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2024.02.29

サンライズワールド アニメ制作の裏バナシ
第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その4)

 

GEAR戦士電童』、『出撃!マシンロボレスキュー』、『舞-HiME』シリーズ、『宇宙をかける少女』など多くのオリジナル作品のプロデューサーを務めた古里尚丈さん。(その4)では『出撃!マシンロボレスキュー』のお話をうかがった。


――『出撃!マシンロボレスキュー(以下、マシンロボレスキュー)』の新たな方向性とはどんなところでしょう?

古里 前回、第3回で魅力的な敵の作り方や考え方の話をしました。敵の大切さは十分に理解しているのですが、あの当時(2000年代頭)子ども向けの巨大ロボットアニメの敵のあり方はとても難しい局面を迎えているように思っていました。兵器である巨大ロボットの活躍が似合う「戦争」と言うシチュエーションの扱いも難しいです。そして、巨大ロボットの活躍を巨悪な敵を倒すだけではない新たな切り口で描けないか?と言う想いがありました。そこに、『マシンロボレスキュー』というタイトルにあるように、「敵を倒さない=レスキュー(救助)」がテーマの企画が来たのです。その企画を見たときに、時代にハマっている、プロデューサーの勘としてこれはやりたいと思ったんです。
当時は、1995年の阪神淡路大震災を経験したあとでしたし、私は青森県出身で小学一年生のときに十勝沖地震を経験していて地震の恐ろしさを知っている。日本は地震や津波だけでなく台風などもある災害の国ですから、災害救助をするロボットが本当に存在したら、どれだけ嬉しいか。そんなレスキューというモチーフがきたときに、担当したいと思ったし、敵をやっつけるわけではない、つまり戦争ではないアニメーションが作れることにも、自分としてはものすごくやりがいを感じたんですよ。この新しいジャンルのロボットアニメは、ある意味で他の作品群との差別化もできていて、ターゲットとする年齢層にもぴったりとはまる。大人として、視聴者である子どもたちへの未来へのメッセージとして平和の大切さ、街を護り、人や動物を助けることの大切さもきちんと伝えられる。勇者シリーズ、『GEAR戦士電童(以下、電童)』を経た自分として、やりたいことができる、ものすごくやりがいのある作品じゃないかと考えたんです。


作品のコンセプトは、勇者シリーズの「親と子に送るバトルロボット絵本」にあやかって、『マシンロボレスキュー』は親と子に向けた名作アニメにしようと。私が最初に仕事を覚えた制作会社は日本アニメーションですし、またその後ジブリで「ラピュタ」の制作進行をやったので、いま思うと私にとっては必然だったのかも知れません。それより、事実は小説よりも奇なりなことは、監督として神戸(守)さんに声をかけたのですが、なんと神戸さんは「ナウシカ」の制作進行でした。これは、ねらったわけでなく、神戸さんと話していて互いに宮崎(駿)監督に縁があったことでびっくりでしたね。

次にロボットのレスキュー以外の役割も考えました。子どもたちがレスキューにあたるということは、当然、彼らの安全も守らなくてはならない。『電童』でいうところのベガさんみたいな立ち位置の人が必要なので、ならばそれをロボットにお願いしようと。バディ(相棒)ではあるけれど――親や友だちというよりは、お兄さんお姉さん的な役割で子どもたちとコミュニケーションを図り、さらに自身の持つ強大な力を使って子どもたちをサポートし災害救助する、としました。

ロボマスター――子どもたちとロボットのバディ関係は、ポケモンやデジモンを始めとする作品群で描かれた関係値の、ひとつの見せ方になるかなと考えました。子どもたちもロボットも、双方がちゃんと主役になるように描きたかった。勇者シリーズのころとは時代が変わっていたこともあって、コウタくんや星史くんたちと勇者ロボの関係性からアレンジしているのですが、勇者シリーズで培った心根の部分は残しながら、時代にあわせていくというのが『マシンロボレスキュー』の作り方だった気がします。

しかし、困ったこともあって。監督、ライターと頭を抱えたのは、とにかくコメディがやりにくい。ケンくんとショウくんというコメディ系のキャラクターをふたり置きましたけど、災害救助のときにはふたりとも売りとなるコメディをやれない。災害救助という切羽詰まった現場においては当たり前のことなのですが、バカができない、もっと言ってしまうと「失敗」ができないんです。だからシリアスにならざる得ないし、太陽くんたちがウソっぽいほどにいい子たちになった理由はそこにあるんです。

――名作らしさを目指した一方で、そうならざる得ない部分もあったと。

古里 そうなんです、実際にふたを開けてシナリオ打ちが始まってみたら、自分の想い以上に名作的――性善説を持った少年少女たちになってしまう。物語の面白さというものは、山と谷、ギャップが生み出すものじゃないですか。その振り幅をネガティブな方向に強められないという現実がありました。『マシンロボレスキュー』におけるネガティブな要素の最たるものは災害そのものなのですが、その災害に対して太陽くんたちが「自分たちの力が足りていない」と感じるところに成長のドラマを生み出すことはできる。そして、子どもたち13人に成長以外に、友情を深めるとか、さだめた目標を超えるとか、苦手なことを克服するとか、バックボーンを設定しドラマの役割も考え与えました。これは視聴者が好きなキャラクターを追いかけると、それぞれのドラマが見える、みたいな仕掛けになりますので、追いかけて欲しいと願っていました。また、子ども向けのストーリーは本来コメディやギャグが望まれますので、兎にも角にもシリアスに行き過ぎないようにバランスさせるのも大変でした。

――苦心したところを教えてください。

子どもたちがプロとして災害救助にあたらなければならないという大きなウソにリアリティを持たせるためには、ルール作りが必要です。ロボットたちと災害救助に当たることは、特殊な能力を持った彼らロボマスターたちにしかできない。これは「この人しか乗らない」「この人しか乗れない」というロボットアニメの原理原則になる部分でもありますよね。『サイバーフォーミュラ』ならハヤトとアスラーダがそうですし、祖父の作ったマジンガーZに乗る兜甲児、鉄人28号のリモコンを与えられた正太郎くんもしかり。その原則が崩れてしまったとき――別の誰かが乗ることになったとき、そこにはドラマが生まれます。でも『マシンロボレスキュー』では、敵にロボたちが奪われてしまったりしたら、街は災害に見舞われてしまうわけです。大人向けの作品だったら面白い展開になるのですが、メインターゲットである子どもたちにとって、それは見せていいものになるのだろうかと。災害の現場での失敗も同様で、どうしても太陽くんたちに失敗させられるのは訓練まで。巨大ロボットアニメのセオリー通りには作れない部分があるんですね。でも、戦争物アニメではない「レスキュー」に魅力を感じたのがこの企画をいただいた時の想いです。現場では、セオリーを守ったり、セオリーを壊したりと試行錯誤が続きました。やれること、やれないことの制約が『マシンロボレスキュー』を作る上での面白さにもつながっていました。なんでもできるという状況は、自分にとってつまらないと思っていて、制約の中で作ること、与えられた素材をどう料理すれば面白くなるのか、そこが監督をはじめとした我々の力量になるはずですから。そのハードルが高ければ高いほど、なにくそとがんばれるんです。

今でこそ「こうすればよかったのかな」と思うこともありますが、当時はいろいろ悩んで苦戦しながらスタッフみんなで知恵を絞って作り上げていった記憶があります。こうだよね、ああだよねって作った記憶があります。企画が始まってから各打ち合わせ、コンテ、作画、撮影編集からアフレコ、ダビング、放送までと『マシンロボレスキュー』は楽しかったんです。最終回、正月特番では、キャラクターデザインの竹内(浩志)くんが、成長した太陽くんたちみんなの姿を描き直してくれたのも、うれしかったなあ。あ、でも、『電童』も最終回の大ラスに中学生になった北斗と銀河、エリスが出てきますので、良く考えるとわたしの趣味が出すぎですよね。でも、最終回まで見てくれた視聴者の皆さんに各キャラクターがどんな未来を迎えたのか?その姿を少しお見せしたいと強く願っているのが大きな理由です。


実は、声優選びもすごく興味深かったんです。『マシンロボレスキュー』は、大人数のキャラクターが出ます。少年と少女たち。大人たちとロボットがたくさんです。声のオーディションでは、声優20名くらい×キャラ数で200人強の声を何日も聞いていたので、頭のなかに色々な声がなり響いておりました。そして、監督・音響監督・わたしの3人で各キャラの担当声優さんを決めましたが、皆さん2役から3役と兼役となりました。プロの声優さんたちの演技は見事なもので声と演技を変えて演じてくれます。その姿をアフレコで見るのは、作り手として楽しいと言うか醍醐味でした。ロボマスター役とロボット役の声優さんたちは、やっぱりチームごとに仲良しになってアフレコ後にも一緒にご飯食べたりしてましたねぇ。そういえば、兼役ならではの面白さもあって、アリスをマリー先生がほめる回があるのですが、終わった瞬間に「自分で自分のことほめてる」って、みんながどっと笑ってしまって。演じているゆかなさんは「台本でこうなってるんだから」と、その通りなんだけど面白くて。監督をはじめ音響スタッフも声優さんたちアフレコ現場もホットで、そのホットさがフィルムに出ているように感じていました。

面白いと言えば、視聴者サイドのお話になるのですが、当時、とあるお母さんが書いていたブログがありまして。息子さんが『マシンロボレスキュー』を見てどんな反応をしたか、放送の次の日くらいに毎回書いてくれていたんです。物語の根幹はわかっていないのかもしれないのですが、テレビの前で立ち上がって応援したり、なにかしらのメッセージを画面に向けて語りかけていたりしているらしいんです。それがけっこう難解なストーリーのときでも、ちゃんと怒るべきところで怒ったり、物語にあわせた感情を見せていると。確か、誠くんの初恋話のときだったと思うんですが。

それを読んで、ああ、やっぱり、子ども騙しな作品を作ってはいけないって、思いました。そもそも子ども騙しというのは大人を騙すための言葉だと思っているのですが(笑)。勇者シリーズを作っていた当時、「子どもはすべてにおいて騙せないものだという認識で物語作りをしなさい」と、谷田部(勝義)監督や吉井(孝幸)プロデューサーに言われていて、ああ、こういうことなんだなと改めて思いました。子ども向けが一番難しいと言われるのは、こういうところなんでしょうね。真摯に作らなくてはいけないという意味で、『マシンロボレスキュー』は――もちろん『電童』も、すごくやりがいがありました。本当に幼稚園児、小学校低学年の子どもたちみんなに見てほしかったし、自分の中の勝手な想いとして、レスキューチームや消防隊員、警察官や自衛官、そういう職業に、『マシンロボレスキュー』を見たからなりましたって言ってくれるような子どもが、将来、現れてくれたらいいなって……。それがたったひとりであっても、とてもステキなことなので、(遠い目)そんな思いで作っていたなと、今でもこころの中に残っています。今でもチャンスがあったら、レスキュー物のロボットアニメを作りたいと思って、数年前に企画書を書いたことがあります。その企画書には、新しい切り口のレスキューロボットのメカデザインも載せています。夢のひとつとして、その企画のアニメを皆さんのお見せ出来るように頑張りたいと思います。

その5)に続く。


古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。


 

アニメ制作の裏バナシ 第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その1)
 

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