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サンライズワールド アニメ制作の裏バナシ
第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その6)
サンライズにおいて多くのオリジナル作品を手掛けた古里尚丈プロデューサー。そのひとつの転換点となった『舞-HiME』を軸に、作品への向き合い方やスタッフ、ひいてはスタジオの在り方についてうかがった。
――古里さんにとって『舞-HiME』は、大きな挑戦であり転換点に見えましたが、どう考えておりますか?さらに、『舞-HiME』以降は、それまでの玩具連動型作品とは違うアプローチに挑戦していたように思いますが、いかがでしょう?
古里 そうですね。『舞-HiME』は子供向けターゲットでなく、また玩具連動型でもない、当時はハイターゲットアニメ(ハイエンドアニメ)と呼んでいたジャンルのアニメです。わたしは周りからのオーダーでなく、自分の企画として真っ白な状態から完全なオリジナルアニメを生み出して、お客さんにお届けし、喜んでもらいたいと考えていました。さらに、それまで貯まった宣伝方法、商品化などのノウハウを試したかったし、それこそ色々考えていたことの実証実験?をやりたかったんです。いまだから言えるのですが、本音としてヒット作という実績も作りたかったこともありました。
『出撃! マシンロボレスキュー』から『舞-HiME』への舵取りを大きく変えたのですが、それは、作品におけるキャラクターとロボットやメカの立ち位置が大きく変わることとなりました。それは、脚本、コンテ、デザインなどのアプローチが違っているのです。作品の中で、キャラやメカがどんな役割をはたしているか――つまり、主役であるかないかという大前提が変わってしまったのです。例えば『GEAR戦士電童』では北斗や銀河、『出撃! マシンロボレスキュー』では太陽たちが主役に見えると思います。でも実はそうではなくて、主役は電童やジェットたちなんです。これはあくまでもわたし自身の持論ではあるのですが、勇者シリーズでも同様で、主役はエクスカイザーでありファイバードであり、ダ・ガーン、マイトガインたち。あくまでもコウタくんたち人間のキャラクターたちは、お客さんである子どもたちにアニメを見てもらうときのナビゲーター(視聴者の子供たちが自身を反映してみれるキャラクター)となる存在で、人間側の主役ではあるのですが……。下世話な言い方になりますが、玩具連動型の作品においては、商品になるロボたちこそが主役なんだ!というと、分かりやすいかもしれません。
玩具連動型ではない『舞-HiME』以降の作品において、主役はそのまま物語の本当の主役になると思うのです。『アイドルマスターXENOGLOSSIA』では春香ちゃんだし、『宇宙をかける少女』では秋葉。そうなったとき、ロボットとかメカの役割はなにかといえば、キャラや世界観を支える存在であり同じくキャラや世界観を広げる存在でもあると思います。世界観を構築したり、文字通り、主人公たちをより魅力的に見せる装置であったりとメカの立ち位置がまったく変わっている。玩具連動型とそうでない作品では、スタート地点(大前提)が本当に大きく違っているということです。ターゲットが違うし、売り物も違う。キャラクター、すなわち映像を売りたい作品=ハイターゲット作品と、玩具を売りたい作品=マーチャン作品の大きな違いですね。
スタート地点が違えば、当然、ゴールも違う。企画の考え方、物語の立て方、キャラクターの置き方、作品の作り方自体が変わってきますし、そこに用意される設定もロボットも違うものになります。ただし、ハイターゲット物でも、ロボットを主役にした作品となれば話は違うと思いますが、『舞-HiME』以降は、あからさまに女の子たちを主役にして作っていましたからね。どうしても、メカやロボットたちを後ろ側に置いていました。それぞれ平等に扱っているつもりでも、やはり優先順位が高いのはキャラクターたちで、メカやロボは2番目3番目の存在になっているのは否めないです。
――作品のコンセプトがスタジオワーク、スタッフワークに影響する部分はあったのでしょうか。
古里 もちろん、それぞれの得意な分野を任せる目的でスタッフを集めるので、どういった作品を作りたいのかによって、影響はあると思います。
その一方で、スタジオワーク、スタッフワークが作品の方向性を決めるという、逆の影響もあるんです。
現在、サンライズ(バンダイナムコフィルムワークス)は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』、『ラブライブ!』をはじめとする女の子が活躍するアニメを作っている会社というイメージを持つ人が多いかと思います。僕が『舞-HiME』の企画を考えていた2002年当時のサンライズには、女の子が歌ったり踊ったりするアニメはなかったんです。だからこそわたしは、新ジャンルの萌え系に活路を見出したのです。でも、あの頃のサンライズはSFやロボットもの、超能力アクション物をメインにしたアニメの会社でした。スタジオにいるスタッフは、ロボットを描きたい、アクションを描きたい人たちばかり。だから、モーニング娘。などのアイドルグループを横目に見ながら、また宝塚的なアニメを作りたいと思っていても、すぐには作れないわけです。ロボットやアクションを描きたいスタッフたちにかわいい女の子を描いてもらうには、5~6年の年月は必要だろうと感じました。改めて、当時スタジオにいた優秀なスタッフのちからを活かして、さらに将来に向けての布石を打ちつつどんなアニメを作るべきか?と考えました。いわゆる、今いるスタッフたちの能力が発揮できる作品――アクションやメカっぽい要素が満載の超能力アニメである『舞-HiME』が生まれてきたわけです。
また必要な時間が5~6年というのは、人材育成にかかる時間という意味合いもありますが、同時に人材の入れ替わりという要素もあったのです。女の子の活躍する作品を作っていれば、女の子を描きたいスタッフも自然と集まってきます。そうした流れの中で、当時の第8スタジオをロボット班とアイドル斑の2班体制で動かしていきたいという目標を立てていました。さまざまな事情から、結果的に2斑体制を実現することはできなかったのですが、あとを引き継いでくれた平山(理志)さんが『ラブライブ!』にたどり着いたわけで、数年後スタッフは切り替わっていたようです。
僕は僕で、サンライズを離れ起業したことで『舞-HiME』から考えていたことの実践及び経験はできませんでしたが、何年かして『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(企画プロデューサーで参加)』、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト(企画協力で参加)』という作品につながっていたりしますので、いま思うと自分の目標に近いことはやれているようです。ただ、宝塚的な作品と言いながらも普通に歌って踊る作品ではなく、SF、ロボットバトルや超能力アクションが大きな要素となってしまうのは、やはりサンライズのDNAなんでしょうね。個性と言えば聞こえが良いですが、自分でも笑ってしまいます。
サンライズのDNAといえば、もうひとつ。98年、99年ごろ、モーニング娘。を見ながらここに何か作品のヒントがあるんじゃないかと考えていた当時、アニメに限らず、PCゲームなどでもメインキャラが多人数の作品が増えていました。そんな状況に、主人公がひとりのアニメ作品で立ち向かっていくのは厳しいなと、『GEAR戦士電童』以降、主人公の人数を増やしていくんです。でも、その根底にあったのは世の中の状況ではなかったんですよ。ロボットたちが何体も登場する勇者シリーズに長年かかわってきた自分にとって、主人公がひとりふたりでは物足りなく感じるのは当たり前で、そりゃあキャラクターを追加したくなるよなって、妙に納得してしまいました。
話は戻りますが、それぞれの作品は、当時のスタジオの状況から導き出された最適解だったと思っています。そういう意味で、一作一作が次の作品を作るための知識だったり、情報だったり、スキルだったりを与えてくれました。それを活かせることもあれば、失敗してしまうこともあるのですが、自分自身はあいまいながらも目標に向かって都度頑張っていくしかなくて、その中で力を貸してくださるスタッフたちをどう活かしていくか考えるしかない。『新世紀GPXサイバーフォーミュラ(以下、サイバーフォーミュラ)』に優秀な設定制作として参加し、『GEAR戦士電童』の1話で素晴らしいコンテを描いてくれた小原(正和)さんには『舞-HiME』『舞-乙HiME』で監督をやってもらいました。『舞-HiME』でステキなコンテを描いてくれた長井(龍雪)さんには『アイドルマスターXENOGLOSSIA』で監督をお願いしたように、いくつもの作品の流れの中でさまざまな形で寄与していただいている。久行(宏和)さんもそうですね。勇者シリーズでの長いお付き合いがあって、『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』『新世紀GPXサイバーフォーミュラSIN』『GEAR戦士電童』と3作品でキャラクターデザインで参加してもらって、すごく脂ののっていた時期に『舞-HiME』シリーズをお願いできた。これには福田(己津央)監督の「美形を出した方が売れる」(『ファイ・ブレイン 神のパズル』の佐藤順一監督もまったく同じことを言っていました、笑)という信念が大きくかかわっていたりします。『サイバーフォーミュラ』で売りになる美形をバンバン発注された久行さんが、「これ以上美形なんて描けない!」とばかりに、発注されてないキャンギャルを何人も描いてきたのです。そこで、女の子キャラが描きたいんですか?と聞くと、美形の男性キャラを描きすぎて疲れた!というので、よしわかったと『舞-HiME』の企画を渡すことになったという裏話があったりします。スタッフも人間ですから、やり続ければ飽きがくることもありますし、どうやってやる気を持続させるか、新しい仕事へのやりがいを感じさせるのか?もプロデューサーの大事な仕事だと思うことが多々あります。
もちろん、プロデューサーがやりたいことと、クリエイターがやりたいことには距離があることも多いですし、そのバランス取りは本当に難しいのですが……。
――最後にオリジナル作品を作る際に心がけていることを教えてください。
オリジナル物の企画、アニメを作るにあたっていくつか考え方があると思います。ひとつは、監督や脚本家、キャラクターデザイナー、小説家などのクリエイターの持つ才能に惚れてまかせて作るやり方。ふたつめは、プロデューサーが作るべき指針を出してそれに必要なクリエイターを集めて作るやり方。どちらも大切なのは、何を作りたいのか?どんな物語やキャラクターを生み出したいのか?そして、主人公に何をやらせたいのか?です。主人公の動機と行動が物語の骨子になります。さらに、主人公のゴールが何なのか?どこなのか?です。と言うことで、大切なのはメインタイトルです。メインタイトルが「主人公名」や「世界観の説明」の場合、あるいは「物語をわかりやすくまとめている」文言になっています。「テーマ」だったり、「コンセプト」が表現されていることが多いです。小説も漫画も映画も、この3種類の何かを選んでメインタイトルになっていると思うのです。例えば、『機動戦士ガンダム』では、ガンダムが主役であり、何十年経ってもガンダムが真ん中にいます。『魔神英雄伝ワタル』はワタルが主役なんです。龍神丸ではない。『サイバーフォーミュラ』は近未来のレースが主役であり世界観が主役で、その世界観を示すのが魅力的なキャラとレースマシンです。『ラブライブ!』は、主役は、ライブです。キャラクターたちが(実際はお客さんが、かも)、ライブが好きとかライブを愛してるんです!と言わんばかりで、とても良いタイトルをみつけたなって当時思って見ていました。わたしは、良いメインタイトルがみつかると、良しOKとグッとこぶしを握りたくなります。
わたしは、企画を考える時にやるのは、落語のお題三題です。3つお題をお客さんから別々にバラバラにもらう、つまり、企画をスタートさせる時に、スポンサーがいればそのスポンサーからひとつめのお題をもらいます。そして、放送などのメディアがあれば、局などからふたつめのお題をもらいます。最後のみっつめは、プロデューサーだったり、作り手の中心にいる監督たちが出します。それが、物語やキャラクターになります。つまり、勇者シリーズなら、スポンサーであるタカラさんから、「次は列車で行きます」と言われて、新幹線が変型しSL(蒸気機関車)と合体するロボットのコンセプトが来るとします。そこに、名古屋テレビは、何時に放送します。30分枠です。ターゲットは、男女の子供たちに見てもらいたいです、と言われます。これを聞いたプロデューサーは作り手に伝えます。そこで幾つもアイデアを出し合って、最後にひとつに絞られます。それが、『勇者特急マイトガイン』になっていきました。ちなみに、タイトルの「マイトガイン」のルーツは、日活の「マイトガイ」からインスパイアされています。いわゆる、「ダイナマイト野郎」こと「爆発野郎」です。少年主人公マイトくんとロボットのガインが一緒になることで、ヒーローの心が爆発して行動する物語になるのかな?とメッセージとなっているかな?と勝手ながら思っています。当時、高松監督が色々話していたとなりで聞いていたわたしは、こんな理解をしていました。当然、わたしの勘違いや思い違いがあると思いますが、とても良いタイトルだなって思ってアニメを作っていました。
ちなみに、お題は4つ以上と多くなるとやるべきこと、物語が薄くなったり曖昧になったりします。ちなみに、食い合わせの悪いお題こそが、あっと驚く面白いアニメを生み出せる可能性を秘めていると思うのです。
あと、わたしが、オリジナルアニメを作るために大切なことは、視聴者の心のなかにある本能に根ざした何かを刺激しなければならない!と考えています。例えば、身体の弱い人間だからこそ、機械の身体を手に入れて強くなって大切な人を守る、みたいな。サイボーグ、巨大ロボットなど夢の道具を用意するわけです。転生も、あの時に、あの選択肢を選ばずに右に行っていたら恋人は死なずに済んだのに、とか。金持ちになれたのに、とか。視聴者が望む【夢の具現化】を用意することが必要だと思うのです。あと、物語が面白い、キャラクターが魅力的であるだけでなく、アニメの後ろ側に潜んでいる作り手のメッセージ、それが、視聴者に刺さることが大切だと思うのです。わたしは、古巣になるサンライズの作品群は、子供向け、玩具連動型であっても、常にプロデューサー、監督、脚本家、デザイナーたちのメッセージがしっかり入っているのが、子供時代から大人になっても大好きなアニメが多い理由だと思っています。
そして、オリジナル企画、オリジナルアニメは、中心にいる監督と脚本家の人生観が強く表現されます。プロデューサーの人生観も少し出ますね。いわゆる趣味嗜好、生きていくうえで大切な生き様、哲学が反映されます。これらが物語や各キャラクターから垣間見れるのもとても面白いです。当然、作り手の想像のなかで生み出された物語です。それはリアルではないですが、でもどこかに作り手の哲学が潜むが故にリアル感が生まれるのだと思うのです。そんな個性的なスタッフを集めるのも重要なことだと思います。わたしは、福田監督、神戸監督、小原監督、長井監督と様々な個性を持った監督たちと知り合えたこと、一緒に仕事が出来たことが幸運であり、色々な縁をくださった方々に感謝です。
さらに、6回にもわたるインタビューを読んでくださった皆様。本当に、ありがとうございます。もし、ここまで読んで、何かしらの興味が出ましたら、『GEAR戦士電童』、『出撃!マシンロボレスキュー』、『舞-HiME』、『舞-乙HiME』、『アイドルマスターXENOGLOSSIA』、『宇宙をかける少女』など観てもらえたら、すごく嬉しいです。当然、その前後の、『勇者シリーズ』、『サイバーフォーミュラSAGA』『サイバーフォーミュラSIN』や『星方武俠アウトロースター』や『星方天使エンジェルリンクス』、『ファイ・ブレイン~神のパズル』、『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』なども見てもらえたらより嬉しいです。それでは、今後もサンライズフィクション(SF)をお楽しみください。
古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
アニメ制作の裏バナシ 第3回 おっどあいくりえいてぃぶ 代表取締役/プロデューサー 古里尚丈(その1)
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