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2024.12.09

クリエイターインタビュー
第22回  監督、デザイナー さとうけいいち<前編>

サンライズ作品のキーパーソンとなったスタッフに自身の関わった作品の思い出を伺うクリエイターインタビュー。今回は、25周年を迎えた『THE ビッグオー』で企画立案やキャラクターデザイン&メカデザインを担当したさとうけいいちさんが登場。前篇ではアニメーションの世界に入ったきっかけやビーボォーでの作画時代のことなどを振り返ってもらった。


――まずは、さとうさんがアニメーションの仕事をはじめたきっかけから教えてください。

さとう 学生時代は洋楽にハマっていたのでバンドを組んだりしていて、あまりアニメには触れていませんでした。深夜の洋楽番組やバラエティ番組を録画して楽しんでいる日々でした。また、当時は漫才ブームで、相方だった高校時代の同級生に引っ張られる形で養成所に入ったんですが、1年経たないうちに相方が「俺、田舎に帰って歯科技工士になるわ」と置き手紙を残していなくなってしまって(笑)。もともと相方に誘われてお笑いに進もうとしていたというのもあって、どうしてもモチベーションが上がらずにいました。当時…80年代中頃は洋楽が一大ブームで、世間では海外の音楽が溢れていたり『ゴーストバスターズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』等のハリウッド映画も勢いづいていました。単純な私はミュージッククリップや映画を作る仕事に興味を持ちました。で、「東京に行って映像の仕事をしよう」と思い立つわけです。ホント単純(笑)。父の知り合いに地元のテレビ局で仕事をしている方がいて、その伝手で紹介してもらったのが『風雲たけし城』というビートたけしさんが出演されていたバラエティ番組のADの仕事でした。それをきっかけに映像業界へ入っていったという感じです。

――アニメ業界とは、まったく異なるところから入ってきたわけですね。

さとう そうです。アニメ業界だと、専門学校に入ってそこでアニメーションの基礎を習ってからスタジオに入って仕事をスタートさせる方が多いんじゃないでしょうか。私はバラエティ番組の仕事の後、某映像制作会社で『あぶない刑事』の裏方スタッフになって、大泉学園にある東映の撮影所に通っていました。それから半年もして、撮影が終わった頃に、知り合いから「オレ、田舎に戻るんだけど今シェアハウスしてるヤツをシェアしてくれないか!」と声を掛けられたんです。なんじゃそれ!?ですよね(笑)。それがアニメ業界に入るきっかけでした。そのシェアハウスで一緒に住んでいたのが、今スタジオジブリにいる山下明彦氏です。彼とは後にOVA『ジャイアントロボ THE ANIMATION 〜地球が静止する日〜(以下、ジャイアントロボ)』でお仕事をすることになります。それで、私がシェアハウスに住み始めた頃、山下を訪ねていらした方がいたんです。最初は新聞の勧誘かと思って無視していたのですが、ピンポンがしつこいので、ドアの覗き穴からよく見てみたら、レジェンドアニメーターの湖川友謙さんだったんです(笑)。もう驚きましたよ。学級委員長に勧められたアニメ雑誌で知った「クリエイターの湖川さんやないかーい!?」って(笑)。湖川さんは山下に用事があって来られたと。山下は不在だったんですが、湖川さんは彼が帰って来るまで待つと言うので、私も部屋に一緒にいたわけです。私はイデオンが大好きだったので湖川さんに色々聞きたいことはあったのですが、失礼になるかな…と二の足を踏んでいました。そうしたら、湖川さんがふと私に「君、絵を描くの?」と聞かれて。というのも、当時ドラマの仕事をしていて、劇中で画面に映るイラストを美術さんに頼まれて描いていまして。私の描いたアニメ風の女の子の絵やドラマの絵コンテ的な落書きを湖川さんが見つけて、そうおっしゃったんですね。そこで、意を決して私の方から「ちょっとアニメーションを覚えたいんですよ」と言ったところ「絵を描くなら、うちにくる? 席が4つ空いているから」と、湖川さんがご自身のスタジオであるビーボォーに誘ってくれたんです。その時は「こんな形でスタジオに入ってしまっていいのか?」って思いましたね。山下からは面接にポートフォリオ(注:クリエイターやアーティストが自身の能力や実績をアピールする「作品集」)を持ち込んだ話を聞いていたので「僕は、ポートフォリオとか無いですけどいいんですか?」と湖川さんに伺ったのですが「僕がいいと言ったんだからいいんじゃないか!」みたいなことを言われて。その頃は、たまたまドラマのシーズンとシーズンの間で撮休の期間だったので、時間があったんです。だから「スタジオには基礎を覚えるのに1ヶ月くらいいれればいいかな」と思って湖川さんの絵をいっぱい練習してスタジオに行きました。そこで、いわゆる「ミイラ取りがミイラになった」と(笑)。

――それはすごく特殊なきっかけですね。


さとう でしょ!?(笑)。そうなんですよ。「アニメーションを教えてくれる」と言われたのですが、実際に行くと誰も何も教えてくれなくて(笑)。当時、スターアニメーターの大森英敏さんや北爪宏幸さんがビーボォーに在席されていました。他にも同世代のアニメーターが何人もいて、しかもみんなバリバリに絵がうまくて「どひゃー!!」って感じでね。「参ったな」と思っていたところ、いきなり「テストで動画をやってみろ」って言われて。それが『聖戦士ダンバイン』でした。いきなり何の知識もないまま動画することになって、タップ割りも線割りも知らないので、わかる範囲の知識を総動員して、主人公のヘルメットを開くカットで送り描きで動画にトライして、動画チーフの辻清光さんに見せたんです。そうしたら「お前、何にも知らないんだな。指示気にしろ!」って言われて。その時にアニメーションとして絵を動かすための動画には「タメ」とか「ツメ」とかのタイミング指示があることなどを教えてもらいました。その次にやることになったのが『重戦機エルガイム』のオープニングの動画カットです。エルガイムが走っているカットで、足下からカメラが引いていって全身が見えていくという内容なんですが、その紙がめちゃくちゃ大きいんですよ。通常、スタンダードサイズであれば、100フレームくらいのサイズに描くんですが、エルガイムの足元を走るメカのスパイラルフローが60フレームだったかな?寄りのカットから走りながら引いて全身が映るような特殊な見せ方をしているので、紙が大判の180フレームくらいあったんです。それを「お前ら新人でコレを割ってみて」と言われて。「オレはここからここまで割る」みたいな感じで役割分担して動画しました。本当に苦労しましたね。自分の手元以上の大きさなので、私は両腕で動画用紙を上下にバタバタさせて、真後ろに他の人に立ってもらって、全体的な動きをチェックしてもらいました。アナログの醍醐味です(笑)キレイな線を引く練習とかではなく、実践的な作業から入っていきました。

――アニメ業界は、それまでの実写映像業界とは違いましたか?

さとう 全然違いますよ(笑)。スタジオにいるスタッフの感覚がみんな「やんちゃ」で。深夜に仕事をしていると、いきなりスタジオでガスガンで撃ち合いを始めたりするし。「なんかこの人たち、中学生みたいだな」って。また、当時、アニメリーグがあってみんなで野球もやるんだけど、ルールを知らずに参加していたり(笑)。ビーボォー時代で思い入れがある仕事は『蒼き流星SPTレイズナー』ですかね。後半に活躍した「脳が痛ぇ」とか言っているゴステロを描いたりしたのが印象に残っています。あの頃は、好き勝手やって面白かったですね。本当にやんちゃだったんですよ。ビーボォーというスタジオの作画は、一般的には地に足のついたようなメカアクションをやっているイメージだったと思うんですけど、私と筱雅律さんや山根理宏さんは、金田伊功氏というレジェンドアニメーターの影響を受けてパースがついたアクションやエフェクトを「俺の方がカッコイイ」とばかりにね、調子に乗って描いたりしていましたね。そんな日々をビーボォーで過ごしていたんですが、その後、一人また一人と辞めていっちゃって。やがて私もビーボォーを辞め、北爪さんが立ち上げたスタジオぱっくに移って『機動戦士Zガンダム』とか『機動戦士ガンダムZZ』に関わりました。それからしばらくして、北爪さんがスタジオぱっくを改変してアトリエ戯雅を設立して、『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』くらいまでスタジオのスタッフとして関わっていましたね。

<後編>に続く

さとう けいいち
12月18日生まれ。香川県出身。監督、デザイナーとして実写、アニメ、CMと様々な分野で活躍。サンライズ制作の作品では『TIGER & BUNNY』監督、『THE ビッグオー』コンセプトワーク、スーパーバイザー、キャラクターデザイン、メカニックデザイン、『シティーハンター グッドバイ・マイ・スイートハート』『シティーハンター 緊急生中継!? 凶悪犯冴羽獠の最期』キャラクターデザイン、総作画監督、『センチメンタルジャーニー』ビジュアルディレクター。
監督作にOVA『鴉 -KARAS-』、映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』『アシュラ』『黒執事(実写)』『GANTZ:O』、TVアニメ『神撃のバハムートGENESIS』『神撃のバハムートVIRGIN SOUL』『いぬやしき』などがある。
監督としての最新作はTVアニメ『戦隊大失格』。

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