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2022.02.21

クリエイターインタビュー 第9回  福田己津央<後編>

『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』テレビ放送30周年を記念し、福田己津央監督へのインタビューを敢行。後編では、OVAとしてシリーズが拡大していった状況やこだわり、そして長くシリーズを重ねる中で感じた苦労や思い出を語ってもらった。

 

――『新世紀GPXサイバーフォーミュラ(以下、サイバーフォーミュラ)』のスタッフに関しては、自動車やレースに対してどのような思い入れがある方が関わっていたのでしょうか?

福田 メカデザインを担当した河森正治君は自動車が大好きだから。特定の自動車ではなく、いろんなタイプに関して造詣が深くて。その他にも作画スタッフなんかも自動車好きが沢山集まってくれた印象はありますね。脚本を星山博之さんに頼んでいるんですが、「俺、レースってわからないんだよね。競馬でいいかな?」と言われて。競馬の用語はレースに使われているものも多いので「いいんじゃないですか」と言ったのを覚えていますね。

――当時はF1ブームということで、スタッフもF1レースを見ている方も多かったのかもしれないですね。

福田 でも、それを『魔神英雄伝ワタル2(以下、ワタル2)』の後番組としてやろうって言うんだから、いい度胸だなと。テイストが全く違うわけですから。そういう意味ではセールスは厳しいだろうと思っていたけど、案の定関係商品はあまり売れなかった。それは、前番組の『ワタル2』に比べたらそうなってしまいますよね。ただ、そんな大きな赤字では無かったように思うし、むしろ当時はビデオパッケージやサントラ、ドラマCD、あと出版物が売れていたから、なんとか回収できたんじゃないかな。

――それは、やはり玩具を買う低年齢層ではなく、もっと高い年齢のファンに受けていたということになるのでしょうか?

福田 やっぱり、女性ファンが多かったので。20話くらいから、スタジオに同人誌が送られてくるようになっていて。ジャンルとしては、当時の『鎧伝サムライトルーパー』の女性人気なんかの影響もあったんじゃないかなと。

――女性人気が上がっていったことに関しては、どのように思われていますか?

福田 基本的に主人公と同じ年齢層の登場人物がスタート時点でいない。その段階でドラマとしては破綻しているところがある。お話もコミカルなものでもないし。

――主人公以外のライバルは、レースものということで成人男性率が高い。若い主人公が年上のキャラクターを追い上げていくと、そこに追われる側の葛藤が生まれて、どうしても大人っぽい話になってしまうというのもありますからね。

福田 そうなるように決めて話を作ったわけではないから。今みたいに最後までお話を決めないまま作っているし、シナリオは代理店やスポンサーなどみんなでチェックするけどコンテはあまりチェックされない。その結果、そうした流れになってしまったんですよ。だからこそ女性ファンが増えたところもあるだろうと思います。

――そんな形で試行錯誤して進めた『サイバーフォーミュラ』のテレビシリーズですが、どのくらいの段階で現在に繋がる人気の手応えを感じたのでしょうか?

福田 当時は1本完結したらそれで作品は終わりでした。だから、テレビシリーズの時はやり逃げみたいな感じで。後半は、「どうせ番組は終わっちゃうし、どうせ売れなかったんだからあとは自分の好きなものを作って終わりにしようぜ」という感じで。次の作品も決まってなかったし、全力を尽くしてその場でもう次の作品が作れないくらいヘトヘトになっても問題ないと思っていたので、ヤケクソで作らせてもらったんです。

――その気合いの入った作り込みが、ファンの支持を得てビデオパッケージが売れてOVAと繋がったという感じですか?

福田 そうですね。終わった後に何本か作らせてくれるという話になって。それは、当時の作品のトレンドみたいなものでもあって、ある程度テレビで売れたらビデオシリーズを2〜3本作って終わりにしようと。それが売れると「じゃあ、もう少し続けてみよう」みたいな感じで重なり、毎年毎年売れていった結果、OVAが続いていったと。

――OVAでは、作画やドラマの熱量が上がっていった印象があるんですが、福田さんとしてはどのような意識で臨まれていたのでしょうか?

福田 やっぱり、みんなテレビシリーズに心残りがたくさんあって。OVAではそれをきちんと解消したいと思っていたんです。

――OVAでは、レースシーンの迫力がレベルアップしていますが、そこもこだわった結果がフィルムになったということですか?

福田 そうです。あれはいろんな人がたくさんの知恵を出した結果ではありますね。撮影さんからもどうすれば、簡単に撮ることができるかという案を出してくれて。そもそも、撮影のキャパを越えるような撮影内容だったわけですが、それをどう省力化して、どう見せていくかというのをみんなが気遣って、いろいろ考えていきましたね。まさに、毎回毎回がチャレンジしているという感じで。当時はセル画の時代ですからね。物量や密度、動きの激しさも全てはマンパワーによるもので、逃げ場が無かった。今やるなら、デジタルの恩恵でもっと簡単にできるんですけどね。

――レースシーンでの撮影効果の入り方、火花やエフェクトなど、アナログで撮影している時代にかなりハイレベルな撮影が行われた結果、より迫力のある映像になっているわけですから、そこも演出的なこだわりがあったわけですね。

福田 絵で描いた自動車が動くわけがなくて、走行シーンも同じ形のものがずっと移動しているだけ。だからこそ、火花や気流などの動きをエフェクトで見せることで演出していく。そういうスタイルで作り上げていったものですね。今見ても、勢いはありますね。多分、CGで作ったりしてもあの迫力はなかなか出せないと思う。だけど、やっぱり大変だったから二度とやりたくない仕事ではありますね。

――OVAになってから、TVシリーズと違うことをやりたいという思いはありましたか?

福田 特に無かったですね。個人的には「なるべくレースはやめよう」と思っていたんです。大変だから。でも、レースを見せざるを得ない。レースは毎年同じ大会をやるわけですから、変化させるのは大変ですよ。もちろん、車種が違うとか、ドライバーが違うとか、抱えているドラマが違うというのもありますけど、それだけでは無くて。基本的に前回のものからグレードダウンはできないわけです。そうなると、テレビシリーズの最終回あたりが基準となって、そこからスタートしてOVAではどうグレードを上げていくかという。こだわったのはそれだけですね。

――毎年行われるレース展開のバリエーションを作るとなると、それはやはり厳しい戦いになりますね。

福田 しんどい話ですよ。実際に、1回音を上げたことがありますから。当時のプロデューサーに「もう辞めたいです」と言ったことがあって。「この作品をやって誰か幸せになるんですか?」と話をして。作っている側も見ている側も誰も幸せにならないのに、何で俺はこんなに苦労しないといけないんだろうと。そうすると「フィルムは残るから」と言われて。「フィルムは残るから苦労は無駄にならない」と。凄いこと言うなと思いましたね。

――OVAではファン層の変化はありましたか?

福田 見えるファンはやはり女性が多かったですね。出ているグッズが女性の方からの支持が多いわけだけど、見えていないだけで男性ファンも結構いましたね。

――メカものであり、F1ブームを踏まえた自動車レースものとなれば、レース好き、自動車好きの男子なら気になるのは当然ですからね。

福田 そうですね。以前、いのまたむつみさんの個展かなんかを見に行った時に、「監督ですか? 握手してください」って男性ファンに言われて。最初は彼女についてきた男かと思ったけど、こっちの男性が『サイバーフォーミュラ』のファンなんだなって。ものすごい偏見で言うけど、『サイバーフォーミュラ』のファンは比較的リア充やちゃんとしているファンが多いという印象がありますね(笑)

――OVAシリーズは苦労が多かったかと思いますが、改めて振り返るとどのような感想がありますか?

福田 本当に「いつまで続けるんだろう?」って思っていましたね。単一のシリーズで7〜8年はやっているはずだから。そういう意味では『ZERO』では、後はもうできないと思って、完全に終わらせるように念入りにラストを描いたんだけど、それでも終わらなかった。当時、OVAは1シリーズあたり8本作っていたけど、最後の『SIN』では5本しか作れなかった。それは、予算の問題ではなく、こちら側の体力の問題で。やっぱり、単一の主人公じゃもう描けない。だから、『SIN』では主人公も変わったし。やはり、宇宙世紀を舞台にしたガンダムシリーズのやり方が正しいなと思いましたね。シリーズ毎に主人公を変えれば、描けることも多いんだけど、同一の主人公にしてしまったから辛かったなと。

――そういう意味では、ずっと悩みながら作品を作っていたという感じがあるんですね。

福田 やっぱり、新しいものをやる方が気がラクですよ。大変というのは、精神的に病んでくるような大変さなのではなく、同じ主人公だからこそどんどんディープな話になってしまって。そういう意味では精神衛生上よろしくなかったですね。

――いろいろ振り返っていただきましたが、『サイバーフォーミュラ』は30周年を迎えた現在でも高い支持を得ています。その理由はどこにあると思われていますか?

福田 良く判らないですね。嫌な思い出が多いので、あまり見直すのも好きじゃない(笑)。でも、後半の方を見ると、かなり力を入れて作っているのが判るので、「こんなことをやっていたんだ」、「これは、今の俺ではできない。よくやった!」と思ったりはしますね。これは、仕事じゃなくて趣味で作っているんじゃないかと思うくらい気合いが入っていますから。やっぱり、ヤケクソ感が凄くて、仕事は「ここまでやる」みたいな形で折り合いをつけながらやっていくものだけど、その線引きが『サイバーフォーミュラ』はおかしいなという気はしますね。

――その気迫のようなものが、今でも支持される理由かもしれないですね。

福田 そうですね。そうかもしれないです。

――作り手の熱量の高さは、見ている側がしっかり受け止めてくれていると思います。

福田 勢いだけはあるから。本当に、その当時は勢いがあった。まあ、勢いだけで作品を作ってはいけないといういい見本かもしれないけど(笑)。良かったところは、あれだけのことをやっても、サンライズはあまりうるさいことを言ってこなかった。だからやることができた。そういう意味では、サンライズはクリエイター側に立った会社だったというのは間違いないですね。

――一方で、ファンからは続編も求められていると思いますが、それに対してはどのように考えられていますか?

福田 僕らは作品を作っていないと死んでしまう人種なので、「続編をやって欲しい」と言われれば考えますし、言われればやりますということですね。求められたら作ります。だから、何度か続編に関しては言われているので、いろいろと考えたりもしています。ただ、昔と今では考えていることや条件も違ってくるので、そこがクリアになればというところですかね。

――では最後に、『サイバーフォーミュラ』ファンに向けてメッセージをお願いします。

福田 毎回言っているんですが、俺が頑張ってきたからではなく、支えてくれる人がいるから、30周年を迎えることができたんです。『サイバーフォーミュラ』は僕が作ったかもしれないけど、ブームを作ったのはファンのみんなだからという思いがありますね。そういう意味では感謝しかないです。だから、「また作ってね」と言われたら、「予算とスケジュールがあったらね」という感じで。やる気はあるんですが、やる気だけではどうにもならないのがこの世界でもありますし。フィルムを作る側なので、みんなと一緒に盛り上がれるタイプではないけど、テレビシリーズに加えて4シリーズの長いOVAがやれたのも本当にファンのおかげです。『サイバーフォーミュラ』からは、誰を見ながら仕事をしなければならないのかというのを本当に教わった。スポンサーやクライアントの顔を見ながらではなく、ファンを見て作ったというのは大きいです。それは、ファンにおもねったのではなく、ファンとダイレクトに向き合いながら、「この人たちはこういうものを望んでいるから、ちょっと驚かせてやろう」とそうやって作った作品であることは間違いないです。

福田己津央(ふくだみつお)

1960年10月28日生まれ、栃木県出身。アニメーション監督、演出、脚本家。
サンライズに入社し設定制作、演出助手を経て『機甲戦記ドラグナー』で演出デビュー。『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』で監督デビュー。『GEAR戦士電童』の総監督、『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の監督の他、『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』ではクリエイティブプロデューサーも務めている。

 

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