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2022.04.29

超能力研究部②



 

 

「見つけたわっ! やっぱり残っていたわね!」
「「「!!」」」

 ビクッ!
 いきなりの闖入者に三人は飛び上がりそうになった。
 教室に入ってきた少女はツインテールを揺らして、勝気な笑みを浮かべる。
 その後ろを、

「………」

 まるで影のように寄り添ってきたのは長髪の女の子。
 ユッコもスタニャも、彼女らに見覚えがあった。

(あれは隣のクラスの……)
(有名なふたりばい)

 ツインテールの娘は美緒ちゃんと呼ばれていた。
 一緒にいる長髪の子は乃真子さんと言ったような気がする。
 マッツンだけがまったく覚えがなかったらしく笑顔で小首をかしげる。

「だれ?」

 するとツインテールの美緒が失礼な、とばかりに頭をカッカさせる。

「隣のクラスの人間くらい覚えておきなさいよ!」

 一学年二クラスしかないのだから、その怒りも最もである。

「えへへ。ごめんね」

 悪びれる様子のないマッツンに彼女は怒りを収め、仕切りなおすようにコホンと咳をひとつ吐いた。

「あなたたち、いつも放課後に残ってるわね」
「うん」
「もしかして部活かやってないの?」
「部活はやってないよ」
「あら、それはちょうどいいわ」

 なにがちょうどいいのか、彼女はにんまり笑う。
 ちょっと上から目線だなぁ、と思いながらユッコは状況を見守った。
 こういう時スタニャは、自分の訛りが恥ずかしいのか黙ってしまう。
 ユッコもこういうグイグイ来る手合いは苦手で、言葉がすぐには出てこない。
 唯一平気なのはマッツンだけ。

「それがどうしたの?」

 マッツンがそう聞くと美緒は、

「……う、うん。えっと、実はね……」

 急にもじもじしだしてしまう。

「??」

 さっきまでの高圧的な上から目線はどこへやら。
 打って変わった美緒の反応にマッツンは不思議そうに小首をかしげる。
 すると美緒に隠れていた乃真子が、彼女に耳打ちをした。

「言わないの?」
「い、言うわよ。ちょっと待っててよ」
「なに? バカにされるのが怖いの?」
「こ、怖くないし! 超能力バカにしてる人たちなんて眼中にないし」
「なら、早く聞くといいよ」

「わ、わかってるから! 急かさないでよ」
「うん」

 散々相談してユッコたちを待たせて美緒が戻ってくる。

「あ、あなたたち、その……不思議な力とかって……どう思う?」

 ビクッ!

「「「えっ!!」」」
「えっ!?」

 同時に三人で飛び上がりそうになってしまった。
 その勢いに美緒もビクッと驚く。

「な、なによ? どうしたの、急に?」
「「…………」」

 明らかに動揺の沈黙をするユッコとスタニャ。
 頼みの綱のマッツンはソワソワしながら、

「あ、あああ、いやぁ別に? なにそれ?」

 と、大根役者っぷりをあらわにする。
 美緒の方はこの三人の反応に、

「え? あれ? うぅ……」

 やっぱり弱気になったのかちょっと怖気づいてしまったようだ。
 すぐさま脇に隠れている乃真子に小声で相談。

「どうしよう? やっぱおかしいって思われてるかも」
「だいじょうぶ。心配ない」
「あんた、どうしてそんなに平然としてられるのよ」
「部員が集まらないと、部室なくなっちゃうよ」
「そうだけど……今時、超能力とか言っただけで、中二病だとか馬鹿にされるもん」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「だからどこからくるのよ、その自信は!」

 美緒はすでに涙目。
 あくまで乃真子は落ち着いた様子で、

「様子見て、ちゃんと話す」

 美緒を励ますと、彼女も、

「わかってる……わかってるわよ」

 どうにか落ち着きを取りも出して深呼吸をした。
 同タイミング―――。
 美緒たちの反対側。
 ユッコたちも大慌てのテンパり状態に陥っていた。

「あ、あの娘、なんて言った」
「超能力に興味はあるかって言ってました」

 なにしろ彼女たちから出てきた言葉が問題だった。
 超能力、と彼女たちは口にした。
 この段に至っては、平静でいられるはずもない。
 自分たちのことが周りにバレるとすごく面倒なことになるのだから。
 それは三人ともおさないころからイヤというほど味わってきた。
 絶対にバレたくない!
 それが三人の共通の思いなのである。
 マッツンが涙目になりながらユッコに駆け寄ると、

「どうしよう? もしかしてあたしたちのこと気付いてる?」

 ユッコも慎重な言葉づかいで返す。

「そうかもしれません」
「うそ!?」
「だってどうしてわざわざ私たちに名指しで声を掛けてきて、そんな話題を振るんですか?」
「だよね!」
「もしかしたら、探りを入れられているのかもしれません」
「探りってどういうこと?」
「私たちが超能力者かどうか、確認しに来たのではないかと……」

 するとスタニャはブルブル震えながら、

「マズかばい」

 すぐにマッツンが続く。

「こ、ここはごまかさないといけないよね」
「そうですよ。なんとか切り抜けましょう。きっと相手はグイグイ質問攻めとかしてくるはずです」
「興味ないふりするとですよ」
「わかった」

 幸い美緒の方は全くこちらの動揺の意味を解してはおらず、

「なに? もしかして興味があるのかしら?」

 と探りを入れてくる。
 ここでマッツンが押し出されるように一歩前に出た。

「えっと、興味あるかないかで言うと、そこまではないかな」
「え……やっぱ……興味ないんだ」

 明らかにがっかりする美緒。

(((あれぇ!? 思ってた反応と違う!)))

 あまりの落胆ぶりに、マッツンは思わず申し訳なくなって、

「いや、でもあるっちゃある! うん、全くないわけじゃない!」

 なにを言ってんですか!
 とばかりにユッコとスタニャがマッツンを引き戻した。

「適当なこと言わないでくださいよ」
「だって、なんかがっかりしてたから」
「それはそうですけど……」
「なんか、勇気だして頑張ってる感じだったし、興味ないとか言ったら申し訳ないよう」

 こういう優しいところが彼女の長所でもあるが、同時に短所でもある。
 だからユッコは強くは言えない。

「それはそうですけど、だからってバレたらどうするんですか?」
「うっ……それはたしかに」
「少し話をして、それとなく会話終了させるのですよ」
「……………頑張るる」

 コミュ力は一個頭が上に抜けているマッツンに任せるしかない。
 偉そうなことを言っても、ユッコには美緒を言い負かすようなコミュ力はないのだ
 さて、そんな話をしている間―――。
 美緒と乃真子の方はというと、

「やった、興味あるって」
「喜ぶな、美緒。油断するのはまだ早い」
「わ、わかってるわよ」
「ほら、もう一押し」
「あんた、見てるだけのくせに……」
「美緒ならいける」
「そ、そうだよね! がんばる!」

 こちらもそこはかとなく、希望を抱いたりしていた。
 さあ、ふたたび仕切り直しである。

「で、どうかしら?」
「え、えっと……」
「あのね、もしよかったらなんだけど……」
「な、なに?」
「うちに来ない?」
「うちって? え? 家?」

 コミュ力モンスター(当社比)のマッツンがさっそく押されだした。
 美緒は首を横に振って、

「そうじゃなくて、うちの部室」
「部室っていうのは……つまり部活ってことだよね」
「そうそう。部活もやってなくて、時間を持て余しているのなら、うちの部室に遊びに来ないって言ってるの」
「な、なるほど……」

 言いながらマッツンはこちらに助けを求める視線を投げかける。
 まさかユッコも相手のテリトリーへ連れていかれるとは思いもよらなかった。
 答えは当然NOである。
 ユッコは手で×を作る。
 マッツンはうなずき返し、

「えっと、今回は……」

 断りを入れようとした。
 すると美緒はまたも急に気弱気になった。

「……いやなの?」
「え!? 嫌ってわけじゃなくて、その……」

 あたふたし始めた!
 しかも目がグルグルしている。
 テンパっている証拠だ。

「あ、あのね、いやじゃないよ! 全然いやじゃない! でもほら、あたしたちが部室とかに行っちゃっていいのかなぁ的な、部室お邪魔して迷惑かけないかなぁ的な、変に尻尾だしてバレちゃったりしないかなぁ的な!」
「しっぽ?」

((ばかーーー))

 ユッコ、スタニャ大慌てである。
 そんなこと言ったら痛くない腹を探られてしまう。
 しかし美緒の方は藪から棒な話で、さっぱり意味を理解してはいない。
 どちらかというと、あまり乗り気ではないマッツンの様子に、急に不安な顔になってしまう気弱な美緒。

「やっぱ……興味ないかんじだよね。う、うん。そうだよね」
「あ、いや、べつにそういうわけじゃないよ!」
「ホント!」
「でも、ほら……えっと、急にお邪魔しても、ねぇ、アレだからぁ……」
「なによ、あれって? 全然、うちは大歓迎よ」
「うぅ、しまった……術中にハマってしまった」
「なによ、術中って?」
「いえ、こちらの話なので」

 すると美緒は怪訝な顔をしながら、

「ホントは行きたくないんじゃないの?」
「そんなことないって!」
「そう?」
「そうそう! むしろ興味あるよ!」
「ホントに?」
「ちょーのー力? すごいよねぇ!」
「そう思う!」
「思う思う!」

 マッツンのその場しのぎな優しいウソに状況がどんどん悪くなっていく。
 思わずユッコは、

(あちゃあ……ダメだぁ……)

 さすがに頭を抱えた。
 しかしマッツンのウソに救われた者がここに一人いる。
 そう美緒である。

「そっか!」

 めちゃくちゃ明るい太陽のような笑顔だ。

「あのね、少なくともそういう不思議な事とかに興味があるなら、うちの活動を見てほしいなって思うんだけど、どう?」

 すごくうれしそうな顔でマッツンの手を取るのである。

(うわぁ……まぶしいよ)

 彼女の笑顔に目がつぶれそうな勢いのマッツン。
 このまま部室へ直行しては元も子もない。
 何とか断り処のタイミングを探るように、

「ど、どんなことをする部活なの?」

 と話題変換。
 すると美緒は一瞬ためらいを見せながら、

「興味……あるのよね?」

 その問いに変に怪しまれぬように無難に返す。

「え、あ、あるよ」
「じゃあ……話してもいいのかしら……」

 やはりまだためらおうとする美緒。
 マッツンもここはコミュ力を発揮する場と意を決した。
 相手に気持ちよく話してもらって、満足してもらって、帰ってもらう。
 そうすべきなのだ!
 それが最良の判断なのだ!

「話してよ! 聞きたい聞きたい!」
「ほ、ホントに?」
「ホントだよ!」
「バカにしない?」
「するわけないじゃん!」
「………」
「さあさあ、話しちゃいなよ。なんでも聞くよ」

 とにかく断る糸口を探すために、むしろ率先して聞きに徹する。
 これでご満足いただければよいのである。
 だが美緒は覚悟を固めた顔で、

「そこまで言うなら……でも、あなたにも覚悟してもらうわよ」

 完全に退路を断たれるかのような確認。

「え?」

 美緒は大きく息を吸い言葉を放とうとする。
 とっさにマッツンは止めに入った。

「ま、待って待っ――」
「私たちの部活は、人間の本来持っている潜在的な力を最大限まで引き出すために日々鍛錬をするという―――」

 ガタン!
 マッツンの身体が後ろへのけぞる。

「おわっ!」

 話の途中でマッツンは、ユッコとスタニャにまたも引き戻したのだ。
 止めざるを得なかった。

(つづく)

著者:内堀優一

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