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2018.09.18

【第15回】サン娘 ~Girl's Battle Bootlog セカンドシーズン

三章③

「スコープドッグのマキシマムモード。……と、言いたいところだけど、これはモドキよ。見た目はともかく出力は足りてないわ」
「だからって、どうやって……」
「あのロリ会長が言っていたでしょ? パワーを簡単に得るための方法を」
「っ! もしかして……!」
「ええ。フラクチャーを取り込んだわ」
「っ!」
「昨日、まあちゃんたちが寝静まった後にね、学園内を探し回ったの。本当に見つかるかどうかは賭けだったけど。それで遭遇したフラクチャーを自分の意思で取り込んだの」
「取り込んだって……そんなことしたらしずちゃんの意識が……!」
「ええ。自覚してるわ。私の精神状態は平常とは異なっている。感情が溢れ、色々なものがどうでも良くなっていくのが自分でも分かるわ。思うがままに自分を解き放ちたい、そんな衝動が絶えず襲ってくる」

 言いながら歯を噛みしめる。今にも溢れ出しそうな感情を抑えるように。
 生徒会室で会った時、顔色が悪かったのはこのせいだろう。

「しずちゃん……」
「そう心配しないで、まあちゃん。感情が溢れるのなら……押さえつけようとせず、いっそ解き放てばいい。一つの想いに向けて。私が考えていることは一つだけ……『私は、私の友達を脅かす敵を倒す!』」

 ロッグガンの砲口を倒れたままの一二三に向け、

「貴方は倒すべき敵よ! 私たちの前から消えなさい!」

 ロッグガンを連射する。
 いくつもの巨大なビームが、一二三に襲い掛かる。

「……やるねぇ。まさかそんな方法を取るなんて」

 一二三の体が飛び上ると同時に、登龍剣が閃いた。
 迫るビーム群を黄金の刀身が力任せに叩き斬っていく。

「!」
「言う通りちょっと出力不足だね」
「ちっ……小学生みたいな見た目してるくせに生意気ね。ガキはガキらしく大人しくやられてればいいものを」
「し、しずちゃん……口悪い……」
「フラクチャーの影響ね。本意ではないわ」

 思わず「本当かなぁ」と思ってしまう。

「それに、フラクチャーに憑りつかれた挙句、初期の目的を見失うようなバカロリ会長にはこれぐらい言ってあげなきゃ。守る相手を自分で倒してれば世話ないわ」
「ははっ。手厳しいなー。……まあでも、威勢がいいのは口だけだよね。その程度のパワーじゃあちしには勝てないって」
「本当にバカね。見た目どころか中身も小学生並みじゃない。貴方に似合うのは生徒会長なんて役職ではなく、ランドセルよ。小学校の教室でリコーダーでも吹いてなさい」
「なっ!?」
「私がマキシマムモードモドキになったのは、貴方を倒すためではないわ」

 静流がローラーダッシュで疾走し、まあちの隣へとやってくる。

「まあちゃんに倒されるためよ」

 まあちの手を取り、自分の胸に当て、

「私のエネルギーを使いなさい。そうすればきっと、レイズナーのマキシマムモードが発動するわ」
「!」
「あのバカロリ会長に太刀打ちできるのは『V-MAX』だけよ。他に手段はないわ。……それに大丈夫。もし私がSUN-DRIVEを失って、今までの出来事が全て夢としか思えなくなっても……決して忘れないわ。だって、こんなに素敵な夢、他にないもの」
「しずちゃん……」
「まあちゃんが私との思い出を覚えててくれる。なら、失うものなんて何もないでしょ?」

 静流が微笑む。
 中学の頃から変わらない、まあちを励ます優しい笑み。

「しずちゃん……ごめんね」
「いいの。まあちゃんの手に掛かるのなら本望よ」
「ううん。違うよ。そうじゃない」

 静流の胸元から手を放す。

「え……?」
「本当は私がやるべきだったの。私がフラクチャーを使って、マキシマムモードになるべきだった。しずちゃんは優しいから、私の代わりにやってくれただけ。でも……だからこそ、ダメだよ。私だってしずちゃんを守りたいもん」
「でも……」
「私に足りなかったのはエネルギーじゃないよ。足りなかったのは、想い。なんとしてでも『みんなを守りたい』っていう覚悟。たとえ……相手を倒してでも」

 まあちが一二三を真っ直ぐに見据える。
 その目にハッキリとした闘志を浮かべて。

「へぇ……本気であちしを倒す気?」
「はい。そうしなければいけないから」
「もしかしてさー……それってあちしのため? 『あちしを救うため』とか思ってたりする?」

 一二三の問いにまあちはキッパリと答えた。

「違います」
「……へぇ」
「私は、私のために戦うんです。そう、私自身が決めたから」

 そこでフッと口元を緩め、

「それに……本気の人に対しては本気でぶつからないと失礼ですから。そう、大切な人に教わったんです」

 ニコリと笑う。

「まあちゃん……」

 まあちの言葉に、一二三の口から「……ハッ!」と喜びの声が上がる。
 これまでで最も愉快そうな笑みを浮かべ、

「いいよ……すごくいいよ、七星ちん! 『誰かのため』なーんて簡単に言えちゃう人間は信用ならない。『自分のため』にキチンと頑張れる人間の方がよっぽど可愛げがあるし……それでこそ、こっちも『本気』の出し甲斐がある!」
「はい。先輩の本気……私の『本気』で打ち倒してみます!」

 その迷いのない声を合図に、二人の戦いが開始された。
 一二三が両足のスタンスを広げ、わずかに腰を落とす。正面からまあちの攻撃を受け止める構えだった。
 まあちはその場にしゃがみ込むと、腰を後ろに突き出して、地面に指をつけた。
 クラウチングスタートの姿勢。
 まあちが全力を出すための格好だった。
 四肢に力が入ると共に、集中力が極限まで高まっていく。
 そして、訪れるいつもの『自分だけの空間』。
 まず、周囲から音が消える。
 そして、風景から色が消える。
 あらゆるものが消え失せ、残ったのは目指すゴール一二三だけ。

「行きます……先輩ッ!」

 一二三は闘志と歓喜を顔に漲らせ、まあちに応じる。

「来いッ……!! 七星ッ……!!」

 心の中でスターターピストルの音が鳴り響くと同時に、まあちは思い切り地を蹴った。

「レイズナーッ!」

 自らのSUN-DRIVEに呼びかける。
 そして、その真の力を解放するための言葉を、まあちは力いっぱい叫んだ。

「V-MAX発動ッ!」

 まあちの言葉に『レディ』と応える声が聞こえた気がした。
 同時に、まあちの体を蒼い光が覆う。
 光の中、走るまあちのアンダースーツが変化していく。額にあった緑のバイザーが一回りサイズを大きくし、腰元と脚部に新たな装甲が追加される。
 レイズナーの『マキシマムモード』。
 走るまあちの体が加速すると同時に、浮き上がる。
 眩い蒼光を放ちながら、まあちは"蒼き流星"となって空を駆けた。
 向かい来る蒼き流星を前に、

「行くぞ、七星……これがあたしの『本気』だッ!!」 

 龍神丸のDアームが登龍剣を両手で握り、頭上へと振り上げた。
 上段の構えを取ると同時に、登龍剣から眩い黄金の光が放たれる。
 龍神丸の持つ最大の必殺技。

「登ッ! 龍ッ! けぇぇぇぇーーーーんッ!」

 黄金の光を纏った登龍剣を、蒼き流星へと振り下ろした。
 二つの光が正面からぶつかり合う。
 凄まじいエネルギーが衝突し合い、空中に稲妻を放つ。

「あああああああああああっ!」
「はああああああああああっ!」

 己の持てる力の全てを相手にぶつけ合う。
 レイズナーのDアームが負荷に耐え切れず、装甲に亀裂が入る。
 それでも蒼き光は弱くなるどころか、一層強くレイズナーから放たれた。Dアーム全体から何十本もの"光の柱"が四方へと放出される。まあちの想いに応えるように、SUN-DRIVEが限界を超えて出力を上昇させていた。
 だが、そのレイズナーのパワーをもってしても、一二三はビクともしなかった。
 まあちの全力のパワーをジリジリと押し返して来る。
 まあちは焦るでも、悔しがるでもなく――素直にすごいと思ってしまった。
 ああ。本当にこの先輩は強い……。
 きっと一生徒として学園で会っていたら、一発で憧れちゃっただろう。
 悩みの相談にだって行ったかもしれない。
 ……ううん。違う。
 『かもしれない』じゃなくて、これから『そうなる』未来に変えていけばいい。
 だから一二三先輩――

(私は、あなたに勝つ!)

 己の限界を超えるべく、咆哮ほうこうする。

「あああああああああああああああああっ!」

 まあちの咆哮と共に蒼い光が爆発した。
 残るエネルギーを全て、この一瞬に注ぐように。
 広がる蒼き光が、黄金の光すら飲み込み、大地を、空を、光で満たしていった。
 一瞬の静寂の後、空間全てを埋めていた光が唐突に消失した。
 そこには、立ち尽くす二人のサン娘の姿。
 その位置は先程と入れ替わり、互いに背中を向けて立っていた。

「……やるね、七星ちん」

 一二三が呟くと同時に、ガギンと何かが折れる音が響いた。
 龍神丸の登龍剣……その黄金の刀身が真っ二つに折れ、切っ先が地面に突き刺さった。

「見せてもらったよ、キミの本気。まさかエネルギーシールドを一撃で全部持ってかれるなんてね……本当に凄かった」
「……」
「だから……あちしを倒せなくても恥じることはないよ」

 ガシャンガシャンと何かが落ちる音がした。
 まあちのDアーム――蒼い双腕の二の腕から先が消失していた。
 切断された上腕部が地面に力なく横たわっている。
 一二三は剣を失い、まあちはDアームそのものを失った。
 勝敗は明らかだった。

「私……勝てなかった」

 まあちは呟いた。
 もちろん無念さはあった。
 でも、大きく胸を占めるのは――満足感だった。
 文字通り自分の全てをぶつけた。力の一片まで残さずに。
 それでも負けたのだ。一二三に対する尊敬の念はあっても悔いなどあるはずもなかった。

「一二三先輩……ホント強いですね」

 まあちは振り返り、一二三に笑いかけた。
 一二三も二ッと笑み、

「……いや。勝ったのは七星ちんだよ」
「え?」

 一二三が折れた登龍剣の柄から手を放す。

「本当に楽しかったよ。楽しくて楽しくて……もうこれ以上何もいらないって思っちゃうくらい、あちしは満足させられちゃったんだ」

 フーッと深く息を吐く。
 胸に溜まった濁ったものを全て吐き出すように。

「こんな清々しい気分になったのはいつ以来だろう……。SUN-DRIVEに関わってからさ、ずっと胸がモヤモヤしてたんだ。でも、今なら分かる。あちしはずっと楽しくなかったんだ」

 地面に突き刺さった登龍剣の柄を指で撫でる。

「あちしは誰かが傷つくところなんて見たくない。そんなことも忘れるくらい、あちしは普通じゃなかった。でもキミと戦って、胸がスッキリして、そのことを思い出したんだ。だから……これ以上は戦えないよ。ていうか、戦いたくないよ」
「一二三先輩……」
「むしろありがとね、七星ちん。大事なことをあちしに思い出させてくれてさ!」

 ニヒヒと無邪気に笑う。その笑顔は明るく、朗らかで、きっとこれが本来の一二三の表情なんだろうと思わせるものだった。

「でも、まさか生徒会長に勝っちゃうなんてさー。いっそ七星ちんが次の生徒会長やっちゃう?」
「えぇ!?」
「そりゃ生徒会長に勝ったんだもん。あちしもそうやって前会長から引き継いだんだしね!」
「あの……それ、ウソですよね?」
「うん。ウソだよ」
「やっぱり……」
「でも、生徒会長を譲ってもいいかもって思ったのはホント。どーどー? 興味ない?」
「うーん。すっごく光栄なお話ですけど……あんパン百個貰ってもムリですね」
「なんで?」
「だって……私には『楽援部』がありますから!」
「そっか……。それじゃしょうがないね! 残念だけど!」

 二人で笑い合う。
 仲の良い先輩と後輩のように。
 だが。

「……そう。まあち、あんたはいらないの。じゃあ、代わりにあたしが貰うわね」

(つづく)

著者:金田一秋良

イラスト:射尾卓弥

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©創通・サンライズ

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