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【第13回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」
飛行機雲に誘われて……その13
予告通り今回はチェコ。
あたしらにとってチェコとは何かといえば圧倒的に女子体操選手のベラ・チャフラススカ、東京五輪(1964年)の金メダリストである。その後ルーマニアのコマネチが出てくるまでは女子体操と言えばチャフラフスカだった。コマネチの研ぎ澄まされたような鋭いバネのような感じではなく女性らしいふくよかさと優雅さがあった。まあ時代はどんどん変わり美の基準もスポーツのイメージも激変した。昔五輪にはアマチュアの祭典と言った趣があったのですが、あれは何処へ行っちゃたんでしょうねぇ。
チェコには何しに行ったかというと"劇伴音楽の収録"。作品は手塚治虫原作の『火の鳥』でNHKのハイビジョン製作記念作品という大仰のもの。そんなこんなでチェコはドヴォルザークホールでフルオーケストラの生採り! 豪華でしょう! まままま、本当はこの頃国内でフルオーケストラを用意するとなると大変で海外の方が安く上がるという、ウソのようなホントの話、今はどうなんでしょうねえ。
収録当日はドヴォルザークホールの中央の椅子に帝王のごとくただ一人座って仕上がりににらみを利かす。このドヴォルザークホールというのが"芸術家の家"とも呼ばれ正式には『ルドルフィヌム』と称されるネオ・ルネッサンス様式の由緒ある建築物で、なぜルドルフィヌムと呼ばれるかというとこの建物のこけら落としの主催者だったオーストリアの皇太子ルドルフに敬意を払って命名されたらしいのである。その中にある由緒正しいコンサートホールがドヴォルザークホールという訳である。――ってすごいでしょ、そのホールにただ一人フルオーケストラを前にふんぞり返るって、いやいやふんぞり返ってはいません、実はものすごく緊張し、むしろオドオドコキコキでしたが、いやいや素晴らしい経験でしたよ。
劇伴はこのオーケストラがメインだったのだが、その他に重要な音楽プランとして二胡のソロというのがあって、その二胡奏者の『チエン・ミン』さんを引っ張り出してあたしらと古都チェコで火の鳥永遠の命対談収録というのが組まれていた。むろん番宣の意味あいもあって企画されていたのだが。場所はプラハ中央を流れるヴルタバァ川(モルダウ川とも言われる)のカレル橋のたもとプラハ城寄りのカフェテラスだった。いやあドヴォルザークホールのフルオーケストラにも圧倒されましたが、旬の芸能者のオーラにも打ちのめされましたねえ。チェン・ミンさんは背が高いのは分かっていたのですが、その時のいでたちが真紅のワンピースにピンピンのハイヒール、石畳を彼方からにこやかにあでやかにカッカッカッっと現れたときの素晴らしさ! 少しはこの老人にも遠慮してよのカッコよさでした! もうあたしらは早々に椅子に座り込んで比べられるのを避けましたよ、ハハ。
その夜はスタッフと旧市街広場に繰り出して、美女との対談を肴にうまいビールを飲みましたよ。広場は折からの晩秋の冷気、それを和らげてくれるのが各屋台に備え付けの大型ストーブ、いつも思うのだがヨーロッパで飲むビールってなんでこんなに美味しいんだろう。――チェコはもう一回続きます。