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- インタビュー
【第16回】リバイバル連載:サンライズ創業30周年企画「アトムの遺伝子 ガンダムの夢」
その16「“丸どえ~す”というモンスター……」
ゲストは丸山正雄さん
[遺伝子]がどうなっているかって企画は
俺的にはすごく興味があるんだけど‥‥
丸山「今回、このタイトル見て『おっ ちょっと待って下さい・・・・』って。要するに虫プロが駄目になった時・・・・、その[遺伝子]がどうなるかって企画は俺的にはすごく興味があるんだけど、俺的な答えは出てるわけ。その件に関していうと。サンライズ、マッドってことで言うと[マッドハウス]ってのは虫プロの遺伝子を良くても悪くても繋いじゃったっていうか継いじゃったところなわけ。好んだか好まなかったそんなことどうでもいいの。本当のこと言うと好んでなかったんだけど結果的にそうなってしまった。で、[サンライズ]はそれを否定したところだと俺的には思ってるわけ。遺伝子を切り捨てたところだと思ってるわけ。今現在、[サンライズ]は会社は誰がどうなっても続くだろうけど、[マッドハウス]は、手塚治虫が死んだ時に手塚プロが終わったように、まあもちろん何かを財産を繋いで食いつなげるというのはあるけれども、実質的にクリエイティブは終わっているわけよ。それと同じように[マッドハウス]も終わるかも知れない。まあ、終わらないんだけど、実は・・・・。ただ、その時は[マッドハウス]である必要はない気がする。別にりんたろうプロダクション、川尻(善昭)プロダクションで全然かまわないわけですよ。・・・・っていうふうにある時期の[マッドハウス]は終わるであろうと。いいじゃん、もう早く終わりたいと思ってんだけど、それは置いといて・・・・。もともとあまり話したくない部分でいうと、こういう(“アトムの遺伝子ガンダムの夢”という)タイトルで言うと、[サンライズ]ってのは立派な会社でそれに対してゴチャゴチャ言う筋合いもないし、むしろ“仕事頂戴”ってぐらいの立場なのね。[マッドハウス]は節操がないからどこの仕事でもやるわけで、“下請け何処でもOK”“何でもOK”・・・・何でもいいじゃん!って思ってて、採算分岐点である版権をちゃんとしようぜって会社ととりあえずお仕事ね、面白けりゃいいのね、当座転がってればいいのねっていうことだけでやってるという違いで、それが[マッドハウス]を逼迫してどこまで続けられるかというところで、いざとなったら大赤字で倒産しても誰も不思議に思わない。後はまあ社長がいなくなっても維持できるりっぱな[東映アニメーション]か[サンライズ]とは一線を画しているのだと思う。
私が持ち込んだテーマに対し当初多少の抵抗感と戸惑いを見せながらも丸山氏は話し始めてくれた。言葉が出ればそれはいつもの“丸たん”節でリズムを伴った言い回しと身振り手振りが聞く者を引き込んでいく。
虫プロの中で虫プロだけで
本当に食ってたか‥‥?
丸山「高橋良輔の虫プロのDNAは俺と全く同じで、俺は団体でそれをやってしまっている。“いいよ、何でも、面白けりゃ”って。“気に入らなけらばやんないよ”って。未だに会社としてそれをやってるってことの問題点は大きいって思うの。1人だと多少何とかなっちゃうじゃないですか。会社だとそんなことならないじゃないですか。“今だにそれでやってんのかよ、お前ら”っていうのは今後どうなるかは一つの問題だけど。・・・・[機動戦士ガンダム]って作品があったせいで、サンライズは目的を果たした。虫プロ潰れたのは現場持ってるからだよね、っていって現場を切って捨ててしまいましょうと。現場は逆に言うと仕事があればついてくるよと。それから、この人じゃなくちゃならない現場なんてあり得ないよ、っていうとこなんです。勿論作品ごとのこの人じゃなくちゃいけない、ガンダムは“富野、安彦じゃないといけない”ということはあるけども、まずそういう発想だと思うんですと。まあ、けなして言うんじゃなくて誉めて言うんだけど。そのことにこだわるのはあの面子に誰一人いない、創業者の中に・・・・」
高橋「もっと極端に言えばガンダムですら“富野であり、安彦じゃなくてもいい”。ガンダム全体の在り様を見ればそう言えるかもしれない」
丸山「だから、そういうことじゃなくて仕事としてアニメーションの企業としてどうやっていくかという、そういう時に人は要らない。それから版権がないことにはやっていけないというところに、元々[虫プロ商事]というある部分が母胎になってるんですよ。仕事の流れとしてはね。[虫プロダクション]の制作部とは微妙にずれてるわけですよ。勿論それだけじゃなく岸本吉も入ってるわけだから、それとこれがくっついたと。何て言うのかな、[商事]の部分がくっついた・・・・。言えば、彼らが食うための仕事場なんですよ。・・・・今は違うよ。立ち上がった時点に置いてそういう会社なんです」
高橋「それは創業者達も自分たちでそう言っている」
丸山「俺は俺が食うための仕事じゃないんですよ。まあ、極端なこと言えば出崎統が食う仕事だったり波多正美さんが食う仕事ならそれでいい。俺が必要とするならば良いじゃん。立ってるところが、スタートのところが全く違ってるんですよ。立ち上がったときに虫プロのある悪い部分を繋いだ会社とそれはダメだって否定してやろうとした会社の違いなんですよ。ところがその2つともイヤでも何でもないんですよ。だから[サンライズ]の仕事がくればやるし・・・・(笑)。条件が折合えばやる。虫プロの中で虫プロだけで本当に食ってたかっていうと、外注でもやりかねないって勢いの時期があったじゃないですか。それをそのまんまやってるだけの話しみたいなとこはあるかもしれない。だからこの企画の[アトムの遺伝子ガンダムの夢]っていう題名の間に大きな中黒マークが入って、『アトムの遺伝子マッドハウス・ガンダムの夢サンライズ』が正しいなあって思うんだけど。(笑)これがこう繋がるってのは、いや何とかつなげて考えてみたいなとは思うんだけど、俺の今の時点ではなかなか繋がらない」
監督1人だけでは
アニメーションはできない!
高橋「創業者達は・・・・・・・・凄くはっきりしているの。同床異夢とはいわないけれど、同床異夢とはちょっと違うんだけれども、食っていく目的で一致していてそこに自分たちの別個の能力をそれぞれがね、最大限この組織に捧げましょう。その代わり無い物ねだりはしないと。食い終わったところでやめましょうって。そこまで話してなかったと思うけれど、結果的に食えたからここでやめましょうって見事に完結しているように見えるの。本人達はそういうふうに整理はしてないんですよ。整理して語ってはいないんだけど、この間なんでこの時期に止めたのと聞いたら、“プロダクションというものが有利な立場で展開できる時期は終わって、これはダメだろうと、自分たちの時代は終わったんだろうと、だからやめるんだ”ということは言っていた。その組織の大きいところ、例えば極端なこというと“メディアとしてどうしてもテレビを通らないといけないとするならば、もうプロダクションよりもっとテレビ局のほうが強くなる。だから、やっていけないからやめるんだ”って判断。そうした時にその判断とは別個に職業として食う、自分たちが稼ぐって時期は見事に終わって、後はもう別な凌ぎ方を後続に引き継いでもらおうと。その引継ぎについては自分たちにも後を継ぐ者達にとっても最良の方法は考えたのだと・・・・・・・・だから、食うという括り、食べるために職業として選んだって丸タンがそうみるとすれが、彼らもそれは認めると同時にそういう発言はしていますよ」
丸山「だから、成功させたからいいじゃんと思ってるわけよ。批判は片言もしてなくて、むしろある意味じゃその後を繋いだ連中がやれるような体制を作ったわけだから。言ってることが聞きようによってはね、[サンライズ]をまるで否定してて[マッドハウス]を凄く弁護してるように捉えられるのはイヤだから本当は触れたくないわけ。読む人がそう感じてしまったりする要素が強いじゃないですか。俺はわりと好きにやってるだけの話で、連中も好きにやって見事に成功して、できれば替わりたかったなってぐらいの話。だだ、立ち上がったところが違うから」
高橋「今、丸たんが言ってることは凄く良く判るし、そう読まれたら困るよね」
丸山「俺たちが一番問題なのは、出崎統が食えればいいんだけど出崎統1人ではアニメーションができないことが一番問題なの。虫プロの問題ってのはそこなの。サンライズに分かれたり[マッドハウス]が今ある一番の問題ってアニメーションって、富野さん1人で何できるの? ってあるじゃん。安彦君と組めばこうだし、次にこっちと組むとこうだしあるじゃないですか。そもそも現場がないかぎり成立しないわけだ。監督とかキャラクター(デザイナー)がいないと成立しないわけだ。それをどう組んでいくかってことは、これはかなりプロダクションの色っていうかな、体制あってそれによって統ちゃんがどのくらい作るとか、いつまで作れるか?とか、いつでもどこでも受け入れてくれればいいけどなかなかそれは出来ないじゃないですか、現実としては・・・・。ということで、今現在俺が続けてるってのは、りんたろうや川尻がしょうがねえな、早く引退しないから。早く引退してくれたら(笑)俺も少し楽になるのになって・・・・(笑)」
お仕事楽しんじゃおうっ
めんどくさいこと考えないようにしよう
高橋「これは別のときに聞こうと思っていたことなんだけど、アニメーションと言うのは確かに1人ではできない。で、周りで協力する。周りが協力した結果が“これかよ”っていうのはない? 正直なところで」
丸山「結論は一つだけだから、別の時にしても今日良ちゃんだから言ってしまえば、答案とか決まってるわけで、高橋良輔と俺とは双子のように近いって思ってる訳、自分で勝手に。お仕事楽しんじゃおうっと。めんどくさいこと考えないようにしようとかさ、同じように、その時にりんたろうが面白いと思えるものは僕が面白く思えるってカメレオン体質なの、俺は。川尻が面白いって言ったら面白いって、(杉井)ギサブローが面白いと思うものすら面白いと思える、ようするに別に合わせているわけでもなんでもなくて、とにかくそう思えちゃう。だから全然楽なんだよね。普通は川尻のは面白いけど、りんたろうのは面白くないとかっていうふうに思ってる人が多いわけだよ、自分のより近いところに。もしかして俺って何も持ってないだけの話、何も考えてないだけの話、人が面白いと思ったら面白いとかすぐ思えちゃうところがあって、だからやってられるだけの話であって、頭数というか頭を取るやつが多いから作品数が多かったりやってる時間が長いだけの話、お休み無しなのは俺はその間に次のものやってたり仕上げたりしていかなくちゃならないから次の人のものやってなきゃならないからお休みが無いだけの話で。まあ今回はそのことではない。[サンライズ]との間においての何かを検証していこうということで言うと、何と丸山は岸本吉に請われて[サンライズ]のテレビシリーズ第1作[ハゼドン]に参加してるの、その[ハゼドン]の後があるわけよね。[ゼロテスター]があったから[サンライズ]なんですよ」
高橋「あそこで路線が変わった」
丸山「路線変わったっていうか本来やるべきものだったんでしょう。[ハゼドン]ってそれこそ仕事がなくて流れでちょっとやっただけであれはやりたかったものでもなんでもない」
高橋「あれは推測するところ、局プロのご祝儀なんじゃないですか」
丸山「まったくそういうことですよ。だからそれなりの人を集めなくちゃならなくて・・・・・・」
高橋「あれ謎なんだけど、あそこでね、[ハゼドン]をやりつつ[ゼロテスター]のようなメカもの、もしくはロボットとかそっちの方を狙っていたのかしら?」
丸山「いやあそれもなかったと思うよ、俺も。それもなかったんだけど、ようするに[ゼロテスター]が合っちゃう訳じゃない、それがその後ロボットだったわけじゃない」
高橋「流れの中なのか最初からの狙いなのか、そこ興味あるね」
[サンライズ]とロボットものと言えば不即不離と言うよりむしろ相即不離、専売特許のようなものである。だから誰が最初に発想したかなんて疑問にも思わなかったが、今の[サンライズ]の繁栄を考えるとこのことは重要である。丸山氏にインタビューをした時点ではこの疑問の答えはなかったのであるが、この丸山氏への取材の後に行われた[第4回サンダーバードがお手本・沼本清海氏]と[第6回上井草の黄門様・飯塚正夫氏]のインタビューの中で明確になった。[ゼロテスター]のメカもの発想も[ライディーン]の巨大ロボットもの発想も創映社社長の[植村伴次郎]氏のものであった。
誰が脚本書いても[サンライズ]が原作になっちゃう
丸山「[ゼロテスター]があって[ライディーン]があって[ガンダム]に行くわけじゃない。勿論ロボットでなくてもいいんだけど、[サンライズ]オリジナルっていうことが本来やりたかったことだから、[ゼロテスター]があったということが今の[サンライズ]に続いたと思う。」
高橋「あらゆるものが全部リンクしてるって思うんだけど、創業においては自分たちが食うため創った会社であると……。それはね、どうやってもその匂いはあると思うの。で、[ハゼドン]をやったところであそこの現場に誰も残らなかったっていうのはきっとその匂いがあったと思うんだよね。きっとその[サンライズ]らしい匂いが。その匂いは[ゼロテスター]をやり[ライディーン]をやり[コン・バトラーV]をやりして強まって言ってガンダムに行き着いた・・・・・・・・それが丸タンがさっき言ったように虫プロの遺伝子ということを拒否して、継続を拒否して継ぐことを拒否して東映的になろうと思ったところからオリジナルでガンダムっていうのがでてきたということであれば・・・・・・」
丸山「いや、微妙なところ。微妙ってのは東映的ですらないことを思ったわけですよ。東映ってのはオリジナル、意外に少ないんですよ」
高橋「それは知っていますよ」
丸山「出版社とくっついて、どうやって定着させていくかって方向であって。俺が[サンライズ]を高く評価するのは原作者になっちゃう。誰がやっても脚本(ホン)書いても[サンライズ]が原作になっちゃうんだっていったことに凄さがある。東映が原作になっちゃうってことは東映はしないわけでしょ。版権料いくら貰えるってことはするんだけど、[サンライズ]のものは全部名前が出るんだ。原作者って名前が出るんだっていうふうに。自らが商売、アニメーションを商売にするということを、何て言うのかな。アニメーション作る人たちってのは照れくさくってていうか、本音では思っていてもずっと言い切れない部分を、見事にアニメーションを作らなくていい人たちだから、アニメーションじゃないほうが良かったかもしれないと思っている人たちだから平気で言えたんだと思うんですよ。それを自己主張して貫き通したから[サンライズ]があるわけですよ」
とりあえず虫プロが潰れた
仕事何とかしなくちゃいけない
みんな連れてったらとても喰えない
高橋「サンライズと言うのは商売を仕切るってプロダクション形態で・・・・ただそれは考えたって、考えてできたんなら見事だけど、考えてやったわけじゃないよね。と思うんだけど僕は」
丸山「いや、俺は考えてやったと思う。だから偉いと思う」
高橋「照れ隠しか謙遜か、考えてないといってるんだけど、本人達は」
丸山「いや、でもそれが望むところであったことは事実だし、ましてや原作を明記をするというとこは明らかに考えたわけです。考えなきゃそんなことできない」
高橋「勿論そうでしょうけど」
丸山「今だったらほぼ不可能なんですよ、それは。こういうことが全部白日の下に晒けだしたちゃったから。もしかすると当たるかも知れないからそんなのヤだよ。会社の名前なんか欲しくないし俺の取り分は少なくても何%ね。とかってのを人は皆言うんだけど、その頃は正直言うと分かんないわけです。“俺のを使って貰えるだけでありがたい”とか、俺のアイデア出して“原作者になるの嬉しいな”みたいなことで、そこに原作者として[サンライズ]って名前が入ろうと入るまいとそのことによって配分がどうなろうとそんなことは後から出た結果論であって、その時は全く問題ない。“前はそうやってたからね”っていうことで、次は続くしずっと今現在ありうるわけじゃないですか。そういう初めてやるってことは度胸と思いつきとある種の才能は置いといて、いや、その金儲けしたい一心だけでも全然OKだと思うんだけども。初めてやるってことはかなりスゴイことなんですよ」
高橋「創業者があからさまに言っていることは、いや、もう“食う為にやったんだ”と。“会社作ったんだ”と。で、その中に僕としては今言ったように最初からオリジナル作ってそれを要するに食う為の最大限の武器にするということを、それを偶然にしろ成功させて引退したということを大雑把に考えたわけ。そうしたら、“いやそんなことはない”と。いや“マーチャンとりたかった”けども、“そんな志はなかった”“そんな出発はしていないんだ”と否定するわけですよ。どうなんだろう、頭からあったのかな?」
丸山「それは正解ですよ。とりあえず虫プロが潰れた。仕事何とかしなくちゃいけない。みんな連れてったらとても喰えない。制作だけとか、まあ伊藤さんがついたと。立ち上げる金ぐらいは何とかなると。で、じゃあどうするかって時に制作プロデュースだけ集まればデスク以下はいらないと。作品決まったら、[ハゼドン]決まったら人呼べばいいわけだからってことで、1人ずつやりましょうってことで、立ちあげの時に用意してくれたのが終わったら、それでダメだったらそれでおしまい。それに近い形だったと思う。それで[ハゼドン]やっててとりあえず当座飯食うものにはなるからシリーズ転がそうってことで、“誰か居ない、丸、お前ちょっと来いや”“はいはい”って言ってやるわけじゃないですか。良ちゃんがやって、“何やって”って時に、“あっオリジナルだよね”って。“原作者いないよね”“原作者の権利は入るよね”って。“いろんなことが入るよね”って。そこが元々[虫プロ商事]だったグループの人達が参加してる大きな意味なんですよ、俺的には。[虫プロ商事]のDNAがある種、オリジナルを立ちあげていくことの権利もろもろ、ケアとかなんとかに対しては長じてるわけじゃないですか。それでそういうふうにやっていくぞって。“おっこれだよね”って決まって。でもそれは俺的にいうと、ま、そんなことは考えてないけど偶然そういうふうになっちゃたのも事実なんだけどそう言ったらおしまいじゃん。総括する側としてはそういう意図で作ってそういう意図で方向で進んだんですって、断固そう言わないと。ただ、なぜ彼らがそう言えないかというと、それで成功したからやめましたと。見事に首尾一貫してあまりに見事すぎるからちょっとテレくさいっていうか、逆に立場ねえよねっとか。上手くいったからあるところでやめたんですって、まあ一応いい括りをちょっと自分らで自己弁護してるっていうか、そういうことだと思うんだけど。最初からそう思ったかどうかは別ですよ。やりながら当然そうなっていったのが事実だと思うんだけど」
高橋「僕はね考えても考えなくでも必然だと思ってる。っていうのはプロダクション経営に伊藤ちゃんが参加した、伊藤さんの良さってのは会社のグランドデザインが引けた人。その根幹、推進力になるのは何か。それはやっぱマーチャン。マーチャンの取り方っていうのを彼は知っていてそれをやり通した。その1点でもって彼は[サンライズ]の中でもう抜群の存在」
丸山「そういうことでしょう。伊藤ちゃんが居なかったらどうなったかっていうのはちょっと、非常に違った方向へ行ってた。版権を取りつつ自分らの権利をちゃんとして、モノを作っていくんだっていう発想すら生まれなかったかもしれないってくらいに思ってるのね。まあやっぱり大きかったのはもしかしたら[ゼロテスター]があってその次の[ライディーン]があってそういうふうにいかなかったら、それこそ、その前でガンダムにいかなかったかもしれないし。そういうふうに非常に上手くラッキーにっていうか、ラッキーだけじゃないけど、ようするに[ゼロテスター]を作った何か。そのどっちかっていったら『ゼロテスターのDNA』と変えて欲しいなって思ってんだけど(笑)」
高橋「僕はまあよくあんな形でもって適当に辻褄を合わせられたなって思ったね。[ゼロテスター]のキャラクターデザインは違うんだけども、もの凄くコンテと原画を安彦ちゃんがやってくれたの。安彦ちゃんがその頃エネルギーが余っててね、一方ではヤマトやってるわけね。彼はフリーなんだからヤマトやってること隠すことはないんだけども一言も言わないんだよね、でもって[ゼロテスター]の倍以上やってんだよね。で、一方で富野由悠季がコンテを、彼は早いからね、またばんばん切ってくれる。この2人が参加してねその2人がそのままそっくり[ライディーン]を」
丸山「そういうことですね。だからね、要するに[サンライズ]の・・・・」
高橋「でも良かったよー、[サンライズ]にとってさ。僕がさ、[ゼロテスター]やって、この後もやっぱり監督やりたいって言ったら困っちゃてたよ、あれ。(笑)そうしたら[ライディーン]にも行かないしさ」
丸山「それは分かんない。全く違うものになってたかもしれないしさ」
高橋「今までその発想しなかったよ。1回も考えなかった」
丸山「そう、それはそれでまた懐の深い[サンライズ]が、ようするに高橋良輔が別なモノをやりつつも、やっぱガンダムを安彦・富野でやってる可能性はあるわけだから。可能性を考えると色々あるわけだから。元々の[サンライズ]の骨幹は何処かって考えてた時に、伊藤昌典と高橋良輔とそれをまとめた岸本吉ってのが[サンライズ]の柱でそのことに関しては俺は何も思っていないし“いいじゃん、よかったね”って思っている。そのことに対決していくつもりも全然ないし、まあロボット苦手だから誘われたら勘弁してって云っただけの話しだと思うんだよ。[サンライズ]のそこが元々偶然の、物事は全て偶然の積み重ねだから、偶然とはいえ検証してみれば偶然でもなんでもなくてそういうふうに結びついたところから[サンライズ]がこの形に、今の[サンライズ]にちゃんとした舵取りで進んでいる。ときどき変なことがあったりするけれど、それは当たり前のことで大きな流れとしては凄い舵取りで進んで、結局もしかすると創業者達があるところでリタイアしたのも必然かもしれないって。彼らが今居て今の[サンライズ]かどうかっていうと、元々、なんていうのかな、そういうモノ作りの発想がないから今も元気で頑張っていられるかっていうと、そうじゃないかもしれないって感じが遥かに大きいわけで」
高橋「何が成功したとかしないとかは別にして、[サンライズ]は逆に虫プロのある種の流れを断ち切ったようにみえたという、それは結果的には成功させたんじゃないかという。そう言う脈絡の中で・・・・・・」
丸山「虫プロのDNAって言われると多少拒否感がある。それが今の[サンライズ]の上手くいっている要因だというふうには思ってないわけですよ。で、僕が今上手くいってる、上手くいってないのも虫プロのDNAを強く受け継いでいるせいであろうというふうに思ってる。虫プロのDNAっていろいろあって、高橋良輔も虫プロのDNAを強く持った人だし。出崎統の偏狭なる精神も虫プロのDNAを強く受け継いだ」
高橋「虫プロというのは、僕が入った時は手塚さんの作品を作る場だったわけ。手塚作品を作る。僕が入った時はね。3年ぐらいすると違ってくる。それは生き延びるためには何でもやるというところがあって。だから虫プロDNAといっても入ったところによっては又違う」
丸山「そう全然違う」
現在の丸たん、いや丸山正雄氏は、まぁ・・・・一種の“モンスター”とでも言うような存在なのではなかろうか、関わっている仕事、諸々の決済事項、負っている責任、そのどれもがひとりの人間がこなせる分量を遥かに越えていると思われる。インタビューのためマッドを訪れたとき、かねて顔見知りの幹部の人が「化物ですよ。あの忙しさの中でマッド制作の全作のシナリオに目を通すんですよ」と呆れ顔で言ったのが思い出される。私は80パーセント、いや90パーセント自分のためだけに毎日を過ごしてきた。仕事などはその最たるものである。それで良いとも思っているし、それだけの人間である。そんな私の利己的な目で見て、極端な例えで異論もあると思うが、手塚先生も杉井ギサブローさんも山本暎一さんも富野由悠季さんも安彦良和さんも山浦栄二さんも岩崎正美さんも、その行動の大本のところは理解できるような気がするのだが、巨大な真空体のような丸山氏の行動や心情はなかなかに“謎”である。生半なことでは理解不能、そこが、つまりは私が“モンスター”と呼ぶ所以なのではあるが、でも知り合って30数年、どこで出会っても、あのどこまでも丸い人懐っこい表情で「良たーん」と言う丸たんであることも変わらない丸山氏でもあるのです。
【予告】
次回は、あの株式会社グループ・タックの代表でもある、音響ディレクターの田代敦巳氏(「音響ディレクター」という名称の名付け親でもあるのです)の登場です。乞うご期待!