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2024.03.15

サンライズワールド アニメ制作の裏バナシ
第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その5)


GEAR戦士電童』、『出撃!マシンロボレスキュー』、『舞-HiME』シリーズ、『宇宙をかける少女』など多くのオリジナル作品のプロデューサーを務めた古里尚丈プロデューサー。その諸作品の中から、『舞-HiME』以降にあたる2作品について、お話をうかがった。


――『アイドルマスターXENOGLOSSIA』はバンダイとナムコの合併で生まれた作品ですが、なんとなく、勇者シリーズから『出撃!マシンロボレスキュー(以下、マシンロボレスキュー)』を経た流れを感じるところがあります。

古里 当時、第8スタジオは、2本の作品の制作ラインが動いており、1本は『舞-乙HiME』のOVAシリーズ。もう1本がTVシリーズの新作になります。そこで『マシンロボレスキュー』のキャラクターデザインの竹内(浩志)さんに声をかけたわけです。そこへ新しく監督の長井(龍雪)さん、脚本の花田(十輝)さんが加わり、前作までとはニュアンスの違う作品が生まれたと思っています。長井さんは『舞-HiME』でコンテを描いていただいて、情感のある画作り、カット割りがとてもよかったので、それにメカアクションを混ぜた新しいフィルムを作れないか?と考えて起用しました。

そして、会議が始まるのですが、長井さんがご自身が描いたイメージボードとSFアイデアを入れ込んだ濃い~メモを持ってきました。たくさんのSF的裏設定、ifの歴史などが書かれています。メモには、宇宙から降ってくる隕石を破壊するために造られた「iDOL(隕石除去人型重機)」という名を冠した特殊なロボットのことの説明だったりします。さらに、打ち合わせを重ねて色々決まっていきました。「iDOL」は、月の隕石から発見された無限ともいえるエネルギーを秘めたシリコン構造体(生命体)……であり、さらにこのロボットたちは個性が豊かで、奥手で引きこもりであったり、イケイケだったりと、とても面白い設定が付加されていきました。ふと、わたしが進行時代にやった勇者シリーズのエネルギー生命体のことを思い出します。勇者ロボも個性的だったなって改めて考えてしまいます。
また、『GEAR戦士電童(以下、電童)』のときに福田さんが教えてくれたことを思い出すのですが、「ロボットは、親族が造ったものか、遺跡(地中)から発見されるんだ」と、これは言いえて妙ですよね。


――『マシンロボレスキュー』では、戦いではないロボットの活躍の場を見出したというお話がありましたが、隕石破壊という「iDOL」の役割も、そういった想いから生まれたのでしょうか。

古里 『マシンロボレスキュー』では災害と戦いましたが、続く『舞-HiME』ではバトルロワイヤル、『舞-乙HiME』では代理戦争というコンセプトで進めました。その流れの中で、『アイドルマスターXENOGLOSSIA』のロボット――「iDOL」たちは何者?で何と戦うのか?と考えたときに、彼らは特殊なコアを持ち、何らかの強大な力を得てしまった存在なわけです。そんな彼らの能力がどんなシーンで開花できるかを考えたときに、地球のピンチを救うという、いわゆる災害救助に近い発想が出てくるのは、やっぱり『マシンロボレスキュー』を経験したスタッフがいたからかもしれません。

しかし、長井監督は『マシンロボレスキュー』には参加していませんので、偶然だったとも言えます。ただ、奥手な引きこもりの子たちに災害救助をやらせるというシチュエーションとして考えると、今になって改めてすごい面白い提案でありメッセージですよね。マスターである女の子たちが「外の世界もいいところだよ、一緒に遊ぼうよ」と言った声の先にあるのが、地球を救う人命救助とは?なんという壮大な展開なのでしょう。でも、「iDOL(隕石除去人型重機)」は、巨大で強大なロボットですので、活躍の場としてはあるのかな?と思いました。

――「iDOL」のデザインについては、どんなオーダーをなさったんでしょうか。

古里 もちろん、メカデザイナーの阿久津(潤一)さんには「カッコイイの描いてよ」とお願いしました(笑)。

阿久津さんとは『電童』からご一緒していて、彼の絵の持ち味は力強さとソリッド感、存在感といったリアリティ。そして、ある種の土くささ、鉄くささだと思っています。『電童』のデータウェポンたちや、『舞-HiME』『舞乙-HiME』あたりの神話のようなニュアンスが加わると、カッコよさが増すのも特徴ですね。想像上のものであり、絵であるのに、触れられるような存在感がそこにある。玩具主導作品におけるおもちゃのような「モノ」がなくても、彼の絵には塊が見えてくると言いますか。そんなこともあって阿久津さんに変化球のメカばかりお願いするような形になってしまっていたのですが、『アイドルマスターXENOGLOSSIA』という作品は、なるべく王道、売れ線の直球なロボットデザインにしたかったんです。お客さんは「知らないモノ」はなかなか見てくれないですから。昔のように1年間放送できる時代なら、視聴者の「慣れ」を生む時間もあるので冒険もできるのですが、26本しか放送できない作品で商品展開を考えると、やはりプロデューサーとしては売れ線、王道を狙わざる得ない。

その一方で、監督をはじめとしたクリエイターたちの想いもあるわけです。長井監督の慣性制御で上半身下半身が独立して動く巨大なメカというアプローチから、阿久津さんが脊髄1本でつながった、見たことのない個性的なデザイン――彼の持ち味である異形感たっぷりのメカを導き出している。そこには、玩具主導型の作り方にはない面白さがあるんじゃないでしょうか。

プロデューサーとしても、自分の考えた方向とは違うものが出てきたからダメというわけではないんです。物語や世界観をみんなで作っていく中で、参加したクリエイターさんたちの想いのようなものが反映されて(もちろん、フィルムでの使い勝手も含めて)デザインが完成している。最終的には、自分が選んだスタッフがこれでいきたいと言っているものなのだからと、ある種の開き直りみたいな想いを込めて、OKを出すこともありますね。

――作中での「iDOL」の描き方についてオーダーを出したりはしていないんでしょうか。

古里 明確にやりたいって言ったのかどうか覚えていないのですが、銀座の街からの発進シーンは面白かったですね。発進シーンはサンライズのお家芸であり、ロボットアニメの醍醐味のひとつだと思っていますし、諸先輩方が作り上げたDNAの端っこにいるものとしても、自分がかかわってきた作品――『太陽の勇者ファイバード』から始まって『星方天使エンジェルリンクス』『電童』『マシンロボレスキュー』と、基地から大型ジェット機、戦艦、巨大ロボット等を発進させてきました。『舞-HiME』でさえも滝から愕天王を発進させ、命はレール上から射出ではなく道路を走って出ましたが……。もし、可能ならこれら発進シーンを改めて見てもらえると嬉しいです。

――では『宇宙をかける少女』について。メカものというと、ちょっと毛色の違う作品だったかと思います。


古里 もともとわたしの提案した企画はいわゆるメカ少女アクション的な企画で、お金持ちであるところの秋葉がサンダーバードよろしく人助け、救助など活躍する際に、学園の科学部やら技術部やらメカニック部やらの天才たちが寄ってたかってへんてこなメカを着せて(装着させて)宇宙に放り出してわちゃわちゃするようなお話、だから『宇宙をかける少女』だったんです。そこに監督の小原(正和)さんのテイストが加わって、よりSF的な方向にシフトしていって、最終的にはSFハチャメチャスラプスティックコメディとでもいうような、小原ワールド全開の変わった作品になったと思います。メカ作品というよりは、SF的世界観の、日常の中にメカのある物語という感じですね。

だから、出てくるメカに関しても、少し立ち位置が違っているとは思っています。QTアームズにもそれが表れていて、デザインした阿久津さんも、パワードスーツというキーワードに弱い世代として、自分流のパワードスーツを確立させると意気込んでいたものの、最初は大きな推進ユニットのついたパワードスーツから、だんだん違うものになっていったという話はしていますね。主役はあくまでも秋葉たちであり、前面に出てくるメカというよりは、世界観を支えるためのギミックの役割が色濃くなっているんです。

――変わっていると言えば、やはりブレインコロニーたちの存在も大きいかと思います。

古里 すごく魅力的なコロニーたちが物語をけん引――と言いますか、勝手に動き回って物語をひっかきまわしている(笑)。視聴者はそこに感情移入するわけではなくて、彼らに困らされて右往左往している秋葉たちに近いという構造も相当変わっている作品だなあと。

ブレインコロニーたちの魅力というのは、声優陣の力ももちろん大きいのですが、SFには魅力的な絵という要素が必要だと言われる通りで、実はデザインの力が大きくかかわっていると思っています。レオパルドがカッコイイのは福山さんが演じているから当然(笑)なのですが、メカデザイナーの宮武(一貴)さんの描かれた荘厳なゴシックなデザインは圧倒的な存在感があります。レオパルドのライバルにあたるコロニーたちを担当しました神宮司(訓之)さんが、これまた面白いデザインを描いてくださるんですよね。ライバルたちも非常に魅力的だったおかげで、相乗効果が生まれて、『宇宙をかける少女』のSF的世界観をこしらえてくれていたんじゃないかと思うんです。

ブレインコロニーたちがロボット形態に変形して文字通り大暴れ!までやっちゃっても面白かったかもしれないと思うこともあるんですが、それをやらなくてもキャラクターが立っていたのは、やはりコロニーのデザインに「華」があったからなんだろうなと。

よく主役級の役者さんやセンターに立つアイドルには華があると言いますが、ロボットもそうなんですよね。例えば、大河原さんの描くロボはカッコイイだけでなくて貴族然、武将然としているというか、気品や高貴さを感じさせますし、『サイバーフォーミュラSIN』メカニカル作画監督の重田(智)さんに至っては、サイバーマシン(レースカー)をハンサムに描きますからね。面白いなあと思います。当時、勇者シリーズで設定制作をやっていた頃、メカ作監のアニメーターさんたちが勇者ロボの顔アップを描くとハンサム(美形)になることが多く、すごい不思議だよね!って話していた記憶があります。それって「ロボ愛」なんでしょうかね。

あと、『アイドルマスターXENOGLOSSIA』、『宇宙をかける少女』は、よりSF色が強くなったなと感じています。『電童』も『舞-HiME』もSFというジャンルになるのかも知れませんが、わたしが思うSFは「サイエンスフィクション(Science Fiction)」や「サイエンスファンタジー(Science Fantasy)」ではなく、「サンライズフィクション(SUNRISE Fiction)」「サンライズファンタジー(SUNRISE Fantasy)」ではないかな?と思っています。「サンライズ(SUNRISE)」という会社が独自に作り上げた世界観や玩具連動を主体としたロボット設定など、純然たる「サイエンスフィクション」ではなく、ちょっと変化球になっていると思うのです。わたしは、勇者シリーズからロボットアニメの作り方を基礎から叩き込まれていますので、より「サンライズフィクション」道を走るプロデューサーではないかなと勝手に考えています。

その6)に続く。


古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武侠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。


アニメ制作の裏バナシ 第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その1)

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