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サンライズワールド アニメ制作の裏バナシ
第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その2)
開催中の「Y2Kサンライズメカ展」に、製作に携わった4作品がラインナップされている古里尚丈プロデューサー。
(その2)では『GEAR戦士電童』についてうかがった。
古里 2000年に『GEAR戦士電童(以下、電童)』で、やっとオリジナルロボットアニメ――(当時)タカラさんとの玩具連動型の勇者シリーズで色々経験した子供向けロボットアニメ。幼稚園児から小学校2~3年生の男の子をターゲットにしたTVアニメーションの企画制作の機会が巡ってきました。ちなみに余談ですが、男児玩具のことは「男玩(だんがん)」って言います。
27歳から33歳くらいまで勇者シリーズに携わりましたが、その中で大河原(邦男)さんや谷田部(勝義)監督、高松(信司)監督、各話演出で福田(己津央)さんや川瀬(敏文)さん、石踊(宏)さん、杉島(邦久)さん、他。平野(靖士)さんはじめライターの方々と、多くのスタッフと視聴者のみなさんから子ども向けロボットアニメの作り方を教わったわけです。すごく偉そうな物言いにはなってしまいますが、そこで経験したことを披露したい、先輩方から教えてもらったことを、次の世代にも繋げていきたいという想いもあったので、どうしても子供向け、特に男玩向けのロボットアニメを作りたかったんですね。
プロデューサーになってから『電童』までに自分の基礎を作った4作品はロボットアニメではありませんでした。でも、作品の中にあったさまざまな要素――『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA・SIN』ではフォーミュラカーの疾走感、ブーストをかけたときのエフェクトのカッコよさや爽快感といったものがロボットでなくても表現できることを見てきましたし、『星方武俠アウトロースター』では腕のある宇宙船(!)で殴り合うなんていうアクションシーンも作らせてもらった自分としては、満を持しての『電童』だったかなと思っています。
当時はそんなうれしさもあると同時に、子どもたちにきちんと届く、そして売れる作品として、どう作っていけばいいのかという大きな課題も目の前にあったわけです。それには、重要であり大切なファクター、優秀なメインスタッフのセレクトです。そこで、一緒に『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA・SIN』を作っており、『勇者エクスカイザー(以下、エクスカイザー)』では変形合体バンクのコンテ演出やっていた福田さんであれば、このロボットをフィルムでカッコよく見せてくれるに違いないと、監督をお願いすることにしました。
――玩具連動作品ということですから、やはりロボットのデザインありきで始まっているわけですよね。
古里 はい、バンダイ側からのデザインをもとに阿久津(潤一)さんがメカデザインを描いています。そのデザインを見たわたしと福田さんの感想は「どうする?これ!」でした。正直、悩み多きデザインで、ああでもないこうでもないといろいろ検討を重ねたわけですが、電童はターゲット層が小学校2~3年生です。幼稚園児あたりがど真ん中だった勇者シリーズに比べると、上になるんです。そうするとライバル作品――商品群でいうとベイブレードやカードゲーム、任天堂さんをはじめとするゲーム機たちが相手になってくる。今まではおじいちゃんおばあちゃんが誕生日やクリスマスにプレゼントとしてロボットの玩具を買ってくれていた勇者シリーズとは違って、ギリギリお父さんお母さんが買ってくれる可能性はあるけれど、基本的には自分のお小遣いで関連商品を買う世代になるんですね。そうなったときに、ワンコインでポケットに入る商材が強いわけです。それで考えるとポケットに入らない大きさであり、値段も高い、色々課題を抱えた企画です。そんな中で、ちょうど携帯電話も普及し始めたころでしたから、電童を動かすリモコンとしてのギアコマンダーや、そこに着けるオプションとしてのデータウェポンたちという商品アイデアがバンダイから出てきました。ちょっとだけ未来を感じさせるコンセプトが生まれたことが嬉しかったです。
さて特徴でもあり課題でもある電童の腕脚のぐるぐる回るタービンのデザインをアニメ的にどう活かしていくか?これは、制作している間の悩みでした。答えが簡単に出るものではないのですが、とにかく一生懸命に考えていた記憶があります。
玩具連動企画の面白さは、制作現場が予期しないデザインが来ることです。そこで、びっくりな世界観や物語が生まれるきっかけにもなるし、大いなる悩みの元にもなります。しかし、玩具連動企画のメリットもあります。
例えば「オリジナルアニメーションの企画を立てましょう。題材はなんでもいいです」といった場合、意外と企画を書けなくなってしまうことが多いんです。なぜなら全方位にいくらでもネタがあるから、その中から何を選ぶのかとなると、よほど自分でやりたいことがある人でなければ難しい。もちろん、そうやって選ばれた題材はその人が大好きなもので、それを形にしていくのがオリジナル作品の醍醐味ではあるのですが、サンライズの場合は勇者シリーズをはじめとして、玩具、ホビーありきの作品を作り続けてきていて、それをオリジナルと言ってきているんです。世界観も物語も、サンライズのスタッフたちが作り上げているという意味ではオリジナルなのですが、その中心にコンセプトとなる「柱」が玩具になっている。玩具をモチーフにしたアニメーションの面白さ、醍醐味というのは、子どもたちにその玩具を届けたい、遊び方を届けたいという想いがあって、そのサポートやガイドをしていくことなんです。だからこそ、大前提となる「玩具」という要素をずらしたり、使わないのは勿体ないしダメなんですよ。
ターゲットがしっかり決められている作品の場合、そのターゲット――特に子どもが見て面白いと言ってくれて、玩具を買って、ごっこ遊びをしてくれる。そのときにアニメを見て、作品の中の物語や必殺技なんかを使ってくれていたら、また子どもたちの心や記憶になにかを残せたのであれば、作ってる我々としては、「よし、勝ったな」ではないですけれど(笑)、超うれしいですよね。
同時に、制作現場にとってもポジティブなことがあります。それは玩具という触れるものが傍らにあること。オリジナルアニメーションはどんな話でも、どんなキャラクターでも生み出せますが、基本これらは絵に描いた“餅”ですから。目の前にリアルに「つかめるモノ」がないんです。もちろん絵を動かすことでアニメ――魂を与えて、映像として映し出すことはできるんですが、手で触れた感じられる玩具のリアリティにはかなわない部分があります。それは勇者シリーズ、『電童』『激闘!クラッシュギアTURBO』『出撃!マシンロボレスキュー』と、自分で何本もアニメを作ってきた中で、毎回感じてきたことです。
監督やライター、アニメーターたちにとってもそれは同じで、届いた玩具の試作品を見せると、単純に子供のように喜びます。でも、この感覚が大切だと思っています。
子どもたちに向けて商品を活かす作品、ロボットやキャラクターを魅力的に描いて訴求するアニメを作っているんだという、そんな想いが芽生えるんですね。見て触れることのリアリティは、ものすごく大きいんです。
制作現場の進行さんや動画の人たちなどにとっても「あ、自分たちはこのアニメを作っているんだ」ということがすごくよく伝わるんですよね。マンガや小説、ゲームなどの原作のある作品は、原作に触れればおのずと自分たちの作る世界や物語、キャラクターのことがわかりますけど、オリジナル作品はそうはいかない。監督たちの説明を聞き、設定を見、絵コンテも見ている。どんなアニメなのかなんとなくはわかっているんですが、玩具を見たとき触れたときに感じる理解度は、とても高くなるんです。オリジナル作品は、1、2話を作っているときにはその先の5話がどんな話なのか、さらに先の最終話にはどんな結末が待っているのか、中核のスタッフ以外はほとんどが知らない状況です。そんななかで、最終回までのことはわからないかもしれないけれど、この玩具、変形合体してこんなにカッコよくなるんだよって触ってもらうと、みんな「ああ、自分はこんな作品を作る仕事をしているんだ」と理解してくれて、心がひとつになるんです。これが、一番有意義なことだなと思っています。
これはカードゲーム原作のアニメ作品でも同じことがいえるのかなとも思います。みんなアフレコ現場にカードを持って行って、声優さんたちとゲームしている。それが作品への求心力になっているんでしょうね。
――作画参考用にプロップ(模型)を作ることがありますが、アニメーターさんたちが喜ぶのは作画に役立つという理由だけではないのかもしれないですね。
古里 私はそう感じていますね。もちろん作画の際には大きく役立つでしょうが、そのキャラクター、ロボットに対するリアリティが高まること、描く対象が「いる」「ある」といった「本物」になった感覚や想いが生まれるからじゃないかと。『エクスカイザー』のときも、タカラさんから届いた試作品は、最初のころは関節もゆるくてプラプラしていて、色もついていない真っ白なものなんですが、大張(正己)さんに見せたら「なるほど、こうか……」って動かして、動画用紙に素晴らしい変形や合体を描いていましたし、やっぱりリアリティが段違いなんですよ。
少し話はそれますが、リアルのメリット、そしてアニメーションの持つメリットはなにか?です。それぞれに良さがあります。わたしは、アニメーションは省略の作法だと思っていますので、特にTVアニメーションにおいてはいかに背景を省略し、キャラクターのディテールを省略し記号化する、物語の細かい部分を省略していくかは大事です。省略されているからこそ、お客さまに一番伝えたいことをダイレクトにお届けできる。さらに、みなさんの持つ想像力で補うことで「リアル」を超えることができるかも知れないと考えています。
シンプルにキャラクターの魅力、濃いドラマで勝負したいといつも思っています。
(その3)に続く
古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』勇者シリーズ等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。