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アニメ制作の裏バナシ
サンライズプロデューサー 河口佳高インタビュー(その7)
サンライズで多数の作品のプロデューサーを務めた河口佳高さんにアニメ制作の裏側を聞くシリーズの最終回。今回は、監督の谷口悟朗、脚本の大河内一楼、キャラクター原案にCLAMPを採用して大ヒットを記録した2006年放送開始の『コードギアス 反逆のルルーシュ』、その続編である2008年放送開始の『コードギアス 反逆のルルーシュR2』について話を伺った。
――『リーンの翼』が終わり、その次に関わったのが『コードギアス 反逆のルルーシュ(以下、コードギアス)』ですね。こちらは、民放の深夜枠という形で放送され、これまでとは違った規模の作品ですが、企画はどのように生まれていったのでしょうか?
河口 『コードギアス』の前身となる企画は、元々は、「土6」と言われていた、土曜日の夕方6時の夕方枠で放送することを考えて動いていました。同じ枠で『機動戦士ガンダムSEED(以下、ガンダムSEED)』がヒットしたことを受け、それが終わった後に、「今度はこれがありますよ」と引き続きお客さんが楽しめる作品にするという戦略でコンセプトを固めた企画だったんです。ターゲットとしては、『ガンダムSEED』を楽しんだ中学生くらいを想定し、商品もバンダイさんからプラモデルがでるようなロボットバトルものを考えていました。最初は、ガンダム作品と差別化できるように、100mくらいの巨大なロボットが1対1で「決闘」するような作品をイメージしていました。ただ、最終的にはその夕方の枠が取れなくて、深夜枠で放送するという形に変更することになったんです。そこで、監督の谷口悟朗さんと脚本の大河内一楼さんが放送枠が変わるならターゲットも変わるからと、作品のコンセプトを全部作り直したものが、『コードギアス』なんです。
――当初は、もっと若年層を意識した作品だったんですね。
河口 そうですね。ただ、深夜枠になると中学生ではなく、大学生や若い社会人、そして高校生くらいだろうと。ただ、当時は今ほどみんながアニメを「面白い!」と言って、オープンに感想を発信している時代では無かったので、大学生くらいのアニメを馬鹿にして観ない世代の人たちをどうやってこの作品に振り向かせることができるかという議論を随分しましたね。
――子供っぽくない作品を目指した結果が、ルルーシュのような、復讐を目的とするアンチヒーロー的主人公が生まれる流れになったわけですね。
河口 「主人公が必ず正義の味方であって、正しくあらねばならない」という枠をまずは取り払おうということになったんです。当時の若者の感性には、「勝てばいいんでしょ?」と、お行儀よくやっても負けてしまって、結果が得られないとしたら意味がないんじゃないかという空気があるように感じていて。そういう部分をキャラクターに落とし込むことを考えました。今とは若い人の感性が違うかもしれないですが、当時は大人が既得権をいっぱい握っていて、自分たちはそれに束縛されている。それをぶち破るということが若い人にとってのヒーローであること、その時に善悪なんて関係ないんじゃないかという感覚ですね。そこで、どう考えても悪役という人物を主人公に据えたお話ができあがっていったんですね。
――確かに、そういう時代性の素地はあったのかもしれないですね。
河口 ただ、谷口監督は「悪に徹しきってしまわないように」という思いがあって、ルルーシュの傍にナナリーという妹を置いたんです。主人公が悪に徹してまで、国家の枠組みを壊そうとする理由というか、百歩譲って「そういう理由があるならしょうがないか」と言えるものを用意したわけです。どんなに悪い奴でも、そこだけは裏切らない。でも、最後にはそのナナリーに裏切られるから面白いんですが。
――谷口監督と脚本の大河内さんは『プラネテス』と同じ座組みになるわけですが、これは最初から狙っていたものなのでしょうか?
河口 当初、この企画は私とバンダイビジュアルの湯川さん、バンダイホビー事業部でプラモデルの企画などに関わっていた狩野義弘さん、バンダイナムコゲームスの稲垣浩文さんの4人で企画の打ち会わせをしていたんですが、そこに脚本家を入れようとなった時に、すでに『プラネテス』の作業を終えていた大河内さんに入って貰いました。その後、監督として谷口さんに入ってもらった感じです。脚本と監督の選定には、その時点で自由度はあって、誰を選んでも良かったんですが、気心の知れたところで大河内さんと谷口監督に入って貰いました。谷口監督はオリジナル作品でコンスタントにヒット作を出していましたし。監督と脚本家が揃った段階で、先ほども言った最初の巨大ロボット対決ものの企画書を1度作り、その後作り直しになったという感じです。そういう意味では、作り直しの段階では谷口監督と大河内さんが相当リードして作ってくれたという感じですね。
――『コードギアス』において、大きな要素となるのはキャラクター原案にCLAMPさんを採用したことにあると思いますが、これはプロデューサーとしての判断だったのでしょうか?
河口 キャラクターデザインをどうしようかという話合いの中で、『ガンダムSEED』がなぜ受けたのかという分析的なものをしたんです。作品的には男の子向けのなのに、なぜか女性のお客さんがついていると。なぜかという本質はよくわからないけど、少なくとも女性に嫌われない程度にはしようという話になりました。汗臭く、むさ苦しい感じはやめようと。積極的に女性に媚びを売ろうというのではなく、ある種の清潔感というか、そういうキャラクターにしたいと。その話し合いをしているタイミングで本屋さんに寄った時に、たまたまCLAMPさんの本が目に付いたんです。「この絵は谷口監督の作品にあうのではないか」と思って提案したところ、「ぜひ頼んで欲しい」という話になりました。とは言え、依頼するのはハードルが高そうだったので、第二候補を考えようとか逃げたような消極的な発言もしたのですが、ダメ元で当たってみることになりました。そうこうするうちに、偶然にもCLAMPさんと面識がある方とお会いしたので、その方に手紙を託して、仕事のオファーをしたんです。その後、実際にお会いした時に「手紙で仕事の依頼を受け取ったのは初めてです」と言われました(笑)。
――そこからキャラクターデザインも本格的に動きだしたわけですね。
河口 そうです。CLAMPさんに作品の趣旨や内容を説明したところ引き受けていただくことになりました。アニメのいちスタッフになるので、監督のオーダーでリテイクが出たら何度でも描き直しますとも仰ってくださって。そのやり取りをしていて、流石だなと何度も思いました。やはり、第一線の漫画家さんというのは、本当にお客さんのことを考えている。お客さんにどうアピールするのかを考えると同時に、監督の求めるものもしっかりと受け止めてくれる。本当に凄いなと思いましたね。
CLAMPさんには、夕方枠の企画の頃から入ってもらっていて、すでにいくつもデザインを描いてもらっていたんです。CLAMPさんにいただいた絵の要素がすごく良かったので、企画変更後も神聖ブリタニア帝国の貴族的な雰囲気は、夕方枠想定の頃に描かれたものをそのまま活かしました。
――前の企画の雰囲気が継承された部分でもあるわけですね。
河口 MBSの竹田プロデューサーから、企画が変更になった段階で「テロ戦争の時代だからもうちょっと現実的な世界を舞台にしてみてはどうか?」という提案もいただいたんですが、あくまでもトンデモフィクションの世界にしておきたいと思ったんです。それはなぜかというと、現代的にするとすでに描いてもらっているCLAMPさんの絵が使えなくなって、画面も絵柄も地味になってしまうから。その意見は谷口監督も一致していて、結果的に、貴族や騎士が戦う世界観にしていったという感じですね。
――CLAMPさんの絵を含めて、作品世界を再構築したのがいい方向に転がったわけですね。
河口 主人公たちの設定に関しては深夜枠に移ってから大きく変わってしまったので、そこはCLAMPさんに改めて描き直していただきましたが、ブリタニア皇帝とかは最初の頃に出してもらったそのままです。作品世界的にも、きちんと整ったものよりも、少しミスマッチ感がある方が私も好きだったのと、一見合わないようなテロ戦争と貴族主義的なものがうまく噛み合って味になったんだと思います。谷口監督も最初にCLAMPさんの絵が上がってきた時に「この絵だったら、かなりのことができますよ」と嬉しそうでした。かなりのことというのは、ハードな展開や描写のことなんだと思いますが、絵の効果でシリアスに受け止められる度合いが下がって、フィクション度が高そうな印象を与えてくれるということだったと思います。かなりシビアな描写をしても通用するというか、フィルターをかけることができると。実際に、直接的な描写はしませんでしたが、「こんなヒドい主人公があってもいいのか?」と思ったことはありましたから。あと、お話を決めている時に、酷い目に遭うのを他の国にすると問題になってしまいそうだったので、自分の国=日本にすることにしました。日本という国だけは実名が出ているんですが、他の国は名前を変えています。
――結構攻めた表現が多い作品だったので、その辺りでの調整の苦労などはあったのでしょうか?
河口 そんなに多くは無かったです。MBSの諸富プロデューサーも毎回の打ち合わせや編集に立ち会ってくれて。血の表現なんかは「ちょっと色味を抑えて欲しい」というようなオーダーはありましたが、例えば視聴者から衝撃で話題だった「血染めのユフィ」的な展開をやめてくれみたいなことも無かったです。
私的に危ういものを感じたのは、最後の最後でルルーシュがスザクに殺される展開に関しては、仕上がってくる映像を観て、本当に怖いなと思いましたし、これを放送してもいいのかなとも考えました。設定上10代の少年同士がお互い、ハプニング的にでは無く、ここでこの時と合意して、殺している。それまでのさまざまな経緯があっての展開ではあるんですが、それでも恐ろしい描写だなと。
――『コードギアス』は、「来週はどうなるんだろう?」と視聴者の心を引きつけるような展開が魅力だったわけですが、そうしたストーリーの作り方に関しては何か話をされたのでしょうか?
河口 『∀ガンダム』、『OVERMANキングゲイナー』からずっと大河内さんと仕事をしてきた積み重ねにプラスして、谷口監督が加わったチームのある種の成果ではあると思います。打ち合わせの中で毎回お尻に「引っ張りの要素を付けよう」という話をして、ああいう形の番組にするという合意はありました。その辺りもいろんな話合いを積み重ねて、最終的に谷口監督が受け取ってあのバランスに仕上げていく感じでしたね。『コードギアス』という作品は、この作品が初顔合わせという人の集まりでは作れなかったと、今でも思っています。
――第一期が終わり、第二期となる『コードギアス 反逆のルルーシュR2(以下、R2)』がスタートすることになるわけですが、その間でプロデューサーの立場から作品的な調整などはされたのでしょうか?
河口 第一期は、制作体制が脆弱だったのに、あんなブレーキ無しの作品をやってしまったおかげで、放送がギリギリのところまで行ってしまったんです。最終的に第一期では、自社内をはじめ、製作委員会や放送局であるMBSさんにもすごい迷惑をかけながら、なんとか総集編を2本入れて終えました。本当であれば、半年空けて同じ深夜枠で二期目を放送する予定だったんですが、半年では作業が間に合わないということになり、会社が動いてくれて1年後の放送に決定したわけです。さらに、製作委員会の皆さんにもご協力いただいて、日曜夕方の5時の枠でスタートすることになっていきました。ただ、放送時間が夕方になるということで、ターゲットの年齢も下がることが予想されたので、作風的には、第一期よりもちょっと明るくしようという話しになりました。
――そうした方向性の変更はあったんですね。
河口 局側から夕方の新枠になるので、続きの作品ではなく新番組としてここから新しく見る人も楽しめるものにして欲しいとお願いがありました。第一期の地方局を入れて10局での放送から、全国枠になったというのは大きかったですね。タイトルの「R2」は、続編の意味もありつつ、他の意味もありそうにと付けて、MBSさんにも了解を貰いました。
――『R2』の第1話は、ルルーシュの記憶が奪われた状態から始まりますね。
河口 新番組的にするということで、シナリオを見直して、第一期の第1話を再現する展開になったんです。その前にも『R2』の第1話はいろいろな案を考えました。例えば、ルルーシュはどこかの牢に捕まっているけど、夜な夜な抜け出してゼロになり、ブリタニアと戦って朝になるとまた牢に帰ってくるとか。ただ、そうするとブリタニアの監視体制が緩いみたいになるのでどうなのかということもあり、いろんなアイデアを出す中で、最終的に放送されたものに落ち着いた感じですね。もうひとつ変わったのは、戦闘の中心となるロボット、ナイトメアフレームの戦い方です。第一期では地上戦がメインで好評だったんですが、制作にあたっては作画の負荷が大きくて、とても現場が保たない状態でした。そこで、谷口監督に「空を飛んで戦闘をするようにしてください」とお願いして、設定も含めてそうした展開になったんですが、そこはファンからの評判は悪かったですね。でも地上戦や市街戦はとにかく作画に手間がかかって。当初、谷口さんは第二期を始めるにあたって、地上戦メインで、より派手な形で戦闘シーンを増やすと言っていて。でも、テレビシリーズのスケジュールでは両方を実現できなかったので、派手さをとって空を飛ばすことになったわけです。
――結果的に、『コードギアス』という作品は大成功を収めて、予想を超えた広がりになったわけですが、プロデューサーの立場から成功の要因はどこにあったと思いますか?
河口 やはりスタッフの力は大きいと思います。関わったクリエイターの方々も脂がのっている時期の仕事ということもあって、すごくエネルギーに満ちていました。また、実はサンライズとしては、『コードギアス』が製作委員会で作ったほぼ最初の作品なんです。参加していたのは、ほとんどがグループ会社ですが、博報堂DYさんの参加もあり、いろんなものが噛み合うことで、あの時代にあまり無い作品を作ることができたのではないかと思います。それらのことがうまく作用しているんじゃないでしょうか。
――キャスト陣もいいタイミングで素晴らしい方々が集まりましたね。
河口 ルルーシュ役の福山潤さんは、実は『∀ガンダム』が初のレギュラー作品だったそうで、収録後の飲み会などでは皆に一生懸命気を配る好青年という印象だったんです。その後、『リーンの翼』で主役を演じてもらうんですが、富野監督も私も『∀ガンダム』の時の印象でいたのが、その頃にはすごくスケジュールがとりづらい売れっ子になっていました。そして、『コードギアス』で改めて主役を演じてもらえるという流れになった時には、とても感慨深かったのを覚えています。ルルーシュの役というのは、福山さんには本来合っていない、声質的にも無理をしてやってもらった役なんですよね。音響監督の浦上靖夫さんからは、「もっと低い声で」、「悪魔のような気持ちで」と言われて演じたそうなんですが、その無理をしている感じも含めてルルーシュというキャラにはすごく合っていたんですね。
――福山さん自身が持っている、滲み出る人の良さみたいなものもありましたね。
河口 そうそう。それを抑えて悪になりきろうとしているみたいなところも、浦上さんや谷口監督も狙っていたんだと思います。オーディションの後、主役を決める話合いの際には、「この役を福山さんに?」と思ったんですが、お二人はそうした福山さんが演じる効果まで見ていたわけで、それも凄いなと思いましたね。
――それでは、そろそろまとめに入りたいと思うのですが、河口さん自身、さまざまな作品でプロデューサーをやってきて、「楽しかった」と思えたのはどのような部分だったのでしょうか?
河口 やはり、作品を作っている場面、場面で「これは面白くなるぞ」と思う瞬間に出会う時ですね。それがたまらなく楽しいです。例えて言えば、『コードギアス』の「血染めのユフィ」の回は、シナリオ打ち会わせで話を聞いているとあまりにも想像を超える衝撃的で酷いことが起こるので、逆に笑ってしまいましたね。「ここまでやっちゃうのか!」と。真面目に見ている視聴者の方には申し訳ないんですが、そういう作る側の楽しみ、お客さんに対してちょっとしたいたずらを仕掛けるようなところを味わえるのもプロデューサーならではかもしれないですね。トータルの話で言うと、作品を一番最初から立ち上げて、ある程度番組の形やコンセプトが明確にみえてきたら、あとはその通り行くかどうかを見るのがプロデューサーであり、それが予想以上にうまく行くと楽しい……という感じですかね。
――プロデューサーを目指している方に対しては、何か言っておきたいことはありますか?
河口 オリジナルものの作品のプロデューサーになると、試行錯誤がたくさんあって、それ自体が苦しいけど後に楽しい経験になるのは間違いないかと思いますね。私は原作ものの経験があまりないですが、原作ものもとんでもないスケールの作品もありますから、そこから見える景色も全然違ったりするんじゃないかと思います。いずれにせよ、自分たちがチームを作って、そのチームでやった成果に対して、世の中の反応がある。その反応の大小を含めて楽しむことができる面白味はあると思います。
――制作現場のスタッフとなると、どうしても監督や演出、作画という部分に目が行きがちですが、お話を聞いているとプロデューサーとしての楽しさというのが存在することは間違いないと思いました。
河口 まず、原作があると、最初の段階で原作とファンの方との間に関係がすでにできあがっていますよね。それを尊重して作っていかないといけないわけです。ですが、オリジナル作品の場合はそれが全くない状態なので、それこそ何も無いところに道を作っていくみたいな。原作ものは獣道でも道があるところをどう広げて、周りを飾っていくかというのがあるのですが、そこが大きな違いだと思います。オリジナルものをやると、今度は逆に原作の漫画家さんや編集さんがどういう苦労をしているのかも想像することができるようになります。そういう意味では、どちらもバランスよくプロデューサーとして経験できれば一番いいと思いますね。
河口佳高(かわぐちよしたか)
1965年4月8日生まれ、福井県出身。
1988年にサンライズ入社。制作進行、制作デスク、設定制作などを経て『劇場版∀ガンダム地球光・月光蝶』のプロデューサーを務める。プロデューサー作品には『OVERMANキングゲイナー』『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』などがある。
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