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覇界王~ガオガイガー対ベターマン~【第39回】
《前回までのあらすじ》
覇界の眷族による波状攻撃を、GGGグリーンとGGGブルーの勇者たちは乗り切った。Gアイランドシティで猛威を振るったゼロロボの群れを、蒼斧蛍汰の活躍で撃退。さらに火乃紀と護が乗るガオガイゴーと、蛍汰の覚醒人V2による連携で覇界ビッグボルフォッグに打ち勝ち、そのAIボックスとゼロ核を保護することに成功したのである。
だが、すべては陽動に過ぎなかった。Gアイランド直下の海中で、新たなる覇界王が目覚めたのだ!
覇界王キングジェイダーと覇界幻竜神、覇界強龍神によって、トリプルゼロが地下高速移動システムを伝わり、世界中に一斉拡散される。遂に地球全土が、無数のゼロロボに埋めつくされてしまう事態に陥った。このまま、人類は、いや地球の全ての生命は、宇宙の摂理に従い、滅びていくのだろうか……。
number.?? 謎-NAZO- 西暦二〇〇五年
1
異形の出現、その第一報は民間からの警察通報によるものだった。東京都江東区の湾岸埋め立て地に、巨大な怪物が現れたという悲鳴のような通報が殺到したのである。
そして、ほぼ同時刻、軌道上の監視衛星が光学探知にて未確認巨大物体を捕捉。防衛省市ヶ谷庁舎A棟地下の航空自衛隊中央指揮所は、スクランブル発進を指令した。だが、百里基地から発進した第7航空団の邀撃機よりも先に、現着を果たした機体がある。
日本国政府直下の秘密防衛組織ガッツィ・ジオイド・ガード諜報部に所属する、ヘリ型のガンマシン<ガングルー>である。巨大物体の出現した地が、GGG本部ベイタワー基地より指呼の距離にあったため、火麻激参謀が乗り込み、独自の判断で先行したのだ。
『いま東京湾上空だ! そっちに映像送るから観て驚け!』
という参謀の怒鳴り声とともに、ガングルーの機首カメラで撮影された映像が、ベイタワー基地の司令室<メインオーダールーム>へ転送された。大河幸太郎長官以下、GGG首脳部はこうして、自分たちの"敵"の姿を初めて見ることになる。
──時に西暦二〇〇五年四月十一日。地球人類にとっての長い苦難の日々、その中でも特に記憶すべき、重大な出来事が起こる日であった。
地球人類と地球外知性体の交戦が、いつから始まったのか。その定義には諸説が存在する。もっとも極端な説を唱える場合、それは六五〇〇万年前ということになる。ZX-06が発生させたESウインドウから、この時代のユカタン半島に小惑星が落下、地球に氷河期をもたらしたのだ。もっとも、この事件によって恐竜の時代が終わったことが、人類の繁栄の一因となったのは確かだ。その意味でいえば、地球外知性体の干渉が歴史に影響を与え、地球人類という新種を発生させたとも言えるだろう。
また、木星探査船<ジュピロス・ワン>が帰還した、一九九四年を挙げる説も根強い。ジュピロス・ワンは木星からジュピターXと呼ばれる超エネルギー物質を持ち帰り、それらを巡って人類同士の抗争が行われたからだ。このジュピターXは二〇〇五年に確認されたザ・パワーと同質のものであり、宇宙開闢のエネルギー──すなわちオウス・オーバー・オメガ、略称トリプルゼロの欠片であると、後年には推測されている。
そして、最大の支持を集めている説が、二〇〇三年に起きたスピリッツ号の事故を嚆矢とするものだ。若干十八歳の天才宇宙飛行士・獅子王凱を襲った悲劇として知られている、スペースシャトルの事故。一般にはスペースデブリとの衝突と発表されていたが、それは真実ではない。噴出する星間物質の影響で、彗星と誤認されていた次元ゲート<ギャレオリア彗星>から出現した、地球外知性体認定ナンバー1号によるものだったのだ。EI-01は衛星軌道上でスピリッツ号と接触した後、同じギャレオリア彗星から飛来した宇宙メカライオン<ギャレオン>と交戦、地表に落下する。だが、明らかに意図的な制動によって速度を減じ、横浜周辺の市街地に多大な被害をもたらしながら激突。その後、地下へと潜伏したのである。
一方、ギャレオンは重傷を負った獅子王凱を保護したまま、地上へ降下。日本政府の管理下に置かれることになる。
ギャレオンの内部には、ブラックボックスと呼称されるデータボックスが存在した。EI-01との交戦で破損したため、そこから取り出せる情報は限定的なものとならざるを得なかったが、得られた情報や技術が、地球人類に未知なる敵への対抗準備を促進させたのである。
日本が入手した情報や技術をめぐってこの時期、世界各国と熾烈な諜報戦が行われた。だが、日本政府はそれらを公開することで地球防衛会議の設立を提唱。全人類規模での地球外知性体への防衛体制が整えられていくことになる。EI-01の行方もさだかではない以上、次なる侵略の手に備えることは急務だった。
その中核を担ったのが、秘密防衛組織GGGである。日本警察や自衛隊に集められた情報のうち、地球外知性体に関連すると思われるものはすべてGGGに送られる。EI-01との接触から二年、彼らはこの日に備えて組織を整備してきたのだ。
巨大な怪物──
その出現地域がベイタワー基地の至近だったということもあり、航空自衛隊の邀撃機よりもはやく現着したガングルー。そこから送られてきた映像を見て、GGGスーパーバイザーである獅子王麗雄博士は推測した。
「おそらく二年前に現れたヤツの同類……」
さらに、おのが敵の出現に呼応したのか、二年間沈黙していたギャレオンが活動を開始。現地へ向かって、飛翔した。
だが、ガングルーよりも自衛隊機よりもギャレオンよりも、もっとも早くその場に駆けつけた者がいた。
2
「あれが地球外知性体か……」
500系新幹線を模したライナーガオーの操縦席で、窓外に見える巨大物体を見て、獅子王凱はつぶやいた。そして、胸を焦がす想いとともに、拳を強く握りしめる。
事情を知る者ならば、誰もが無理もないと、口をそろえるだろう。つぶやいた口も、熱く焦がれるハートも、握りしめた拳も、ほぼすべて人工物なのだから。凱にとって生来の身体はほとんど失われ、今はサイボーグ手術によって生命維持されているのだ。
最年少の宇宙飛行士として華々しくデビューした初飛行で、自分を襲った悲劇。それは地球外知性体との接触事故によるものであると、手術の後、実父である獅子王麗雄博士の口から説明を受けた。だが、事故の瞬間、相手の姿をしっかり見ることはかなわず、以後の地上への落下時も含めて、ほとんど映像記録は残されていない。さらに地球外知性体は凱の肉体だけでなく、恋人の家族をも奪った仇敵であり、決して赦せる存在ではなかった。
そのため、二年の時を経て、東京湾に巨大物体が出現したと聞いた瞬間、凱はライナーガオーでベイタワー基地を飛び出したのだった。
やがて飛来したヘリ形態のガングルーが、上空から巨大物体を撮影。搭乗していた火麻は民間人の保護誘導にあたった。だが、巨大物体右腕部の強化集積電子レンジで瞬時に加速放出する荷電粒子砲に自衛隊戦闘機が、左腕部の改造集積冷蔵庫から発せられる瞬結冷凍光線にギャレオンが、撃退されてしまう。
ライナーガオーの機外へ出た凱は、東京湾連絡橋の上から巨大物体の全身を見た。埋め立て地に投棄された大量のゴミによって構成された巨体──その背部に、遊覧船が半ば埋まっている。手当たり次第にゴミを取り込んだ際、巻きこまれてしまったのだろう。
「! まだ中に子供がいるのか……!」
凱の強化された視覚は、赤外線反応を捉えた。人間の体温に等しい小さな熱源体が、遊覧船の内部で活発に動き回っている。反応は五人分。同時に現場とベイタワー基地の間で交わされる通信が、凱の聴覚には耳元で怒鳴られているかのように聞こえた。
『おい、子供がいたんじゃ自衛隊も攻撃できないんじゃねえのか!』
『たとえ攻撃しても、自衛隊の火力じゃヤツのバリアシステムは破れん』
ガングルーからの火麻、そして麗雄博士の言葉に、ついに大河長官が決意する。
『バリアシステムをすり抜けて、子供を救出できる者といえば……卯都木くん、凱を呼べ!』
『はい!』
ここまでの交信を経て、ようやく凱の専用に割り当てられた周波数帯で呼びかけが来る。
『待機中の機動部隊、応答願います──』
巨大な怪物を見下ろしたまま、凱は思わず……といった口調で応えた。
「全部聞こえてるよ。いくらなんでも待たせすぎだぞ、命」
機動部隊オペレーターである卯都木命は、凱の高校時代の同級生であり、かけがえのない存在だ。非常事態のさなかにあっても、呼吸はぴたりとあっている。短い会話でエネルギー残量やなすべきことを確認すると、凱はボイスコマンドを叫んだ。
「ドリルガオーッ!」
ライナーガオーとともに発進し、地中で待機していた双発ドリル戦車が、海底を割って巨大な怪物の足下から現れた。二連ドリルで巨大物体の胸部に突貫するドリルガオー。あっさり弾き飛ばされるが、それで注意がそらせれば充分だ。連絡橋の上から跳躍した凱は、空中で戦闘モードにイークイップすると、巨大物体背部に取り込まれたままの遊覧船に進入した。
「助けに来たぞ!」
そう声をかけた凱に、五人の子供たちの中でも元気な男の子が反応する。
「うわっはー! おじさんカッコいい!」
「おいおい、おじさんはないだろ。俺はこれでもまだ二十歳なんだぜ」
思わず苦笑がこぼれた。目の前にいる子供はまだ十歳にも満たないのだろう。凱との年齢差は十歳ちょっとだろうか。子供の感覚では、無理もない言葉なのかもしれないが、最年少パイロットとして、周囲から若い若いと言われてきた凱にとって、意表を突いたおじさん呼びに、つい反論してしまった。
この時、凱は気づいていなかった。おじさん呼ばわりしてきた少年が、自分とどれほど深い縁で結ばれることになる存在かを……。
だから、次の瞬間に凱が遊覧船から叩き出されたのは、運命的な出会いに気をとられたからではない。あまりにも日常的な会話に気が揺るんだ……というのが実情だろう。
巨大な怪物は、凱を狙ったわけではない。次なる行動へ移行するため、一体となった遊覧船の一部をメタモルフォーゼさせただけだった。そのパーツが運悪く、凱のサイボーグボディを船外へと勢いよく押し出したのだ。
「うわああああ!」
自分の身に何が起きたのか判断する間もなく、凱は海中へと没した。この攻撃を行ったメタモルフォーゼ──融合した機械類を変貌させる能力こそ、巨大な怪物を構成維持する原理である。その能力を活用し、怪物は鉄道と同サイズの細長い形態に、全身をメタモルフォーゼさせた。そして湾岸鉄道の軌条に進入、都心を目指していく。
「二年前の時と同じだ……」
麗雄博士が戦慄を覚える。あの時、EI-01はメタモルフォーゼによって、地下へ突入する形態へと変貌、行方をくらませたのだ。
「現時刻よりヤツを、EI-02と認定呼称する!」
大河が宣言する。それはこの日を予期していた日本政府によって、GGG長官に予め与えられていた権限によるものだった。
3
EI-02は湾岸地帯から地下鉄を経由して、新宿新都心に出現。さらに形態をメタモルフォーゼさせて、馬面の戦闘ロボットとなった。右腕の荷電粒子砲と左腕の冷凍光線が都庁舎に向けられた時、その背後に現れる者がいた。
宇宙メカライオン<ギャレオン>、そしてその頭上に立つサイボーグ凱である。EI-02の冷凍光線を浴びて海底に没したギャレオンは、体内発熱によって自己解凍。再起動後、ライナーガオーでEI-02を追っていた凱と合流したのである。
「フュージョンッ!」
EI-02が後背を向いた瞬間、凱は宙に舞っていた。そのサイボーグ・ボディを呑み込んだギャレオンが、メカノイドへと変形する。
「ガイガーッ!」
人のような四肢を持つメカノイドの口から発せられたのは、まさに凱の声だった。ギャレオンと凱はひとつに融合することで、ガイガーとなったのだ。
EI-02の両腕から荷電粒子砲と冷凍光線が放たれる。その時、ガイガーは高々と跳躍していた。EI-02は未知なるエネルギーで強化した集積ペットボトルロケットの質量弾で追尾する。
「ステルスガオーッ!」
質量弾の直撃を受けるかに見えた瞬間、ガイガーは漆黒の全翼機とドッキング、高機動で回避に成功していた。
(父さん……シミュレーション以上だ。俺は充分に、地球外知性体と戦えてる!)
EI-01の存在を知った日本政府が、秘密防衛組織GGGを設立したのは、それが尖兵であると知っていたからだ。ギャレオンのブラックボックスから得た情報では、さらなる脅威の存在も示唆されていた。
ギャレオンからもたらされた無限情報サーキット<Gストーン>によって、サイボーグとして生まれ変わった獅子王凱は、GGG機動部隊の隊長となった。それはGストーンの導きによって、ガイガーの姿へと強化合体できるが故だ。実際のフュージョンはこれが初めてだったが、今日まで凱は幾度となく、シミュレーションを繰り返してきた。地球外知性体に立ち向かうために──
だが、これで充分ではない。獅子王麗雄博士はギャレオンを解析、その真の機能について仮説を立てていた。ギャレオンの各部には情報・出力双方のドッキングポートが存在する。つまり、このガイガーとは巨大なシステムのコアマシンであって、単体で完成するマシンではないということだ。
麗雄博士とGGGは、『ガオガイガー・プロジェクト』を推進させてきた。宇宙の彼方に置き去りにされたであろう、ガイガーの支援マシンを地球人類の手で再開発しようという計画だ。宇宙製と同じ物を生み出すのは不可能だったが、地球製のマシンと、宇宙製のギャレオン、そして地球と宇宙を繋ぐ核となるGストーンのサイボーグによって、新たなスーパーメカノイドを再現しようとしていたのだ。
ステルスガオーもまた、先に凱を支援したライナーガオー、ドリルガオーと同じく、その支援マシン群──<ガオーマシン>のひとつである。ガイガーは分離したステルスガオーを囮として、EI-02に背後から接近。取り込まれていた遊覧船を切り離して、確保することに成功した。
「ありがとう、おじさーん!」
凱のフュージョンを見ていた少年が、またもそう呼びかける。二十メートルを越える鋼の巨人が、苦笑したような声を返した。
「おじさんはやめろ。俺はこれでもまだ二十歳──」
だが、言い終えることはできなかった。EI-02がガイガーを捕縛して、電磁攻撃をしかけてきたのだ。地球外文明の所産であっても、高出力の電磁攻撃にはダメージを受ける。しかも、いまの凱にとって、ガイガーの機体はおのが身体に他ならない。
(くっ、この状況を乗り越えるには……)
激しい苦痛のなか、凱はファイナルフュージョンを要請するシグナルを送った。GGGベイタワー基地のメインオーダールームにも、緊張が走る。シミュレーションにおいて安定した成功率を見せていたフュージョンとは異なり、ファイナルフュージョンのそれは限りなくゼロに近かったのだ。だが、GGGの最高指揮官──長官である大河幸太郎は迷わなかった。
「成功率なんてのは単なる目安だ。後は勇気で補えばいい……ファイナルフュージョン承認!」
長官の承認を受けて、機動部隊オペレーターである卯都木命は、ドライブキーに拳を振り下ろす。
「了解……ファイナルフュージョン、プログラムドライブッ!」
叩き割られた保護プラスティックの下で、ドライブキーが押し込まれる。物理と音声、二重の手順でロックを解除され、ファイナルフュージョンプログラムが、送信されていった。
「よっしゃあっ!」
おのが体とガオーマシン群がFFモードに移行したことを確認して、ガイガーはEI-02の捕縛から逃れた。同時に空中で、EMトルネードを展開する。これは高圧・高密度の電磁竜巻であり、FF中の接触を許さないよう、防御するフィールドだ。
「ファイナルフュージョンッ!!」
緑色の電磁竜巻の内部に、ガイガーの叫び声が轟く。同じ空間に包まれていた三機のガオーマシンは、シミュレーションでも予測しきれない複雑な過程を経て、合体を開始した。なにしろ、異文明からもたらされた謎のマシンと、地球人類が急遽開発したマシンとで、ひとつのシステムを完成させようという前人未到の試みである。あらゆる意味で、各所に無理が生じる。
またギャレオンのブラックボックスからもたらされた情報によれば、このシステムには様々な特殊能力が搭載されていたらしい。だが、そのすべてを内蔵することは、現在の地球文明では不可能だった。実兄・獅子王雷牙博士にも相談した麗雄博士は、それらの能力を外部ツールとしてオプション化することで、応用再現することにした。後に開発が追いつく予定である、ディバイディング・ドライバーや、ディメンジョンプライヤーなどのツールである。
地球文明の叡知を集約して、異文明の結晶を再現した機体。それが『ガオガイガー・プロジェクト』の成果である。ファイナルフュージョンを終え、EMトルネードが消失した時、そこには全高三十メートルを越えるくろがねの巨神が屹立していた。ガイガーよりもさらに巨大な体を得た凱が叫ぶ。
「ガオッガイッガーッ!」
4
勇者王ガオガイガー──それがこの日誕生した、人類の守護神の名だ。
EI-02が何の目的で新都心へ侵攻してきたのか、さだかではない。だがこの時、ガオガイガーの排除こそが最優先であると判断したらしい。右腕の荷電粒子砲と左腕の冷凍光線、その同時攻撃を浴びせかけてきた。
「プロテクトシェード!」
ガオガイガーが、左掌を前方に突きだす。左腕には防御を司るエネルギーが備わっているのだ。EI-02の攻撃はガオガイガーに触れることもできず、空中でその進路を屈曲させられた。幾重にも折り返された攻撃がすべて、EI-02のもとへ送り返される。
直撃! だがバリアシステムを突破することはかなわない。
「まだまだぁっ! ブロウクンマグナム!」
ガオガイガーは右前腕部を高速回転させて、撃ち放つ。右腕に備わっている攻撃を司るエネルギーを集約した拳。その打撃がEI-02のバリアシステムに叩きつけられる。打ち砕こうとするパワーと、弾き返そうとするパワー。その勝負は数秒の拮抗のうちに決した。ブロウクンマグナムはバリアシステムを突破、その奥にあったEI-02の頭部を粉砕したのである。
だが、それで勝利が決したわけではない。これまで幾度となく形態変化を見せてきたEI-02のメタモルフォーゼ能力が、破壊された頭部を瞬時に再生したのである。
「ようし、それなら……ヘル・アンド・ヘブンッ!!」
勇者王の右掌から攻撃のエネルギーが、左掌から防御のエネルギーが放たれた。
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……」
そして凱は、ギャレオンのブラックボックスから発見されたボイスコマンドを入力する。それがいかなる世界の言葉であるのか、知る術もない。だが、その意味するところは推測されている。
"ふたつの力を、ひとつに──!"
ガオガイガーが前方で両の拳を握り合わせる。同時にふたつのエネルギーはひとつに縒り合わされた。だが、損傷したブラックボックスから、続くボイスコマンドは見つけることができなかった。縒り合わされたエネルギーをどう使うのか──ここからは、凱の編み出した必殺技ということになる。
「はあああああっ!」
合体時の防御フィールドであったEMトルネードが前方に放射され、EI-02を拘束する。そしてガオガイガーの背部スラスターが展開、全力噴射で漆黒の巨体を前進させた。縒り合わされたエネルギーをどう活用するのか、その本来の術はわからない。だが、攻防一体となった状態でそのまま敵に突っ込んでしまえば──
それが、繰り返されるシミュレーションのなかで凱が編み出した必殺技"ヘル・アンド・ヘブン"であった!
暴風とも言うべきエネルギーの圧、それらは凱のサイボーグ・ボディに苛烈な負担を強いた。だが、凱が怯むことはない。何故なら彼は、勇気ある者だからだ。
攻撃と防御のエネルギーを集約させた両拳が、EI-02の胴体部にめり込む! 次の瞬間、その指先はEI-02の内部にあって独立した部位に触れていた。
(これがこいつの中枢部か──!)
その直感に従い、ガオガイガーは握りしめた部位を、EI-02の内部からえぐり出した。中枢コアを失ったためか、もはや再生することもかまわず、EI-02は爆発、四散していく。
ガオガイガーは掌中にあるコアを見つめ、それを握りつぶそうとした。もしも敵のメタモルフォーゼ能力がこの部位に制御されているならば、またここから再生するかもしれない。とどめを刺すという意味では至極当たり前の行動である。
その時であった──
ガオガイガーの前方に、異変が生じた。何もない空間に"裂け目"が生じたのである。
その裂け目は、凱に救われた少年の目にも映っていた。EI-02のコアを見つめているうち、心の底から沸き上がってきた衝動。それに突き動かされ、何かが殻を破って生まれ出るかのような感覚を覚えていたその少年──天海護も、見た。
虚空に生じた裂け目から這い出るように、何者が出現する。それは三十メートルを越える、くろがねの巨神であった。それが何者なのか、いかなる現象によってこの場に出現しようとしているのか、凱にも護にもわからない。だが──
「ガオガイガーに、似ている……」
凱はそうつぶやいた。ようやく全身を現したその姿……特に頭部は、ガオガイガーのそれと寸分違わぬように見えた。いや、真新しいガオガイガーとは異なり、それの頭部には歴戦で刻まれたのだろうか、無数の傷がある。
そして、その他にも様々な違いがあった。背部の両翼端には巨大なエンジンポッドが装備されている。肩のライナーガオー部は新幹線型ではなく、蒼色に輝く見慣れない形状だ。胸部にギャレオンの顔はなく、冠のような金色のパーツになっている。
さらに、大きな違いが存在した。そのもう一体の勇者王は、全身からオレンジ色のオーラを放っている!
「何者なんだ、お前は……」
畏怖を感じて、凱の声は震える。いらえはない。この時の凱には知るよしもなかった。目の前の存在が、いかなる世界から、どのような手段でやってきたのか。そして、なんと呼ばれる者であるのか。
覇界ガオガイゴー
――それは、二〇〇五年の凱と護が知り得ぬ名であった。
(number.??・完 number.07へつづく)
著・竹田裕一郎
監修・米たにヨシトモ