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2024.02.15

サンライズワールド アニメ制作の裏バナシ 第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その3)

 


開催中の「Y2Kサンライズメカ展」に、製作に携わった4作品がラインナップされている古里尚丈プロデューサー。(その3)でも前回に続き『GEAR戦士電童』の話です。


――『GEAR戦士電童(以下、電童)』の企画内容についてですが、最初から北斗と銀河の二人を中心にした物語だったのでしょうか。

古里 実は、福田(己津央)さんと検討を重ねる前に、バンダイ側の資料を見て立てた企画があったんです。それは、メカデザイナーの阿久津(潤一)さんが描いたイメージボードを元にした企画です。その絵は、荒れた荒野の高台にひとり(一体)立っているロボットというものです。マッドマックス的な荒廃した世界観を彷彿とさせる絵でした。抜け忍のようなアウトローなロボットでした。その絵を元に、ライターの吉野(弘幸)さんと色々考えて描いた企画メモがあります。また、わたしが尊敬してやまない漫画家の先生のお力を借りて描いていただいた線画のボードが何枚もあります。ちなみに、敵の基地、螺旋城がその名残りです。

キャラクター原案や、イメージボードも素晴らしいものが上がっていました。それら資料を福田監督に見せたときに「これ(玩具は)売れる?」と。もし、これがハイターゲット向けの企画ならば、その世界観や物語も興味深いものだったし、売れる可能性はあったと思います。しかし、ターゲットが違うんです。

さらに、ノストラダムスの大予言にあった1999年に恐怖の大王は来ず、地球が滅ぶと言うこともなく、2000年を迎えるなかのアニメです。なによりも子どもたちに未来への明るい展望を見せてあげられないのはどうなのかと。福田さんには広いターゲットに届く売れ線を狙いたいという想いがあって、それ以上に「地球は滅ぶんだ、君たちの将来に、明るい未来はないんだ」という暗いムードを、子どもたちに見せたくなかったんです。そのあたりは1話を見ていただければわかると思いますが、ロボバトルのあとに建物を作り直しているんです。北斗や銀河、子どもたちの頑張りを親はちゃんと見ていて、守ろうとしているよというメッセージが、そんなところにも込められているんです。ベガさんも常に子どもたちを守ろうとしていますしね。

これは福田さんご自身のメッセージであると同時に、シリーズ構成で加わった両澤(千晶)さんの「母親の目」が入っているからこそだなとも思います。世界中を飛び回ってる報道記者の源一(銀河の父)も、キャスターとして活躍している圭介(北斗の父)も面白い人たちでしたけど、ベガさん(北斗の母、織絵)だけでなくみどりさん(銀河の母)――、母親がより前面に出ているなと感じるんですよね。そういう意味でも、家族というものへのアプローチ、福田さん両澤さん自身の、親として子を見守る目線も入っているアニメだったなと思います。


厳密にいうと、親の想いをどのくらいの熱量、分量で描いていくかのバランスは難しいですよね。特にターゲットとなる小学3~4年生ともなれば、もう親離れしてみたい年頃ですから、見ている子どもたちに「エライ迷惑だ」と思われてしまってはいけない。子どもたちをこっそり見守る形をとっているのは、そういう背景もあったりします。電童を見ていた子どもたちが大人になったときに、世界がなにかしらよくなっている――そんな未来を描きたいというメッセージは、裏返しとしてそんな明るい未来を親たちが作り出して、子どもたちにバトンタッチしていかなくてはいけないという強い想いでもあるんです。

余談ですが、当時良く出ていた議論があります。「北斗と銀河」なのか?「銀河と北斗」なのか?問題です。ストーリー上のキーマンは北斗です。なにせ、宇宙人のママと地球人の間の子供ですし、物語の根幹にいるキャラだからです。銀河は渦中の事件に巻き込まれた地球人です。わたしは銀河のカラッとした明るさがあっての腹黒北斗ですから……どっちの組み合わせでも良いのです。いまもふたりは、世界のどこかを飛び回っていたり、人助けをしていたりするんだろうと夢想します。

――子ども向け作品として太い軸を通している一方で、ニヤリとするような試みも印象に残っています。

古里 そうですね。メインターゲットである子どもたちに対する想いと並行して、広い層に届けて拾い上げていく、さまざまなフックを入れこんだりもしました。そのひとつがキャラクターデザイナーの久行(宏和)さん描いてきた3人のアイドル、そのアイドルグループに「C-DRiVE」と言う名前を付けて、銀河の部屋の壁にそのポスターを貼ったり、エンディングに「C-DRiVE」を出してみたり、ついにはCDドラマも発売しました。実は、そのCDドラマがちょっと売れたのです。そのアイドルが――『舞-HiME』の舞衣、なつき、碧につながる3人の原型になりました。

電童のキャラクター構造を観察すると『スターウォーズ』に似ている気がします(笑)。電童の中でくるくるっと妖精のように出てくるのは、(OPでも出てくる幼年時の)ベガじゃないですか。あれはR2-D2が映し出したレイア姫と重なりますし、そうなると北斗はルーク、銀河はハン=ソロ。アルテアさまは本来、味方であるべき存在が敵として対峙するという意味でダース・ベイダーですし、スキンヘッドのゼロは位置づけ的にもダース・モールですよね。これは放送が始まったら、『スターウォーズ』だって突っ込まれるなあと思っていたのですが、意外なことにそういう意見はなくて、あれれ?でした。

――物語を考えるうえで、苦戦したことってありますか?

苦戦ですか?そうですね。
わたしは、『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』でプロデューサーになり、「サイバー」には主人公が戦うべき凶悪な「敵」はいませんでした。人として仲間として、友としてのライバルはおりますし、さらに最大の敵として自分のこころに勝つことは必須です。またレース物なので優勝するという命題はありましたが、分かりやすい絶対悪の「敵」はいませんでした。そうなのです、主人公が乗る巨大ロボットが戦う「敵」を創造するのが一番の悩みでした。魅力的な「敵」の存在があってこそ巨大ロボットが引き立つのです。

昔から、映画、漫画、小説など主人公が主人公でいるのは、魅力的な「敵」、憎まれてなんぼの「敵」が存在し対峙するからです。視聴者が、主人公と主人公の乗る巨大ロボットを素直に応援出来るのは、その「敵」を倒して欲しい、その「敵」がいるとヤバいと思うからです。そんな「敵」のアイデアを出すのが重要です。福田監督を始め、みんなで考えるのですが、なかなか生まれなかったのでシンドかったです。

最終的に、ベガ、アルテアの生まれた惑星の管理コンピューターが反乱を起こしたという「敵」になりました。そのコンピューターが惑星を維持するために一番いらない存在が人間であると判断し抹殺していく、そして、その思考が全宇宙に拡がる、といった流れになりました。全宇宙の人類を抹殺していく機械生命体であるガルファと戦うという構造になりました。電童の放送から24年経ち、最近のAIやChatGPTのことを考えると、いずれ人間はいらないのでは?とコンピューターに断定されるのではないか?と思ってみたりします。でも、機械も使ってくれる人間がいないと寂しいと思ってくれないかしら?と思うのは感傷的過ぎでしょうか?

あと、戦う相手、敵がいない以上に、視聴者の「志向の変化」&「嗜好の変化」ということも常に感じました。敏感に、その時々の時代の空気感をきちんと読み取って、発していかないと古いとか、ダサいとか、逆に新しすぎて通じないことになる可能性が高いです。正直、わたしにとって一番怖い存在は、電童を見た子供たちの感想です……。

1999年当時、幼年誌の編集長さんとのお話の中で、プレゼントの応募で何が人気があるのかという話題になったとき、今は巨大ロボットの玩具をプレゼントしてもダメで、応募のハガキがこないんですよといわれたんです。どういうことなんですか?と聞いてみたら、今は、ポケモンやデジモンのような丸っこいキャラに人気が集中していて、巨大ロボットへの興味、関心度は低くなっているんですと教えてもらいました。その大きな理由のひとつとして、お母さんたちが自分の子供にロボットアニメを見せたがらないと、その編集長は言うんですよ。とにかく「優しい子になりなさい」と、ケンカをするような子どもになって欲しくない。そうなると、ある意味戦争につながるようなロボット(兵器)などに乗って戦闘をする作品をあまり見せたくない。そして、可愛い丸っこいペットたちの代理戦争ではないですが、そんな傾向のアニメなどが好まれるようになっていった気がします。穿った見方をすると、世の男性が草食化している、ツメや牙が抜かれて弱く、いえ優しくなったというようなことは当時から感じましたし、そんな世論もあった気がします。そういった傾向が顕著に商品の需要、売れ行きにもつながっていることも聞いていましたから、もともとロボットアニメ、特に子ども向けの作品は作りにくくなっていると感じていたところに、「世の中が欲していない」という状況が見えてしまっていたんです。電童というロボットを、ひたすらカッコよく、華のあるロボットとして表現したかった身としては、これまた悩みのタネではありました。当時もいまも、男の子のこころの根底にロボットや格好いいメカへの憧れはあると信じたいと願っているロボットアニメ大好きなプロデューサーのわたしでした。

そんな状況の中で、新たなひとつの方向性がみえたのが、『電童』のあとに携わった『出撃! マシンロボレスキュー』という作品になります。


その4)に続く


古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』「勇者シリーズ」等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中

 

 

アニメ制作の裏バナシ 第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その1)
 

アニメ制作の裏バナシ 第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その2)