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【第02回】“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
「まわりが"天才だらけ"の中で、どう生き延びる?」
“アンチ天才”のボトムズ流仕事術
2007年8月29日(水) 渡辺由美子
―― 四⼗数年前に、初めてアニメーション制作の現場に⼊った時の⾼橋監督の同期、同世代の⽅は、天才揃いだったそうですね。
⾼橋 宮崎駿さん(「⾵の⾕のナウシカ」他)、富野由悠季さん(「機動戦⼠ガンダム」他)、出崎統さん(「あしたのジョー2」他)。みんな僕と同世代なんですよ。
―― すさまじく著名な⽅ばかりですね。監督は、ご⾃⾝にはどんな才能があると思って、この仕事を選ばれたのですか︖
⾼橋 いや、僕の場合は特別な才能があると思って続けてきたわけじゃないんです。
21歳で⾍プロダクションに⼊ってからずっと、俺には才能がない、と思っていましたもん。スタートから挫折してました。僕が⾍プロダクションに在籍していた時には、同じ⾍プロの出崎さんも富野さんも売れっ⼦になっていましたからね。
⾍プロというのは、組織の序列よりも個⼈の才能を重視する社⾵があって、できる奴はその⽇から主⼒に抜擢されるようなところなんです。年功序列はなくて、完全な実⼒主義。
そういう所で、彼らは僕が会社に⼊った時から演出をやっているんですよ。僕は1年間、制作進⾏をやって。演出は2年⽬になってからでした。
演出になれた時は、やれる︕ と思ったんです。でも、出崎統、富野由悠季の仕事を⾒て、いきなりもう⾃分の中で結論が出た。
「この連中はすごい。天才だ。俺にはこの連中と伍して仕事をする才能がない」
⼤逆転のきっかけ、その時37歳
―― ⽐べる相⼿が相⼿ですから、それは⼤変な挫折だったのではと想像するのですが。
⾼橋 そうですね。結局、⾍プロを出て個⼈事務所を作ったのですが、37歳ぐらいまで、ずっとくすぶっていたんですよ。
―― かなり⻑い間ですね。
⾼橋 演出の仕事はあるんですよ、やれば。アニメにとって右肩上がりの時代でしたから。でも与えられた仕事をこなしても、こなした結果が⾃分で満⾜できない。富野さんの仕事も出崎さんのも、演出として「これはいい」と思わされるわけですよ。ところが⾃分が作ったものはいいと思えない。仕事だからこなさなきゃいけないんだけれど、そこはワガママでもって、こなさないわけです(苦笑)。
それでいて、きちんと仕事をこなしている⼈に、ひどいことを⾔うんですよ。「こなしているだけの仕事なんかやる必要がないんだ」って。そう⾔ってサボる。サボっているから、当然悪い評判も出ます。それでますますくすぶるわけです。
そんな僕が、⾃分でこの仕事をやっていこうかな、これはやっぱり⾯⽩いもんな、と思えたのは、1981年の「太陽の⽛ダグラム」からですね。
―― それまでの仕事と、何が違ったのでしょうか。
⾼橋 ⾃分が関⼼が⾼いテーマを初めてストレートに⼊れてみたんです。
ダグラムには、ベトナム戦争がモチーフとして⼊ってます。僕は昔から、ノンフィクションに興味があって、開⾼健とか、⽯川⽂洋とか、沢⽊耕太郎だとか、そういう⼈たちの何かをアニメーションの中に⼊れられないかなと。
社会的な作品……映画だとあるじゃないですか、社会派とかいろいろ。「アニメーションの中でそういう作品はまだないな」と、当時思ったんですね。ハードアクションものはあるけど、社会性を持ったものはそうはないなと。そういう題材が、アニメーションでできるか、やってみようと。
―― ⾃分が興味がある題材とアニメでやりたいことが⼀致して、そこで初めて⼿応えを感じられたわけですね。
⾼橋 やっていて⾃分が楽しかったですね。僕はそれまで、「⾃分には才能がない」と思っていたんです。ずっと後で分かったことなんですけど、それは才能のあるなしではなくて、別のものだったんです。
―― と⾔いますと……︖
⾃分の“勝負ポイント”を決める
⾼橋 僕には「引き出し」がなかったんですね。
「天才だ!」と僕が思った⼈たちは、⼊社する前からアニメや漫画が好きで、アニメに対する素養があったのに、僕にはそういう引き出しがなかった。引き出しもなくて努⼒もしないで、いきなり彼らと伍そうと思った。⼊社してすぐに「あいつらは才能がある、俺にはない」という仕分けをしちゃって。それは⼤きな間違いで。
才能ではなく、引き出しの違いというのに気がつくのに、ずいぶんかかりました。
⾃分の引き出しは、彼らと違ったんですよ。逆に、引き出しの違いが勝負ポイントになると思ったんです。
僕が好きなのはノンフィクションとか時代劇。そんなところの材料というのは、アニメの⼈はあまり持って来ないんです。だから僕は、なるべく漫画好き、アニメ好きが触れないようなところから持ってくる。
―― 勝負ポイントを、⾃分の強いところに持ってくる、ということですね。
⾼橋 そうすると競争相⼿が少ないから、楽じゃないですか(笑)。
「ガンダム」に呑み込まれなかった理由
―― そして「ダグラム」の成功が、今なお新作が出るほどの⼤ヒットとなった「装甲騎兵ボトムズ」に繋がりました。
⾼橋 「ボトムズ」は、「ガンダム」と同じく“サンライズのロボットもの”という流れではあるんですが、「ボトムズ」に登場する「AT(アーマード・トルーパー)」は、ロボットというより「戦⾞」に近いんですよ。いや、むしろジープかな。イメージとしては。ガンダムよりはかなり⼩型で4メートルくらいだし、基本的には使い捨ての量産機ですからね。
―― 移動⽅法も、ATは普通のロボットのような⼆⾜歩⾏ではなくて、ローラーで⾛りますね。戦⾞のように⼟煙を巻き上げながら。
⾼橋 地を這いずり回る陸戦。地味なんですけどね(笑)。陸海空と3軍あると格好いいのはやっぱり海軍、空軍でしょう。「残っているのは陸軍だから、陸軍でやろうか」と。そういうことですね。
ATのテイストが他のロボットとは系統が違うということは、ボトムズが⻑く愛されてきた理由として、かなり⼤きいと思うんです。
ほかの作品は、みんな「ガンダム」の路線に集約されていくんです。それだけ間⼝が広い作品で。あれはブラックホールみたいなもので、どんなロボットアニメも、作っても作っても「ガンダム」に吸収されていってしまうところがある。あらゆるものが。
「ボトムズ」だけが、「ガンダム」っぽくないわけです。デザインはどちらも⼤河原邦男さんなんだけどね。
―― 地を這う陸戦というのも、ロボットものと呼ばれる作品群の中では珍しいですよね。当時、もっとケレン味を利かせた巨⼤ロボットを出して、「ガンダム」を越えようといお考えはありませんでしたか︖
⾼橋 越える必要はないんですよ。「ガンダム」があるのに、「ガンダム」を追いかけてもしょうがないから。だって、全部が「ガンダム」にならなくてもいいじゃない。
単純に考えれば分かることなんです。世の中のアニメーションが全部、宮崎駿、富野由悠季だけだったらつまらないでしょう?いくら良くたって(笑)。
(次回に続く)
※本連載は、2007年に公開されたインタビューのリバイバル掲載になります。