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【第21回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」
飛行機雲に誘われて……その21
アラスカ中央部にあるフェアバンクスを出て、唯一の道『ダルトンハイウエイ』をひたすら北上し、北極海にぶち当たって、そこからまたひたすら引き返す往復1600キロ、というのがあたしらのアラスカの旅の基本だ。今回はオプションとして突き当りの辺境の飛行場からプロペラ機で28分、カキトビックという島に渡り、シロクマを見るというのがトピックになっていた。
ともあれフェアバンクスを出発すると、アラスカは秋真っただ中であった。
アラスカでの代表的な樹木はトウヒ、松の一種だがフェアバンクスまで来ると大木にはならない、高さはやっと十メートルを超えるかどうかだ。そして白樺、これはまっすぐに育ちトウヒ以上の高さになる。あとは柳だが、日本のあの幽霊が似合う柳を想像するとちょっと違う、幹が目立たず根元から枝だけが放射状に広がって見える。しかしこの柳類はしぶとく北極圏をこえても小さくはなるがなかなか姿を消さない。
秋真っただ中と言ったが、次の写真を見てもらいたい。大地が見渡す限り黄色に染まっている、これが白樺だ。トウヒは常緑樹だから色を変えない。柳の変化は乏しく冬には葉を落とすのだろうか、真冬にはまだ来たことがないので知らない。
さらに北上し北極圏に入る。北極圏というのは緯度にして66度33分以北のことを言い、夏至には丸一日陽が落ちず冬至には丸一日陽が出ない。ダルトンハイウエイの一点にこんな標識があり、まあ観光スポットになっている。一般の観光客はここから引き返すのが多いらしい。
北極圏に入ってすぐのところにちょっとした湖があり毎回ここでは休憩をとる。いつもは人影などないところなのだがハンターがいた。近づいてみると狩りがうまくいったらしく上機嫌で迎えてくれた。あたしらはヘミングウエイも好きだし日本人なら開高健も好きだ。両者ともにハンターでありアングラーだが、こう目の前に普通のハンターと対すると彼我の差を痛感する。流れている血が違うのだ。彼らが荒野に獲物を追うときの昂揚たるや至福そのものだろう。狩りは狩りそのものであり、それだけで完結し、屠った肉を食べトロフィーを飾り仲間内で自慢しあう。それだけのシンプルさが伝わってくる。
さらに北上しその夜は『コールドフット』というダルトンハイウエイ最後の給油所でありレストランでありホテルであるところに車を留めた。ガイドであり友人である河内牧栄が、
「きっとあのハンター達、レストランで祝杯を挙げていますよ」
と言ったがその通りで、あたしらも彼らの愉楽に付き合い共にグラスを掲げた。それにしてもここのハンバーガーのデカいこと! まずアラスカンは体力が違う。