サンライズワールド

2022.08.06
撮影監督・脇氏が語る!スタッフトーク付き上映会第2弾レポート

8月5日(金)より全国ロードショー中の劇場版『Gのレコンギスタ Ⅴ』「死線を越えて」の公開を記念して、公開日の8月5日(金)にスタッフトーク付き上映会第2弾を開催いたしました!
今回は、第3部のスタッフトークイベントにも参加し、人気作を多数手がける撮影監督、脇 顯太朗氏が登壇。進行は第1弾に引き続きプロデューサーの仲 寿和氏が担当し、『G-レコ』制作秘話をスクリーンに投影された数々の資料とともにたっぷりと語っていただきました!

昨日の会場の様子をレポートにてお届けいたします!
※レポート内容には本編『Ⅳ』『V』のネタバレも若干含みますので、お気をつけ下さい。


▲左から仲 寿和(プロデューサー)、脇 顯太朗(撮影監督)

絶賛公開中の『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」。劇場版『G-レコ』シリーズ最終章である本作の公開を記念し、8月5日(金)、新宿ピカデリーにて「公開記念スタッフトーク 撮影回」が開催された。

登壇したのは撮影監督・脇顯太朗氏。聞き手としてプロデューサー・仲 寿和氏が同席し、『G-レコ』シリーズに導入された撮影技術、ビジュアル表現、総監督・富野由悠季氏とのエピソードを熱く語った。

撮影監督とは、デジタル上で原画や美術を重ね合わせ、照明や効果線などのエフェクトを施し、全体の色調や彩度を調整するなどアニメーションのルックに大きな貢献を果たしている。テレビシリーズから足掛け8年間、富野総監督や演出・作画監督たちの指示を仰ぎながら、脇氏もまた『G-レコ』を支え続けてきたうちの1人だ。

脇氏は「最後の『V』まで観ていただいて本当にありがとうございます。今日いろいろと話せればと思っています!」と挨拶も早々に裏話を開始。
脇氏「劇場のみなさんは、先ほど『V』のラストシーンを見られたかと思います。映像的には、まず宇宙に浮かぶ地球が登場して、その中の砂漠地帯にカメラが寄っていくと、ベルリが乗った二足歩行ロボ”シャンク”が砂漠を歩いているシーンが出てくる、という流れです。あの砂漠、実はモンゴル地域にあるゴビ砂漠なんです。あの砂漠のシーンは、本当はもっと陽炎がゆらめいているような暑い感じにしようという話もあった。でも撮影時期がちょうど6月くらいで、その段階で東京の気温がめちゃくちゃ高かった。ゴビ砂漠でこの暑さを再現したらベルリたちが死んじゃうと思って、ほどほどにしました(笑)」

そこで「そういえばあの地球の映像は……」と仲プロデューサーもトークに参戦。
仲氏「あの素材(元の画)、地球の1枚絵だったんですよね。これだけじゃ足りないって話になって慌てました」。
脇氏「そもそもラストの地球は動かしたいという話だったんですが、いただいた素材が地球の1枚絵だった。これだと動かせませんって話をしたんですが、もうね、無理やりCGで動いているように見せましたよ!(笑)」

脇氏はこの日のためになんと『G-レコ』での仕事をパワーポイントにまとめ、スクリーンに映しながら解説するという「パワポ芸」を披露。

▼スクリーンに「ベェェェェルリィィィィィ!」と激昂するマスクの姿。

脇氏「何を言いたいかと言いますと、僕はめちゃくちゃ怒っているわけです! 怒っているのにはちゃんと理由がある。まずはコイツです」

スクリーンにG-セルフの頭部の画が浮かび上がった。

脇氏「この目ですよ、目!」

 劇場版からG-セルフの目(瞳)が描かれるようになったが、目を貼り込む作業は撮影班が担当していた。脇氏は作画監督・桑名郁朗氏がベースデザインを手掛けたという目を、あらゆる方向に貼り込んでいく作業映像を15倍速で再生しながらこう語る。

脇氏「これを見て感じとっていただけると嬉しいのですが、原画1枚1枚に目を当て込んでいるんです。これ、止め画の1枚絵ならまだいいんですけど、両目ありますからね。しかも動くんです(笑)。G-セルフは目線で演技もしているので、作画監督さんからの指示に合わせて1枚1枚、調整しながら目線の方向を変えています。目をひとつ貼るのに大体40分から60分かかります」

実はこの瞳、劇場版の制作初期段階では、1本あたり3カット?5カット。多くても10カットくらいの予定だったという。ところがーー。

脇氏「今回、目をいくつ貼ったんだろう? と思って計算をしてみました。『Ⅰ』が42セルフ(語尾の「セルフ」は脇氏独自の表現。本来は「1体」)。『Ⅱ』が56セルフ。『Ⅲ』が62セルフ。『Ⅳ』が75セルフ。そして『V』が45セルフです。ところがですね、この他にも版権物の処理なども担当していまして、これが大体35セルフもあった。つまり、合計約315セルフ! あれ? はじめの10カットって話は何だったの? だから私は怒り心頭なんですよ!(笑)」

これには場内も大爆笑。横にいる仲プロデューサーも恐縮の表情で頭を下げるという一幕も。するとスクリーンには富野総監督の姿が映る。

脇氏「それでもね、最終的に富野さんが喜んでくれればOKなんです! 実際、G-セルフに瞳が張り込まれたおかげで表情が出ましたし、それは富野さんの意向でもあったわけですから。それに『Ⅲ』以降はもうひとりの撮影監督・田中直子が作業をやってくれています。『こうやって貼れるよ』って教えたら、嬉々として貼ってくれるようになりまして。すべて脇がやったと思われたら田中に怒られそうなので一応言及しておきます(笑)」

続いては、『Ⅳ』のエンディングテーマ「カラーリング バイ G-レコ」が流れるシーンに映り込むビクローバー(キャピタル・タワー基部の地上施設)のカットについて。テレビシリーズ版でも似たような絵面が登場していたが。

脇氏「富野さんが、『第4部のエンディングにテレビ版のビクローバーの画を使いたいんだけど、目新しい感じにしたい』と言ったんですね。だったらカメラワークを左右に振ったりしないと新鮮味が出ないのでは? と提案したら、『ビクローバーをズームしているところから引く(全体を見せる)ようにしよう』となった。そこで試しに当てずっぽうに画像をズームして動かしていたら、突然、富野さんが『待て!』と叫んだ。何か、しでかしてしまったんじゃないか? と、場が凍り付きましたよ。そしたら監督が『今のこの画を最初のフレームで行く』と。そこでスタッフたちは慌てましたよ。動かすな! 誰も触るな! フレームがズレる!って(笑)」

富野総監督はその動体視力を以て、一瞬の画をチョイスしていた。さらに。

脇氏「富野さんがビクローバーに『もっと寄れ、もっと寄れ』(ズームしろ、の意味)って言うんです。これ以上やったら画像の解像度が低くなるので無理だってところまで。仕方がないのでやりましたよ。そしたら『ほら、言ったとおりに出来るじゃないの』とニコニコしてらっしゃって。いや、それ、細部を見ても遜色がないように私が“処理”(画像の追加)をしていますから、っていう(笑)。でもね、富野さんが笑顔であればそれでいいんです!」

そして、いよいよ話題は事前にSNSでも予告していた『Ⅳ』のクライマックスシーンについて、効果線や発光処理のトークに。テレビシリーズ時代からアニメーションの「線」についてアナログな質感を追求していたが、劇場版ではその表現がさらに進化。カシーバ・ミコシ戦におけるベルリVSマスク、G-セルフVSマックナイフの激闘シーンはアナログを思わせる筆圧、効果線、影の表現(処理)がより顕著になっている。

脇氏「戦闘シーンに迫力を出そうと思って線を足しました。富野監督作品で言うと『無敵超人ザンボット3』(1977年)で伝説のアニメーター・金田伊功さんが描いたカットなど、緊迫したシーンでキャラクターの気持ちが出ているときは、激しく効果線や影が描かれている。同じことを『G-レコ』でやってもいいんじゃないかと思ったんです」

脇氏「ビームやバーニアの発光にもこだわっています。最近のアニメではビームやバーニアの発光を表現するときに、文字通り光らせてしまう。でもセル時代のアニメを見てると光っているというよりも、『光っていることを絵として表現するにはどうしたらいいか?』という試行錯誤が見える。その手触りを再現してみたかった。参考にしたのは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)です。同作のエフェクトは品があってやりすぎていない。しかも緊迫した戦闘シーンのドラマとして成立していますからね。その後の『機動戦士ガンダム F91』(1991年)なんかは、『逆襲のシャア』でスタッフさんががんばり過ぎて、さらにオーバースペックな動きや処理をしています。ビームがあったとしたら、その周囲に散らばるビーム粒子だけが発光していたりする(笑)。この辺りも参考として拾いました」

こうした脇氏の過剰なまでのプランの裏には、こんな想いがあったという。

脇氏「『G-レコ』は8年も続いている作品じゃないですか。そうすると良い意味でも悪い意味でも『慣れ』が出てくる。スタッフ全員がオーダーに答えられる能力があるがゆえ、仕事がルーティンになっていく部分があった。現場的には仕事が進めやすいんですが、富野さんと仕事をすることに慣れてしまうのはマズイんじゃないか? と思いました。だって相手はあの富野さんですよ? “俺たちの『レコンギスタ』はそんなもんだったのか?”と」

脇氏「そんな気持ちにトドメを刺されたのが、『Ⅳ』の絵コンテが出来上がったときのことです。『Ⅳ』の戦闘シーンってすごいじゃないですか。2Dであんな計算されたコンテを切れるのは今の日本には富野さん以外いません。なのに、その富野さんが打ち合せでチラっとこう言うんです。『まあ、何のことはない、つまんないコンテですよ』と。その言葉を聞いた瞬間に怒りと同時に悲しくなっちゃって。きっと富野さんのことだから言葉通りの意味ではないと思いますけど、僕にはその言葉が『コンテ通りにやれば富野作品っぽくなりますから』みたいなニュアンスに聞こえたんです。その時、僕は思いました。『そんなことを言うんなら、(監督が)本当に想定してる以上の画面を出してやる。だから富野さん、ヤル気出してよ!』って」

そんな脇氏の熱弁に一瞬、場内が静まり返る。しかし次の瞬間、客席から次々と拍手が湧き起こる。それはしばらく鳴り止まなかった。

脇氏「そういう経緯があったんです。お陰様で時間と命を削りましたが(笑)。TVシリーズスタートの8年前、僕は24歳でした。当時、キャラクターデザインの吉田健一さんと『デジタルだとキャラクターの線に抑揚がない。アナログ時代のような人間味のある線を描きたいよね』と話していたんですが、当時の技術で全然実現できなかった。でも今の俺なら出来る! やるんだったら今、俺がやるしかない!って。つまりは富野さんが喜んでくれればいいんです! それで本当に長生きしていただいて、たくさん作品を作っていただければと思っています。やっぱり富野さんはスゴすぎるから、スタッフ全員が富野さんのコンテ、演出に乗っかっちゃうんですよね。そこにあぐらをかいて、がんばらなくてもいいと思ってしまうのは『違う!』と。富野演出にしっかり向き合って、想像を働かせて、俺たちは新しいレコンギスタをしなければならない! そう思っています。以上です!」

こうして日本一熱いスタッフトークは幕を閉じた。豪華景品の抽選会も含め、総時間はたったの31分。その情報の凝縮ぶりは、もうひとつの『G-レコ』本編を見るかのようだった。


【イベント名】劇場版『Gのレコンギスタ Ⅴ』「死線を越えて」スタッフトーク付き上映会 撮影回

【開催日】2022年8月5日(金) 20:35~21:05
【場所】新宿ピカデリー シアター3
【登壇者】脇 顯太朗(撮影監督)、仲 寿和(プロデューサー)

 

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