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【第28回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」
飛行機雲に誘われて……その28
さて今回は香港であります。
世の中には最初の海外旅行が香港だと言う人は多いと思う。かくいうあたしらも最初の海外旅行はこの香港(そして台湾)だった。あれから五十年近く観光に仕事にと何回も香港は訪れている。香港旅行というとありふれた感じがしないでもないが、これが結構行くたびに新鮮なんである。そう、新鮮と言えば、まあ新鮮という言葉でもいいのだが、行くたびにその変化の速さ激しさには驚かされてしまう。あたしらが最近一番親しんでる言葉が『無常迅速』ってやつですが、香港こそ実に"無常迅速"を体現してますな。
香港の観光地一番と言えば『ビクトリアピーク』ってことになってます。確かにここの夜景は世界ナンバーワンに恥じませんが、あたしらにとってはハリウッド映画『慕情』の舞台。ウイリアム・ホールデンとジェニファー・ジョンズがいちゃいちゃしたところであります。映画でもなんか草深い丘のようなところでしたが、あたしらが最初に行ったときもそんな感じで実にそっけない感じがしたものです。ものの本によるとホントはロケ地は別のところで肝心のところは合成という説がありますが、マニアでないあたしらはそこのところはどうでもよく、とにかく、
「ここがあの場所かあ!!」
と感激したものです。いやしかし今行ってみると変貌すさまじいものがありますよ。同じ場所とは思えません。今のビクトリアピークならロマンのあり様も全く違ってきてしまうはず。違うと言えばあたしら最初の香港は船だったが次からは飛行機、かつて九龍のビル群の間を縫うようにして離着陸する『啓徳空港』は世界で一番危険な国際空港と言われたものだった。それが今や香港に行くなら世界有数の名空港『チエクラップコク国際空港』だ。九龍と言えばあの魔窟のような九龍城も今は無い。
香港と言えば食の街でもあるが、あたしらグルメでもグルマンでもないから高級チャイニーズ・レストランなぞまずもって縁がない。そんなあたしらにもお勧めはある。朝、どこの通りでもやっている『飲茶』だが、これが"安い!旨い!"の折り紙付き、品数豊富で目移りしてついつい食べ過ぎてしまうのが玉に瑕。
「ナンデコンナニヤムチャガアルカ、シッテル?」
とガイドがしたり顔に言うには、中国の主婦ってあまり家庭料理を作らないんだってね。特に朝はみな外食らしい。あたしらこれを聞いてちょっと、
「へ~~!?」
だった。
香港のもう一つは買い物だ。まああたしらこれもあんまり気がいかないが、ホテルに泊まってると偽ブランド屋が押しかけてくることがある。かってに人の部屋で店を開いて、
「コレホンモノノ、ニセモノヨ」
なんて訳の分からないことをいいながら、よく出来た偽のブランド物を売りつけようとする。まあ買ったことなぞないが。
あたしらの買い物と言ったらストリートに出る。代表的なところでは、『通菜街』『廟街』『花園街』とこの三つだろうか、それぞれ特徴がある。
『通菜街』は通称女人街とも言い、アクセサリーやバック、靴など女性向けの商品が多い。『廟街』は通称男人街とも言われ、男物が多い。『花園街』はスニーカー・ストリートと訊くと探しやすい。もっともスニーカー・ストリートは花園街の一角なのだが、ここは若者に人気のブランド店もある。まあ三街ともきほん何でもあるのだが、問題は"値切れないと"面白さ半減である。東京育ちのあたしらには値切る文化が身についてない。思い切って値切るまで時間がかかったあ……でもやってみるとこれが結構面白いの。まあガイドに言わせるとてんで甘ちゃんで値切ったうちに入らないらしいけど、自己満足の範囲で結構、なんせ観光客なんだから。
遠出をすれば『ラマ島』『チュンチャウ島』『ランタオ島』と良い所らしいけど行ったことはない。あたしらのお勧めは、『石柱(スタンレー)』かな、ここは香港島の南にありかつて支配していたイギリス人達のリゾート地だったらしい。香港島に渡ったところからバスで行ける。途中大金持ちたちの超豪邸を見ながら、
「ふーん、色々だなあ……」
なんてどうでもいい感慨を持ちながら3、40分乗ると着く。こじんまりしているがエキゾチックな『スタンレー・マーケット』や、かつてのイギリス公館あとの『香港海事物館』などがあり、の――んびりできる。おススメですよお。
さて次回は『マカオ』です。最初の香港のときフェリー代が無く諦めたマカオ。ここまで来て目の前なのに無念だったマカオ、まあ若い頃ってそんなお金もなかったんですね。