用意してもらい、ずっとスタジオの中で絵コンテを描いていました。お互い言いたいことは言い合える、本当に熱量のあるスタジオでしたね。今のスタジオは演出や作画の横のつながりというものがあまり感じられない気がするのですが、当時は演出も作画もお互いの顔を知っていて、お互いの得意技、演出の特長とか作画の特長を知っていて、解かっていたので今度の演出担当は○○さんだから、こうやってやろうなんて自分も絵コンテを描いて当て描きしたりしていました。当時『味っ子』は、サンライズの中でも一番透過光を使う作品だと言われていて、撮影さんには大変な苦労を掛けていました。それで、特別に撮影さんの慰労会もやったのですが、その時に撮影さんから「お前たち、やりすぎなんだよ」と言われて、こっちも「かっこいいからいいじゃないですか」と言い返していました。そんなやり取りをしながらも、結局「しょうがねぇな」と言ってやってくれるんです。絶対に「やらない」とは言わないんですよ。そういう言いたいことが言い合える環境でしたね。ですから、大変ではありましたけど、楽しいの方が大きかったですね。
 

――サンライズに関わる以前に持っていたサンライズのイメージは、関わってから何か変わりましたか?
 

片山 サンライズのイメージといえば、富野由悠季さん、高橋良輔さんに代表されるシリアスなロボットアニメを作るスタジオでした。ただ、関わった作品が特殊な作品(笑)だったので、イメージが変わったということはないですね。当時の作画も演出も全員サンライズの中のアウトロー集団だと思っていて、サンライズじゃないものを作っているというのが勲章みたいな感じでやっていました。
 

――その後、サンライズ作品に関わられたのは?
 

片山 その後は、さとうけいいちくんにレイアウトのチェックを手伝ってくれと頼まれて、『シティーハンタースペシャル グッド・バイ・マイ・スイート・ハート』に参加しました。演出協力ということになっていますが、レイアウトを手伝ったくらいです。でも、実はその頃から『THE ビッグオー』の企画自体は動いていました。
 

<後編>に続く


片山一良(かたやまかずよし)
1959年8月28日生まれ、京都府出身。アニメーション監督、演出家。1979年、テレコム・アニメーションに入社。アニメーターを経て、1984年に「魔法の妖精ペルシャ」にて演出デビュー。1988年OVA『アップルシード』で監督デビュー。サンライズ作品では、『センチメンタルジャーニー』『THE ビッグオー』『アルジェントソーマ』『いばらの王 -King of Thorn-
』の監督を務めている。

 

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