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2022.09.15

【第12回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」

 

飛行機雲に誘われて……その12

 スマホが故障した! まあ不便で、こんなにも日常こんな奴に依存していたのかと思うとシャクに障る。が、仕方がない買い替えるしかないようである。
 旅行の時はスマホの世話になるかというとそうでもない。日常から切り離されてしまうので、不要不急極まりない、つまりは人間らしい生活を送っている限りはあまり必要ではないらしいのだが、それにしても癪に障る。故障と言ってもその症状が煮え切らない、画面がフリーズするのだが、絶対的に頑として言うことを聞かないかというと再起動を掛けると1、2回は言うことを聞くのだ。だが連続して使用ができない。これって故障なのか怠けているのか? トラブル対応の係り員に聞いても要領を得ない。つまりは本当のところは分かっていないのだろう。そのうちこんなことに時間をかけるのがばからしくなって相手の言う通りにしてしまう。ああ、年寄りはこういう目に合うのが多くなるんだろうなあこれからは。
 事の発端はスマホでニーチェ作の『ツアラツウストラかく語りき』のツアラツウストラとは何かをネットで検索しようとしたときに起こったのだ。画面が動かない。タップもダブルタップもスワイプも利かない。あれまである!? であるが。スマホのことは冒頭書いたのでやめとくが、腹立つと人間ついくどくなる。で、ツアラツウストラだがあたしら以前ドイツのボンに行ったときこの街にあるヨーロッパ有数のボン大学の卒業生にニーチェがいたのを知ったのである。その時の雑学知識でツアラツウストラは拝火教教祖のゾロアスターのドイツ語読みだと仕入れたのだ。まあそれを仲間内にひけらかしていてその証明にネットを検索しようとしたらスマホがフリーズである、ってくどいって!
 ボンはドイツでも古い落ち着いた街で、かつては西ドイツの首都がおかれていた由緒ある町である。縁ある有名人として前記のフリードリッヒ・ニーチェ、カール・マルクス、ルートビッヒ・ベートーベン、ハインリッヒ・ハイネなどを輩出している。
 そんな街に何しに行ったか? アニメーション映画祭のゲストで呼ばれたのだ。映画祭だから上映会もあり講演会もありサイン会もありました。だけどこの映画祭の呼び物は何といっても“コスプレ”。会場周辺を埋め尽くすコスプレイヤーの熱気! いやあ凄かったですよ。で、つられてついあたしらもコスプレを。

「ええっ ウソー!」

 まあ驚かれるのも無理はない。シブさで売っているあたしらがよりによってコスプレなんぞと、で、

「何に化けたの? 評判は?」

 と聞かれるあなたまあ落ち着きなさい。会場周辺はざっとこんな感じ、




 

 この雑踏の中をあたしらも雰囲気に身を任せて歩いてたと思召せ、いきなりルパンやらナルトやらのコスプレをした一団が、

「ミヤチー‼ ミヤチ―‼」

 と取り囲んだのだ。

「なんだなんだ? ミヤチ―ってなんだ⁉」

 とあたしら慄きましたよ実際! まあよく聞いてみると、ははーん、てなものでした。ミヤチ―はよく聞くとミヤギ―で、つまりはあたしらはアメリカ映画の『ベスト・キッド』の宮城老人のコスプレと間違えられたのである。まあ言ってみれば、ナチュラルコスプレである。握手はされるは一緒に写真は撮られるはで、うれしいやらアホらしいわでサービスに空手の型まで披露してしまった。あたしら高校生の頃松濤館流の空手をいささか齧っていたのでつい……。
 先ほども書いたのだがボンはドイツの由緒ある落ち着いた街なのだが、意外なほどコスプレに寛大で、会場からかなり離れた地域でコスプレ集団に会っても辺りの人の視線が奇異でない。聞いてみるとボンでは昔から仮装を楽しむ習慣があり、ことあるごとにそれを楽しんでいるらしいのだ。だから街中に中世風の衣装を貸す店が散見される。また白人系は漫画やアニメのコスプレが似合いますね、体形が立体的だからなあ。
 ボンと言えば市内にベートベンハウスがあったりラインの川下りやら近隣にケルンの大聖堂があったりで観光にも事欠かないのだが、あたしらは意外にもヒョロヒョロと迷い出たらレーマアゲンてな駅に出会っちまった。

「レーマアゲン…どこかで聞いたような、はて?」

 レーマアゲンはレマゲンであった。『レマゲン鉄橋』――その昔アメリカ映画に、敗戦まじかなドイツ軍が迫る連合軍の進行を阻むためラインにかかる鉄橋を落とすという作戦を立てる。その激しい攻防戦を描いた映画があったが妙に記憶に残っている。

「ここだったんだぁ」

 旅には意外な出会いがある。


 事情通によると、戦争で崩落しレマゲン鉄橋は存在しないのでロケはチェコスロバキアのヴルタヴァ河沿いのダヴレスキ橋で行われたそうな。そういえば劇伴音楽をとりにチェコにも行ったな、次回はチェコにするかな。

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