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2022.05.20

アニメ制作の裏バナシ
サンライズプロデューサー 河口佳高インタビュー(その6)

サンライズで多数の作品のプロデューサーを務めた河口佳高さんにアニメ制作の裏側を聞くシリーズの第6回。今回は、サンライズとしては初の「インターネット配信アニメ」として制作された『リーンの翼』について、多くの新たな試みが行われた制作の状況、そして富野由悠季監督がこだわり続ける「バイストン・ウェル」サーガの表現の苦労などについて話を伺った。


――『プラネテス』の次に担当されたのは、富野由悠季監督の作品となる『リーンの翼』ですが、2005年に始まったこちらの作品も、これまでには無い変わった体裁での公作品開でしたね。

河口 今ではすっかり当たり前になりましたが、当時としては画期的な、インターネット配信アニメということで制作されました。バンダイチャンネルで配信する作品ということで、当時サンライズの役員をやっていた松本悟さんから富野監督にオーダーされたようです。というのも、ある日、出社すると、私の机の上に富野メモがドンっと置かれていて、「監督、これは何ですか?」と聞くと「松本さんと話して」とだけ言われて、そこから関わるようになるという流れでして。インターネット配信のアニメに関しては、当時は私もよくわからなかったので、またバンダイビジュアルの湯川淳さんに相談したり…。その後、社内を聞きまわって、松本さんとも話して、ようやく企画内容を理解することができたというかんじでした。この辺りも当時の私の勉強不足が出ているところでもあったんですが、今考えるとウェブアニメとして配信するなら、短い尺を重ねてやる方が良かったかなとは思います。でも、あの時はウェブベースで制作費を回収しようにも、そこが未知数な時期だったので、あくまで、後に発売されるビデオセールスの方を重視した企画となりました。

――当時、インターネットで動画を見るのも大変な時期でしたね。


河口 そうなんですよね。回線のインフラなんかもまだまだという感じで。そういう意味では早すぎた企画でもあります。また本来なら、もう少し制作費を抑えるべきだったんでしょうが、富野アニメということで、設定も多くなるし、新たな試みを行うので、どうしても制作費が高くなってしまうんですよね。個人的には、富野監督の作品発表の場がTVから映画にシフトできないかと思っていて、短くお話をまとめる練習として、本数を少なくしておきたいと思ったのは確かです。『リーンの翼』では、第1話は山口県の岩国基地が舞台になっているんですが、現地に取材に行っているんですよね。でも、正式な取材ではなく、基地祭があるということで、富野監督や美術監督のアトリエムサの池田繁美さんと一緒に行ったのを覚えていますね。

――配信する枠としては、NHKと同じく、スポンサーが入らない形だったのでしょうか?

河口 そうです。そういう意味では、それまで通り、やはり自由にやらせていただいた感じはありますね。

――当時として画期的なポイントとしては、オーラバトラーをCGで描いたことがありますね。

河口 そこに関しては、試みは良かったんですが、結果の面で言うとちょっと反省しているところがあります。オーラバトラー自体を虫っぽいイメージでデザインしてもらったんですが、画面ではそれがちょっと伝わりきってなかった感じで。テクスチャーなどを駆使して、もっと虫っぽさや異世界感を強調すべきだったかなと、改めて見直すと思ってしまいますね。そうした表現に関しては、途中で監督からも言われていたんですが、当時のCGは、細かくテクスチャーを貼り込んでいくと時間やお金の面でキビしくて、断念した経緯があるんです。まだ、アニメの3DCGが発展途上段階だったということはあるにしても、そこはもうちょっと頑張ることができたらよかったかな……。

――オーラバトラーのデザインも、いわゆる従来のメカデザインとはちょっと違いましたね。

河口 デザインは平成の『仮面ライダー』シリーズなどをやられている篠原保さんにお願いしています。篠原さんは虫が嫌いだったそうなんですが、頑張って描いてくれました。いいデザインを描いていただけたので、もうちょっとディテールで足していけたらなと思うところなんです。本編でのオーラバトラーの動きに関しては、最終的にはアニメーターさんに原画を描いてもらって、そこに同様のポージングをさせたCGモデルを乗せて動かして見せるというやり方になっているんですが、制作初期ではモーションキャプチャーで動かすことも検討しました。今回のオーラバトラーがどう動くイメージなのか、富野監督自身がCG用のマーカーを付けて、実際に演じてみせるというテスト映像も撮影したりしました。富野監督の動きをザクのモデルに仮に当てはめて動きをみるみたいな感じで。ただ、実際にモーションキャプチャーでやるとなると、例えば大きな尻尾みたいなものが付いている場合は、モーションキャプチャー用にもそうしたものも作らなければならず、手間や費用を考えるとそこまではやりきれないということで諦めました。

――デザイナーさんもアニメ畑では無い方を採用し、CGも積極的に取り入れるなど、攻めた要素が多い作品ですが、プロデューサー的には大変だったのではないですか?

河口 その辺りは富野監督からのオーダーがあったんです。オーラバトラーは、「『仮面ライダー』をやっているような人に頼めないか?」と言われた結果ですし、キャラクター原案を担当されたOKAMAさんも、監督から「この人に頼んで欲しい」と言われました。

――そういう意味では、作品のテイストに合わせてプロデューサーがスタッフィングするのではなく、監督のオーダーに応える形だったわけですね。

河口 バイストン・ウェルという舞台は、監督にとって思い入れが強いので、デザイン的な面でも思い描くイメージがたくさんあり、それをいかに表現できるかということを考えて、スタッフを集めて応えていった形です。ガンダム作品になると、イメージがかなり共有されているところがありますが、バイストン・ウェルに関しては監督に聞かないとわからないところがたくさんあって。バイストン・ウェルという場所のイメージに関しても、「死後の世界ですか?」とか、「どこにあるんですか?」と聞いたことがあります。すると、「その辺りの泡の中かもしれない」と。ということは、逆にどこにあってもいいということで、どこにあってもいいというほど自由ならば、携帯の電話が繋がることがあっても面白いと思ったので、そうした提案をして採用されているところもあります。

――人間が行き来するには何らかの要因が必要だけれど、電波くらいは簡単に届いてしまうかもということですね。

河口 そうです。その結果、敵役となる迫水は、バイストン・ウェルにいながらも、地上から届く情報を電波や、地上からバイストン・ウェルにやってきた人から少しずつ聞くというような形で知っていて、地上に戻った際にすんなりと行動ができるようにするというような設定にしたんじゃないかと思います。

――『リーンの翼』という作品は、富野監督からのさまざまな要望に応えるのが、仕事の大きな部分を占めていたのでしょうか?

河口 半分くらいはそうだったと思います。富野監督からの「『リーンの翼』をやりたいんだ」という話から企画が動き始めた部分もありますから。そんな形で企画を固めて行く中で、監督は、「敵をどうするか悩んでいる」という話もされていました。さらに話を詰めているうちに、「小説版の主人公である迫水を敵にして、新しい主人公を登場させる」という形で落ち着いていった記憶があります。

――ある意味、プロデューサー兼相談役みたいなポジションだったのでしょうか?

河口 そうかもしれませんね。監督は自分の中でいっぱい考えて、それをつべこべと説明はしたりしないんです。ただ、「こうしたいけど、どう?」という話を私に振ってくるんです。その話に対して、こちらがどんな反応をするのかを見ているという感じがありました。だから、私の方ではその都度、素直な反応を返したという感じですね。

――そうした、他の作品には無い部分も含めて、富野作品のプロデューサーは大変という感じでしょうか?

河口 やはり、監督は他のアニメの作り方と思想が違っていて、極論を言うと楽な作り方はさせてもらえないんです。そこを理解してくれるスタッフを集めないと監督もストレスを感じてしまう。かと言って、監督のやり方を理解してくれるスタッフというのもそんなに多くないので、そうした部分も大変ですね。スタッフ集めも完璧にはできないですが、なるべく監督の意に沿うようにと思いながらやっていますが、「ここは違ったのか」ということもありますからね。一方ではうまくいったところとか、そういうことの繰り返しという感じですね。監督の方向性を読むのが重要な仕事であり、肝と言えるところかもしれません。

――一方で、プロデューサーはスタッフがきちんと作業できる環境の構築やワークフロー的な部分を作るという仕事もありますよね?

河口 そういう部分に関しては、全部ひとりでやるわけではなく、制作のチームもありますし、場合によっては委員会があれば委員会の人たちにも相談したり。プロデューサーは、人に頼みごとをする仕事なんです。ただ、トラブル対応だけは人に頼めない。だから、トラブル対応がもうひとつの大事な仕事になりますね。多くの作品を御一緒した湯川プロデューサーとも話していたのは、作品はすごく大きな機関車で、そこに燃料も沢山積んで出発したけど、歯車が全然回ってない。機関車が想定した動きをしないということがあった場合、あちこちに油を差したり、燃料を足したり、外部からメンテナンスをしたり、線路が途切れそうなら線路を足したり。それをやっているのがプロデューサーだと。

――大きいものを動かすためのメンテナンス要員だという感じですね。

河口 機関車を動かす大切な要素である現場スタッフからから見たら「何もやってないじゃん」と思われるかもしれないけど、一応やることはやっているんです。ただ、油を差しても上手く回らないということは、極論を言うと最初の設計が甘いということもあるので。ちゃんとしたプロデューサーは、線路を敷いて機関車を置いたら、次の駅で待っているくらいでいい。私の場合は、機関車に乗っていこうとしたり、別の作品では機関車の横を油を差しながら次の駅まで一緒に行くような、そんな感じでやってしまっていることが多かったですね。

(その7)へ続く

河口佳高(かわぐちよしたか)
1965年4月8日生まれ、福井県出身。
1988年にサンライズ入社。制作進行、制作デスク、設定制作などを経て『劇場版∀ガンダム地球光・月光蝶』のプロデューサーを務める。プロデューサー作品には『OVERMANキングゲイナー』『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』などがある。


アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その1)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その2)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その3)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その4)
アニメ制作の裏バナシ 第1回 サンライズプロデューサー河口佳高インタビュー(その5)