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ユッコと反省会④
「よーし、いくよ!」
しゃがんだマッツンが号令をかける。
「ホントに大丈夫ですか?」
「出来ッとですか?」
「まっかせてよ!」
謎の幽霊、救出作戦にマッツンは何と手で掘り返すというトンでも作戦を考案したのである。
まったくイメージのわかないスタニャとユッコは、少し離れた位置から見ていることしかできない。
するとマッツンは腕をペロッとまくって、フンフンと気合を入れる。
そして両手を引くと、思いきり地面に、
「「突き刺したっ!!」」
そして突き刺した次の瞬間に、
「メガッパァァァァァ!!」
またあの掛け声だ!
なにかの略称なのか?
なんか意味があるのか?
すぐにでも聞きたいところだが、今はそういうタイミングじゃない。
絶対あとで聞いてやる、と心に誓いながら成り行きを見守る。
メリメリ――!
ベロンっ!!
地面がまるで絨毯のように引っぺがされた。
(すご―――っ!)
踏み固められた地盤が吸い付くようにまとめて捲れ上がる。
なんということだろう。
掘り返すというから、ここ掘れわんわんだと思っていたのに。
まさか地面を持ち上げるなんて思いもよらなかった。
「おお、綺麗にはがれたよぉ」
一仕事終えた感を出しておでこを拭うマッツン。
「何度見ても、すごいですね……」
「映画でも見たことなかと、こんな迫力!」
「えへへ! すごいでしょ」
二人もえぐれた地面を見に、駆け寄った。
「何か出てきたとですか?」
「ん~。なんもなさそうだけど?」
「死体とかではないと思うのですが……」
ユッコの言葉にスタニャが肩をビクッと揺らす。
「うひっ。ユッコちゃん、死体とか言わんといてよ。怖か……」
「スタニャは怖がり過ぎですよ」
「怖かとよ……見えんし」
そう考えればスタニャの感じる電磁波も確かにユッコにとっては怖い存在かもしれない。
そんなことを話しながら、ユッコはジッとえぐれた地面を見つめる。
「え? ねぇ、あれ……なんでしょう?」
「ん、なになに?」
マッツンとスタニャも興味深げに指さした先に目を移す。
そこには金属の先端のようなものがわずかに顔を出していた。
「あれって……」
するとスタニャがそこで、
「ちょっとまっとってください」
と言って、目をつぶる。
おそらく電磁波を飛ばして返ってくる反応を見ているのだ。
いわゆるソナーのような使い方をしているのだ。
「あれれ……これってもしかして」
「なになに、スタニャちゃん」
「この形状って……もしかしてなんですけど……」
ギギギギギとさび付いたロボットのように振り返ったスタニャの顔は、真っ青になっていた。
図書館にある新聞の記事にはこうあった。
『調布市の神社で戦時中に投下された不発弾発見』
三人は眉間にしわを寄せて、その記事をじっくり何往復もさせて読む。
あの後、すぐに近くの公衆電話から匿名で警察に電話をかけ、三人は跳んで帰った。
すぐに警察と自衛隊が出動し、戦時中に爆撃機から落とされた不発弾は撤去。
先日富士の演習場で無事爆破されたらしい。
ようやく顔を上げたマッツンはニッコリ笑う。
「いやぁ、よかったね」
「けが人もでなかったけん、万々歳たい」
「全然よくないのですけど……」
「どうしたの、ユッコちゃん」
またしても幽美さんにいいように使われてしまった。
これでは完全な使い走りである。
「何一つ目的が達せられてませんし」
「あはは。確かにそうだねぇ。でもまあ、いいことしたから、結果的にはオッケーってことで!」
前向きすぎるのである。
(まぁ……別にいいですけど)
ユッコ自身、別に不満に思ったりはしていない。
気持ちとしてはマッツンの言う通り、むしろ清々しいくらいだったのだ。
三人でこうして出かけなかったら、きっとあの爆弾はこれから先もずっとあそこに埋まっていただろう。
最悪の場合、工事や地震で爆発したりする前に見つけることができたのだ。
それはまあ……誇ってもいいのかな。
そんなふうに思ったりもしている。
ただ、いつも自分たちの能力を捨てるという目的からは遠すぎるのだ。
(いつになったら捨てられるんだろう……)
それを思うと溜息しか出てこないのである。
するとスタニャがどこか腑に落ちない様子で腕を組んだ。
「わからんとですね」
するとマッツンが愛想よく首をかしげる。
「なにがわからないの?」
「爆弾の幽霊たい。なして爆弾が寂しそうなのかって、それがわからんとですよ!」
「爆弾って生まれてきた目的が爆発することだからじゃない?」
いつもあっさりと答えたマッツンに、スタニャもユッコも瞠目した。
正直、目からうろこが落ちた。
マッツンにはこういうところがある。
いつだって、本質を見誤らない、そういう価値観を持っている。
「どしたの?」
ホケッとした顔で首をかしげるマッツン。
二人はただ無言で、マッツンの肩を叩いた。
「え? え? どうしたの、二人とも?」
わけがわからない様子だったけど、褒められているのだ。
彼女は目を白黒させながら、されるがままになっていた。
「うへぇ、くすぐったいよぉ」
ひとしきりマッツンをいじくりまわし、その日は解散となった。
帰り際、ふと視界の隅に幽実さんが立っているのに気づいて、ユッコは彼女を見る。
その顔はどこか、いつもより晴れやかな笑顔だった。
(つづく)
著者:内堀優一