サンライズワールド

特集

SPECIAL

  • インタビュー
2022.04.20

アニメ制作の裏バナシ 第1回
サンライズプロデューサー 河口佳高 インタビュー(その4)


サンライズで多数の作品のプロデューサーを務めた河口佳高さんにアニメ制作の裏側を聞くシリーズの第4回。今回は、なし崩し的に担当することになった劇場版『∀ガンダム』に続いて、初めて本格的なテレビシリーズのプロデュースをすることになった『OVERMANキングゲイナー』の話を中心に、テレビシリーズのプロデューサーだからこその苦労を語ってもらった。


――劇場版『∀ガンダム』の次にプロデューサーとして手掛けた作品になるのが、『OVERMANキングゲイナー(以下、キングゲイナー)』ですが、同じ2002年に公開となっています。こちらは、同時進行的に作業されていたのでしょうか?

河口 当時のバンダイビジュアルの湯川淳さんというプロデューサーから30分ほどの短編アニメを作れないかという相談があったんです。ある劇場用アニメの同時上映に短編を付けたいと。そこで、私が富野監督に「30分の短編ってどうですか?」と話したところ、「いいよ、やる」となって。そこからすごいメモが上がってくるんですよ。だけど、どう考えても30分じゃ収まらない(笑)。テレビシリーズくらいの内容があるんです。その話が会社に伝わって、上から「富野監督のオリジナル新作が他作品の同時上映短編なんてありえない」と言われて。そのメモを見て、「これをやるならTVシリーズだ」という話になり、そこから翌年のWOWOWでの放送が決まって制作が始まることになりました。劇場版『∀ガンダム』の制作が終わったのが年明けくらいで、映画の公開が2月で、その年の秋に放送がスタートすることになるという形でした。

――やはり、時期的には同時進行だったんですね。

河口 そうですね。監督はコンテ作業が終わると、忙しさがひと息つくので。もちろん編集のチェックや原画のチェックもしますが、TVシリーズに比べれば物量もそんなに多くないですし。その間に企画を進めて、デザインの打ち合わせをしたり、シナリオの打ち合わせをしたりという感じで進んでいました。

――短編の企画がテレビシリーズになるというのは、作品規模的に全然違うと思いますが、そうした大変さはあったのでしょうか?

河口 ありましたね。実際に制作が始まったら本当に大変で。スタッフ集めもゼロからやっていかなければならなかったので、参加してもらった先輩の制作デスクと一緒にいろんなところに行ってお仕事をお願いして回ったという感じですね。

――作品のスタートは、「こんな作品を作りたい」という企画からスタートして、監督をはじめとしたスタッフを決めて行くパターンと『キングゲイナー』のように監督と企画内容は最初から決まっていて、そこからスタートするものがあります。『キングゲイナー』は富野監督のオーダーに応えられるスタッフを揃える大変さがあったという感じでしょうか?

河口 そうですね。逆に富野監督の作品だからとすんなりと決まる部分もありました。例えば、富野監督作品だからバンダイビジュアルはすぐに乗ってくれて、テレビシリーズという形になってもビデオセールスを見込んでお金を出して貰えました。また、『ブレンパワード』の経験もあって、WOWOWさんにテレビ放送という形で入ってもらえて。『キングゲイナー』における基本的なビジネスの枠組みは、後にサンライズの5代目の社長になる内田健二さんが決めてくれました。『キングゲイナー』は先を見込んでHDでの制作になったので、その分の金額も加味して予算を組めと言われて仕事をしていったという感じでした。

――その後は、脚本家やデザイナーなどを監督の要望に応える形で探していった感じでしょうか?

河口 「シナリオは誰に頼みましょうか?」、「デザインはどうしましょうか?」と監督と話をしながら決めていきました。富野監督は、デザイナーの安田朗さんの引き出しの多さに惹かれていて、『∀ガンダム』の時はキャラクターデザインをやってもらいましたが、今度はメカデザインをしてもらおうと再びお願いしました。キャラクターデザインはちょっと経緯があって、漫画家の中村嘉宏さんにお願いしつつ、そこに安田さんの紹介で当時はまだカプコンに在席していた西村キヌさんにも参加してもらい、吉田健一さんがまとめるという合作になりました。さらに、メカデザインは山根公利さんにも参加をお願いしました。また、吉田健一さんには作画の中心になって作品を支えてもらいました。富野監督は宮崎駿監督や大塚康生さんをリスペクトしているし、一方の吉田さんも富野監督と仕事がしたいと思ってジブリを飛び出してきたので、相思相愛的に仕事をしたという感じです。

――河口さんにとって『キングゲイナー』は、劇場版『∀ガンダム』に続いてのプロデュース作品であり、初めてゼロから作品を立ち上げた企画だと思いますが、やはり再編集の作品に比べると大変でしたか?

河口 WOWOWさんには納品に関して随分助けていただいていただきましたが、2クール=26本を作るのは本当に大変でした。制作に関して私はブレーキをかけていなかったので、第1話の総作画枚数は1万枚を超えていたんです。富野監督のコンテは絵描きさんがすごく苦労するコンテで、普通に仕上げるだけでもめいっぱいになるんです。でも、作画さんの苦労のわりには、わかりやすく画面映えしずらい。TVのスケジュールでいい作画に見せやすいのは、描きやすいアングルで、なるべく動きが少ないカットなんです。もしくは、作画的にお決まりの動きをしたカットだったりするんです。そういう「描き慣れている」部分では、アニメーターさんは情報を上乗せして、見栄えをどんどん良くできるんですが、富野監督の絵コンテはそうではなくて。あまり見たことがない画面構成で、あまり見ない芝居を、常にそのキャラクターらしく創意工夫して見せなければならない。それを仕上げる絵描きさんにはひと苦労もふた苦労もあって、さらに見栄えをよくするところまでたどり着くのは至難の業なんですよね。しかも時間はTVのスケジュールしかない。それでも何とか画として見ごたえがある作品にしたいと思って、制作にあたってはブレーキをかけてませんでした。

――確かに、先行放送で見た『キングゲイナー』の第1話のクオリティには驚いた記憶があります。

河口 スタッフの皆さんには本当に頑張ってもらって。1週間に1万枚以上の動画や仕上をやるというのは、極論を言うと制作費が低めの作品の2本分は余裕で超えているんです。当然ながら、それが毎週になるとマンパワー的にだんだん追いつかなくなるし、作画のローテーション的にも厳しくなっていって。おかげで、後半はかなり苦戦しました。

――『キングゲイナー』は富野監督の作品としては、『戦闘メカザブングル(以下、ザブングル)』以来とも言える明るい物語でしたが、路線に関してはどのような話をされたのでしょうか?

河口 じつは、最初の富野メモは結構血みどろな感じだったんです。『∀ガンダム』がほのぼの系でもあったので、今度はその逆でシリアスにいこうとしているのかなと、『Zガンダム』的な印象を持ちました。それが、タイトルが『キングゲイナー』となり、主題歌も明るい感じになって監督自身がどんどんそちらの方に路線変更していって。私の方がシリアス路線を引きずっていて「作品タイトルはもっとカッコイイものにしましょうよ」と言って、監督に激怒されるみたいなこともありました(笑)。どこかのタイミングで方向性も完全に決まって、脚本家さん達とも作品の内容を共有できて、だんだんと1話完結のスタイルになっていきました。その結果、中盤の面白おかしい話や、ありえない能力の敵が現れて戦う展開が生まれていくことになりましたね。

――いろんな攻撃方法を持つ敵が出てくる展開は、面白かったですね。

河口 監督から最初のシナリオ打ち合わせで、「この作品は、Aパートに1回、Bパートに1回、計2回の戦闘を入れたい」、「そのフォーマットは守って欲しい」と言われたんです。そんな古臭いフォーマットでやるの?と思いましたが、それはつまり、昔ながらのロボットものの定番スタイルで、前半で敵に苦戦して、後半に反撃の糸口や弱点を見つけて勝つという、そのフォーマットも作品の構造に大きな影響を与えたと思います。そんな中、いきなりシリーズ構成の大河内一楼さんが「時を止める能力を持つ敵オーバーマン」という作品の方向を変えてしまいかねないアイデアを第三話に出してきたので、「監督、このまま進めていいですか?」と聞くと「そんなことよりも他に大問題がある」と言うんです。でも、監督の言う大問題は作劇上のことでそれほど大問題に思えず、結果、オーバーマンの能力に関しては完全にスルーで通ってしまいました。それ以降、「特殊能力を持つ敵が登場する」というのが番組のコンセプトになっていきましたね。大河内さんに「いきなり時間を止める能力はどうなんですか?もっと、穏便な能力からでは?」と聞くと、「いやいや、こういう大ネタは最初に出すんですよ」と言われて。「後のことは後で考えればいい」と。それで、制作上もスタッフみんなが全力で走っていくようなことになったのですが、確かに『ザブングル』っぽい感じですね。

――ある意味、テレビシリーズのプロデューサーは、なし崩し的に担当することになったと思うのですが、何とかなるものだったのでしょうか?

河口 いえ、何ともならず、あちこちに迷惑をかけてしまいました。最終的には放送を落とさずに済みましたが、本当にギリ「なんとかなった」というレベルで……。そもそもプロデューサーをそんなにやりたいとは思ってはいなかったので、この1作で終わりでいいやと思っていたくらいなんです。

――今後もプロデューサーを続けようという気概を持っていたわけでは無かったんですね。

河口 そうですね。富野監督のもとで思い切りスタッフも噛み合って、力一杯仕事ができるようなそんな作品がやりたかったという思いだけでした。そういう意味ではやりきれた部分と、ちょっとちから及ばずだった部分がないまぜになって終わったという感じでした。

(その5)に続く


河口佳高(かわぐちよしたか)
1965年4月8日生まれ、福井県出身。
1988年にサンライズ入社。制作進行、制作デスク、設定制作などを経て『劇場版∀ガンダム地球光・月光蝶』のプロデューサーを務める。プロデューサー作品には『OVERMANキングゲイナー』『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』などがある。


 


アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その1)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その2)

アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その3)