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覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第20回】
number.00:C 卵-ORANGESITE- ????年(1)
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地球──その表面の七割を占める大海原。その時の海中には、水に溶けるかのごとく突き進む白く巨大な魚影があった。いや、それは魚などではない。スピードはおよそ数百ノット。最速の海棲生物を二桁、人類科学の結晶たる攻撃型原潜を一桁、凌駕する異常な数値である。だが、それすらも深蒼の世界に適応した結果にすぎない。
影の正体はベターマン・アクアと化した、ソムニウムのラミア。その時点で彼は、遥か時空の果てで起こっている事象を超感覚によって感じとっていた。流体と化した海水に体表を撫でられながら、ラミアは予見する。
(この事象こそ、十一年後に身を投じることになる決戦の発端──)
全生命存亡をかけた覇界王との決戦──ラミアが覚悟と決意をさだめた瞬間だった。
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──そこは輝きに満ちた世界だった。勇者たちが辿りついた世界が、いかなる時間と空間に属するものであるのか、知り得る者はいない。
神話はここで、終焉を迎えた。
だが、今ここに星を越えた御伽話が始まる──
「いったいこの空間はどうなってやがるんだ!」
「我々は太陽系に向けて跳躍したはずではなかったのか!」
火麻激がモヒカン頭を抱え込み、大河幸太郎が自問する。
「むうう……このまばゆい輝きは……」
言葉を失う獅子王雷牙。超弩級戦艦ジェイアークの甲板に固定された脱出艇クシナダ、その艦橋でかわされた会話だ。
これに先立つこと数分前、彼らは滅び行く三重連太陽系が存在していた宇宙からの脱出を試みた。ジェネシック・ガオガイガーに残されたガジェットツール<ギャレオリア・ロード>によって、時間と空間を超越しようとしたのだ。
彼らが帰るべき処は百五十億年の彼方──ひとつの宇宙が終焉を迎え、新たな宇宙が誕生した、そのさらに遠未来に存在する太陽系。極めて困難な挑戦であることは疑いようもない。しかし、三重連太陽系の技術はかつて、ギャレオリア彗星というゲートでふたつの宇宙を結ぶことに成功している。困難ではあっても、不可能ではない。その確信があっての跳躍であった。
だが、いま彼らを取り囲んでいる空間は、明らかに見慣れた太陽系宇宙のそれではない。暁の空にも似た、黄昏の光に満ちた空間。それが彼らが辿りついた世界だった。
「!!……トモロ0117、状況を報告しろ──」
クシナダ艦橋内で座り込んでいたジェイアークの艦長たる戦士、全身が朽ちかけているソルダートJも問いかける。だが、固い絆で結ばれたはずの生体コンピューターは苦しげな呻きにも聞こえる音声を出力した。
「──現状では、不明……だが、類推は可能……ウウウ、この現象は……」
苦痛を感じさせる響きにも関わらず、ジェイアークは急速にその機能を回復させていった。もともと、光子エネルギー変換翼を有するこの超弩級戦艦は、極めて効率的な自己修復システムを備えている。だが、いま起こっている現象は、システムのそれではない。苦痛をともなうほどの超速度で、艦体構造物が強制的に再構成されているように見える。
「もしや……」
Jは、おのが生体サイボーグの身体にも力がみなぎってくるのを感じた。耐えがたいほどの苦痛とともに。
「ぬうううっ!……この感覚は──記憶がある」
立ち上がったJはメインモニターに表示されている艇外の様子を見る。そこに映し出されているのは、ジェイアーク甲板に横たわっているジェネシック・ガオガイガーと勇者ロボたちの姿だ。
そして彼らもまた、苦痛と再生の刻を迎えていた。
「くっ、どうなってるんだ……ジェネシックの全身が!」
ジェネシック・ガオガイガーにファイナルフュージョンしたまま、半死半生ともいえる状態だった獅子王凱は、おのが肉体と融合している勇者王が光とともに修復されていくのを感じとっていた。
「ガオオオオオオオオオオオッ!!」
ジェネシックの胸のギャレオンが大きく咆哮する。
そして、この現象は無機物のみに発生しているわけではなく、凱自身のエヴォリュダーとしての肉体をも再生させていた。その耳には、聞きなれた声も飛び込んでくる。
『凱……私の身体が──』
それはリミピッドチャンネルで語りかけてくる意思ではなかった。マニージマシンと呼ばれる加療機器に内蔵された通信機による肉声。戦いのなかで傷つき、重篤な状態でそのマシンに肉体を委ねていた卯都木命が、発声できるまでに回復したことを意味している。
「命、大丈夫なのか!?」
凱の声に、隠しようのない嬉しさがこもった。セミエヴォリュダーという特殊な体質ではあるが、命のそれは凱の肉体のように常人を遥かに超える頑強なものではない。ソール11遊星主との戦いのなか、ジェネシックマシンを蘇らせるため、真空空間に身を曝したことによる損傷は致命的なものだった。その状態から、言葉を発せられるほどに回復したという事実は、奇跡と言ってよい。
『大丈夫…身体の感覚が全部…元に戻ってる……』
「よかった、命……ほんとによかった──」
いずこともしれぬ空間に辿りつき、原因不明の現象が起きているにも関わらず、命同様に、凱の声にも涙の色が混ざった。この奇跡を起こしたのがたとえ神であろうと、悪魔であろうと、感謝せずにはいられない。
『うん、心配かけてごめんね……』
そして、恋人の声の微妙な変化に気づかぬ命でもない。通信波という細い糸のような絆を通して、ふたりは喜びを共有した。
奇跡のような現象は、周囲にいる仲間たちにとっても同様だった。ジェイアークの甲板上に横たわっていた勇者たちのボディも、みるみるうちに修復されていく。
「……お…おおおっ! なんだ? 大破したパーツどころか、自爆ユニットまで再生した!」
完全体に戻った撃龍神が立ち上がる。
「ああっ…お肌……スベスベ!」
「ボディがピカピカです!」
すっかり元の姿に戻った光竜と闇竜は、うろたえながらもはしゃいだ。
「イエーイ! マイクも不滅だっぜっ!」
ブームロボ形態のマイク・サウンダース13世も、ダブルネックのギラギラーンVVを天にかざしてアピールする。
「再生を確認!……しかし、一部しか残されていなかったガンマシンまで……」
復活したボルフォッグの横で、補助ロボットのピギーちゃんが、ビークルモードのガンドーベルとガングルーを支えている。
「おいおい、さすがにディビジョン艦までは戻らねえようだが……俺のこの姿は退化じゃねえのか?」
そうぼやきつつ立ち上がったのは、ゴルディオンクラッシャーのパーツから再生したゴルディーマーグである。その事実は、これが単なる修復現象ではないということを意味していた。それぞれの記憶となる設計回路のうちに刻まれた“あるべき姿”を再構成している──とでも言うべきだろうか。
激戦と連戦とに傷ついていた彼らにとって、それは福音にも等しい出来事のはずだった。だが、彼らにとってそれは何故か、不吉な現象のように感じられた。
「隊長殿……この現象、ハッキリとした記憶があります……!」
「ああ、僕も……覚えてるぜ……!」
その不安の正体を熟知していたのは、氷竜と炎竜である。そう、彼らはかつて経験したことがあった。未知のエネルギーにおのが機体が強制的に再構成されていく、苦痛に満ちた現象を。
「氷竜、炎竜、やはり……そうなんだな──」
喜びのさなか、頭から冷水をかけられたような気分で、凱は気づいた。
「この空間に満ちているエネルギー……ザ・パワーか!」
クシナダの艦橋では、既にGGGオペレーター達が解析作業を始めている。
「たしかに……ザ・パワー! いや、しかし……」
驚愕した猿頭寺が言葉を失う。
「なんなんだ? この膨大な数値は……」
モニターに張り付いている牛山一男だが、アシスタントの女性隊員に隣でサポートしてもらいながらも作業が追いつかない。
「オウ!……NO!」
各オペレーターの解析結果を収集したスワン・ホワイトが、過去のデータと照合し、素早く概算の結果を報告する。
「各機体の修復速度から推定されるエネルギーレベルは……ザ・パワーの数千倍にも達しマス!」
「なんだととぉぉ! あの超エネルギーの数千倍など……そんなことがあり得るのか!?」
頭を抱えた雷牙は、つづいて我が目を疑った。目の前のモニターに突如として複雑な模式図が表示されはじめたからだ。
「な、な、なんと……」
クシナダ艇内にいるGGG隊員たちは、いずれも各種分野におけるエキスパートたちだ。だが、そこに表示された情報を読み解けるのは、世界十大頭脳のひとりに数えられる雷牙だけであっただろう。
「インフレーション理論の最適解なのか? いや、だがこんな式は見たことがない……そうか、この空間はそうだったのか!」
「ワッツハプン? 雷牙博士……」
研究助手として務めてきたスワンの兄スタリオンにとっても、初めて見る雷牙の表情だった。明晰な才能と、いたずらっ子のような姿の二面性、そのどちらともいえない、感動に打ち震えた笑みを開花させている。
雷牙は号泣ともとれる心躍らせた表情を隠そうともせずに、周囲のGGG隊員たちに自分が知り得た情報を語りはじめた。
「諸君、我々がいる空間の正体が判明したぞ……<オレンジサイト>だ!」
「オレンジサイト……まさか、宇宙の卵ですか!」
スタリオンは近年読んだばかりの宇宙論を、記憶巣から引っ張り出した。ビッグバンによって誕生した宇宙が、膨張と収縮の果てに、ビッグクランチによって終焉を迎える。その終焉を超えた先にある、次なる宇宙の卵──それがオレンジサイトと定義づけられていた。
「そうだ、滅んでいった宇宙の屍であると同時に、生まれ来る宇宙の卵となる純粋なるエネルギーに満ちた空間──いや、正確には空間はまだ存在しないのだが、他にわかりやすい言葉も存在せんからのぉ」
時間と空間とが発生する以前にあったもの──それがオレンジサイトだ。雷牙は理論的正確さよりも、感覚的わかりやすさを優先して、説明をはじめた。
「つまり、ここは三重連太陽系の宇宙が終焉を迎えた後、僕ちゃんたちの宇宙が誕生する前の卵なわけだ。そして、ここには後に全宇宙を形づくる材料が、純粋なエネルギーとして存在する。そのエネルギーが次元の裂け目から遥か未来の宇宙空間に漏れ出たものが、ザ・パワーなのだ!」
「おい、オヤジ……じゃあ今、満ちあふれているこのエネルギーは、ザ・パワーの原液ってことなのか」
ソルダートJのかたわらに立つルネが、そうつぶやいた。彼女のサイボーグ・ボディも大きなダメージを負っていたはずだが、いつの間にか回復していた。どんな奇妙な真実でも、実感として受け入れるしかないほど完全に。
「おおっ! ルネ……!」
と一瞬、我が子を想う父親の顔をのぞかせた雷牙だが、すぐに状況説明の表情に戻る。
「ああ、そういうことだ。ザ・パワーと同じ効果を発揮しながら、数千倍ものエネルギーレベルであることも納得できる。いや、クシナダから観測できる分だけで数千倍というだけで実際は……」
そこまでを口にしたところで、雷牙は絶句した。いま獲得したばかりの知識がおそらく真実であろうことを、彼は確信している。だが、何者がこの情報を雷牙の端末に送り込んできたというのだ。ジェイアークとクシナダ、双方に存在するすべての知性体がそれを持ち合わせていないことは明白だった。
だが、その“何者”かは、あっさりと雷牙に正体を明かした。
(僕たちからのプレゼント、気に入ってくれたかい、兄ちゃん──)
2
「麗雄……その声、懐かしいのぉ……麗雄じゃないか!」
そう叫びつつも、雷牙は気づいていた。亡き弟の声は、音声で届けられたわけではない。かといって、リミピッドチャンネルのような伝達手段でもない。強いて定義づけるのなら、その意思を聞いたという認識が、いきなり脳内に発生したのだ。
(さすが兄ちゃん、正確な理解だ!)
麗雄が笑った。どうやら、雷牙が口に出さずとも、その意識を認識できるらしい。
「お前、ザ・パワーの力を借りて肉体を持たない生命体になったと、凱に語ったそうだが……ここにいたのか──」
その兄弟の会話は、周囲の者たちにも聞こえていた。
「父さん、さっき“僕たち”と言ってたな。母さんも……いるのか?」
その問いかけに対する応えが、凱の意識のうちに浮かぶ。
(ええ、私もいますよ……このオレンジサイトに)
かつて、獅子王絆という名の地球人であった精神生命体から、優しい波動が伝わってくる。凱の母である彼女は有人木星探査船<ジュピロス・ファイヴ>の乗員だったが、木星圏での遭難事故によって死亡した。だが、その意識はザ・パワーによって、肉体に依存せずに存在できるようになったのだ。そして、後にやはり木星圏で落命した獅子王麗雄もまた、同様の運命を辿ったのである。
(凱、そして兄ちゃん……いまこの瞬間にみんながやってきたという宿命を、僕は悲しく思う──)
言葉ににじむ悲痛な想い──それを感じとった凱は、理解した。両親が神のような超越者になったわけではなく、心ある存在のままであるということを。
「父さん、どういうことなんだ? 宿命……って何を意味しているんだ?」
(凱、そしてGGGのみんな──たったいま、僕たちの宇宙は危機に瀕しているのだ)
(まもなく、このオレンジサイトから、“終焉を超えた誓い”が未来に向かって噴出しようとしているのです)
これまで黙って、意識の交感を聞いていたGGG隊員たちの間に、ざわめきが広がっていった。一同を代表するように大河が問いかける。
「獅子王博士、そして絆夫人。教えてください、オウス・オーバー・オメガとはなんなのですか? そして、我々の宇宙の危機とはいったい──!」
(オウス・オーバー・オメガは、兄ちゃんが読み解いたように、宇宙そのものとなるエネルギーだ。後にビッグバンを経て、ひとつの宇宙を構成することになるエネルギーが凝縮されたものと言って良い……)
(時に、そのごく一部分とでも言うべきわずかな破片が時空を越えて、“次元の裂け目”から未来の宇宙に漏れ出すことがあります……)
「……つまり、それがザ・パワーだったというわけか」
麗雄と絆の説明を聞いて、雷牙は納得した。ひとつの宇宙そのものとも言えるエネルギー総量であれば、あのザ・パワーと比べてさえ桁違いだというのも納得できる。
(そうだ……兄ちゃん、想像してみてくれ。小さい破れ目から漏れ出たオウス・オーバー・オメガのほんの一部の特性しか持たない欠片でさえ、我々には超エネルギーとして認識されたんだ。破れ目が拡大して一気にそれが噴出したとしたら……)
「決まっている。宇宙は開闢から終焉への歴史を一瞬で駆け抜けることになるだろう──」
言葉の半ばで、雷牙は気づいた。
「まさか……それが起ころうとしているのか!?」
(その通りなんだよ、兄ちゃん……)
ふたたび雷牙の端末に、膨大なデータが送られてきた。わずかな破れ目がこじ開けられていく様子が記録されている。そして、それは明らかに人為的なものだった。
「これは……ソール11遊星主の仕業なのか!?」
──もともと緑の星の指導者カインは、滅び行く宇宙から新たな宇宙へ移民するため、“次元の裂け目”を利用して、次元ゲートを開く技術を確立した。だが、赤の星の指導者の複製であるパルス・アベルはその技術を発展させ、膨大なダークマターを採取する通路として利用したのだ。その過程で“次元の裂け目”が拡大していったのも無理はない。
そこまでの父と母、そして叔父の対話を聞いていた凱は、納得した。
「そうか……ジェネシックが切り開いたギャレオリア・ロードに突入した俺たちが、このオレンジサイトにやってきたのは、偶然じゃない」
(そうだ、凱。お前たちはここへたどりついたわけじゃない。ここを経由して、新たな宇宙へ帰る途上だったんだよ……)
「父さん、だけどオウス・オーバー・オメガがあふれ出ようとしている瞬間を、見逃すことはできない。いまここに俺たちがいあわせた……それが宿命なんだな?」
凱の問いかけに、麗雄も絆も即答してはこなかった。沈黙が肯定を意味するものであり、先の言葉ににじんでいた悲しみの原因であることを、凱は悟った。そして、胸のうちに浮かんだ言葉を、素直に口にする。
「父さん、そして母さん……俺、なんとなくわかったよ。いま、この瞬間にオレンジサイトにやってきたのは、宇宙全域の人たちを助けるためなんじゃないかってさ」
(凱……!)
麗雄と絆は、ともに息子の名を呼んだ。人知を越えた精神生命体になろうと、それ以外の言葉を見つけられなかったのだ。
「麗雄博士……それに!……初めまして、お母さま!」
滅び行く宇宙と生まれ来る宇宙の狭間に存在するオレンジサイト──この非日常の最たる空間において、極めて日常的な挨拶が発せられた。
「私、卯都木命といいます! あの、凱とは──良いおつきあいさせてもらってます!」
マニージマシンの固定具を切り離して、立ち上がった命が叫んだ。全宇宙の危機に対して、もうじき凱は全身全霊をもって立ち向かっていくことになるであろう。その前に、どうしても一言、挨拶しておきたかったのだ──自分が凱と出会う前に、故人となっていた人に。
いま、この空間ではプライバシーなど存在していない。発せられた言葉は、すべての者に筒抜けとなっている。そのことを承知の上で、命は絆に語りかけた。
「この後、きっと凱はまっすぐ宿命に向き合うと思います。でもっ、凱ひとりにはさせません! 私も! GGGのみんなも! 凱と一緒に立ち向かいます! 私たちみんな、勇気ある誓いとともに戦ってきた、凱の仲間です──!」
(ありがとう、命さん……凱を愛してくれて)
絆の声が、優しく語りかけた。
「やったぁ! 凱のお母さんに認めてもらえた!」
このオレンジサイトという空間では、独り言という行為も伝播されてしまうらしい。周囲から温かい笑いの波動が伝わってきて、命と凱はともに頬を染めた。
凱の従姉妹ルネは、唯一の半機械化サイボーグ体として、視神経を介する画像回路に映し出される、麗雄と絆の姿を感じ、うっすらと笑んでいた。
「ふ……あったかい……あったかいね……」
徐々に温かな思いが込み上げ、熱くなっていくその身体を、やさしく冷ますルネの冷却コート。その駆動音を聞き、隣に立つソルダートJも薄く微笑んだ。
3
「“次元の裂け目”の位置を確定シマシタ!」
「スワンくん、メインモニターに表示してくれたまえ。バーストまでのカウントダウンも頼む」
「イエッサー!」
大河の指示に従って、スワンはクシナダのメインモニターに必要な情報を表示させた。
「よし、現時刻よりOath Over Omegaを“トリプルゼロ”と認定呼称する! GGG全隊員! <トリプルゼロ>バースト阻止を目的とした、ゼロ作戦を開始せよ―――!」
「了解!!」
クシナダ艇内にいるすべての隊員たち、そしてジェイアーク甲板上にいる勇者ロボたちが唱和する。そして、各自が与えられた手順に従って、あわただしく作業を開始した。
思えば、連戦というのも生やさしく思えるほどの急転直下の連続だった。三重連太陽系におけるソール11遊星主との決戦、ギャレオリア・ロードによる次元跳躍、そしてトリプルゼロが新たな宇宙に噴出する“バースト現象”の阻止作戦。それらが間断なく、訪れたのだ。
だが、彼らは疲労を感じてはいない。トリプルゼロの副産物となるザ・パワーによって、肉体的な傷や機械的な損傷が修復されたということも一因だが、それだけではなかった。自分たちがこの場で何もしなければ、宇宙は終焉を迎えてしまう──その認識が、彼らに勇気を与えていた。
もともと、ここにいるGGG隊員たちはみな、宇宙存亡の危機を前にして、叛逆者の汚名を着せられることすら厭わずに立ち上がったのだ。自分たちに訪れた宿命を、喜びこそすれ、怯むことはない。
「バースト現象まで、あと七〇〇秒デス!」
「全GSライド、及びジュエルジェネレーターのリンケージ完了まで五九〇秒──間に合います!」
スワンのカウントダウンにかぶせるように、牛山一男が報告する。
精神生命体として人知を越えた情報にアクセスできるようになった麗雄と絆が提示した作戦は、わずかな準備で可能なものだった。すべてのGストーンとJジュエルをリンクさせ、そこから発生するエネルギーで噴出しようとするトリプルゼロを押し返す──ギャレオリア・ロードを使用するためのセッティングを、そのまま使用することが可能だ。
『猿頭寺隊員……ビッグバンにも匹敵するエネルギーを押し返すことなど、我々だけで可能なのでしょうか?』
手元の端末に表示されたボルフォッグからの通信コードを見て、猿頭寺は微笑んだ。先刻の命が放った心の声で、互いの意思疎通が全員に伝わってしまうことが判明している。だからこそ、作戦への疑義ともなりかねない言葉を、あえて文字で送信したのだ。超AIが見せた細やかな配慮を好ましく思いながら、猿頭寺はあえて返答を口にした。
「大丈夫だ、ボルフォッグ。GストーンとJジュエルは、みんなの勇気をエネルギーに変換する……」
猿頭寺の言葉を受けて、凱が力強く肯定する。
「そうだ! 俺たちの勇気が砕けない限り、そこから発せられるエネルギーも尽きはしない! 俺たちの勇気は絶対に負けない!」
猿頭寺と凱の言葉に、ボルフォッグは確信の声を発した。
「その言葉を待っていました」
そして、他の勇者ロボたちも口々に賛同する。
「我らの思いはひとつ!」
氷竜がうなずく。
「僕たち全員、勇気ある者だ!」
炎竜が拳を握る。
「GGGバンザイ!」
撃龍神が両手をかかげる。
「みんなカッコイイ!」
光竜が闇竜の手をとる。
「みんな素敵です!」
闇竜もその手をしっかりと掴みかえす。
「勇気は最強だっぜっっっ!!」
マイクがサムアップ。
「おっぱじめようぜぇ!」
ゴルディーマーグがずっしりと身構える。
「ジェイアーク! 未来に向けて――発進!!」
ソルダートJが右腕を大きく振りかざす。
「了解!」
トモロ0117が出力を上げる。
「ふ……熱くなってきたね」
ルネが熱いまなざしを向ける。
「よおしっ!!いくぞぉっ!!勇者たちィィ!!!」
凱が叫び、ジェネシック・ガオガイガーが雄々しくたてがみを揺らす。
彼らは微塵も疑うことなく信じていた、自分たちがこの戦いにも勝利することを。いや、そうではない。勝利を信じられなくなった時、敗北の刻が訪れることを知っていたのだ──
(つづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ