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2018.06.19

【第02回】サン娘 ~Girl's Battle Bootlog セカンドシーズン

一章②

 まあちたちがプール場から出ると、時刻はすでに夕方だった。
 レイを除いて、みんなヘトヘトになっていた。プールで遊ぶのが楽しすぎて、つい夢中になってしまったのだ。なんだかんだ言って、こうして楽援部として全員で一つのイベントを行うのは初めてのことだった。
 プールの後はみんなで一緒に夕食を食べようという話だったが、想像以上に疲れていたので、今日はこのまま解散という流れになった。まあちと栞と静流は、学生寮のある南区。楓だけは自宅兼部室が東区にあるので、ここで別れるという話になった。レイの帰る場所は謎だったが、少なくとも南区ではないらしく、まあちたちとは別々の道を行った。
 帰り道で、まあちは自分が忘れ物をしたことに気付いた。

「あっ。ピーコン、忘れちゃった……。たぶんプールの更衣室だ……。閉まる前に、急いで取りに戻らないと」
「私たちも付いて行きましょうか?」

 栞が言った。

「ううん。いいよ。先に二人だけで帰ってて」

 栞と静流に手を振り、一人プール場に戻る。
 夕日はどんどん沈んでいき、少しずつつ夜の暗さがあたりを侵食していく。

「あれ?」

 第三プール場前まで戻ってきたまあちは、そこで意外な人物を見かけた。
 楓だった。自宅に帰ることもせず、歩道脇のベンチに一人座り、沈みゆく夕日をじっと眺めているのだ。
 その、いつになくたそがれた様子が気にかかり、まあちは声をかけた。

「そんなところで何やってるの、楓ちゃん?」
「まあち……。帰ったんじゃなかったの?」
「プールにピーコン忘れちゃって。取りに戻ってきたの」
「ドジねぇ……」

 その口調にもどこか力がない。疲れているというより、別のことを考えていて、心がそちらに行ったままの状態になっているという感じだった。

「何か考えごと?」
「んー、ちょっとねー、昔のこと思い出してたの」
「昔のこと?」

 楓は答えず、じっと夕日を眺めていた。過去の記憶に想いを馳せるように。
 まあちは黙って楓の隣に座り、同じように夕日を眺めた。
 夕暮れの涼しい風が、頬を撫でていく。
 やがて楓が口を開いた。

「……ねぇ、まあち。ひとつ聞いていい?」

 何気ない口調だったが、まあちを見る目には真剣な色が覗いていた。

「あんたの『夢』って何?」
「え?」

 それは、いつかレイに質問されたことだった。まさか楓から同じことを聞かれるなんて思いもしなかった。あまりにも意外だったので一瞬ドキっとしてしまったほどだ。単なる偶然だろうか?

「ねぇ。どうなの?」

 楓が催促してくる。その顔はいつになく真面目で、単なる興味本位で尋ねているわけじゃなさそうだった。
 だからこそ、まあちも真摯な思いで答えた。

「みんなと楽しく学園生活を送ることだよ」

 笑顔で、そう口にした。レイの質問に答えた時と同じように。それが学園に入学した時から変わらぬ自分の本心だった。

「…………」

 楓は、しばらく黙ってまあちの顔を見ていた。まあちの言葉が本当かどうか確かめるため――というよりは、楓自身がその言葉を反芻はんすうするため、という感じだった。やがて――

「……はぁ。あんたらしいわ」

 呆れ顔を浮かべつつ嘆息した。それは、いつもの楓の表情だった。

「えー。人の夢を聞いておきながら、ため息ってどうなの、楓ちゃん?」
「あによ……怒ったの?」

 頬を膨らませてムクれるまあちに、少しバツが悪そうに聞いてくる。
 だが、まあちは途端に笑顔になり、

「えへへ。うっそー♪ むしろ楓ちゃんならきっとそんな反応すると思ってた♪」
「……こんのぉ、あたしをからかおうなんて、百年早いのよ! バカまあち!」

 楓が両方の拳をまあちの頭に当て、グリグリとしてくる。力は全然こもっていなかった。

「あはははっ! やめてよー、楓ちゃん!」
「笑ってんじゃないわよ! このっ! このっ!」

 そうして二人でジャレているうちに、気付けば完全に日は落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。

「はぁ……。もうこんな時間じゃない。まあちのせいね」
「うー……質問してきたのは、楓ちゃんの方じゃん……」
「まっ。それもそうね」

 あっさりと自分の非を認めた。いつもなら強気な態度で屁理屈をこねてくるのに。やはり今日の楓は少し様子が違う。昔のことを思い出してたって言ってたけど……それと何か関係があるんだろうか?

「さっき『みんなと仲良く』って言ったけど……その中には当然だけど、楓ちゃんだって入ってるからね?」
「そりゃどうも」
「だからさ、そろそろ『楽援部』に入らない?」

 楓は、いまだに『楽援部』には正式に入部していなかった。自宅を部室とし、活動も基本的に参加しつつも、籍は置いてなかった。何度誘いをかけても「あたしは入んないって、何万回言わせんのよ!」と返してくる。だが、本気で入部を嫌がってるわけじゃないのは、その態度からも明らかだった。そもそも完全に拒否したいのなら、自宅を開放したりはしないだろう。まあちたちの『楽援部』を認めつつも、入部だけはかたくなに断っていた。

「またその話ー? 何億回聞かれても答えは一緒だってーの」
「『楽援部』がキライなわけじゃないんでしょ?」
「嫌いっていうか、奇特な部活とは思ってるわね。人のことを応援することが目的とか、物好きとしか思えないわ。基本的に人は己の欲を叶えるために生きるものよ。あたしはそう思ってんの。赤の他人のために無駄なコスト支払いたくないのよね」
「本当かなぁ……?」

 そう言いつつ、妙に世話好きなところがあるのが楓である。困っているとなんだかんだといって手を貸してくれるのだ。もちろん口ではぶーぶーと言うのだが。でも、やっぱり助けてくれる。まあちは、楓のそういった部分が好きだった。

「まぁ……そうね。これ以上誘われ続けるのもなんだし、あんたには一度言っといた方がいいかも」
「……?」
「あたしにはね、どうしても叶えたいことがあるの」
「叶えたいこと?」
「ええ。そうよ。なんとしてでも。絶対に叶えたいこと」

 いつになく強い口調だった。それだけ本気なのだということが伝わってきた。

「だから、私たちの部活には入れないの?」
「ええ。そうよ」
「……………」

 楓が、どうしても叶えたいという願い。どんな内容かとても気になるし、知りたいと思った。でも、こっちから聞くのはやめておいた。楓が話したいと思った時に話してくれればいい。そう思ったのだ。

「じゃあ、その願いが叶ったら、楓ちゃんは『楽援部』に入ってくれる?」
「そんなの……その時の気分次第よ」
「ええっ!? そこは『うん』って言うところじゃないの!?」
「甘い甘い。このあたしが雰囲気に流されて『はい』なんて言うわけないでしょ?」

 カラカラと笑う。

「うーん。いつもなんだかんだいって流されてる気がするんだけど」

 押しに弱いのも楓の特徴だった。楓は聞き捨てならないとばかりに、

「どこの誰が流されやすいってのよ。あたしの人間性を勝手に安くすんじゃないってーの」
「褒めたつもりなのに」
「褒められてる気がしないわよ!」

 いきり立つ楓の様子が可笑しくて、まあちはつい笑ってしまった。楓はなおも不服そうにしていたが、やがてプッと自分も笑い出してしまった。
 二人の笑い声が、夜の聖陽学園に響く。

(ああ……やっぱり楓ちゃんといるのは楽しいな)

 しみじみとそう感じた。
 思えば、サン娘となって初めて出会ったのも楓だった。楓がいなければ、今こんな風にみんなと一緒にいることだってできなかったかもしれない。nフィールド内で戸惑ったまま、自分では何もできずに終わっていただろう。

「そういや、あんた、ピーコンはいいの? プールの貸し出し時間は一九時まで。その後は、自動で扉にロックがかかるわよ?」
「ええ……!?」

 時計を見ると、一九時五分前だった。

「うわぁああ! 私のピーコンー!」

 まあちは慌ててプール場に駆けていった。

(つづく)

著者:金田一秋良

イラスト:射尾卓弥

©サンライズ

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