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2018.10.30

【第21回】サン娘 ~Girl's Battle Bootlog セカンドシーズン

断章Ⅵ

 最初は一人だった。
 二日目は二人。
 三日目は四人を越えた。
 そこで、あたしはハッキリと『異常』に気が付いた。
 夏休みが明け、二学期の始まった教室には、いくつもの空席があった。
 体調不良による欠席らしい。欠席者の数は日に日に増している。それはこの教室に限った話ではなく、学校全体でそうだった。
 生徒たちの間では様々な噂が飛び交っている。夏休みを引きずってズル休みしているだの、季節の変わり目は体調を崩しやすいだの。
 でも、あたしにはこの異常に心当たりがあった。
 もしそれが本当なら――考えたくはないけど――原因は誰でもないこのあたしということになる。
 だからこそ確認しなければならない。
 あたしは昼休みになると生徒会室を訪ねた。
 室内には一人しかおらず、そのおかっぱ頭の女生徒――我が校の生徒会長があたしを見て、

「楓ちんじゃーん。ここに来るなんて珍しいね。もしかしてあちしに会いに来てくれた? うれしーなー」

 一二三がニヒヒと笑う。

「そのアホ面やめなさいって、いつも言ってるでしょ、チビみ」

 しかめっ面で答えるが、別にあたしはこいつが嫌いじゃない。ただ、破天荒すぎる性格のせいで、話していると、こちらのペースが乱される。それが面白くなくて、ついこんな不愛想な態度を取ってしまうのだ。

「楓ちんって器用そうに見えてさ、実はすっごい不器用だよねー。そこが楓ちんの魅力なんだけど、もう少し素直になってもいいと思うな、あちしは」
「余計なお世話よ」
「ちなみに、楓ちんの待ち人なら、あと一〇分くらいで来るはずだよ?」
「いや、今日はあんたに会いに来たの」
「ほえ……?」

 

 放課後。あたしは南区にある学生寮の一つに向かった。
 体調不良で欠席した生徒に会いに行くためだ。
 病欠した人物から事情を直接聞く必要があったが、あたしには住所を教え合うほどの知り合いがいなかった。だから、一二三を頼ったのだ。

「この学園の全生徒の住所は把握してるよー。もちろん会長権限で個人データを見たわけじゃないよ? 全生徒から直接聞いたの。これぞあちしの人徳! すごいっしょ、ニヒヒ!」
「ちなみに、あたしは教えてないんだけど」
「消去法だよ、ワトソンくん。みんな学生寮に住んでるんだから、楓ちん以外の住所が分かれば、おのずと楓ちんの部屋も分かるじゃん」
「…………」
「友達を一人紹介するから、あちしの代わりにお見舞いに行ってくれると助かるなー」
「自分から聞いといてなんだけど……本当にいいの?」
「うん。いいよー。楓ちんなら職員データをハックして住所を調べることも出来たじゃん。それをしないでわざわざこうして尋ねに来てくれたんだ。あちしは楓ちんを信じるよ」

 ……ホント、食えない会長様。
 それに『代わりのお見舞い』なんて言っていたが、あいつはあいつで様子を見に行くに違いない。あたしが会いに行く人物を含めて、休んだ生徒全員のところへ。あいつはそういう奴だ。
 目的の部屋に着く。あたしが行くことは事前に一二三から連絡がいっている。部屋に入って生徒から話を聞き、いくつかの質問に答えてもらった。
 そこで、仮説は真実に変わった。
 あたしは部屋を辞して、自分の寮の部屋に戻った。
 自室にある、特製のPCを見る。あたしはこれを使って、夏休み中にERINUSSのメインシステムにアクセスした。
 そこで『LAY』と名乗る謎の存在と遭遇したが、アレは自分の名前を呟いた瞬間消えてしまい、それ以来一度も目にしてはいない。
 けれど、その時のあたしは気にしなかった。ERINUSSのメインシステム内の情報を読むことに夢中になっていたからだ。
 まさに天才の中の天才が作ったとしか思えない、芸術的なシステム。そして、その中の一つにあったのが 『能力のシェア化――収集した個人情報をもとに効率的な学習を実現するプログラム』。
 簡単に言えば、この『学習プログラム』を使えば他者の能力をある程度までは模倣することができるのだ。物事を上達させるためには、自分より上手い人間を真似ればいい。それ自体は当たり前の学習法で、これはその補助に過ぎない。有益なシステムだと思うし、情報の提供者が承諾していれば何の問題もない。利用したいと思う人間も多いだろう。
 まあ、あたしは興味なんてないけど。
 誰かの真似をしても面白くないし。
 それにこのプログラム自体、実現はしなかったのだ。被験者の人体に好ましからぬ影響を与えることが判明したから。
 そして、それは今の生徒たちの症状と一致している。
 間違いなく誰かがERINUSS内のプログラムを稼働させていた。中断された実験の続きを行うために。
 あたし以外に、この事を知っているのは一人しかない。
 だから、そいつに直接聞くことにした。

 

「私に聞きたいことって、何かしら?」

 翌日の夕方、そいつをデパートの屋上に呼び出した。
 かつて二人で語り明かした思い出の場所。

「悪いわね。すぐに済むわ……瀬里華」

 そいつは――瀬里華は、いつもと変わらぬ様子で微笑みを浮かべていた。

「ひょっとして……ERINUSSのことしから?」

 真剣な面持ちのあたしから何かを察し、自分から話を切り出してきた。

「ちょうど貴方に相談しようと思っていたところなの。実は教えてもらったデータを使って、私もERINUSSにアクセスしてみたの。貴方に頼りっぱなしなのが申し訳なくて。でもそのせいで、ERINUSSが――」
「……初めからなの?」

 瀬里華の言葉を遮る。

「え?」

 瀬里華があたしを見る。

「初めから……このためにあたしに近づいたの?」

 あたしの声は震えていた。
 いや、声だけじゃない。全身が震えていた。
 どうしようもなく強い感情が溢れ出してきて、止まらない。

「初めから、あんたはあたしを利用するために……ERINUSSにアクセスするために……近づいてきたの?」
「…………」

 考えれば出来過ぎた話だった。
 突然、問題児に話しかけてきた優等生。そして、二人は友達になる。
 そんなことがあり得るわけがない。そこに別な目的でもない限り。

「そんな……貴方の考え過ぎよ」

 瀬里華がかぶりを振って否定する。

「なら、今でもあんたはあたしのことを友達だと思ってるわけ?」
「ええ。もちろんよ、神月さん」
「ウソよ」

 言葉にする度に視界がにじむ。
 涙が溢れてくる。
 それでも、あたしは瀬里華を真っすぐに見て、言った。

「あんたは今まで一度もあたしの名前を呼ばなかった。『楓』とは決して口にしなかった」

 たかが呼び方一つという問題ではない。
 瀬里華は決して必要以上にこちらに踏み込んでこようとはしなかった。
 二人で買い物に行き、互いの家に泊まり、自分の身の上話をしても――そこには埋まらない距離があった。
 あたしはそれに気づいていた。
 気付いていたからこそ、少しずつ近づいていこうと頑張ったのだ。
 ERINUSSへのハッキングも、そうした想いがあたしを駆り立てた。
 でも、それはどこまでも一方通行の想い。

「…………」

 瀬里華は何も答えなかった。
 それが何よりの答えだった。
 胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。ザラザラしていて、とても不快な感覚。
 あたしはこいつに利用された。……それはいい。ただ単にあたしが馬鹿だったってだけの話。
 でも、だからといって、このまま終わらせていいわけはない。
 高まる胸の熱が、怒りとなって、あたしの涙を止める。

「この借りは……必ず返すわ」

 そう宣言して、あたしは唯一の『友達』と別れた。
 瀬里華は、最後まであたしを呼び止めなかった。

 

 次の日、あたしは学校の職員室を訪ねた。
 教員に事の次第を説明する。
 すぐさま奥の一室に通され、しばらくすると理事長らの学校の重鎮たちが現れた。
 あたしは全てを話した。ERINUSSにハッキングしたこと、ERINUSS内には未だ凍結されていない機能があり、その影響が今回の生徒たちの体調不良を引き起こしたということ。ただし、瀬里華の仕業ということは隠した。なぜって? それがバレたら、あいつは退学になるかもしれない。借りを返すためには、学園からいなくなってもらっては困る。
 当然、理事長たちは慌てた。ERINUSSの不具合には前々から気付いていたはずなのに、こんなことになるとは露ほども思っていなかったのだろう。
 あたしは、稼働していた『学習プログラム』を停止させたこと。そして、二度と外部から起動できないようにERINUSSのコードを書き直したことを伝えた。
 自分から協力的な態度を示し、なおかつ安全対策の主導を握ることで、あたし自身が『退学』になることを避けたのだ。
 けれど、なんらかの責任は取らなければならない。
 審議の結果、あたしは半年の停学ということになった。理由は、施設の不正使用。その結果、空調システムが故障し、生徒たちの体調不良を引き起こした。そう生徒たちには説明された。
 問題児がついに問題を起こした。
 そんな認識のもと、あたしはますます学校内で孤立した。
 でも、気にしなかった。
 停学が明けるのは次の春。今の教室に戻ることは二度と無かったし、何よりあたしには目的があった。

(このままでは絶対にすまさない)

 あたしは、なんとしてもあいつの鼻を明かしてやると決めた。勝って、あたしと同じ敗北感を味わわせてやる、と。
 居心地の悪くなった学生寮に見切りをつけ、東区の空き家を乗っ取った。
 そして春になり、留年したあたしは、また高等部の一年生として学園生活を始めた。

 

五章①

「ようやく出てきたわね、瀬里華」

 楓が瀬里華を睨む。
 けれど、瀬里華は涼しげな笑みを崩さず、

「一年ぶりくらいかしら、貴方とこうして言葉を交わすのは」

 一方、まあちは混乱していた。
 突如、現れた旺城おうじょう瀬里華せりか。だが、ここはnフィールドだ。普通の生徒が来ることはできない。

「どうして旺城先輩がここに……」
「驚くのも無理はないけれど……事実はとても単純よ。私もSUN-DRIVEを持っていたの」

 事も無げに言うが……でも、それはおかしい。
 LAYは、『SUN-DRIVEの数は全部で一〇〇体』と言っていた。管理者であるLAYたちのイデオンは別として、例外なのはナンバリングされていないまあちのレイズナーだけのはずだ。

「七星さん。どうして登録されていないSUN-DRIVERが、貴方だけだと思ったの?」
「っ! それは!」
「私のSUN-DRIVEもイレギュラーナンバーよ。何故ならこのSUN-DRIVEは戦うために造られたのではなく、"証"だから。LAYから私への愛情の証」
「愛情……?」

 確かにLAYは瀬里華を『ママ』と呼び、慕っていた。本当の母親のように。

「当然ね。赤子同然だったあの子に、この世界のことについて教えたのは私だから」
「旺城先輩が教えた……?」
「まあち。最初にLAYと接触したのは、あたしよ。でも、あれ以来一度も会ったことはなかった。……簡単ね、こいつが囲っていたから」
「ええ。私の目的のためには、どうしても必要な『道具』だったから。そのために適切な教育を施したの」

 瀬里華はLAYを『道具』と呼んだ。あれだけ自分を慕っていた存在を。

「旺城先輩……」
「七星さん、どうしてそんな悲しそうな顔をするの? どれだけ人間を模倣しようと、アレはプログラムコードの集積体に次ぎないわ。人間とは違うのよ?」

 まあちには難しいことは分からない。AIプログラムと言われても、未だにピンとこない。
 だが、一つだけ分かる。

「旺城先輩……LAYちゃんも……レイちゃんも……私たちと同じでした。悲しい時は悲しい顔をして、嬉しい時は笑顔を見せる。私と何も変わりませんでした……!」

 まあちの必死の言葉に、けれど瀬里華は困った顔をして、

「貴方の気持ちも分かるけど……それは当然のことよ。そう錯覚するように、アレらは作られたのだから」

 瀬里華の返答に、まあちが言葉を失くす。

「まあち。いくら言っても無駄よ。こいつは、とことん『他人ひとの気持ち』ってのが分からないんだから。もしLAYが人間であったとしても、やっぱりこいつの扱いは変わらなかった。何せ昔のあたしもそうだったしね」

 瀬里華がクスリと笑って、

「やっぱりあの時のこと、まだ根に持っているのね」
「…………」
「けれど、貴方には言われたくないわ。貴方だって利用したじゃない、あのバックアップの『レイ』を。貴方が持ちかけたんでしょ? 緊急停止プログラムを使ってLAYを凍結させることを」
「え……?」

 まあちから驚きの声があがる。
 楓がレイを利用した? レイが永久に眠ってしまうことを承知で?

「う、ウソだよね、楓ちゃん……?」

 楓は目を逸らし、

「……本当よ。LAYが無事な限り、決してこいつは表舞台に出てこない。LAYを追い込むためには、レイの力がどうしても必要だったの」
「そんな……」
「健気な努力ね。そこまでして私と戦いたかったの?」
「ええ、そうよ……。『あんたに勝つ』。そのためにあたしはここまでやってきた」

 楓が言っていた『どうしても勝ちたい相手』。
 その相手こそ、目の前に立つ人物――旺城瀬里華だったようだ。

「いいわ。貴方の努力に敬意を表して、相手をしてあげる」

 だが、楓は背を向けると、

「今は駄目よ」
「何故?」
「やるならタイマンよ。他に誰もいない場所でやりたいの」

 チラリとまあちを見る。
 まあちは既にSUN-DRIVEを失っている。まあちがいたところで二人の戦いには手出し出来ない。だが、代わりに自分の身を護る術もない。流れ弾に襲われても防ぐことはできなかった。

「……いいでしょう。私も悪戯に後輩を傷つけたくはないわ。一旦場を改めましょうか。時間はそちらで決めて。連絡先は以前と変わっていないわ」

 そう言って、瀬里華の姿が消えた。nフィールドからログアウトしたのだ。

「楓ちゃん……」
「色々と聞きたいことがあるだろうけど……一旦外に出るわよ」
「…………」

(つづく)

著者:金田一秋良

イラスト:射尾卓弥

©サンライズ

©創通・サンライズ

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