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アニメ制作の裏バナシ
サンライズプロデューサー 河口佳高インタビュー(その5)
サンライズで多数の作品のプロデューサーを務めた河口佳高さんにアニメ制作の裏側を聞くシリーズの第5回。今回は、初の原作付きの作品であり、始めての地上波テレビ放送作品のプロデュースとなった『プラネテス』について話を伺った。NHKとのやり取り、原作があるからこその苦労などについて語ってもらった。
――『OVERMANキングゲイナー(以下、キングゲイナー)』の次は、初めて原作付きの作品となる『プラネテス』のプロデューサーを担当されるわけですが、こちらはどのような経緯で関わることになったのでしょうか?
河口 はじめ『プラネテス』の企画に、私は参加してなかったんです。企画自体は当時サンライズで役員をしていた内田健二さんと当時のバンダイビジュアルのプロデューサーである湯川淳さんが進めていました。企画がまとまっていく中で、制作現場をどうするかとなった時に、『キングゲイナー』の制作が終わった後の第二スタジオの仕事にしようという話がありまして。『キングゲイナー』の1クール目が終わるころに私にプロデューサーをやらないかと話が来たんですが、私は『キングゲイナー』を最後まで思い切りやりたかったので、1度は断ったんです。その後、改めて話がきて、スタジオの人員的な補強もするからやって欲しいということで受けることになりました。『キングゲイナー』の後半と並行しながら企画に関わっていったという感じでしたね。
――これまでの劇場版『∀ガンダム』や『キングゲイナー』は特殊な事情でプロデューサーになったわけですが、『プラネテス』は前の2作とはプロデューサーとしての関わり方も違う感じだったのしょうか?
河口 本来、プロデューサーは、作品の放送が始まったらすぐに次の仕事の仕込みをしなくちゃならないものなんです。仕込みをして、ある程度現場が回る仕組みを作り、仕事が回り始めるのを確認する。それが機関車のように動きだしたら、自分は駅で列車を見送って、先回りして終着駅に行く。そこで次に列車が向かう線路を敷いておいて、また出発できるようにしないといけない。でも、『キングゲイナー』の時には私はそのようなプロデューサーとしての仕事をやっていなくて、そのまま『キングゲイナー』という列車に一緒に乗って出ようとしていたんですね。そこを「お前、何で一緒に乗っていこうとしているんだよ」と止められたような感じです。『プラネテス』に私が関わった時は、内田さんと湯川さんによって企画の基本的な枠組みはすでに出来上がっていて、監督は谷口悟朗さん、脚本は大河内一楼さんに決まり、最初の打ち合わせが1度行われたくらいの時期でした。だから、関わり方としてはラインプロデューサー(制作現場に関する、制作工程や予算を管理する立場)に近い感じでしたね。ただ、原作の講談社さんやNHKエンタープライズさんとの契約などは内田さんから引き継いで私の方でやらせてもらいました。
――これまで関わられた、劇場版とWOWOWとは違う、いわゆるテレビシリーズとしての苦労などはあったりしたのでしょうか?
河口 いわゆる民放での放送で、スポンサーさんがたくさんいらっしゃる形ではなく、放送局がNHKさんだったので、そうした大変さはあまり無かったです。そういう意味では、NHKエンタープライズさんと向き合うだけで良かったので。印象としては、WOWOWさんの時と同じような感じでした。NHKエンタープライズ側での『プラネテス』のプロデューサー植原智幸さんは、NHKの『トップランナー』という番組に富野由悠季監督が出た時にディレクターを担当していた方なんです。NHKで「富野作品の放送をしたい」というくらいアニメが好きで、NHKエンタープライズに異動になり、「サンライズと仕事ができないか」と声をかけてくださって。それが、『プラネテス』をNHKで放送するきっかけになったんです。そうした流れも含めて、とてもやりやすかったですね。
――アニメーションを放送する場合は、局側から「この枠で放送する作品を作りたい」というところから始まる場合と、アニメ制作側から局に売り込む場合などがありますが、『プラネテス』はどういった方向で実現したのでしょうか?
河口 NHKエンタープライズさんから「何か一緒にやれるアニメはないですか?」という相談があり、いろいろと条件面を相談しつつ、内田さんたちが『プラネテス』の企画を持っていったという形だったと思います。
――そうした対外交渉がプロデューサーとしては重要な仕事ということになるんですね。
河口 そうですね。主要な仕事だと言っていいと思います。『プラネテス』は、劇中にロボットが出て来て、その商品化で制作費を回収するという考え方はできないので、ビデオを発売して回収していくことになります。なので、NHKで全国に放送することによって、知名度を広げてもらうということが重要になります。また、サンライズ作品としては初のNHKでの放送だったのですが、『プラネテス』は作品内容としてもNHKでの放送に合っているんじゃないかということで決まっていきましたね。
――一方、原作ものだからこその大変さというのは、プロデューサーとしてはありましたか?
河口 私は、プロデューサーとして今まで関わった作品で原作ものはこれ1作だけなんです。アニメーション作品として作るにあたっては、原作者の幸村誠さんと講談社の編集の方には本当に感謝しています。当時、幸村さんは『プラネテス』の月刊の連載で苦労されていたので、「連載に集中しなければいけないので、アニメは本当にお任せします」と言っていただいていました。そのお言葉に甘えて、乗って作ってしまった部分はありますね。アニメ化が決まった時点では、原作漫画は2巻までしかなかったんです。そんな状況だったので、谷口監督と大河内さんが幸村さんから作品の全体的な構想を伺って、その中からアニメにできる部分を抽出して、追加していくエピソードを考えたというところですね。結果、オリジナル要素がすごく増えることになるわけですが。
――ある意味、原作とは違うアニメーション独自の作品になっていった印象があります。
河口 そうですか。こちらとしては幸村さんに取材をして、主人公のハチマキたちがどういう立場で宇宙のデブリ屋という仕事をやっているのかという部分をはじめ、背景的な設定イメージを聞いて肉付けをしていった結果なので、オリジナル要素は多いですが、原作の本質からは大きく離れないように作ったつもりです。
――2クールのテレビシリーズを制作するにあたって、どうやったら25本のお話を作れるかということでスタッフで肉付けをして、チェックしてもらったという形ですか?
河口 シナリオは編集部に送ってチェックしてもらっていましたし、キャラクターデザインなども送っていますが、細かく「こうしてください」という要望は無かったです。脚本作業の初期段階でちょっとした意見があった程度です。作品の構成上第1話と第2話はアニメオリジナルのエピソードをやり、第3話から原作のエピソードを使うという形にしたいと提案したんですが、編集さんから「さすがに第1話に原作の要素が全く無いのはどうでしょう?」という意見がありまして。そこで、作品のバックグラウンドを語る「スペースデブリとは何か?」という原作にあったパートを、毎回冒頭にナレーションで入れるというような調整をしたことがあります。それも原作側からの注文ではなく、原作要素を足して欲しいという要望に対してこちらが「こうします」と決めたという形で、あとは本当に自由にやらせてもらいました。全部で25話を作らないといけないけど、13本分くらいは原作のエピソードを使えるから、残りの半分はオリジナルでおこせばいいという話を最初に内田さんから聞いた時は、口ぶりは楽そうに言うけど、結構大変なんじゃないかと思いながら作業に入ったんです。そこで谷口監督とは「原作を使うエピソードは完全再現するくらいにしましょう」と話しました。どちらにせよ、半分はオリジナルになっちゃうんだから、原作のお話をやる時はそのイメージをそのままやりたいと。幸村さんの原作は、私小説的なところと詩的なところがあるんですが、あの独特な雰囲気はアニメオリジナルのエピソードで同じように再現することは無理だろうと。それは谷口監督もそう考えていて。だから、原作の雰囲気は原作を再現したエピソードで味わってもらい、我々はそれまでの作品で得意としていたロボットもので描かれるような、「強い敵を工夫してやっつける」という要素を『プラネテス』の世界に置き換えて、毎回面倒なデブリが現れて主人公たちがどうやって回収するかという形に置き換える。谷口監督がそういう方向で取りまとめて、テレビシリーズとして構築していきました。
――河口さんとしても、いわゆる原作ものとは作り方が違うかもしれませんが、学びが多い作品となったのでしょうか?
河口 そうですね。作り方としては、オリジナル作品でも原作ものの完全映像化でもない、立ち位置的には中間的な作品となっているわけですが、結果的には作品として褒めていただけたということもあって、それで良かったのかなというところはありますね。今だと、原作付きのアニメだと、本当に忠実に作ることが重視されているので、それとはベクトルが違ったものではありました。まさに、そうした「原作完全再現」が重視され始めるちょうど境目の時期だったんだと思います。ちなみに、テレビシリーズの第6話で忍者を扱ったエピソードがあるんですが、放送当時、評判がすごく悪かったんです。ただ、あれは監督の戦略で、「シリーズの中で原作のテイストから外れる限界線はここまでです」というのを早い段階でお客さんに提示したておきたかったと。まあ、今だったらもっと炎上してしまったかもしれないくらい、振り切ったエピソードではありました(笑)
――完成した映像に関して、原作の幸村さんからの反応はいかがでしたか?
河口 打ち上げの時に「アニメには関わらないと最初に決めたんですが、その判断は正しかったと思います」と言っていただけました。あと、仕事場が近かったということもあって、制作中のスタジオにも何度かお酒を持って遊びにきてくれました。何回かは一緒にスタジオでオンエアを観た記憶もあって良い思い出ですね。後で知ったんですが、幸村さん御自身はガンダムお好きなようなんですが、我々と接している時にはそういうところを一切見せないんです。そういうところも凄いなと思いますし、やっぱり大した作家さんだなと思いましたね。
――お話を聞くと順調に進まれた感じですが、大変なところもあったのでしょうか?
河口 いえ、『プラネテス』は制作はむずかしい作品でした。宇宙を舞台にしていても作品内での約束事がガンダムと違うのは当然なんですが、宇宙もので独自の世界観を持つ作品であり、そこを徹底しようとする谷口監督の意思も強くて。「ここ、もうちょっとルーズでもいいんじゃないの?」という部分も「ダメ」とシビアにこだわる。そのストイックさに付き合うのは、なかなか大変でした。無事に終わって本当に良かったです。
(その6)に続く
河口佳高(かわぐちよしたか)1965年4月8日生まれ、福井県出身。
1988年にサンライズ入社。制作進行、制作デスク、設定制作などを経て『劇場版∀ガンダム地球光・月光蝶』のプロデューサーを務める。プロデューサー作品には『OVERMANキングゲイナー』『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』などがある。
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その1)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その2)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その3)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その4)