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2018.01.31

【第04回】運び屋椿

Episode1 (04)

 仕事で主要道を使う人たちってのは気が荒い。
 接客の時はあくまで温厚なタクシー運転手たちも、車道では商売敵に容赦ない。
 競って来るやつの勝負を買うのは、車道の流儀。
 ……いらない流儀だよぉ。

「コラッ! このトラック野郎が!」
「待ちやがれ!」
「あははははっ! 野郎じゃないけどねーっ!」
「スピーカーで、あおらないでよー!」

 何考えてんの、ホントに!
 前へ後ろへ、抜きつ刺されつのカーチェイス!
 一般車は巻き込まれてたまるかとばかりに、路肩へ逃げる。
 そりゃそうだよね。
 こんなわけわからん闘いに巻き込まれて事故おこしても、一円の得にもならないもん。

「ねえねえねえ、ツバキ!」
「なぁにぃ?」
「ボクね、ちょっと気になっている事があるんだけど」
「気になってること? なにさ?」
「あのさ……もしかしたらなんだけど……」
「うん」
「これって、警察に見つかったら……」

 ファン! ファン! ファン!

「って、ええええ! めっちゃ白バイなんですけど!!」
「ああ、そうねぇ」

 かくいうツバキは落ち着いた様子。

「なに落ち着いてんの? どうして? タクシー、パトカー、白バイ! 三連コンボでボクらのトラック目がけて追走してるんですけど!」
「そうだねぇ」
「缶コーヒー飲んでる場合じゃないでしょおぉぉっ!」
「落ち着きなよカエデ。こういう時ほど、落ち着いて周りをよく見なくちゃ」

 そ、そうか。
 確かにそうかもしれない。
 ひとつ呼吸を入れて――周りを見渡して……。

「おらぁ! このクソトラックがぁぁ!!」

 ファンファンファン!

「はい、そこのトラック、止まりなさーい!」

 ファンファンファン!
 赤のランプにタクシーの大行列。
 そして白バイ、パトカーは次々に応援に駆けつけて、もはやスペース・ハイウェイ大名行列!
 その中でも、ひときわ速い白バイがトラックの後ろについた。

『ツバキだろ! 車を止めろ!』

 あ!
 この声は――。

「チッ! マコトが来たか……」

 舌打ちしてる場合じゃないって。
 今、真後ろについてるのは、宙域警察機構Cosmic Police Organization(CPO)の交通課。
 その中でもきっての検挙率を誇る進藤マコトさんだ!
 まえに喜楽亭で会ったことある!
 するとツバキも負けじと拡声器のマイクに手をかける。

「ああ? 捕まえられるもんなら、つかまえてみれば!」
「ツバキ! バカバカバカ! なにこれ! どうすんのよ!」
「もう、うっさいわねぇ。ダイジョブよ」
「どこが? どれが? なにが?」
「開拓時代の法律が残ってるから、現行犯じゃないと逮捕できないのよ」
「ああ、なっるほどー☆ んじゃ、だいじょ―――大丈夫じゃないでしょおおおお!」
「だから大きな声出さないでって」
「いま! まさに! 現行犯逮捕直前でしょ! なにこれ!? サイドミラー見てよ! 後ろのパトカーと白バイ、最後尾が見えないよ!」
「そりゃ、そうなるように運転してるから?」

 なんで? なんで? なんで?

「ちょっと、このままじゃ逮捕まったなしだから!」
「だーかーら! ダイジョブっていったでしょ。ほら」

 そう言ってツバキがあごで指し示した先には、転送輪があった。
 広大な宇宙を輸送するために設けられた転送輪。
 ボクが知っているのは、このリングを抜けると、めっちゃ遠くまで行けるって事くらい。
 まあ、それはどうでもいいんだけどさ……。

「……ねえ、ツバキさん」
「こんどはなぁに?」
「転送輪をくぐるのはいいけど、ボクたちが潜ったら、とうぜん後ろのみなさまも……」
「一緒に潜って来るだろうね」
「ダァメェじゃぁぁぁん!!」
「ああ、もう、さっきからダメダメダメダメ、うるさいねえ」
「だって、そんな事になったらさ、もう捕まるの時間の問題でしょ……ああ、やっぱここまでかあ……このままボク、家に連れ戻されるんだ。補導だ、補導」
「もう、カエデは心配性だねぇ」

 ヘラッと笑ったツバキは、そのまま転送輪へと突入する。
 瞬間、トラックの窓が茶色いサングラスみたいな色へと変化する。
 この空間内の可視光線がめちゃくちゃ目に悪いから。
 ぶっちゃけ、こんなん直視したら一発で目が潰れちゃう。
 さて、後ろの追手は……。
 サイドミラーで後方の様子をうかがうけど、あちらも動けない。

 ここで逮捕しようとか、スピードで競り合おうとか、そういうのはないみたい。
 まあ、無理だよね。
 車から出ることは出来ないだろうし。
 なによりここでは身動きが取れない。
 そうしてあっという間にオリオン腕のはしっこまでワープ。
 トランダ宙域直前の道へ飛び出す。

「ひゃっほう!」
「なっ! なななっ!?」

 抜けた先の光景にボクは、目を白黒させた。
 だって、抜けた先には―――。

「前方車両! すぐに停止しろ! 命令に従わない場合は迎撃の用意がある」

 なんと国境警備隊の戦闘車両が待ち構えていたのだ!

(つづく)

著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭

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