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超能力研究部③
このままでは、その超能力をどうにかする部活に連れていかれてしまうのだから。
「なんて情報引き出してんですか!」
「まずか! 超能力を最大限まで引き出すと言うとっとですよ」
「だね」
「私たちの目的の真逆の部活じゃないですか。これはいけません。断りましょう」
スタニャとユッコの言葉に、マッツンも同意するようにうなずく。
「わかった、うまく断ってみるよ」
「お願いします」
「がんばっと」
ふたたび美緒の元に戻るマッツン。
ここは申し訳ないが、きっぱり断らなければならない。
「えッと、その部活なんだけど……」
「絶対来てもらうわよ」
「えっ!?」
「あたしもこの情報を表に出すには、それ相応の覚悟だったんだから!」
「そ、そうだよね」
「これは他の人に知られたらまずいの。またバカにされる……」
最後の方は小声でしょぼんとしながら消え入りそうになっていた。
それでも、絶対に三人を連れていくという美緒の気迫がマッツンを追い詰めた。
「うへぇぇ……どうしよう……」
ヘナヘナのマッツンに美緒が最後の追撃。
「迷っているのはわかる。すごくよくわかるわ。こういうことって、急に言われてもピンとこないわよね? 普通、自分に過分な力がそなわってるなんて、考えないもんね」
なるほど、それが普通の人間の思考か、とマッツンの目からうろこがおちた。
「たしかに考えないかも!」
「へ、変なところに感動するのね、あなた。……まあいいわ。とにかくあたしたちなら、あなたが持っている力を引き出すことができるかもしれないのよ!」
「これ以上は困ると言うか……」
「ん?」
ブンブンブンブン!
手も首も全部横に振った。
「ああ! なんでもない、なんでもない!」
「とにかく、あなたも超能力、欲しいでしょ?」
「「「いりません!」」」
一致団結して放たれた三人の言葉に、こんどは美緒は思わずのけぞった。
「な、なによ……そんなみんなで勢い込んで拒否しなくても……」
さすがに今のは過剰反応だったとユッコは深く反省した。
あせって否定すれば、痛くもない腹を探られる。
ことによっては自分たちのことがバレてしまうかもしれない。
ここは慎重に行かないとまずいと、さしものユッコも感じた。
「あ、あの! ちょっと相談させてもらってもいいですか?」
今まで発言しなかったユッコが突然口を開いたので、美緒は泡を食ったように目を丸くする。
「なによ、相談って?」
「そ、相談は相談です。タイム、願います!」
「別にいいけど……」
美緒からの了承が出たので、急いでユッコはマッツンとスタニャを招集。
教室の隅までササッと移動して円陣を組む。
「何か考えがあるとですか?」
「考えがあるわけじゃないんですけど……この話、これ以上掘り下げられるのはヤバいですよね?」
マッツンもこれには「うんうん」と同意してくる。
するとスタニャは目を×にさせて急き立てる。
「そもそも普通の中学生って超能力にあこがれとーとですか?」
これにはマッツン、ユッコが同時にハッとした。
「そう言われればそうですね」
「気付かなかったよ。みんなとそういうこと話したことなかったし」
しかしユッコにもこれは思うところがある。
「でも……マンガとかではそういう話けっこうあるじゃないですか?」
「あるある」
「ということは、けっこうみんなあこがれてる可能性があると思うんですよ」
「「たしかに!」」
「ここで、下手に興味ないアピールしすぎると、もしかしたら逆に怪しまれるかもしれません」
「「たしかに!」」
「興味はあるんだけど、でも家の事情で……的な何かをアピールして、それで断るという作戦でいきましょう!」
「ラジャー!」
「がんばっと!」
その頃――。
コソコソと話す三人を遠目に見ながら美緒は、
「どうかな、あの三人?」
と乃真子に弱気に話しかける。
しかし乃真子は自信満々で、
「興味はあるね」
「そうかな?」
「今までとはまったく違った反応だし」
「それは確かに……」
「あっちも興味あるって素直に言えないだけ、とか?」
乃真子の意見に、なるほどと美緒は目を輝かせ手を打った。
「その可能性は考えてなかった!」
「いけるね」
「すごい自信ね」
「まかせて。私の第六感がそう告げてる」
「ホントに?」
「ホントに!」
「……いまいち食いついてる実感はないんだけど……」
「だいじょうぶ」
「だからどこからくるのよ、その自信は……」
と話しながら、会話が終わるのをまんじりとしながら待った。
ようやくコソコソ話を終えた三人。
美緒の前に戻ってくると、マッツンが口を開く。
「え、えっとね、美緒ちゃん」
「……うん」
「超能力、その……普通に興味はあるかな」
「あるの?」
驚きを隠せない美緒に、マッツンはさらに取り繕う。
「あ、あるある!」
一応、それが女子中学生のたしなみであるかのように探りを入れながら、決して興味がないわけではないことをアピール。
ここはマッツンにとって最も重要なところ。
学生の何が大変かといえば、学校生活においてハミ出ないことなのだ。
ことさらハミ出ている意識が高いユッコ、マッツン、スタニャの三人はこういう事態にとかく敏感なのである。
ヘタしたらこれがきっかけで、ハブかれ者になるという危機感すら持っている。
仮に自分たちの能力がバレていなかったとしても、下手な振る舞いで周りからつまはじきに遭うことだってある。
それこそ彼女たちの恐れているものなのだ。
しかし美緒はその言葉をいたく気に入ったらしく満面の笑みを浮かべる。
「そう、興味あるのね。あんたたち才能あるかもしれないわ!」
「え! なんの!?」
「超能力を持っているかもしれない、って言ってるのよ」
「ななな、なんで、そんな?」
「ほら、よく言うじゃない。能力者どうしってひかれあうって」
思わず膝から落ちそうになった。
バレてるかもしれない!
とんでもない刺客が現れた。
そっと周りにバレないように生きてきたと思っていた三人には晴天の霹靂。
「そそそ、そんな!」
「あるわけなかとですよ!」
「なに言ってんですかぁ!」
ジタバタする三人に美緒と乃真子は
「「?」」
小首をかしげる。
「どうしたの、急に?」
「なんでもないよ! ね、ユッコ」
「はい、なにもありませんから、ね、スタニャ」
「なにもなかとですたい」
ウソを吐くにはあまりに無防備すぎた。
これを聞いていた乃真子が耳打ちをする。
「何かあるよ」
「そうよね。あたしもそう思う」
誰の目に見ても、ユッコたちの慌てぶりは尋常ではなかったのだ。
「ねぇ、もしかしてあなたたち……」
美緒の緊張した声色。
――ゴクリ。
息を呑みながらマッツンが一歩後ずさり。
「な、なんですか?」
さらに美緒がその距離をジリッと詰める。
「超能力に……」
「うぅ!」
「―――めちゃくちゃあこがれてる……とか?」
「「「うっ!」」」
確かに全員興味がある。
だが憧れではない。
捨てたいという意味合いでの興味なのだ。
しかし事情を知らない美緒がそれをおもんぱかることは難しい。
だから美緒にとっては、この三人の反応はむしろ好機ととれた。
図星を突かれた反応。
そう思ったのである。
こうなると美緒も自信を持って三人を誘える。
「実はあたしたちの部室、すごくたくさん資料があるのよねぇ。どう? 見たくない?」
その言葉に心動かされたのはユッコだった。
「資料……ですか?」
さっきまでの話が頭の中を過ったのだ。
オカルト雑誌が少ないことや、自分たちには圧倒的に情報が足りていないということ。
それは目の前の問題に対する救いの手にも感じてしまう。
気が付くとユッコは一歩前に出ていた。
「資料というのは……つまり?」
「過去に発売され、先輩たちが買いためてきた大量のオカルト関係の資料が部室にいっぱい」
「な、なんと!」
これはかなり魅力的な提案。
実のところ、そういう知識が全くない三人にとって、またとないチャンス。
もしかしたら、この能力を捨てる方法を手に入れられるかもしれない。
しかし迂闊について行って自分たちのことがバレることの方が怖い。
だがこの時、ユッコの脳裏にある可能性が閃いていた。
(……もしかして……この娘……こういう力に偏見がない?)
実はユッコだけでなく、マッツン、スタニャもまた同じことを考えていた。
彼女の言葉の端々に、超能力へのあこがれこそあっても、否定し嫌うような様子は感じられない。
それは今までにない体験だった。
みんなに見えないものが見えるユッコは、周りから気持ち悪がられた。
力が強すぎるマッツンは、ゴリラ女と男子から罵声を浴びせられた。
電磁波を送受信してしまうスタニャは家電などに異常を発生させ迷惑をかけてしまった。
誰一人、その能力で褒められたことのない三人。
だから美緒のこの反応をどう判断していいのかわからず、たじろいでしまう。
「ちょっと、タイムです!」
「え、また!?」
さすがに度重なるストップに美緒は困ったような顔をする。
でもここは慎重にいきたい。
「またです。ちょっと待っててください!」
すぐさま、ユッコは二人を参集してまたもや教室の隅へ。
「どうしますか?」
「どげんしたらよかでしょう」
「でも超能力とか嫌いじゃないみたいだし」
マッツンの言う通り、彼女は超能力を嫌っていない。
何よりも……。
「そうですね。それに部室の資料にも興味があります」
「ばってん、変なこと言ってバレちゃうことのが怖かとですよ」
「そうだね! 慎重にいかないと」
二人の言っていることももっともだ。
ユッコはそれらの意見をまとめる。
「つまりここは興味ないふりをして、でもそこはかとなく資料は見せてもらう、という方向性でいいでしょうか?」
「よかです」
「それでいこう」
意見は固まった。
交渉人(ネゴシエーター)マッツンが交渉の席に着く。
「では、部室……行きましょう!」
「ホント!」
うれしそうな顔をする美緒。
なんだか、マッツンは美緒をだましているような気になって申し訳なく思った。
(つづく)
著者:内堀優一