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- インタビュー
サンライズワールド クリエイターインタビュー
第22回 監督、デザイナー さとうけいいち<後編>
サンライズ作品のキーパーソンとなったスタッフに自身の関わった作品の思い出を伺うクリエイターインタビュー。今回は、25周年を迎える『THE ビッグオー』で企画立案やキャラクターデザイン&メカデザインを担当したさとうけいいちさんが登場。
『シティーハンター』のテレビスペシャルや『センチメンタルジャーニー』など、多くの作品に関わったさとうさんに、サンライズでの仕事などを語ってもらった。
――北爪宏幸さんとスタジオぱっくやアトリエ戯雅でお仕事をしていた中で、印象深い作品はありますか?
さとう やっぱり、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆襲のシャア)』ですね。年齢的には20~21歳の頃だと思うんですが、富野由悠季監督と向き合って仕事をした感じがします。ガンダムのテレビシリーズでは、各話の演出の方とやりとりしていたので、富野さんとは直接やり取りをしていないんですが、『逆襲のシャア』は完全に富野監督のスタイルで、監督が全てのレイアウトを見ていて、一緒に仕事をした感じは強かったです。そこでやり取りをさせてもらって、いろいろご教示いただきました。戻ってきた生のレイアウトに「お前はバカか」「ちょっと絵が上手いからいい気になりなさんな」って書いてあってリテイクが来る。でも、リテイクの理由が書いてないので、どこを直せばいいのかわからなくて(笑)。そこでコンテとにらめっこをするわけで。じっくりと見て、肩の入れ方とか、カメラの位置とか、映画だからもっと引くのかとか、望遠レンズなのかとか、タイミングの速そうな動きも捨てて、目に残るアクションを描くとか。そういうことを考えてリテイク作業をしていました。富野監督とのやり取りを通して、映画屋、演出家として観客に何を伝えるかという部分が欠落していたことを21歳で覚えさせてもらった感じはあります。そうしたやり取りから富野さんと一緒に仕事をやったという実感を得ることができました。『逆襲のシャア』が完成した後、現場は解散してしまったので、私はフリーのアニメーターになってサンライズからは一旦離れるんですが、その後も『シティーハンター3』などでも原画の仕事をしていました。
――その後は、アニメだけじゃなくちょっと変わったお仕事をされていますね。
さとう フリーのアニメーターとして東映アニメーションの『トランスフォーマー マスターフォース』、『もーれつア太郎』、OVA『サザンアイズ』等の仕事をしていた頃、音楽業界の友人から「今、身体が空いているならライブのデザインの仕事をしませんか」と声をかけていただいて。いわゆるライブの飾りやセットなどのデザインをする美術の仕事もやっていました。TM NETWORKさんの仕事や、書籍のイラストなんかもやっていましたね。それと並行して『ジャイアントロボ』や『テッカマンブレード』の仕事もしていました。
90年代前半は、音楽業界、CM業界の絵コンテを描かせてもらったり、いろんな仕事に関わり、楽しく仕事をしていました。アニメ業界でスタジオの仕事をしている頃はすごく忙しくて「いつ寝ればいいんだ」って感じだったんですが、フリーになってから自分でスケジュールを決めて仕事ができるのが良かったです。それこそ、朝8時にアラームをセットして仕事をスタートさせて、夕方5時には完了するというスタイルで仕事をしていました。
――それから少し経過して、1997年の『シティーハンター グッドバイ・マイ・スイートハート』と1999年の『シティーハンター 緊急生中継!? 凶悪犯冴羽獠の最後』というテレビスペシャルでキャラクターデザインや総作画監督で、再び『シティーハンター』に関わっていますね。
さとう 『シティーハンター3』の原画を2本務めたのがきっかけで、監督だったこだま兼嗣さんにお声がけいただいて。そこで、「お手伝いにしかならないですけど」と最初のテレビスペシャル『シティハンター ザ・シークレット・サービス』に原画で参加することになりました。それから少し経って、当時のサンライズのプロデューサーだった指田英二さん、大橋千恵雄さんお二人に誘われる形でテレビスペシャル第2弾の『シティーハンター グッドバイ・マイ・スイートハート(以下、グッドバイ・マイ・スイートハート)』に関わることになったんです。
――単純にその前に『シティーハンター』シリーズのキャラクターデザインを担当されていた神村幸子さんから引き継いだというわけではないのですね。
さとう 実は、この『グッドバイ・マイ・スイートハート』の仕事が後の『THE ビッグオー』に繋がっていくんですけど…。プロデューサーお二人から声をかけていただく前に、『ジャイアントロボ』がきっかけでサンディエゴのコミックコンベンションに呼ばれましてね。その旅でいろいろと刺激を受ける出来事があり、『THE ビッグオー』のベースになるアイディアが生まれたんです。その頃、サンライズの事業体制が変わり、半ばヘッドハンティングされるような形でスタジオ企画に参加することになりまして。それが『グッドバイ・マイ・スイートハート』です。私自身、将来的にオリジナル企画をやらせていただけるならお受けします!という気持ちもあったので(笑)、この作品にも前向きに関わらせてもらいました。この時26歳くらいかな。
――さとうさんが関わられた『グッドバイ・マイ・スイートハート』から、作品の色味が変化していますね。
さとう 現場がスタートする前にプロデューサーの指田英司さんから「今度の『シティーハンター』はテレビスペシャルだから映画みたいな感じのゴリっとした作風でやりたい」と言われたんです。関わった段階でキャラクターデザインからやらせていただけるという話もあったので、自分がどこまで信用されているか試そうと思って、キャラクターの色味をもっと大人っぽいフィルム風にできないかと提案してみたんです。それまでのサンライズ作品は、彩度があざやかな明るい感じでしたが、自分は彩度を落とした綺麗な感じの映像をやりたくて。当時はまだOVAが結構売れている時代だったので、「この方向性でやらせて欲しい」といったらOKが出て。その一方で、自分で考えていたオリジナル企画をやらせて欲しいと結構グイグイと推していって。そんな流れで『シティーハンター』に入っていった感じですね。
――『グッドバイ・マイ・スイートハート』以降の『シティーハンター』のちょっと大人びた色調の画面づくりは、『THE ビッグオー』に向けた試しや準備でもあったのでしょうか?
さとう 計算していました。『THE ビッグオー』でやろうと思っていたグラフィックや色調はモノトーンな方向性だったんですが、当時のサンライズが使っていたセル画用絵の具のカラーチャートにはそういう色のものは入っていなかったんです。いきなり新番組で肌色から服装まですべての色味を変えるというチャレンジは、さすがに通らないだろうと思っていたので、『グッドバイ・マイ・スイートハート』でその準備をしていたのは間違いないです。後の『THE ビッグオー』は使っていた色数が少なかったので、『シティーハンター』の方が多く色を使っていた感じですね。自分がサンライズに入ることによって、色の雰囲気を変えられないかなと思っていて。同じタイミングで入ってきた同世代の村瀬修功さんが『ウィッチハンターロビン』で似たような色調を使っていたので、間違った方向性ではなかったと思いますね。
――『シティーハンター』と『THE ビッグオー』の間には、ちょっと毛色の違う作品である『センチメンタルジャーニー』でビジュアルディレクターを担当されていますね。
さとう 『センチメンタルジャーニー』はかなり突貫で仕事をした形でした。最初に手掛けた『グッドバイ・マイ・スイートハート』の評判がよく、数字もよく、サンライズでの結果も出せたので「いよいよビッグオーにグリーンライトが灯ったな!」と思った矢先に、「それをやる前に、まずはこれをやってくれ」という感じで打診されたのが、恋愛シミュレーションゲーム『センチメンタルグラフィティ』をアニメ化した『センチメンタルジャーニー』でした。正直、まだ信用されてなかったか!!って思いましたね(笑)。でも『センチメンタルジャーニー』は自分が演出する作風ではないなと。それで監督の候補を考えていたのですが『ジャイアントロボ』で出会った片山一良さんが適任では?と気付いたんです。片山さんは魔法少女ものの演出をされていて、奥様も少女マンガ家ということもあり『センチメンタルジャーニー』にも向いているんじゃないなかと思ったんです。そこで片山さんとお話しして現場に入ってもらって。当時、『THE ビッグオー』の企画を成立させるために片山さんにも何かと協力してもらっていたタイミングでもあったんで。片山さんに「(センチメンタルジャーニーの)監督どうです?」って。それで私というと、12本のビジュアルを全てコントロールするディレクターという感じで…半ば逃げた感じですね(笑)。『センチメンタルジャーニー』は深夜アニメで、放送時間も終電くらいだというから、ここで一発『グッドバイ・マイ・スイートハート』で使った彩度の低い綺麗な色味で、女の子のドラマをやりましょう!と言ったんです。絵の具の瓶の数を無駄にしたくなかったんですよ。だから、冴羽獠の肌の色の女子がいたりとかもしていたんですよね(笑)
――彩度が下がると、肌の色はピンク色っぽくならないですよね。それが落ち着いた雰囲気の画面になります。
さとう 肌には赤味が足りない感じになるんですが、0時台から始まる番組でしょ!? 色は結構気を使ったんです。疲れたサラリーマンやOL、学生さんが夜にテレビをつけた時、パキパキの色味のアニメを見るのはキツイだろうと。そんな感じで、ドラマの演出は片山監督に任せて、私は画作りを全部仕切りました。1クール12話分のレイアウトを全部見るとか。もう、意地でやりましたね(笑)。そんな風に『シティーハンター』から『センチメンタルジャーニー』の裏で『THE ビッグオー』のための仕込みをして…という感じです。当時の制作予算の中で、使える絵の具の瓶の数が限られていましたから、工夫をして徐々に新色を増やしていきました。当然ですが、サンライズという組織の中でも使う色が固定されているほうが無駄が出ませんから…。「ちなみに、こんなすごい特色の緑は、どうするんだ?」って。メインの女の子にその緑を使いますとか、実際に使ってみせて「綺麗ですね」と納得させるしかなくて。当時、私は自信たっぷりに色を発注していましたけど、今思うと『THE ビッグオー』のために多少虚勢を張っていたかもしれません(笑)。
――コミコンに行ったことが、『THE ビッグオー』に繋がっているということですが、『ヘルボーイ』などを描かれているマイク・ミニョーラをはじめとした、アメコミアーティストの影響などもあったのでしょうか?
さとう 私の知人で、SF雑誌『STARLOG』の日本版のライターをしていたアスカ蘭氏の紹介で、フランスのバンデシネの巨匠であるメビウスさんとか、緻密な絵を描かれるジェフ・ダロウさん、マイク・ミニョーラさんと食事をするといった夢のような機会があったんです。当時、ダークホースというコミック出版社が出来たばかりで、彼らはそこでコミックスを手掛けていた人たちで、私は彼らとスケッチの交換とかもしていて…『THE ビッグオー』の種となるアイディアを思いついたのはその直後だったので、当然絵柄や見せ方に関しては、相当な影響を受けています。ジェフ・ダロウ氏は『ビッグガイ』という作品を描いているんですが、あれも『ジャイアントロボ』の影響を受けた作品ですし…。そういう海外のコミックアーティストとのコミュニケーションというか、触れあいがあった先に『THE ビッグオー』が生まれたのは間違いないと言えます。
――そうした形でアニメーターから監督となっていったわけですが、さとうさんからこれからこの業界を目指す人に向けてアドバイスをお願いします。
さとう アニメーションというものに興味を持ったら、とにかく行動してみるといいんじ ゃないかと思いますね。アニメーターになるには、まずは絵が描けるのは当たり前だと思います。画面の作り方などは誰かが教えてくれるわけではないので、自発的に動いて学んでいくしかないです。今の時代、アニメーションは見るのは好きだけど作りたいという人たちは少なくなっている状況は肌で感じますね。私はミイラ取りがミイラになるような形で業界に入って、それで辞められなくなってここにいるわけだけど(笑)、その理由は言葉が通じなくても映像を通してこちらのやりたいことは万国共通で伝わるということを知ったからなんですよね。『THE ビッグオー』をやった時にそうした感覚をダイレクトに感じて。それ以降、マスとして広げられるということ魅力を感じて、ものづくりの思考がち ょっとエンタメ方向に傾いていきました。
キャラクタービジネスという言葉は、読者のみなさんにはちょっと嫌なものとして聞こえるかもしれないけど、日本の文化の中で、キャラクタービジネスとアニメは決して切っても切れない関係にあります。私自身、生まれた時には『ウルトラマン』が存在していて、その後『仮面ライダー』も始まった中で育ってきたわけだけど、今の人たちは小さい頃から『ウルトラマン』も『仮面ライダー』も『アンパンマン』もあって見る作品は選び放題ですよね。海外に行っても『バットマン』や『スパイダーマン』をはじめ、何百体ものキャラクターがいて、同じような状況になっています。そういった「キャラクター」を使ってより多くの人に喜んでもらえるものを作る。ビジネスを真面目にやる。それこそがプロの世界であり、そういった場所で自分の思考や技術を試していくことが、アニメの仕事をやっていく中で重要なんじゃないかと思うんです。1枚の絵では、ドラマを語るのはなかなか難しいし、受け手の想像力になんとかしてもらうしかないけど、アニメ制作という協同作業によって映像という形にすることで、より多くの人にドラマを分かりやすく伝えることができます。私はアニメーターだけじゃなく、演出家ももっともっと増えて欲しいんです。長尺のドラマをちゃんと見せていける力を持った方を業界に増やして、作品を作る喜びを知った上で作り手として仕事を続けて欲しいという思いがあります。だから、アニメの仕事をやってみたいと思ったら、そのことを踏まえつつ、自分でやれることを探して動いてみて欲しいですね。
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さとう けいいち
12月18日生まれ。香川県出身。監督、デザイナーとして実写、アニメ、CMと様々な分野で活躍。サンライズ制作の作品では『TIGER & BUNNY』監督、『THE ビッグオー』コンセプトワーク、スーパーバイザー、キャラクターデザイン、メカニックデザイン、『シティーハンター グッドバイ・マイ・スイートハート』『シティーハンター 緊急生中継!? 凶悪犯冴羽獠の最期』キャラクターデザイン、総作画監督、『センチメンタルジャーニー』ビジュアルディレクター。
監督作にOVA『鴉 -KARAS-』、映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』『アシュラ』『黒執事(実写)』『GANTZ:O』、TVアニメ『神撃のバハムートGENESIS』『神撃のバハムートVIRGIN SOUL』『いぬやしき』などがある。
監督としての最新作はTVアニメ『戦隊大失格』。
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